ガソリンが不足すれば価格が上昇し、私たちの生活に直接影響を与えかねない。日本政府では、さまざまな対策を模索しているがその中で問題となっているのがトリガー条項である。ここでは、ガソリン価格のカギを握るトリガー条項について解説していく。

目次

  1. トリガー条項に関係するガソリン税とは
    1. ガソリン税の仕組み
    2. ガソリン税の税率
  2. ガソリン税のトリガー条項とは
  3. トリガー条項凍結解除をめぐって
  4. トリガー条項の凍結を解除した場合の問題点
  5. ガソリン税のトリガー条項の議論に今後も注目しよう
トリガー条項は絶望的? 補助金でお茶を濁す政府 これからのガソリン価格はどうなる?
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

トリガー条項に関係するガソリン税とは

国会で議論されているトリガー条項とは、ガソリン税に関係するものだ。まずガソリン税とはどのようなものかを見てみよう。

ガソリン税の仕組み

ガソリン税とは、ガソリンの消費に対してかかる税金のことだ。消費者がガソリンを消費する(購入する)際には、ガソリンの本体価格にガソリン税や石油石炭税、消費税を含んだ代金を支払っている。一方でガソリンの販売業者・輸入業者は、ガソリン販売時に顧客から預かったガソリン税を国に納める仕組みとなっている。実はガソリン税は、一般的な呼称であり実際には「揮発油税」と「地方揮発油税」の2つを合わせたものだ。

  • 揮発油税:国に納める税金
  • 地方揮発油税:地方自治体に納める税金

ガソリンの販売業者・輸入業者は、揮発油税と地方揮発油税のどちらも国に納付する。その後、国から地方自治体に地方揮発油税が支払われる仕組みだ。

ガソリン税の税率

ガソリン税は、揮発油税と地方揮発油税ともに本則税率と特例税率の2つから成り立っている。本来は本則税率のみだったが道路整備の財源が不足したため、後に特例税率が追加された。なお現在のガソリン税は道路整備だけでなく、他の目的にも使える一般財源となっている。ガソリン税の税率は次のようになっている。

ガソリン税の税率

ガソリン税のトリガー条項とは

本題のガソリン税のトリガー条項について見ていこう。トリガー条項のトリガー(trigger)とは、ピストルなどの引き金のことだ。あらかじめ定めた条件を満たすと、ピストルの引き金を引くように自動で条項が発動されるのでトリガー条項と呼ばれている。ガソリン税にもトリガー条項が定められている。特例税率についての条項だ。

ガソリン税のトリガー条項は平成22(2010)年度税制改正で導入された。「ガソリンの平均小売価格が3ヵ月間連続で1リットル160円を超えた場合、特例税率分の徴収をストップする」というものである。なお、トリガー条項発動後、ガソリンの平均小売価格が3ヵ月間連続で1リットル130円を下回ると、特例税率分の徴収は再開される。

ただし、ガソリン税のトリガー条項は導入以来、一度も発動されたことがない。2011年3月11日に東日本大震災が発生し、復興財源を確保するために「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」(震災特例法)によって発動が凍結されたのだ。

実は、2011年は中東・北アフリカ情勢の影響を受けて原油価格は高騰し、ガソリンの価格は値上がりの兆しを見せていた。しかし、震災からの復興を進めるなかでトリガー条項を発動すると、税収が減って復興財源が十分確保できなくなる恐れがあった。また、発動を見越した買い控えが起こるなどして流通に混乱が生じる可能性があり、この点も復興の妨げになるリスクになった。  

トリガー条項凍結解除をめぐって

2020~2021年にかけて、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって世界経済は停滞し、原油価格も落ち込んでいた。しかし2021年後半以降、世界経済は少しずつ回復の動きを見せると原油価格は上昇に転じ、ガソリン価格も高騰した。さらに2022年2月下旬には、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、ガソリン価格の高騰にさらなる拍車をかけた。

ガソリン価格の高騰を受け、2022年3月には自民党・公明党・国民民主党の3党でトリガー条項の凍結解除をめぐって議論が行われた。この議論は、国民民主党の呼びかけで始まったものだ。しかし、自民党はトリガー条項の凍結解除に慎重であり、公明党は賛成と与党の中でも意見が分かれ、結果的に凍結解除は見送られた。

