対ロシア制裁で国際金融機関の損失リスクは推定15兆円以上?
(画像=BillionPhotos.com/stock.adobe.com)

対ロシア制裁の影響が金融市場へ広がる中、国際主要銀行のロシアへのエクスポージャー(貸付残高)が推定総額15兆円を超えることが、国際決済銀行(BIS)のデータから明らかになった。

各金融機関は潜在的損失について「金融市場の安定性を脅かすほど大きくはない」と主張しているが、一部のアナリストや投資家間では「ロシア政府が資産を差し押さえ、制裁によりロシア関連の証券が無価値になれば、銀行はすべてを失うことになるのではないか」と懸念されている。

シティグループのロシア向けエクスポージャーは1兆円超え

ロシアがウクライナへ侵攻を開始して以降、多数の国際金融機関が競うようにロシア事業の縮小・撤退を進めている。一部の銀行はエクスポージャーが高く、これは債務不履行の際の潜在的な損失が大きいことを意味する。

ウォール街で最も大きな影響を受けると予想されているのはシティグループ だ。ロイターによると、同行の2021年末のロシア向けエクスポージャーは100億ドル(約1兆2,575億円)弱に達しており、これは同行の貸付残高全体の0.3%に相当する。同行は「最悪の場合、その半分近くを失う可能性がある」と発表した。

今回初めて開示されたシティグループのその他のエクスポージャーには、ロシア中央銀行やその他の金融機関に10億ドル(約1,261億9,134万円)の現金、複数の取引先との18億ドル(約2,263億8,152万円)のリバースレポ取引(債券を担保として資金を借り入れる貸借取引)が含まれており、「第三者エクスポージャーの合計」は82億ドル(約1兆312億円)になる。

さらに、ロシア子会社以外の追加取引先に対するエクスポージャーが16億ドル(約2,012億6,225万円)に及ぶという。

ウェルズ・ファーゴのアナリスト 、マイク・マヨ氏は、ここに含まれるおよそ30億ドル(約3,764億4,009万円)の融資だけでも、「3億ドル(約376億4,956万円)の準備金の追加が必要となる可能性が高い」との見解を示している。

欧州、豪、日本の銀行も巨額の損失リスクに直面

シティグループほどではないにせよ、欧州やアジアの銀行も続々と潜在的な損失リスクに直面している。

BISの各国金融機関のデータ を見てみると、ロシアおよびウクライナへのエクスポージャーが最も高いのはイタリアとフランスの銀行で、2021年9月末時点でそれぞれ250億ドル(約3兆1,402億円)強、次いでオーストリアの銀行が175億ドル(約2兆1,981億円)だった。

しかし、同年末にはロシアで10番目の大手銀行である豪RBI のロシア向けエクスポージャーの総額が、228億5,000万ユーロ(約3兆1,201億円)に膨張した。その大半は民間企業向け融資である。同行は、侵攻開始直後は撤退の意志がないとしていたが、3月に入り撤退を検討していることを明らかにした。

その他、クレディ・スイス は16億スイスフラン(約2,152億6,568万円)、ドイツ銀行 は29億ユーロ(約3,954億4,570万円)、オランダ のINGは53億ユーロ(約7,237億9,820万円)、仏ソシエテジェネラルは186億ユーロ(約2兆5,401億円)と、多数の銀行が損失リスクを抱えている。

日本3メガバンク のロシア向けエクスポージャーも、2021年9月末時点で数千億円規模に達していた。

モスクワとウラジオストクに現地法人を持つ三菱UFJフィナンシャル・グループは2,140億円、三井住友フィナンシャルグループは貸出金やコミットメントライン、保証取引、出資金など含めて41億ドル(約5,149億2,796万円)、みずほフィナンシャルグループは2,177億円だったとブルームバーグ紙は報じている。

ゴールドマン・サックス関係者「損失は深刻ではない」

一方、2014年のロシアのクリミア併合後、ロシア事業を大幅に縮小してロシア市場へのエクスポージャーを極力減らしていた米金融機関は 、欧州や日本の銀行に比べると潜在的な損失リスクが低い。

ゴールドマン・サックス は約6億5,000万ドル(約817億2,220万円)のロシアの信用エクスポージャーがあるが、内部事情に精通している関係者はいかなる損失も「深刻ではない」とロイターに語っている。

また、JPモルガンチェースのジェイミー・ダイモン会長兼CEOは2022年4月4日、同行がロシアへのエクスポージャーで最大10億ドル (約1,261億9,134万円)の損失を被る可能性があると指摘すると同時に、「それでも米国は対ロシア制裁を強化すべきだ」の見解を示した。

「ロシア撤退」は言うは易く……?

しかし、ロシア事業の撤退には相当の時間とコスト、そして犠牲を伴う。そのため、中には躊躇する金融機関もある。

例えば、保証金を差し引いても45億ユーロ(約6,150億6,314万円)のエクスポージャーがあるイタリアのウニクレディト がロシア事業を完全に償却した場合、約74億ユーロ(約1兆106億円)のコストがかかると見積もられており、コア資本比率は15.03%から約13%に下がる。

アンドレア・オルセル CEOは3月にロンドンで開催されたモルガンスタンレーの欧州カンファレンスで、「ロシアから撤退するというだけなら簡単なことだ。しかし、我々は真剣にロシアから全銀行を切り離すことの影響について考える必要がある」と主張した。

金融市場への影響は少ない?

ロシアは3月、ロシア事業を停止・撤退する外資系企業の資産を差し押さえる 可能性があると発表した。ロシア側からの制裁措置の有無にかかわらず、外資系企業のロシア資産売却は困難を極めると 推測されていることから、莫大な損失を回避するのは難しいとの見方も強い。

しかし、多くの銀行や中央銀行はロシアへの貸付などが全体エクスポージャーに占める割合が小さいことを理由に、「(金融市場への)ストレスの兆候は限定されている」とおおむね冷静に対応を進めている。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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