経営者,節税,保険活用
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中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

2019年6月28日に行われた法人税基本通達の改正により、いわゆる節税保険の扱いに一定の規制が行われた。そこで改めて注目したいのが、経営者個人で加入する保険の節税効果である。今回は経営者の節税に役立つ保険活用術として、生命保険料控除、小規模企業共済、確定拠出年金について、その節税効果や活用方法を解説する。

経営者の節税術1. 生命保険料控除の基本

生命保険料控除とは、個人所得税・住民税の所得控除の1つだ。個人が1月1日から12月31日までの間に支払った保険料が対象になる。生命保険料控除は、加入する保険の種類によって以下の3つに分けられる。

・一般保険料控除
・年金保険料控除
・介護保険料控除

一般保険料控除

一般保険料控除の対象は「生命保険」だが、生命保険にはさまざまな商品がある。保険期間の違いで言えば、定期保険と終身保険。死亡保険金だけでなく満期保険金も支払われるもの。契約主体の違いで言えば、農協の共済や旧・日本郵政公社による簡易生命保険契約、外国の生命保険会社と国内で行った契約などもある。

このように生命保険にはさまざまな種類があるが、一般保険料控除では契約内容が「生存や死亡」に基因して支払われるものであれば、原則的に控除の対象になる。したがって、保険期間や契約主体などで区別されることなく、多くの生命保険で控除を受けることができるのだ。

・「金融類似商品」などに注意
生命保険でありながら「保険期間が5年未満」の「貯蓄性のある保険」は、「金融類似商品」として生命保険料控除の対象にならないので注意したい。たとえば、保険期間が5年未満の一時払養老保険などがこれに該当する。

貯蓄性のある保険がすべてダメなのではなく、そのうち5年未満のものを対象外としている点を押さえておきたい。契約時に、契約担当者に確認するといいだろう。そのほか、外国の生命保険会社と国外で行った契約や、信用保険契約、傷害保険契約、財形貯蓄契約、財形住宅貯蓄契約、財形年金貯蓄契約なども生命保険料控除の対象外だ。

・一般保険料控除の控除額
一般保険料控除の控除額は、その保険契約の日が以下のずれかで異なる。

・平成24年1月1日以降
・平成23年12月31日以前

前者は「新契約」、後者は「旧契約」と呼ばれて区別されている。保険会社などから毎年届く「保険料控除通知書」を見れば、新契約・旧契約どちらに該当するのかがわかるはずだ。新契約・旧契約の控除額は、以下のとおりだ。

<新契約・所得税>
年間の支払保険料
(1/1~12/31に支払った保険料)
控除額
2万円以下 支払保険料の全額
2万円超 4万円以下 支払保険料✕1/2+1万円
4万円超 8万円以下 支払保険料×1/4+2万円
8万円超 一律4万円
<旧契約・所得税>
年間の支払保険料
(1/1~12/31に支払った保険料)
控除額
2万5,000円以下 支払った保険料の全額
2万5,000円超 5万円以下 支払った保険料×1/2+1万2,500円
5万円超 10万円以下 支払った保険料×1/4+2万5,000円
10万円超 一律5万円

個人住民税については、以下のとおりだ。

<新契約・住民税>
年間の支払保険料
(1/1~12/31に支払った保険料)
生命保険料控除
1万2,000円以下 全額
1万2,000円超 3万2,000円以下 支払った保険料×1/2+6,000円
3万2,000円超 5万6,000円以下 支払った保険料×1/4+1万4,000円
5万6,000円超 一律2万8,000円
<旧契約・住民税>
年間の支払保険料
(1/1~12/31に支払った保険料)
生命保険料控除
1万5,000円以下 全額
1万5,000円超 4万円以下 支払った保険料×1/2+7,500円
4万円超 7万万円以下 支払った保険料×1/4+1万7,500円
7万円超 一律3万5,000円

