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事業承継と事業継承は、受け継ぐ「もの」は異なりますが、どちらも「~を受け継ぐ」という意味で使われる言葉です。どちらが正しい表現か悩ましく感じる方も多いでしょう。本記事では「承継」「継承」の意味の違いや使い分けについて見ていきます。

「承継」と「継承」の違い

「承継(しょうけい)」と「継承(けいしょう)」は似て非なる言葉です。前者は先代から「地位や精神、身分、仕事、事業を受け継ぐ」という意味があり、後者は先代から「義務や財産、権利を受け継ぐ」ことを意味します。
どちらも「受け継ぐ」という点では共通しますが、「承継」は先代が守ってきた形のない抽象的なもの・精神的な意味をもつものを受け継ぐといった意味合いの強い言葉です。対して「継承」は、先代や先任者が所有していた形あるもの・具体的なものを受け継ぐ意味合いが強く、それぞれ受け継ぐものが異なるため使い分けが必要といえます。

  「承継」 「継承」
意味 先代から「地位や精神、身分、仕事、事業」を受け継ぐ 先代から「義務や財産、権利」を受け継ぐ
受け継ぐもの 先代が守ってきた形のない抽象的なもの・精神的な意味をもつものを受け継ぐ意味合いが強い 先代や先任者が所有していた形あるもの・具体的なものを受け継ぐ意味合いが強い

上記使い分けから、会社の経営権を受け継ぐ場合には、主に「承継」が用いられます。しかし実際、この2語の使い分けは曖昧なケースも多く、「継承」も日本語として間違いではありません。

公的には「事業承継」と「事業継承」のどちらを使用しているのか

法律上や税制上では「事業承継」が用いられており、中小企業庁でもそれにならって用いられています。
語義的な観点からすれば、 「前経営者から会社の経営理念やビジョンを受け継ぐ」といった場合には事業承継 を、 「先代経営者のもつ会社の経営権などを引き継ぎ、経営を担っていく」といった場合には事業継承 を用いるのが適切ですが、厳格な定めなどがあるわけではなく、どちらを使用しても意味が通るため基本的に間違いではありません。とはいえ、使い分けが曖昧である以上、それぞれの使い方を覚えておいても損はないでしょう。

後継者に承継すべき経営資源とは

後継者に承継する経営資源は、主に「人」「資産」「知的資産」などです。経営を支え、会社を長く維持・成長させられる経営資源として、これらは後継者に引き継ぐべきとされています。

人の承継

事業承継における「人の承継」は、「経営権の承継」ともいわれています。経営権の譲渡は、後継者に対する株式譲渡で行うことが可能です。1/2超の株式を保有していると、株主総会の普通決議を単独で決定できる発言権が取得できます。また、2/3超の株式を保有している場合には、株主総会の特別決議を単独で決定でき、決議を成立させられます。

中小企業において、人の承継はとても重要です。中小企業では経営者が自ら多くの業務を行い、取引先などへの対応まで行っているケースが多いため、事業の運営継続はもちろん、売上の向上や事業成長などは経営者の働き次第といえます。親族内承継や従業員承継を行うケースでは、後継者の育成にかなりの時間をかけなければなりません。それゆえ早い段階で候補者を選定し、適した教育を始める必要があります。
詳しくは後述しますが、近年では親族内からでなく外部の第三者へ事業承継を行うケースも増加しています。適切な事業承継により会社の経営状況の安定化や、長期間の経営維持が可能になります。

資産の承継

資産の承継とは、経営に必要な資産を引き継ぐことをいいます。ここでいう資産とは以下のものが挙げられます。

  • 前経営者が所有する株式
  • 事業用資産(設備・不動産・棚卸資産など)
  • 資金(運転資金・借入等資金など)
  • 許認可

後継者が発行株式の過半数を取得できない場合、経営権の取得が不可能となり、スムーズな承継ができなくなるおそれがあるため、確実に引き継ぐための対策を立てておく必要があります。また、経営権を目的とする株式取得の場合でも取得時の対策次第では税金が大きく変わる可能性もあるため、注意が必要です。

事業内容によっては、公的な許認可の取得が必要な不可欠な場合があります。特に異業種の会社を譲受ける場合は、引き継ぎ時に許認可の有無や、要件など詳細を早期段階から確認する必要があります。
これら多岐にわたる資産を重要なポイントをすべて把握して適切に処理することは単独では難しいため、早くから専門家に相談することをおすすめします。

知的資産の承継

知的資産とは技術や人材、ノウハウなど、これまでの経営期間に築かれた会社の強みとなるものです。
事業活動で基本とすべき考え方・信念を表した経営理念や、先代が積み上げてつないできた人脈・顧客情報・会社の信用、さらには独自の商品開発などに使用でき、利益にもつながる重要な無形資産のひとつでもある特許なども該当します。このように単純な資産だけではなく、会社の背景にあるさまざまな無形資産も受け継ぎます。
知的資産は、すぐに引き継げるものばかりではなく、引き継ぎに時間がかかるものもあります。そのため、正しく承継するには現経営者が後継者に対し、会社の強みや価値を深く理解できるよう働きかける必要があります。

