中国、米台関係の強化にけん制「火遊びをする者は自ら火傷することになる」
(画像=Rawf8/stock.adobe.com)

中国国営放送によると、人民解放軍(PLA)東部劇場司令部のスポークスマンは2022年4月15日、中国軍が東シナ海と台湾周辺にフリゲート艦や爆撃機、戦闘機を派遣したことを明らかにした。米国が中国からの再三にわたる警告に耳を傾けず、米国議会代表団を台湾に派遣したことに対する威嚇である。

中国「米国の悪行や策略は全くの無駄骨」

PLAは今回の動きについて、台湾問題を巡り米国が発している「一連の誤ったシグナル」に対応するものであり、「米国の悪行や策略は全くの無駄骨」であるだけではなく、「火遊びをする者は自ら火傷することになる」とけん制した。

「一連の誤ったシグナル」とは、すなわち米国の台湾問題への介入だ。

直近では、PLAが台湾周辺における軍事訓練の実施を発表した当日、米上院のロバート・メネンデス外交委員長や米上下両院の超党派議員団らが、台湾の蔡英文(さいえいぶん)総統と会談 を行った。会談の目的は、中国やロシアなどの権威主義国家の圧力が強まる中、米台の連携を確認すると同時に、民主主義国の結束を強化することだ。

蔡総統は会談後、バイデン大統領が打ち出したインド太平洋戦略において、台湾が積極的な役割を果たす意向があることを表明した。これに対してリンゼー・グラハム米上院議員 は、ウクライナ戦争と中国の挑発的な行動がこれまでにない形で米国の方針を固めているとし、「米国は台湾と共に立ち上がる。台湾を見捨てることは民主主義と自由を見捨てることになる」と述べた。

台湾への軍事的支援を強化する米国

中国は民主主義国家である台湾を自国の領土と見なしており、米国が台湾に軍事的・政治的支援を行っている事実を許容できない。

実際、米国による台湾への影響力は年々増しており、2022年4月初旬にはパトリオット防空システム(地上配備型迎撃ミサイルシステム)をサポートするための機器やその他の物品、訓練など、最大9,500万ドル(約122億3,334万円)相当の取引を米国防総省が承認した とロイターが報じた。

中国の軍事的脅威が高まるとともに台湾側の防衛費も増加しており、2022年1月に86億ドル(約1兆1,073億円)の追加支出法案を可決した。 米国は1979年に制定された「台湾関係法(Taiwan Relations Act)」 に基づき、台湾に自衛手段を提供することが法律で義務づけられている。とはいうものの、今回の武器売買は2021年1月にバイデン大統領が就任して以来、すでに3回目の取引となる。

米国の真の狙いはアジア版NATOの構築?

中国の目に、米国の動きが単なる法律上の支援の域を超え、北大西洋条約機構(NATO)のアジア版を構築しようとしているように見えるのも無理はない。

ブルームバーグ紙 によると、中王毅外相は2022年3月の全国人民代表大会(*国会に値する)で、「米国の真の狙いはアジア版NATOだ」と公言した。さらに、台湾を巡る安全保障面での対立とロシア・ウクライナを巡る対立は「全く比較できるものではない」、米台の関係強化は「台湾を不安定な状況に追い込むのみならず、米国にとっても耐えがたい結果を招くことになる」と警告を発した。

日本も支持する「AUKUS」も台湾問題を注視

中国にとっては、AUKUS(米英豪安全保障協力)という目の上のたんこぶもある。

AUKUS は2021年8月に米国、英国、豪州が発足させた戦略的防衛パートナーシップで、防衛、技術、産業、安全保障、外交政策上の関係の総合深化を目的とする。最初の取り組みは「インド太平洋の安定」を目指し、米英がオーストラリアに原子力潜水艦開発の技術を提供することだった。

AUKUSが台湾海峡においても大きな影響力をもつようになるのは、時間の問題だ。米豪は2021年の豪米閣僚協議(AUSMIN)に関する共同声明の中 で、インド太平洋地域における台湾の重要な役割を再強調し、両国にとって重要なパートナーである台湾との関係を強化する意向を表明した。

一方、日本 もこれに先駆けて行われた豪州との外務大臣協議で初めて台中問題に触れている。「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸の問題の平和的解決を奨励する」との共同声明を発表した。

これら一連の「結束」はインド太平洋地域における中国の強権と強硬な主張を潜在的に脅かすものであり、さらなる軍拡競争を扇動することが予想される。

台湾の成人の8割が「自国の防衛力に自信なし」

中国政府はウクライナ侵攻と台湾問題は別物と主張しているが、ウクライナの勇敢さをたたえ、両国の歴史を比較する台湾人も多いという 。また、ウクライナ侵攻を「明日はわが身」と受けとめ、徴兵期間の延長が主な論点になっていると米国営メディア、ボイス・オブ・アメリカは報じている。

台湾の徴兵期間は1990年代を境に、2年から4ヵ月に徐々に短縮されたが、国防省は現状を踏まえ、「短い訓練期間では不十分かもしれない」 との見解を示している。

台湾世論財団による最近の世論調査では 、20歳以上の回答者の78%が「台湾が自国を守ることができる自信がまったくない」と不安をあらわにする一方で、75.9%が「兵役を1年間に延長することを支持する」と発表した。

しかし、台湾の人口が年々減少している点を考慮し、長期間にわたり若い男性を労働力から排除することは経済面で打撃になるとの指摘もある。

中国が開発に注力する「スマート防衛」

中国は現在、AI(人工知能)技術を活用した「スマート防衛」の開発に余念がない。自国の民間企業が有する技術と軍需産業の組織の融合を通じて、「軍民融合」を確実に実現する権限を中国軍事科学院に付与した と、国際メディア、モダンディプロマシーは報じている。

歴史が大きく揺れている今、民主主義と専制主義の戦いに終止符を打つのは、どちらの陣営なのだろうか。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

無料会員登録はこちら