年金保険料控除

年金保険料控除の対象となるのは、「個人年金保険」だ。これは老後の公的保障の上乗せとして活用される商品で、生命保険会社などの商品のほか、共済も対象となる。ただし、退職年金は対象外だ。
年金保険料控除では原則として以下の要件を満たす必要があるが、たとえば前納で保険料を一括で納めた場合でも一定期間は控除が受けられる。

・保険料を、原則10年以上にわたって定期に支払う契約であること
・年金の支払いが、満60歳を迎えてから支払うとされている10年以上の定期または終身の年金であること

・年金保険料控除の控除額
年金保険料控除の控除額は、一般保険料控除と同じだ。ただし、平成24年1月1日を境に新契約・旧契約の区分があるので注意したい。

介護保険料控除

介護保険料控除の対象となるのは、病気やケガなどによって医療費の支払いがあった場合に保険金が支払われる保険商品で、「医療保険」や「介護保険」などがある。このほか、病気やケガによって働けなくなったときの「所得補償保険」なども該当する場合があるため、加入している場合やこれから加入する場合は内容を確認しておこう。

一般保険料控除と同様に、さまざまな契約主体のものが該当するが、金融類似商品や外国の保険会社と国外で契約したものなどは対象にならない。

・介護保険料控除の控除額は上記の「新契約」と同じ
介護保険料控除は、平成24年1月1日以降に登場した新しい生命保険料控除だ。よって、旧契約の区分はない。したがって、控除額の計算方法は一般保険料控除・年金保険料控除の「新契約」と同じになる。

おすすめの生命保険活用例

・区分ごとの上限を活用して節税額を上げる
生命保険料控除は、一般保険料・年金保険料・介護保険料の3区分それぞれに上限額が設けられており、3区分の控除額は以下のように合計で12万円まで(住民税は7万円まで)となっている。

<生命保険料控除(所得税)の上限額>
区分 最高額 上限額
一般保険料控除 4万円(旧5万円) 12万円
年金保険料控除 4万円(旧5万円)
介護保険料控除 4万円

たとえば、生命保険のみに年間15万円の保険料を支払った場合、新契約であれば4万円、旧契約でも5万円の控除しか受けられない。しかも節税できる税額は、この控除額の一部だ。

同じ15万円でも、一般・年金・介護にそれぞれ5万円ずつ支払った場合、1区分の控除額は3万2,500円(新契約の場合)(※)、合計9万7,500円になる。

(※)3万2,500円=5万円×1/4+2万円

保険は自身や家族が抱えるリスクをヘッジするために加入するものであり、節税のために保障を分散するというのは本来の趣旨に反するが、このような活用法があることを知っておいて損はないだろう。

一般保険料・年金保険料に旧契約が混在している場合は、支払保険料の額に応じて区分の最高額が4万円になるケースと5万円になるケースがある。ただし5万円が適用されたとしても、合計で12万円が上限だ。超過分は切り捨てとなるため、いずれにしても生命保険料控除は12万円までしか適用されないと覚えておこう。ちなみに住民税の上限は、以下のとおり合計で7万円だ。

<生命保険料控除(住民税)の上限額>
区分 最高額 上限額
一般保険料控除 2.8万円(旧3.5万円) 7万円
年金保険料控除 2.8万円(旧3.5万円)
介護保険料控除 3.5万円

・経営者が申告し節税効果を上げる
冒頭で述べたとおり、生命保険料控除は所得控除の1つだ。1月1日から12月31日までに、その保険料を支払った人の所得から控除される。なお、支払った人からの申告であれば、自身の契約した保険以外も控除の対象になる。具体的には以下のとおりで、保険金や年金の「受取人」で決まる仕組みになっている。

区分 保険金や年金の受取人
一般保険料控除・介護保険料控除 本人・配偶者・その他親族
年金保険料控除 本人・配偶者

所得控除は、所得の高い人が申告したほうが節税効果は高い。所得税は、超過累進税率(所得の高い部分ほど税率が高くなること)によって計算されるからだ。経営者の夫とその妻であれば、夫の所得のほうが高いことが多い。この場合、経営者の夫が妻の保険料を支払った上で年末調整や確定申告をしたほうが、世帯の節税額は多くなる。

