メタコマースとは、メタバースとEコマースが融合した商取引を指し、オンラインショッピングの進化系と世界的に大きな関心を呼んでいる。本記事では、メタコマースに参入する日本企業やメタコマースの今後の可能性について解説していく。
目次
メタコマース(メタバースコマース)とは
メタコマースとは、メタバースとEコマース(EC)を融合した造語で、新たな形態の商取引を指す言葉だ。メタコマースは、仮想空間におけるショッピング体験を根本から変える可能性を持っている。
そもそもメタバースとは
メタバースとは、インターネット上に構築された仮想世界であり、ユーザーはアバターを通じてこの世界で活動する。メタバースでは、リアルタイムのインタラクションやイベントの参加など、さまざまな活動が楽しめる。また、鳥になって空を飛ぶなど現実世界の境界を超えた体験も可能だ。
従来のEコマース(EC)との違い
従来のEコマースは、ウェブサイトを通じて商品を閲覧・購入する形式をとる。一方、メタコマースでは仮想空間に作られた3DCGのショップでのショッピングが実現可能だ。ユーザーは、自身のアバターを操作して商品を見たり、ショップの店員アバターと対話したりといったことができる。
メタコマースであれば、従来のオンラインショッピングで難しかった接客体験や商品の質感を伝えることもより容易になる。
メタコマース3形態
メタコマースには、3つの主要な形態が存在する。
- メタバース上にのみ存在する商品を購入
- メタバース上で実際の商品を購入
- Web 3.0 市場(NFT売買など)など新たな経済圏の構築
1つ目の形態は、仮想世界内での商取引に限定される。基本的に商品は、バーチャルアイテムだ。例えば、ゲーム内課金で得られるアイテムやバーチャル服装などがこれに該当する。これらの商取引は、メタバースの枠内で完結し、現実世界の経済とは直接的な交流がない。
2つ目の形態では、バーチャル空間内で実際の商品を選んで購入し、それが現実世界で届けられるというものだ。顧客は、アバターを通じてバーチャル店舗を訪れ、商品を選び、実際に手に入れることができる。この形態は、バーチャルとリアルの間のギャップを埋め、インタラクティブなショッピング体験を提供する。現在、日本でメタコマースといえば、この概念が主流だ。
3つ目の形態は、NFTやデジタルアセットの取引を中心にした経済活動である。メタバース上でのこれらの取引は、新しい種類の顧客関係管理(CRM)やマーケットプレイスの形成を促進し、クリエイターや消費者間での直接的な交流が可能だ。この形態は、将来的にメタコマースの主流となる可能性が高いとされ、国際的にもその定義と適用が拡大している。
メタコマースに企業も続々参入
多くの企業がメタバースにビジネスの可能性を感じている。メタバースで展開される商取引=メタコマースも同様だ。国内では、すでに「そらのうえショッピングモール」というメタバースの商業施設が開設されているほか、期間限定的に「バーチャルマーケット」というメタコマースのイベントも行われている。
これらのメタコマースには、すでに多くの企業が参加しており、メタコマースの可能性を探っている。ここでは、いくつかをピックアップして紹介しよう。
・ローソン
2021年12月4日~19日まで開催されたVRイベント「バーチャルマーケット2021」には、ローソンが初めてバーチャル店舗をオープン。リアル店舗で販売している商品のバーチャル展示やその場で撮影した画像を使ってオリジナルパッケージのからあげクンを作る体験をできるようにした。
さらに3人の人気ブイチューバーが1日店長となって来店客のアバターとコミュニケーションを取ったり彼女たちの3Dアイテムを販売したりした。メタバースならではの経験を意識した店舗だ。
・タカラトミー
2022年4月、メタバース上の商業施設「そらのうえショッピングモール」にタカラトミーが「トミカショップ」と「プラレールショップ」を出店。リアル店舗を4Kの高画質カメラで撮影しメタバース上にバーチャルショップを構築しているため、実際に店の中を訪れているような感覚を体験できる。
店内には、ジオラマや体験コーナーが設置され、トミカやプラレールがディスプレイされているのが特徴的だ。商品に加えトミカやプラレールにちなんだ文房具や雑貨などのグッズも充実。バーチャルショップから直接、オンラインショッピングができる。
・伊勢丹
伊勢丹では、仮想の伊勢丹新宿店をスマートフォン向け仮想都市空間プラットフォーム「レヴワールズ」に出店。バーチャルの百貨店にはリアルの百貨店と同様に、ファッションやギフト、デパ地下などさまざまなバーチャルショップが入っている。仮想店舗とリアル店舗はつながっており、利用者のアバターがバーチャル百貨店を歩き、気に入った商品は、そのままオンラインショップで購入できる。
