企業の決算書には、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表がある。これを作る目的は、基本的に財政状態と経営成績を株主に報告することだ。
ただし、実務において中心となる目的は企業によって異なる。非上場企業が決算書を作成する目的は税務申告で、上場企業の場合は投資家に対する情報開示だ。今回は非上場企業を対象として、決算書の作り方を説明しよう。
ここで言う「作り方」とは、複式簿記の会計データを集計して決算を行う作業手順ではなく、主として財政状態と経営成績を適正に表示するための方法という意味だ。
決算書の作り方1:貸借対照表
貸借対照表とは、決算日における会社の財政状態を表すために、会社が保有する資産と負っている負債、その差額である純資産を報告するものである。財政状態とは、資金の調達元である負債・自己資本(純資産)と、その運用を表する資産の状態のことだ。
貸借対照表を見る際に注意したいことは、資産の合計額が大きい会社が良い会社とは限らないということだ。むしろ少ない資産で大きな利益を獲得している会社のほうが、資金の運用効率が良い会社と言える。負債と純資産の比率については、非上場企業ならば純資産の金額が大きいほうが良い会社ということになる。
純資産の中に「利益剰余金」という科目があるが、これは会社がそれまでに儲けた利益の累計額であり、これが大きいほど過去の利益の蓄積が大きい会社と言える。これに対して、過去の蓄積がマイナスである会社、すなわち負債のほうが資産よりも多い会社がある。これは調達した資金を事業活動で減らしてしまった会社であり、「債務超過」と呼ばれる。
したがって、貸借対照表の純資産が潤沢な決算書を作ることが、事業経営において重要と言える。
決算書の作り方2:損益計算書
損益計算書は、企業の経営成績を明らかにするため、1年間のすべての取引のうち収益から費用を差し引いて「利益」を計算するものだ。簡単に言うと、1年間の利益を「収益-費用」という計算式で明らかにすることになる。
開業した年度や決算期の変更を行った年度では、1年未満(たとえば6ヵ月など)で決算を行うこともあるが、それが過ぎれば基本的に事業年度は1年間(たとえば4月から3月まで)となる。
大企業は3月を決算期とするところが多いが、中小企業の決算期はさまざまだ。これは顧問税理士が決算の作業が同じ時期に集中することを避けるために、比較的手が空いている時期をその会社の決算期とすることを勧めるからだ。
決算書の作り方3:株主資本等変動計算書
決算書で見過ごすことが多いが、株主資本等変動計算書も決算書の一つだ。株主資本等変動計算書とは、貸借対照表の純資産の部の変動を計算するものである。
当期純利益を計上した場合は利益剰余金の増加要因となり、黒字の場合はそこに記載される。当期純利益以外の増減要因には、増資や配当がある。ただし、中小企業で配当を出している会社は少数派だ。オーナー経営者個人が配当金を受け取った場合、配当所得として総合課税となるため、役員報酬よりも税負担が重くなるからである。
決算書の作り方4:法人税申告書
法人税申告書は厳密に言うと決算書ではないが、非上場企業が決算書を作成する目的は法人税の申告である。法人税申告書と決算書は、どのように関係しているのだろうか。
法人税申告書の別表は、法人税の金額を計算するものである。決算書で計算した利益をもとに、会計と税務の相違点を修正して税務上の所得を計算する。
別表一では、後述する別表四で計算した所得に税率を掛けて納付すべき法人税額を計算する。そこで計算した法人税額が、決算書における損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」と貸借対照表の「未払法人税等」に反映される。このように、決算書と法人税申告書は密接に関係しているのだ。
別表四では、所得を計算する。法人税法上の所得金額は、決算書の利益とまったく別に計算するのではなく、確定した決算(株主総会の承認を受けた決算)に基づく利益に一定の調整を加えて計算する。
損益計算書の利益は収益から費用を差し引いて計算するが、法人税の所得は「益金」から「損金」を控除して計算する。収益と益金、費用と損金は似ているが、計算の目的が異なるために実際には一致しない。したがって、決算書の利益をもとに法人税の所得を修正する必要がある。
この計算の明細を表したものが、「別表四」だ。別表四において当期純利益に加えることを「加算」、当期純利益から減らすことを「減算」という。
加算される項目の一つに、会計上の収益ではないが税務上の益金に算入されるもの(益金算入)がある。ただし、中小企業の申告書でこれが記載されるケースはあまりない。
また、会計上は原価・費用・損失だが、税務上は損金に算入されないもの(損金不算入)も加算される。代表的なものは、損益計算書に法人税等として費用計上したものだ(損金経理をした法人税、損金経理をした道府県民税及び市町村民税、損金経理をした納税充当金など)。また、交際費で損金不算入とされたものもここに記載される。
減算される項目の一つに、会計上は収益だが、税務上は益金に算入されないもの(益金不算入)がある。たとえば、法人税や所得税の還付金、受取配当金などだ。ただし、実務上は受取配当金があっても軽微であるため、記載しないケースが多い。
また、会計上の原価・費用・損失ではないが、税務上の損金に算入されるもの(損金算入)も減算される。ただし、中小企業の申告書でこれが記載されることはほとんどない。
決算書の作り方5:勘定明細書
決算書及び法人税申告書には、決算書の勘定科目の明細書が添付される。これを勘定科目内訳明細書という。
勘定科目内訳明細書とは、貸借対照表や損益計算書などの決算書と同じく、法人税の確定申告書に添付することが義務付けられている書類の一つで、決算書の主要な勘定科目ごとの詳細を記載したものだ。
現預金から雑益・雑損失まで、ほぼすべての勘定科目について作成されるため、10ページから20ページとかなりのボリュームになることが多い。
貸借対照表の疑問点1:「流動資産」とは?