経営者の節税術2.小規模企業共済控除の基本

小規模企業共済は中小企業基盤整備機構の共済制度で、経営者の引退後の資金として活用されている。経営者の退職のほか、法人の解散や退任など一定の事由で、それまで支払った掛金に応じた共済金が受け取れる。

・小規模企業共済の共済金のしくみ
小規模企業共済から受け取れる共済金の額は、以下のように「基本共済金(固定額)」に毎年度の運用収入などに応じた「付加共済金」が加算される仕組みだ。

小規模企業共済の共済金の額=基本共済金+付加共済金

基本共済金の額は、支払った掛金と月数、共済金の請求事由によって変わる。中小企業基盤整備機構のHPでは、月1万円(※)の掛金を20年(240ヵ月)支払ったケースで、基本共済金の額を以下のように公開している。

<掛金月額1万円、20年(掛金合計額:240万円)の基本共済金>
共済金の種類 基本共済金の額
共済金A 278万6,400円
共済金B 265万8,800円
準共済金 241万9,500円

引用:中小企業基盤整備機構
(※)掛金は、月1,000円から月7万円まで、500円単位で設定できる。

・小規模企業共済の共済金の種類
小規模企業共済の共済金の種類(共済金A、共済金B、準共済金)は、共済金の請求事由によって変わる仕組みだ。

<共済金の種類と請求事由>
共済金の種類 主な請求事由
共済金A 法人の解散、個人事業の廃業
共済金B 病気やケガによる65歳以上の退任
準共済金 病気やケガによらない退任、65歳未満の退任

上記のとおり、共済金Aの共済金の額が最も高い。この3つに該当しない場合は「任意解約」となり、それまでの掛金に応じた「解約手当金」が支払われる。ただし、掛金の納付月数が20年(240ヵ月)に満たない場合、解約手当金の額は掛金の合計額を下回る。

なお、納付月数の算定は掛金を1口500円に区分して行われる。たとえば、掛金月1万円を20年支払い、解約前の2年間は5,000円を上乗せして1万5,000円支払っていた場合などは注意が必要だ。この場合、掛金1万円(総額240万円)の納付月数は20年だが、解約の2年前に上乗せされた5,000円の納付月数は2年となる。

・小規模企業共済の加入資格
小規模企業共済に加入できるのは、常時使用する従業員が20人以下(サービス業などは5人以下)の個人事業主または会社などの役員だ。法人の経営者が加入する場合は、従業員の数に注意したい。ただし、家族従業員や共同経営者(2人まで)は数に含めないなどのルールもあるため、従業員数が20人を超えていても加入できる場合がある。

小規模企業共済等掛金控除を活用した節税

小規模企業共済の掛金は、最高で月7万円(年84万円)だ。掛金の全額が小規模企業共済等掛金控除として所得控除に計上され、その年の所得から差し引かれる。

たとえば役員報酬月額60万円(年収720万円)の経営者の場合、所得税は約35万円、住民税は約39万円となる。この経営者が小規模企業共済に加入し、月7万円(年84万円)の掛金を支払った場合の節税額は以下のとおりだ。

加入前 加入後 1年間の節税額
所得税:約35万円
住民税:約39万円
(※)
所得税:約21万円
住民税:約31万円
(※)
約22万円

(※)小規模企業共済等掛金控除以外の所得控除は、社会保険料控除と基礎控除とした。社会保険料は、協会けんぽ(東京都)の料率で計算した。

これを20年続ければ、約440万円を節税できることになる。仮に、共済金や解約手当金が払込保険料の合計と同額だったとしても、十分メリットがある。

・役員報酬を増額するときの注意点
小規模企業共済で節税する方法に、役員報酬を掛金の分だけ増額し、それを掛金の支払いに充てるというものがある。この方法であれば、増額分は法人の損金となり、法人税の節税にもつながる(ただし、役員報酬の損金算入要件を満たす必要がある)。