不定期ではあるが、リアル店舗にいるスタイリストがアバターを使いバーチャル店舗で接客を行うこともあるという。
メタコマース参入のメリット
メタコマースに参入している企業の具体例を紹介してきたが、具体的にメタコマースに参入するメリットにはどのようなものがあるのだろうか。ここでは、主に新規顧客開拓・コスト削減・接客の質向上の3つから参入メリットを解説する。
新規顧客開拓の可能性
仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を駆使した独特のショッピング体験は、従来のオンラインショッピングでは実現できないインタラクティブ性とエンゲージメントを顧客に提供する。例えば、メタバース内でのライブイベントや限定商品の展示などは、参加者に新たな購買動機を刺激する可能性がある。
メタコマースは、特に若年層やデジタル先進者に魅力的なプラットフォームであり、日本に留まらず世界を相手に事業を展開できるため、海外の顧客を開拓できる点も魅力だ。これらのすべてが、企業は従来市場で触れられなかった顧客層開拓を可能にする。
コスト削減
メタコマースでは、物理的な店舗を必要としない。そのため、家賃や施設の維持管理費用を大幅に削減できる。さらに、デジタル商品やバーチャル体験を販売する場合、在庫コストや物流コストがほぼゼロだ。
これらのコスト削減効果は、特にスタートアップや小規模事業者、さらに新規事業を開拓したい企業にとって低コストでビジネスを展開しやすくなり、資金回転率の改善が期待できる。
接客の質向上
メタコマースでは、AIや機械学習を活用したカスタマーサポートが可能だ。近年の生成AI技術によって、より適切な接客が可能となってきた。そのため「顧客一人ひとりのニーズに合わせパーソナライズされた接客が実現可能な環境に整ってきた」といえる。
これらの技術を活用することで、顧客がアバターを通じて店舗を訪れた際、好みや購買履歴に基づいた商品推薦や、バーチャルコンサルタントによるリアルタイムの問い合わせ対応が可能だ。それにより、従来のオンラインショッピングよりも、顧客のショッピング体験はより充実し、満足度が向上する可能性が高まる。
メタコマース参入のデメリット
メタコマース参入には、さまざまなメリットがあるがデメリットも指摘されている。そのため、メタコマース参入を検討する場合は、どのようなデメリットがあるのかも確認しておきたい。
操作性の悪さ
メタコマースプラットフォームは、技術的に複雑だ。特に初心者やテクノロジーに不慣れなユーザーにとっては、操作が困難であるケースが多い。そのためインターフェースが直感的でないことがユーザーの離脱を招く原因となり、結果として顧客の拡大を妨げる可能性がある。
整いきっていない環境
メタバースのインフラストラクチャは、発展途上だ。本格的なメタコマースのメリットを共住するには、どうしても専用の機器、例えばVR用のヘッドマウントディスプレイなどが必要となる。スマートフォンのように「誰もがVR専用機器を所持している」という状況には至っていないため、「メタコマースによって大きな売り上げを目指す」という環境が整っているとは言い難い状況だ。
参考になる事例が少ない
メタコマースは、その性質上、先行事例が極めて少ない。そのため市場の反応や消費者の行動を予測するのが難しく、投資リスクがあるといえるだろう。企業は、独自の戦略を設計し、不確実な市場環境でのテストと試行を繰り返すことが求められる。このプロセスは、時間とコストを要するため、成功までの道のりは容易ではない。
以上のメリットとデメリットを理解し、適切に対応することが、メタコマース市場への参入成功の鍵となる。企業は、これらの要素を慎重に評価し、自社の長期的なビジネス戦略にどのように組み込むかを考慮する必要がある。
仮想空間ならではの買い物体験ができる新たな売り場に
仮想空間でのバーチャルショップは、ネットショッピングの弱点である訪問者へのアピールや接客ができる点がメリットだ。さらに単にモノを購入するためだけに訪れるのではなく、ショッピングという経験に付加価値を与えられる可能性を秘めている。ローソンがバーチャルショップで試みたブイチューバーによる接客は、メタコマースならではの体験だろう。
コロナ禍以前から若年層の顧客の取り込みに苦戦している百貨店にとっては、かつて百貨店が持っていた「百貨店で買い物をするというハレの経験」を、新たなかたちで提供できるチャンスになるかもしれない。
また、利用者は自身のアバターを操作してメタバース内を自由に移動できる。メタコマースでは、単にリアル店舗と同じものが購入できるだけでなくアバター向けのアイテムも販売している。例えばアバターとその操作者である利用者が同じ服やアクセサリーを購入して身に着けることもできるのだ。