「デフレの日本とインフレのアメリカ」。現在、ロシア・ウクライナ情勢の悪化やコロナ禍の影響で世界的にさまざま物価が変動しているが、その中で日本はデフレ、アメリカはインフレの傾向にある。この状況が今後も続く場合、恐ろしい未来が到来する。
インフレとデフレの違い
まず、インフレとデフレについて基本的な知識をおさらいしよう。
インフレとは「インフレーション(Inflation)」の略語で、物価が上昇している状況のことを指す。逆にデフレとは「デフレーション(Deflation)」の略語で、物価が下落している状況のことを指す。
極端なインフレはその国の経済に混乱をもたらすが、適度なインフレであればその国の経済にとってプラスの影響が出る、というのが現在の定説だ。そのため、アメリカではインフレ率の目標として「2%をやや上回る水準」を掲げている。
インフレ状態とデフレ状態では経済にどのような影響が出るか、まとめた表が以下だ。
インフレが経済にプラスをもたらす理由
物価が上がるインフレの状況では、企業が提供するモノ・サービスの値段が上がり、企業の売上が増える。売上が増えれば従業員の賃金も増額しやすくなり、従業員の賃金が上がればその従業員の消費活動が活発になる。
このような良い循環が起こり、インフレは経済にとってプラスになりやすい。
一方、物価が下がるデフレの状況では、企業が提供するモノ・サービスの値段が下がり、企業の売上が減る。ここからインフレと逆の現象が起き、売上減によって従業員の賃金も減らさざるを得ず、従業員の賃金が減れば消費活動も停滞する。
デフレではこのような悪い循環が起こりやすくなり、経済にとってマイナスとなる影響が出やすくなる。
デフレのA国とインフレのB国で開く差
上記は1ヵ国単独で見た場合のインフレとデフレの影響だが、2ヵ国間で片方の国で適度なインフレ、もう片方の国でデフレが続いている状況だと、両国の経済的な差は、かなり早いスピードで開いていく。
「賃金」で比較
特に賃金の差が開いていくことは、非常に深刻だ。デフレが続くA国の平均年収が10年で10%減り、インフレが続くB国の平均年収が10年で10%増える、と仮定すると、実際にどのくらい賃金の差が開くのか。
両方の国の平均年収が元々500万円とすると、10年後、A国(デフレ国)の平均年収は450万円、B国(インフレ国)の平均年収は550万円となり、両国の賃金は100万円もの差が出ることになる。
「消費者の購買力」で比較
それぞれの国の消費者の購買力の面からも見てみよう。A国(デフレ国)では物価が下がっている一方、B国(インフレ国)の従業員は平均年収が上がっている。そのため、B国(インフレ国)の人はA国(デフレ国)の商品を買いやすくなる。
逆にB国(インフレ国)では、物価が上がっている一方、A国(デフレ国)の従業員は平均年収が下がっている。そのため、A国(デフレ国)の人はB国(デフレ国)の商品を買いにくくなる。
日本とアメリカに当てはめてみると……
冒頭の「デフレの日本」と「インフレのアメリカ」について、A国(デフレ国)を日本、B国(インフレ国)をアメリカとそのまま置き換えることができる。
実際に両国に当てはめていくと、日本人の給与が下がる一方、アメリカ人の給与は上がり、相対的な給料の差はどんどん大きくなっていくことになる。また、日本人はどんどん価格が高くなるアメリカの製品を買いにくくなることになる。
現に、日本の1世帯当たりの平均収入は、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、2000年は616万9,000円だったが、2019年は552万3,000円まで落ち込んでいる(2020年は新型コロナウイルスの影響で調査を中止)。
一方でアメリカの平均世帯年収は、米国政府の国勢調査によると、2000年は4万2,100ドル(約532万円)だったが、2019年には6万9,560ドル(約879万円)まで増加している。
「恐ろしい未来」に近づいている
デフレ状態は経済にとってマイナスであるため、日本銀行もインフレ率の目標として「2%」を掲げており、デフレからの脱却に向けて金融政策を実行している。しかし、なかなかその目標を達成できていないのが現状だ。
このままでは日本と、世界経済をリードするアメリカの差はどんどん開き、いずれ日本は“経済大国の地位”を失うかもしれない。これが冒頭でふれた「恐ろしい未来」だ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)