プーチンとバイデンの狭間で身動き取れない習近平、「一帯一路」の野望にも暗雲?
(画像=Fauzi/stock.adobe.com)

ロシアによるウクライナ侵攻開始から一ヵ月以上が過ぎた。プーチン大統領が引き金を引いた巨大経済圏構想「一帯一路」参加国間の紛争は、習近平国家主席の壮大な野望に暗い影を落としている。

「傍観者」に徹する中国の頭痛の種

ロシアがウクライナ侵攻を開始した直後、「中国がロシアを軍事的に支援するのではないか」「便乗して台湾有事を進めるのではないか」といった憶測が飛び交った。近年、中露は西側諸国に対する反感を強めており、2022月2月には「中露間における協力の禁止分野なし」「NATO(北大西洋条約機構)拡大反対」など、両国の提携関係強化を確認する共同声明を発表した。

しかし、世間の懸念に反して、中国は「ロシア・ウクライナ間の交渉による和解」を提唱し、中立的な立場に徹している。その背後では複雑な思惑が交差しているものと推測される。おそらく、「ロシアを見限るつもりはないが、ただでさえ対中包囲網が拡大している今、紛争の矛先が自国に向くのは回避したい」というのが本音だろう。

ところが、中国の思いに反して、否が応でも頭痛の種は増えていく。そのひとつが、巨額の資金を投じる一帯一路への影響である。

習近平政権が2013年に発足させた一帯一路イニシアチブ(BRI)は、世界139ヵ国が正式に提携関係を結ぶ巨大経済圏構想プロジェクトだ。その目標は、中国から中央アジア、南アジア、中東、欧州に広がる陸と海をつなぐ、「21世紀のシルクロード」の構築にある。

ソビエト連邦崩壊後、ゴルバチョフ政権下で中国に軍事技術を提供してきたロシアは、1994年にBRIに署名した。ウクライナは2017年に参加して以来、中国企業による湾岸および地下鉄などの整備事業を受け入れてきた。

ロシアのウクライナ侵攻は、中国にとって一帯一路同盟国同士の致命的な摩擦であり、野望の実現を脅かす要因に他ならない。

対ロシア制裁の影響が一帯一路にも

一帯一路は、発展途上国のインフラ開発や産業育成、物流改善、直接投資の活発化など、さまざまな恩恵をもたらすと言われている。しかし、途上国の債務が膨張するなど、その投資効果を疑問視する声も多い。ロシアの侵攻は、このような一帯一路への逆風を強めた。

対ロシア制裁は、すでに一帯一路の鉄道経路変更や貨物輸送妨害といった形で中国に損失をもたらしている。

エネルギーニュースサイト、オイルプライス・コムによると、侵攻開始後の数週間はロシア領内の鉄道輸送に支障はなかったが、現在は独鉄道物流大手DBシェンカーを筆頭に、ロシア経由の一帯一路関連業務を事実上停止している物流企業が増え始めたという。中国への反感が高まれば、一帯一路関連業務を凍結する企業がさらに増える可能性も高い。

中国はロシア、ベラルーシを迂回する欧州への代替回路として、北極海ルートを含む回路の開拓・拡大に奔走しているが、新たな回路の確保には時間もコストも労力もかかる。

高まる中国への不信感 三ヵ国間で不協和音

とはいうものの、貿易への短期的な打撃は、地政学的な脅威に比べれば微々たるものかもしれない。ロシアのウクライナ侵攻は、一帯一路が掲げる「通商による平和」の戦略的根拠を大きく損ねるリスクをはらんでいる。

「平和」を呼びかける一方で、貿易やロシア株の取得拡大を介して自国の利益を優先する中国に対し、不信感を強める国もある。ロイターは中国の煮え切らない態度を指摘し、「多数の東欧諸国が距離をとりつつある」と報じた。

中国がロシアへの軍事支援を行わない限り、西側による制裁の波及は限定されるだろう。しかし、一帯一路同盟国間に不協和音が生じるのは避けられないようだ。

ロシアに新たな動き 中国にとってチャンスとなるか脅威となるか

一方で、ロシア側の動きを懸念する声もある。ロシアが主導するユーラシア経済同盟(EAEU)の台頭だ。EAEUは、独立国家共同体(CIS)に加盟していたロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア、キルギスの5ヵ国が、2015年に発足させた関税同盟である。

5ヵ国はかねてから、EU(欧州連合)がユーロを単一通貨としているように、EAEUの通貨同盟化を提唱してきたが、ここにきて現実味を帯びている。

カザフスタン・ニュータイムズによると、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、2022年3月12日、「EAEUと集団安全保障条約(CSTO/ロシア主導のCIS安保協議体)の中で集結し、ここに皆が共にあるべきだ」と主張し、EAEUの市場単一化を推し進めるよう提案した。

同国はロシアのウクライナ侵攻に加担したとして、西側から制裁を受けている。一方、3月18日には、カザフスタンがロシアとの二国間貿易における関税の支払いに、ロシアの通貨であるルーブルを使用する意向を明らかにした。

このような動きを機に、ロシアがイランやインドを筆頭とする対露制裁活動に参加していない国と貿易・協力関係を強化する可能性も予想される。イランはEAEUと特恵貿易協定を結んでおり、インドはロシアとのルーブル/ルピー決済案を検討中だ。

中露は、2015年に一帯一路とEAEUの結合計画を打ち出したが、世界情勢が一転した今、お互いの真の思惑がどこにあるのかは謎だ。一帯一路構想に他国や外部の枠組みを取り込むことで、中国の主導力を分散しようとする意図が、ロシア側にないとは断言できない。

中国にとってEAEUは一帯一路の拡大にさらなるチャンスをもたらすと同時に、「新たな競合勢力」となるリスクも秘めている。

欧米、露、どちらを敵に回しても…

プーチン大統領の「暴走」が、習近平国家主席の「中国主導経済圏」構築の野望に波紋を投げかけていることは、疑う余地がない。しかし、中国は欧米、露、どちらを敵に回しても、大きなリスクと背中合わせの板ばさみ状態だ。中国は「傍観者」という立場を維持する裏で、葛藤と迷走を続けるだろう。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

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