ここでは、決算書を読み解く際に生じる疑問点を解説する。
貸借対照表の資産の部の一番上に「流動資産」という区分が、ここにはどのような勘定科目が記載されるのだろうか。
流動資産と固定資産(及び繰延資産)の違いは、短期間で現金化できるか否かだ。1年以内に現金化が予定されている資産や、売掛金や棚卸資産など正常な営業活動のプロセスにある資産が、流動資産である。
貸借対照表の「流動資産」の部の一番上に、「現金及び預金」という勘定科目がある。現金とは国内通貨や外国通貨、他社振り出しの小切手などのことで、預金とは銀行などの金融機関に預けている資金のことだ。
中小企業の場合、預金が借入金の担保に入っていて、自由に引き出せないことがある。その場合、その預金の実質的な資産価値はないと考えるべきだろう。
貸借対照表の流動資産に「売掛金」が計上されるが、これを見る際は注意すべきポイントがある。
売掛金は、営業活動に係る取引から生じた債権である。なお、営業活動と関係ないものは未収金として計上する。会社の売掛金が「月末締め、翌月末払い」ならば、当月1日の売上の回収期間は2ヵ月、月末日の売上の回収期間は1ヵ月になるため、平均すれば回収期間は1.5ヵ月となる(これが理解できれば、20日締めなどの場合にも応用できるはずだ)。
正常な得意先に対する売掛金であれば、回収期間を経て現金化できるだろう。しかし、倒産先や実質破綻先に対する売掛金は回収することが難しい。
回収不能な売掛金は、不良債権として固定資産に計上すべきだが、ほとんどの中小企業では流動資産に計上したままにしているのが実態だ。よって、勘定科目内訳明細書で長期間計上され続けている売掛金は、回収不能と考えていいだろう。
貸借対照表の流動資産に「商品」や「製品」という棚卸資産が計上されるが、これを見るときにも注意点がある。
棚卸資産とは、商品在庫(≒製品在庫)のことだ。製造業であれば、工場に残っている原材料や仕掛品なども含まる。商品を残さず販売することが儲けの基本なので、オーナー経営者は棚卸資産の残高を常に正確に把握しようとするだろう。滞留在庫や陳腐化在庫を抱えると損失につながるが、顧客からの注文に即座に対応するため、通常は1~3ヵ月分の在庫を抱えるのが一般的だ。
税務署は、税務調査で棚卸資産の過少計上に敏感に反応する。それによって利益が減って所得が減少し、納税額が減るからである。
これに対して、棚卸資産を水増しして売上原価を減らし、利益を多く見せる粉飾決算が行われることがある。これは振替伝票すら不要なので、架空売上よりも容易に実行できる。
業績が悪化した時は銀行から融資を打ち切られると困るため、可能なかぎり在庫を多く計上して利益を多く見せ、業績が良好な時は在庫を半分くらいに減らして税金を減らす、といった具合だ。
貸借対照表の疑問点2:「固定資産」とは?