このときの3党の会議では、落としどころとしてガソリンの元売り業者に対する補助金の上限を拡大することで合意した。

「元売り業者に対する補助金」とは、2021年に実施された小売価格の急騰を抑えるための措置で、全国平均のガソリン価格が1リットル170円を超える場合、1リットル5円を上限にガソリンなどの元売業者に補助金を出すというものである。

2022年3月には、補助金の上限を1リットル5円から25円へ引き上げられ、さらに3党会議後の同年4月には、補助金の上限が1リットル35円にまで拡充された。また補助金を出す基準価格も引き下げた。

元売り業者に補助金を出すことにより、政府はガソリンの平均価格を抑えてきたが、2023年にかけてもガソリン価格は上がり続けている。ロシアによるウクライナ侵攻後も、石油産出国による原油の減産や、円高による輸入コストの高騰などを背景に、ガソリンの平均価格は1リットル160円台後半~170円台半ばで推移している。

補助金がなければ、ガソリンの平均価格は1リットル190~200円台になっているだろう。

2023年11月になり、岸田首相はトリガー条項の凍結解除について「自民党・公明党・国民民主党の3党で再び議論したい」と発言した。今回も国民民主党は与党に対して積極的に働きかけたが、自民・公明党内には慎重論が根強く、2024年度の与党税制改正大綱では、トリガー条項凍結解除について記載しないことで決まった。議論を進めるのかどうかも含め、不透明な状況となっている。

トリガー条項の凍結を解除した場合の問題点

トリガー条項の凍結解除については、慎重論も多い。凍結解除した場合には、さまざまな問題点が想定されている。

・減収分をどう補うのか
1年間、トリガー条項を発動すると国で約1兆円、地方で約5,000億円の減収が見込まれる。減収分をどう補うのか大きな課題になる。前にトリガー条項の凍結解除が議論になった際、減収を懸念する知事が複数いたという。

・2023年時点で1リットル130円を下回ることは非現実的
現状、ガソリン平均価格が1リットル160円を3ヵ月上回ればトリガー条項は発動され、130円を3ヵ月下回れば停止される。しかし2023年のガソリン平均価格は、補助金がなければ200円近くであり、130円という価格は実現性が低いと思われる。

トリガー条項の凍結が解除されると、実質的には恒久的な減税になる可能性もある。そこで自民党内では、トリガー条項発動の要件を1リットル160円超から180円超に上げる案も出されている。

・震災特例法の改正が必要になる
トリガー条項の凍結は、震災特例法によって定められた。つまり凍結を解除するには、震災特例法の改正が必要になり、国会で法の改正が成立するまでには時間がかかる。

・トリガー条項発動前後で混乱をきたす可能性
発動前には、買い控えが起こり、逆に停止前には駆け込み需要が増え、ガソリンの給油所が混乱することが懸念される。

・補助金がなくなると灯油・重油の消費者が困る
2023年12月現在、政府はトリガー条項を凍結している代わりに元売り業者に補助金を出すことで、ガソリンの平均小売価格を抑制して消費者の負担を軽減している。実は、補助金の対象はガソリンの元売り業者だけでなく灯油や重油の元売り業者も対象だ。

ところが、灯油や重油はトリガー条項の対象外。仮にトリガー条項の凍結が解除されて補助金がなくなると、寒冷地で燃料として灯油を使っている消費者や、漁船の燃料として重油を使っている消費者の負担が大きくなる可能性がある。

ガソリン税のトリガー条項の議論に今後も注目しよう

ガソリン税のトリガー条項とは、ガソリン価格が3ヵ月間連続で高騰したら特例税率分の徴収をストップするというもの。これによりガソリンの価格高騰を抑えることができる。しかし2023年12月現在、ガソリン税のトリガー条項は凍結されている。解除に向けた議論は出るが、なかなか実現しない。

トリガー条項が定められて10年以上の年月が経った。一度も発動されないまま今日まで来た。しかし原油やガソリンの価格は、近年上昇を続けており、仮にトリガー条項が発動されると「恒久的な減税につながるのではないか」という懸念もある。トリガー条項の発動要件が、時流に合わなくなっているということだ。

さまざまなものが値上げされ、生活を圧迫している中、ガソリン価格を負担に感じている個人や事業者も多いだろう。ガソリン価格は私たちの生活に直接影響を与える。ガソリン税のトリガー条項の議論の行方に今後も注視したい。

文・はせがわあきこ

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