患者数が5年間で10倍に、急増する「ビットコイン中毒」に欧米専門家が警鐘
(画像=BillionPhotos.com/stock.adobe.com)

仮想通貨取引に依存する「ビットコイン中毒」の急増に、欧米の専門家が警鐘を鳴らしている。

米中毒症クリニック、ファミリー・アディクション・スペシャリストが一般的なギャンブル依存の統計学に基づいて試算したところ、仮想通貨トレーダーの約1% が深刻な病理学的中毒に陥り、約10%は経済的損失を超えた精神的疾患を発症する可能性があるという。

ビットコイン中毒で約5,000万円の損失、患者数は5年間で10倍に

スコットランド生まれのスティーブンは、ビットコイン早期投資者の1人だった。トレードについて独学で学び、ビットコインで億万長者になると確信していた。しかし、仮想通貨取引への強迫観念にとりつかれた結果、アルコールと麻薬に溺れ、もうろうとした意識の中で複数のアドレスを紛失してしまったという。

紛失により失われたビットコインは現在の価値で、総額最大30万ポンド(約4,901万円)相当だったそうだ。英ガーディアン紙に掲載された中毒者の体験談である。極端な例ではあるが、依存症の恐ろしさと虚しさを鮮明に表している。

この男性が現在治療を受けているスコットランドの療法クリニックは、2016年から2021年末までに100人以上のビットコイン中毒者を受け入れた。5年間で患者数は10倍に増加しているという。

一方、ギャンブル依存症相談窓口を運営する英国NPOギャムケア は、「巨額の損失を出した」「1日16時間もとりつかれたように取引している」といった仮想通貨関連の電話相談を毎週約20件受けている。人間関係や仕事に支障を来すケースも珍しくない。

一部の専門家は、治療や相談をとおして表面化しているケースは氷山の一角に過ぎず、実際の中毒者はさらに多いと確信している。

仮想通貨投資で薬物やアルコールと同じ快感を得られる?

ビットコインの歴史は浅いため、中毒性の傾向について心理学的研究はほとんど行われていない。これまでのところ、依存症の専門家は仮想通貨への依存症 を、ギャンブル依存症と類似した「デイトレード依存症」のサブタイプとして分類している。

これは仮想通貨にのめり込む人が仮想通貨を「投資」ではなく、「投機」の機会として見る傾向が強いためだ。投資が長期的な利益を追求する資産運用手段であるのに対し、投機は短期的な視点から利益を求めるギャンブルの要素を含んでいる。

仮想通貨に限らずどのような投資にも該当することだが、十分なリサーチや分析もせずに一攫千金を狙って資産をつぎ込む行為は、ギャンブル以外の何ものでもない。

「ギャンブルで勝つと人間の脳内ではドーパミンという快感物質が分泌される」と、一般的に言われている。しかし、ウェズリアン大学心理学部のマイク・ロビンソン助教授 いわく、実際には「勝つか負けるか」とハラハラしている瞬間にこそ大量のドーパミンが放出されるという。

ギャンブルを頻繁に行うと脳がドーパミンに慣れてしまい、勝利の感覚を得ることが難しくなる。その結果、同じレベルあるいはそれ以上の快感を得るために、ますますギャンブルにのめり込んで行くという悪循環を引き起こす。

ちなみに、ギャンブル中のドーパミンの放出は、乱用薬物の服用時に活性化されるのと同じ脳領域で起こることが、デンマークのオーフス大学機能統合神経科学 センターの研究により明らかになっている。

心理学的見解から見る「中毒になりやすい要素」

専門家は仮想通貨取引が投機の要素に加え、中毒になりやすい要素も兼ね備えている点に懸念している。

仮想通貨は従来の投資対象に比べ、はるかにボラティリティが 高い。「このボラティリティこそが中毒性を引き起こす要因の1つになっている」と指摘するのは、ファミリー・アディクション・スペシャリストの設立者兼セラピストのシュテルンリヒト夫妻だ。

他の投資では体験できない究極のスリルと快感が味わえる上に、一攫千金で自分も“億り人”になれるかもしれないという幻想を生みだす。

一方では、仮想通貨取引を「誰でも儲かる投資機会」として促進するマーケティングが、投資の経験の浅い消費者を高リスクの取引に誘致しているとの指摘もある。TwitterなどのSNSを利用したマーケティングも多く、そこから生まれるコミュニティー要素や煽動感が強迫行動を助長する可能性も危惧されている。

世界有数の依存症専門家であるスタンフォード大学精神医学部のアンナ・レンブク博士は、「SNSと金融プラットフォームを組み合わせると、さらに強力な新薬を作ることができる」とのコメントを残している。

仮想通貨時代の新たな現代病

これらの専門家は、仮想通貨の利用や取引に異論を唱えているわけではない。依存性の高さに対する認識を促す目的で警鐘を鳴らしているのだ。仮想通貨は社会に有益な機会をもたらす反面、新たな現代病も生みだしているという事実を社会は認識しておくべきだろう。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

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