イーロン・マスクはTwitterに言論の自由を取り戻せるのか
(画像=KoukichiTakahashi/stock.adobe.com)

イーロン・マスク氏がTwitterの筆頭株主となったことが、新たな波紋を呼んでいる。
「言論の自由」を求めた動きと推測される反面、数千億円相当の利益を得た疑惑が浮上しているのだ。一方、Twitterの株価は27%急騰し、同社の2013年のIPO(新規株式公開)初日以来、最大の伸びを記録した。

謎を呼ぶ「10日遅れの開示」

2022年4月4日に公開された証券取引委員会(SEC)の提出書類によると、マスク氏はTwitterの9.2%(約7349万株)を取得し、米投資・金融大手のバンガードグループやモルガン・スタンレー(8.4%)、ブラックロック(6.5%)、ステート・ストリート(4.5%)などを抜いて筆頭株主となった。

問題視されているのは、株式取得からSECへの通知延滞だ。米国の投資家は上場企業の5%以上の株式を取得した場合、10日以内に所有権開示報告書を提出することが義務付けられている。つまり、書類上の株式取得日である2022年3月14日を基準にすると、マスク氏は同月24日までに署名し、SECに提出する義務があった。

ところが、書類の署名欄の日付は4月4日と、期限を大幅に過ぎている。素人ならまだしも、「提出を忘れていた」と考えるのは不自然だ。マスク氏はなぜ、意図的に通告を遅らせたのか。これについては、米メディア、プロトコルがツイッター株の動きを分析したトレーダーによる「推理」を掲載している。

4月4日以前、Twitter株の典型的な取引量は1日1,700万株だった。この数字から算出すると、マスク氏のトレーダーが他の投資家の注意を引くことなく取引可能な量は推定1日300万前後だ。

仮に、マスク氏が3月24日以前に、開示義務を回避する目的で5%弱(約4,000万株)の株式を購入しており、24日にさらに買い増ししたことにより開示義務が発生したとする。

しかし、9.2%という目標を達成していなかったことにより、マスク氏は決断に迫られた。期限通りに開示すれば、株価が急騰するのは目に見えているが、開示を遅らせれば安価で株を買い増しできる。必要な株式を取得してから開示した場合、株価の急騰で億単位の利益を手にすることが可能だ。ブルームバーグ紙はその額を、11億ドル(約1,363億8,345万円)と試算している。

開示延滞の罰金10万ドル(約1,240万円)とは、比較にならない金額だ。

「言論の自由は民主主義が機能するために不可欠」

延滞の意図もさることながら、マスク氏が筆頭株主になった目的も不透明だ。

株式取得の公表以降、同氏が投稿したコメントは「Oh hi lol(オゥ、やぁ、爆笑)」「(投稿の)編集ボタンは必要か」のみというミステリアスさである。マスク氏はかねてから、ヘイト表現をともなうコンテンツの増加を背景に、各SNSが規制を拡大していることに対し異論を唱えていた。

3月25日には、「言論の自由は民主主義が機能するために不可欠だ」とTweet。さらに「Twitterがこの原則を厳格に守っていると思うか」と問いかけた。これに対し、20万3,592人のうち7割が「思わない」と回答した。

現在のTwitterの有り方に不満を抱くユーザーの声に耳を傾け、巨額を投じてTwitter再編成に乗り出したと見ることもできる。実際、この投票の翌日の「新しいSNSプラットフォームは必要か」という問いかけに対し、多数のユーザーが歓声を上げた。

「Twitter最強のインフルエンサー」の大量株式取得に懸念も

一部からは、マスク氏がTwitterを通して社会に与える影響がさらに大きくなることに対し、懸念の声も上がっている。1月下旬、保守派政治評論家ディネシュ・ドスーザ氏は、「マスク氏は大手ソーシャルメディアプラットフォームを買収して乗っ取ることで、政治や文化の背景を劇的に変えることができる」とTweetしていた。

強力なインフルエンサーの発言はインターネット上で世界中を駆け巡り、人々の行動から思想、社会、政治、金融市場まで、さまざまな側面に影響を与える。マスク氏のように800万人以上のフォロワーを誇るTwitter最強のインフルエンサーの一人ともなれば、その影響力は強烈だ。

実際、マスク氏は投資家に対して「虚偽かつ誤解を招く」発言をしたとして、2018年にSECから起訴されている。同氏が「1株420ドル(約5万2,073円)でTeslaを非公開化することを検討しており、資金も確保している」とTweetしたためだ。Teslaは業績記録を更新したが、マスク氏は会長の座から解任されるという事態に発展した。

共同創業者ドーシー氏「言論の自由を失った」に反論

今後、Twitterの経営方針などがどのように変化していくのか、現時点においては明らかにされていない。

確実なのは、マスク氏の「Twitterに言論の自由を取り戻す」という野望は、2021年11月にCEOを退任したTwitterの共同創業者ジャック・ドーシー氏の意向と、真っ向から衝突するということだ。

ドーシー氏は4月2日、「発見とアイデンティティを企業に集中させることにより、インターネットを本当に傷つけてしまった」「自分の責任の一端を自覚し、後悔している」とTweetし、「Twitterは言論の自由を失った」という意見に反論した。

奇行マスク氏、Twitter株取得も単なる気まぐれ?

純資産3,000億ドル(約37兆1.954億円)という人類未踏のマイルストーンを達成したマスク氏は、数々の度肝を抜く言動で世間を驚かせることでも有名だ。今回のTwitter株取得が、単なる気まぐれという可能性もある。

さまざまな憶測が流れる中、ドーシー氏はマスク氏の株式取得について、どのように受けとめているだろうか。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

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