貸借対照表の資産の部の下の方に「固定資産」という区分があるが、ここにはどのような勘定科目が計上されるのだろうか。
固定資産とは会社の運営のために長期間使用する資産のことで、「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」に区分される。
固定資産は、商品や売掛金のように営業活動のプロセスで流動している資産ではない。しかし、実際は営業活動とは別のプロセスで動いており、それを「減価償却」という。会社は減価償却を通じて、固定資産を購入するために支出した資金を回収するのだ。
固定資産は減価償却を行った後の未償却残高で計上されるのだが、そもそも減価償却を行う目的は何だろうか。
固定資産は、減価償却を通じて現金化される。たとえば、ある会社が本社ビルを建てようとしているとしよう。このビルの建設費用は50億円で、50年間使用できるとする。ビルが完成した年度に、50億円すべてを費用として計上してしまうと、この会社の決算は巨額の赤字となってしまう。
反対に50億円すべてを資産としておき、50年後にビルを取り壊す時に除却すると、同様にその年の決算が巨額の赤字になる。そこで、建物は徐々に価値が減っていくものと考えて、完成年度は一旦全額を資産として計上しておき、毎年1億円ずつを費用として計上していく。毎年1億円の費用であれば、決算が赤字になることなく安定するだろう。これが減価償却だ。減価償却によって会社は支出した資金を回収できるというのは、そういう意味だ。
たとえば、当期の減価償却前の利益が3億円あったとしよう。すべて現金取引であれば手元に3億円の現金が増えているはずだ。減価償却費を1億円計上すると利益が1億円減って、当期の利益は2億円になる。
しかし、減価償却は現金支出を伴わない。固定資産の購入時に支払いは終わっているからだ。つまり、当期の利益は2億円だが、資金繰り上は会社が自由に使える資金は前期よりも3億円増えていることになる。
見かけの利益は減るが、資金繰りにはまったく影響しない。むしろ納税額が減る分、資金繰りは改善する。よって、減価償却によって減額された固定資産の簿価1億円が現金1億円に転化したと考えることができ、減価償却によって固定資産が流動化されたと言えるのだ。
ゆえに銀行が融資の返済財源を見る際は、以下のように当期純利益に減価償却費を加算して、簡易的に返済可能額を算出して決算書を評価する。
返済可能額 = 当期純利益 + 減価償却費
同様に、現金支出を伴わずに資産を減少させる会計処理、たとえば貸倒損失や固定資産の除却損、有価証券の売却損も、当期純利益を減少させるが、現金が減ることはない。資金繰りの観点では、これらは利益の加算項目として扱うことになる。
会社が多くの土地を保有している場合、その帳簿価額が時価と乖離していないかが問題になる。よって、決算書で土地を見る際も注意が必要だ。
土地は有価証券とともに、含み益を持っている可能性がある資産だ。どちらも市場価格が変動するが、会計上は取得費(取得原価)で計上されており、買った後に価格が上がっているかもしれないからである。もし含み益があれば、多少の業績悪化にも耐えられる体力がある会社だと判断できる。
これに対して、バブル期に取得した土地は、高騰した価格で買っているケースが多く、含み損を抱えている可能性がある。
複数の会社を経営しているオーナーは、含み益や含み損のある土地を関係会社に売却し、利益を捻出したり圧縮したりすることがある。
このように、関係会社間で固定資産や有価証券を売買することで利益を操作するケースがあるが、払わなくてもいい税金を払うことになるため、極めて無意味は行為と言える。一時的に利益を増やす「益出し」の場合は、納税額が増えるので税務調査で指摘を受けることもないため、このような利益操作には注意したい。
損益計算書の疑問点1:「経営成績」とは?
会社が儲かっているかどうか、その経営成績を表すのが損益計算書である。経営成績とは、簡単に言うと損益計算書によって報告される利益のことだ。これは、会社が儲かっているかどうかを評価する指標となる。
しかし、非上場企業では利益が適正に報告されているケースは少なく、利益はオーナー経営者の判断で意図的に調整されている。これは顧問税理士の指導を受け、利益を抑える節税対策が講じられているからだ。法人における節税対策は、法人税の支払額を抑えることが目的である。したがって非上場企業の経営成績は、決算書の利益だけで評価することはできないのだ。
では、どのようにして経営成績を評価すれはいいのだろうか。そのためには、法人の利益とオーナー経営者個人の所得を合わせて、儲けを評価する必要がある。つまり、オーナー経営者個人とその親族が法人から受け取っている役員報酬や受取家賃、さらには交際費なども考慮して評価することになる。
損益計算書では5つの利益を計算する、最初に計算するのが売上高から売上原価を差し引いた「売上総利益」だ。これは、「粗利(あらり)」とも呼ばれる。売上高とは、本業で稼いだ売上の合計のことだ。
売上高を計上するタイミングは、以下のうちのどれにするかが問題になる。
① 商品の注文を受けたとき
② 商品を出荷したとき
③ 請求書を発送したとき
④ 売上代金を回収したとき
現行の会計基準では「実現主義」というルールが採用されており、「②商品を出荷したとき」に売上を計上することになっている。ただし、実務上は「③請求書を発送したとき」に計上するケースが多く、売上高の計上は若干遅くなっているはずだ。
売上原価とは、当期商品仕入高に期首商品棚卸高を加算した後、期末商品棚卸高(製造業の場合、商品⇒製品となる)を減算したもので、当期販売した商品の売上高に対応する商品原価を表している。
売上高から売上原価を差し引いた売上総利益は、事業経営の巧拙によって変動する。商品販売であれば、商品をいかに安く仕入れて、いかに高く販売するかが利益の大きさを左右する。売上総利益は商品から生み出される儲けを示すものであり、これをいかに多く稼ぐかが、その事業の大きなポイントとなる。
営業利益とは、売上総利益から経費である「販売費及び一般管理費(販管費)」を差し引いて計算された利益のことだ。販管費には役員報酬、給与手当、広告宣伝費、交際費、地代家賃などが含まれる。
営業利益は「本業の儲け」を示すものと言われているが、非上場企業の営業利益はわずかにプラスになる程度の金額が計上されることが多い。つまり、利益操作が行われているのである。
文・岸田康雄(税理士)