派遣会社は高いマージン率で大儲け? 数字で見る派遣会社の実態
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

日本で専門地域を必要とする13業務に対して「人材派遣」が解禁されたのは1986年だ。現在、派遣労働者として働く人は150万人以上にのぼり、市場規模はこの30年間で約10倍に拡大した。すでに数多くの派遣会社が存在するが、派遣会社のビジネスモデルとは?

人材派遣業界の現状

まず、人材派遣の現状から把握していこう。厚生労働省の最新の発表によれば、2020年6月1日時点の派遣労働者の数は約156万人だ。この10年で見ると、緩やかな右肩上がりの状況にある。

業務別では、「一般事務従事者」が31万3,249人で全体の20.1%を占め、最も多い。「製品製造・加工処理従事者」が23万9,961人(15.4%)、「情報処理・通信技術者」が15万1,157人(9.7%)、「運搬従事者」が8万1,758人(5.2%)、「機械組立従事者」が6万7,656人(4.3%)と続く。

以下は派遣市場の売上高の推移だ。2015年以前は、5年刻みで数字を示した。2004年に製造業務への派遣労働が解禁したあと、市場規模の伸びが加速し、2019年の市場規模は2008年の7兆7,892億円を超え過去最高を記録している。

派遣会社は高いマージン率で大儲け? 数字で見る派遣会社の実態
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」

「人材派遣会社」と「人材紹介会社」は異なる

派遣市場の現状について理解したところで、派遣会社のビジネスモデルについて解説していくが、まず「人材派遣会社」と「人材紹介会社」は明確に異なるということは知っておきたい。

このあと詳しく説明する人材派遣会社は、雇用者が雇用契約を結ぶのは派遣会社で、派遣会社は派遣先企業と派遣契約を結び、雇用者を一定期間派遣する。一方、人材紹介会社はあくまで求職者を企業に紹介するのであって、派遣会社とは雇用契約を結ばない。

「派遣料金」から「派遣労働者の賃金」が支払われる

人材派遣におけるお金の流れは、派遣先企業が人材派遣会社に「派遣料金」を支払い、人材派遣会社はその中から派遣労働者に「賃金」を支払う。では派遣料金のうち、どのくらいの割合が派遣労働者にわたるのだろうか。

それは、厚生労働省の「労働者派遣事業報告書の集計結果」を見れば明らかだ。業務別の1日当たりの派遣料金と1日当たりの派遣労働者の賃金の両方が集計されており、この2つのデータを見比べると、その割合が算出できる。

記事の前半で紹介した、従事者が多い5つの業務について、割合を算出すると以下のとおりである。

派遣会社は高いマージン率で大儲け? 数字で見る派遣会社の実態

派遣賃金に占める派遣労働者の賃金の割合は、上記の5業種に限れば61.6~69.9%ということになる。

なお、最も派遣料金が高い業務は「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」で4万1,069円となっており、派遣労働者の平均賃金は2万7,726円のため、その割合は67.5%だ。

最も派遣料金が低い業務は「農業従事者」で1万2,096円となっており、派遣労働者の平均賃金は8,505円、割合は70.3%ということになる。

人材派遣会社に残る営業利益は「1.2%」

では、派遣労働者に渡らない残りの分は、すべて派遣会社の収益となるのだろうか。

結論から言えば、残りの分がすべて派遣会社の収益となるわけではない。

一般社団法人「日本人材派遣協会」によれば、派遣料金に占める派遣社員の賃金の割合を70.0%とした場合、残りの30.0%のうち、「社会保険料」の支払いで10.9%が、「派遣社員有休休暇費用」で4.2%が、「派遣会社諸経費」で13.7%が消え、残る営業利益は1.2%に過ぎないという。

「人材派遣会社はかなり高いマージンを取って儲かっているのでは?」というイメージを持っている人もいるかもしれないが、このようにして紐解いていくと、やや偏った見方であると言えそうだ。

人材派遣ビジネスは国の許認可事業であるため、毎年様々な数字が明らかにされている。人材派遣ビジネスについてもっと知りたい人は、厚生労働省のウェブサイトから労働者派遣事業報告書を閲覧してみてはいかがだろうか。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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