事業承継における3つの後継者選択方法

事業承継には「親族内承継」「従業員等への承継」「第三者への承継(M&A等)」の3種類の方法があり、いずれかの方法で後継者を選択できます。スムーズに承継を行うためにも、それぞれの特徴を押さえ、自社に適した方法を検討することが大切です。

親族内承継

親族内承継とは、現在の経営者の親族(子供・兄弟姉妹・配偶者など)に会社を受け継がせる方法です。従来、事業承継における主流とされてきた方法であり、近年親族外に引き継がせるケースが増えてきたものの、未だ多くの企業で採用されています。

親族内承継の特徴・メリット
この方法の主な特徴としては、 従業員や取引先など多くの関係者から受け入れられやすい 点が挙げられます。 また、身内から後継者を選ぶ都合、 早くに後継者候補を決められるうえ、後継者の育成に十分な時間をかけて取り組める のもメリットです。さらに、相続に伴う承継では、後継者が株式を相続財産として取得できるため、 引き継ぎの際に株式の取得を行う必要がありません 。株式売買時に発生する税金についても、納付額が軽減されるなどのメリットがあります。

親族内承継の懸念・デメリット
一方、親族内に経営を希望する有能な後継者が存在しない場合、承継が困難というデメリットもあります。
相続人が複数存在する場合も、 後継者を絞って決めることが難しい 、ほかの相続人への相続分も生じるため 株式が分散されて経営権を集中できない 、といった問題が生じることもあります。

従業員等への承継

従業員等への承継とは、親族内から後継者を選定せず、信頼に足る自社の役員や従業員に会社を受け継がせる方法です。

従業員等への承継の特徴・メリット
長く会社に勤めてきた社員ほど、経営方針やこれまでの経営活動、業務のノウハウなどさまざまな面で自社の事情に精通しているため、 手続きをスムーズに進めやすい メリットがあります。さらに、従業員が会社を受け継いだという実績ができることで、 ほかの従業員のモチベーションアップ にもつながります。

従業員等への承継の懸念・デメリット
役員や従業員の中から後継者を探す場合、経営能力や意欲のある人物を見つけなければならず、適任者がいないケースも考えられます。たとえ後継者候補が見つかったとしても、 後継者が株式の買収や納税に必要な資金を調達できない 場合もあるかもしれません。

また、会社の借入があるケースでは、借入のため金融機関に代表者保証を行わなければならないときもあります。個人債務保証など、代表者の変更に伴い新代表者が保証人にならなければならない借入がある場合、 連帯保証加入を求められ後継者の決定が難しくなる ことも懸念されます。

第三者への承継(M&A等)

第三者への承継とは、M&Aや株式譲渡、事業譲渡などによって外部の会社や個人に対して経営権を譲渡し、引き継ぎを行う方法です。

第三者への承継の特徴・メリット
この方法では、身内や社内などから後継者を見つけられない場合でも、 外部の広い範囲から有能な後継者を探せる 点が特徴です。会社の経営を引き継ぐため従業員の雇用も続けられるうえ、取引先との関係も継続できます。
また現経営者にとっても、株式譲渡によって売却利益を得られるメリットがあります。M&Aを行い、経営権が移ったあとも譲渡前と同様に社長を続けるケースも見られるなど、近年では第三者への承継が増加しています。

第三者への承継の懸念・デメリット
一方で、従業員の雇用継続や株式の買取額など、 希望に合う買い手を見つけるのが難しい 点はデメリットとして挙げられます。さらに、新しい経営者によって経営方針が変更されることで、社内に一時的な混乱を招くおそれもあります。

M&Aなどによる承継は、経営者の親族に後継者が不在の場合や、社内で適任者がいない、もしくは候補者がいても資金調達が難しい場合に採用されます。社外に目を向けることで、幅広い人材から後継者を見つけられるため、スムーズに承継が行えます。

親族内承継が親族外承継を上回る傾向にある

近年では後継者の確保が難化しているうえ、同族経営からの脱却を図ろうとする動きも見られるなど、親族外に引き継ぎを行うケースが増加しています。
2016年4月に中小企業庁が公表した資料によれば、在任期間20年以上25年未満の経営者のうち、親族内承継の割合は約85%と大半を占めていました。しかし、直近10年間(2015年調査時点)でこの割合は大きく減少しており、在任期間0年以上5年未満の経営者に至っては親族外承継が6割を超え、逆転していることがわかります。

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出典:中小企業庁「事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会(第1回)

これは、中小企業などにおけるM&Aへの認知度の高まりや、M&Aのメリットを活かせるシーンが増えていることが要因と考えられます。後継者不在などの問題から自社の存続を諦める前に、会社を残して経営者や従業員にもメリットが期待できるM&Aを選択肢のひとつとして、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

終わりに

「承継」と「継承」は、わずかに意味が異なる言葉です。これらは基本的に、「承継」が形のない抽象的なもの、「継承」が形のあるものを「先代から受け継ぐ」というニュアンスをもちます。会社を受け継ぐときは一般的に「事業承継」が用いられますが、実際には「事業継承」を使用しても何ら問題ありません。事業承継の方法としては、親族内承継・従業員等への承継・第三者への承継(M&A等)の3通りがあります。それぞれメリット・デメリットが異なるため、特徴を踏まえたうえで自社に適切な方法を検討することが大切です。

著者

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M&A マガジン編集部(M&A まがじんへんしゅうぶ)
日本M&Aセンター
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