黒坂 岳央
黒坂 岳央(くろさか・たけお)
水菓子肥後庵代表。フルーツビジネスジャーナリスト。シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、東京で会社員を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。ビジネス雑誌やニュースサイトでビジネス記事を書いている。著書に『年収1億円超の起業家・投資家・自由業そしてサラリーマンが大切にしている習慣 “億超えマインド"で人生は劇的に変わる!』など。

筆者はビジネス柄、多くのお金持ちと付き合いがあり、お世話になってきた。その中の一人に六本木ヒルズに住む連続起業家がいる。次々と事業を立ち上げ、バイアウトするような肉食的な彼だが人知れない悩みがあるのだという。

悩みがない人などこの世にいない

六本木ヒルズ
(画像=cowardlion / Shutterstock.com)

悩みごとがない人など、この世の中に一人もいないのではないだろうか。それはビジネスの世界で、成功を収めた人も例外ではない。中小企業庁の発表によると、社長が抱える悩みの7割は「営業力・販売力の強化」にあるという。端的にいえば「売れない」ということだ。

だが、十分な売上がある事業体であっても悩みはつきない。人材確保、技術力向上、海外展開など社長の数だけ悩みがあると言っても過言ではないのだ。

精神科医にも悩みが伝わらない

彼は幸運にも「売れない」という悩みはない。六本木ヒルズに住んでいるくらいなので、むしろ次々と事業を立ち上げて成功裏に導き、お金の悩みは一切ないのだ。

だが、彼はビジネス上の悩みを抱えており、結果的に精神をすり減らしてしまった。それで精神科医にかかったが、彼の専門分野である「バイアウトとは?」を医師に説明するところで、持ち時間を使い切ってしまった。

精神科医でも、連続起業家という少数派の社長の悩みはすぐには解消できないのであろう。

自分を救うのはいつも自分だけ

結局のところ、成功する社長は自分で悩みや問題を解消しなければいけない。ラテン語の古いことわざの「天は自ら助くる者を助く」という言葉通り、自分を救えるのは、いつも自分だけである。多くの人は救いを他人に求めるが、一時的な救済はできても人生そのものの問題を解消することはできない。他人は人を救えないのだ。

問題はそれに「いつ気づくのか?」ということである。成功する社長というのは、バイタリティと行動力にあふれ、他者にはない多くの経験を積んでいる。であるがゆえに、前述の連続起業家のように、目に見えて自分を救ってくれる存在がいないことに早々に気づくことができる。そのため、ある意味で潔く諦めて、自分自身を救う力を持つことに邁進するのだ。それでさらに成功するのである。

彼の悩みは周囲の社長には理解できない。起業家と社長は似ているようで、異なる経験値を持っているのだ。

社長は1つの事業を何十年にも渡って育てるのに対し、連続起業家は事業を軌道に乗せるために、苦しくて淡々としたことを積み上げることを人によっては10数回、時にはそれ以上経験する。大きな成果が出始めてビジネスが楽しくなってきた頃に買い取りの申し出を受けて、事業を売却してしまう人もいる。つまり、「ビジネスの苦しいとこ取り」のような連続起業家もいるのである。社長とは属性の異なる人種で、連続起業家という人種が圧倒的に少ない存在のため、悩みを共感できる絶対数が極端に少ないのだ。

六本木ヒルズに住む連続起業家のその後

彼はその後、見事に自身の悩みを解消した。結局、悩み抜いた末に事業を売却してしまった。それにより、従業員には迷惑をかけてしまうことになったが、それでも前に進むための英断だったのだという。最終的には、やはり自分一人で悩み、決断をしているのだ。この事業売却を経て、彼はますます高みを目指して次の事業に精力的に取り組んでいるようだ。

繰り返しだが、他人は自分を救えない。一時的に救うことはできても、人生の根本的解決は自分自身でするものだ。

人間は誰しも、自分の人生という経営者だからに他ならない。連続起業家という希少な人たちが、その真理を教えてくれたような気がする。

文・黒坂岳央(水菓子 肥後庵 代表・フルーツビジネスジャーナリスト)