ただし役員報酬を増額したことで、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額が上がることに注意したい。社会保険料率(健康保険料率・厚生年金保険料率)は協会けんぽの場合、40歳未満であれば標準報酬月額の約28%(個人負担分は約14%)もかかってしまうからだ。

経営者の節税術3.確定拠出年金の基本

確定拠出年金は私的年金の1つで、法人の経営者の場合は「3階部分」にあたる年金と言える。確定拠出年金には、毎月の拠出額(掛け金のこと)は一定だが、年金額は加入者が指定した運用状況で変わるという特徴がある。個人が負担した拠出額は、全額が小規模企業共済等掛金控除として所得控除に計上される。

・確定拠出年金と個人の節税
確定拠出年金には、個人が拠出する「個人型確定拠出年金」と会社が拠出する「企業型確定拠出年金」がある。後者は会社が掛金を支払うため、今回のテーマである経営者個人の節税にはならない。
ただし、会社で企業型確定拠出年金を実施している場合であっても、その規約で個人型の併用を認める記載があれば、経営者個人がiDeCoなどの個人型確定拠出年金に別途加入することができる。個人型であれば、もちろん掛金の全額が所得控除になる。

また、企業型確定拠出年金で個人が拠出額を上乗せする「マッチング拠出」を採用する場合、マッチング拠出によって個人が支払った拠出額は、個人の節税(小規模企業共済等掛金控除)になる。ただしマッチング拠出を採用する場合、個人型との併用は認められない。

確定拠出年金の区分 拠出額
個人型(iDeCo) 全額が所得控除
企業型 個人の拠出分のみ、全額が所得控除

確定拠出年金を活用した節税

では、経営者が個人型確定拠出年金でどのくらい節税できるか見てみよう。法人の経営者の場合、個人型確定拠出年金拠出限度額は以下のとおりだ。

<個人型確定拠出年金>
拠出限度額
会社に企業年金がない 月2万3,000円
会社に企業年金がある ・会社に他の企業年金(厚生年金基金など)がある
→月1万2,000円
・会社に他の企業年金がない
→月2万円

前述の「役員報酬月額60万円(年収720万円)」の例で、月2万円の拠出額で個人型確定拠出年金に加入した場合、節税額は以下のようになる。

加入前 加入後 1年間の節税額
所得税:約35万円
住民税:約39万円
所得税:約30万円
住民税:約37万円
約7万円

役員報酬を増額してこの節税を行う場合は、小規模企業共済と同様に社会保険料の負担増に注意してほしい。

おすすめの確定拠出年金活用例

確定拠出年金のメリットは、その拠出額が全額所得控除になることだ。この仕組みは小規模企業共済と同じで、節税効果はとても高い。

小規模企業共済との違いは、個人確定拠出年金の場合、給付開始が年齢で決まることだ。個人確定拠出年金は、通算加入期間が10年以上あれば、60歳から70歳まで任意のタイミングで受給でき、法人の解散や退任といった事由は必要ない(小規模企業共済は、任意解約すると元本割れするケースがある)。

自身が60歳になる時、現在の仕事がどうなっているかは誰にもわからない。ゆえに、支払い事由の異なる資産を持つことは賢い選択と言えるだろう。

保険による節税は税理士に相談を

小規模企業共済の共済金や確定拠出年金は、その受取り方によって発生する税金が異なる。一般的には、一時金として受け取る方法(退職所得として受け取る方法)が最も節税効果が高いのだが、経営者のように会社からの退職金もある場合は注意が必要だ。

経営者の生命保険による節税については、税理士に相談した上で、受け取り方までシミュレーションした上で加入するようにしたい。

文・中村太郎(税理士)