
マーケティングの基礎であるアンカリング効果は、今やさまざまな業界で活用されている。しかし、アンカリング効果にはリスクも潜んでいるため、十分な知識がないと活用は難しい。本記事では、アンカリング効果の概要やマーケティングへの活用方法を解説する。
目次
アンカリング効果とは?
アンカリング効果とは、最初に提示された印象的な情報が、その後の意思決定(行動や判断)に影響を及ぼすことである。この説明だけでは分かりづらいため、以下ではアンカリング効果の一例を紹介しよう。

つまり、アンカリング効果は認知バイアスの一種であり、意思決定をする者の先入観によって生じる。さまざまな学術検証でも有効性が認められていることから、現代では効果的なマーケティング戦略として広く知られるようになった。
アンカリング効果が活用されている場面
もう少しイメージをつかむために、次はアンカリング効果が活用されている主なシーンを見てみよう。
・値札に「本来の価格」と「本日限りの割引価格」の両方を記載する
・値札に元の価格をあえて残し、割引率と割引後の金額を記載する
・納品可能時期を遅めに伝え、実際にはそれよりも早く納品する
ビジネスの世界では主に価格面で活用されているが、時間や性能面などでアンカリング効果が働くこともある。つまり、アンカリング効果はさまざまなビジネスシーンに活用できるため、価格面にこだわらず視野を広げて戦略にとり入れたい。
アンカリング効果をマーケティングに活かす手順
アンカリング効果を最大限に発揮させるには、最初に提示する情報を慎重に決める必要がある。ここからは価格調整に活用すると仮定し、アンカリング効果をマーケティングに活かす手順を解説していく。
【STEP1】類似商品のデータ収集
多くの消費者は、自社商品の割引前・割引後の価格を比較するだけではなく、他社商品の価格も購入の判断材料にしている。つまり、他社商品の価格を大きく上回るようでは、アンカリング効果による恩恵を受けることはできない。
したがって、まずは類似商品の価格をできるだけチェックし、多くのデータを収集する必要がある。特にライバル商品のデータは必須となるため、調査には十分な時間をかけるようにしたい。
【STEP2】収集したデータの整理
次のステップでは、収集したデータを整理・分析していく。データの整理については、表計算ソフトやポジショニングマップなどを活用し、価格が高い順に並べ替えると分かりやすい。
価格データの整理が終わったら、次は自社商品の適正価格を考える。この金額をもとに「最初に提示する金額」や「割引後の金額」を決めることになるので、適正価格は慎重に設定しよう。
【STEP3】購入プロセスの分析
アンカリング効果を活用したマーケティングでは、「顧客への見せ方」もポイントになる。価格調整によって割安感をアピールできたとしても、商品の提供方法が悪いと気づいてもらえない恐れがあるためだ。
例えば、インターネット上で商品を販売する場合は、アクセス解析などによって目につきやすいページやスペースなどを確認する。
【STEP4】割安感をアピールする方法の検討
商品の割安感をアピールする方法は、前述で紹介したものだけではない。例えば、超高額商品を隣に陳列したり、他商品と組み合わせてお得なパックを作ったりなど、割安感をアピールする方法は多く存在する。
大きな売上へとつなげたいのであれば、その中から最適な方法を選ばなくてはならない。販売したい商品の特徴をしっかりと把握し、より魅力的に映るアピール方法を考えていこう。
【STEP5】計画の実行と検証
ここまで慎重に作業を進めたとしても、そのマーケティング手法が必ず成功するとは限らない。特に市場環境が変化しやすい業界では、頻繁に価格設定などを見直す必要がある。
したがって、マーケティング手法がある程度固まったら、計画を実行しながら以下のような検証を行うことが重要だ。
・アンカリング効果を活用する前と後の比較
・ほかの商品との売上比較
・変化した購入プロセスの分析
これらの検証を行った結果、もし期待していた成果を上げられていない場合は、価格やアピールの方法を調整する必要がある。
アンカリング効果の4つのリスク
現代では多くの企業がアンカリング効果を活用しているが、実は注意すべきリスクや問題点も潜んでいる。
1.二重価格表示は法律違反になることも
割引前・割引後の金額を同時に表示する「二重価格表示」には、必ず守らなくてはならない以下のルールが存在する。
比較対象として表示する金額が、以下のいずれかに該当すること。
(1)同商品の過去の販売価格
(2)メーカーの希望小売価格
(3)競合他社の販売価格
つまり、過去に1万円で販売した経験がないにも関わらず、割引前の価格を「1万円」と記載するような行為は許されない。もし上記のルールを破ると、景品表示法違反とみなされる恐れがあるので注意しておこう。
2.アンカリング効果が発生しない商品もある
アンカリング効果は必ず発生するものではなく、その効力は商品の特性によって左右される。
例えば、一般的に参考価格が広く知られている商品は、すでに消費者が情報を手にしているため認知バイアスが生じづらい。具体的なものとしては、お茶やコーヒーなどの飲料、一般家庭でよく食べられている菓子類などが挙げられる。
つまり、アンカリング効果を発生させるには、消費者が「相場をあまり知らないこと」が前提となる。商品によってはアンカリング効果が全く発生しないこともあるので、その点に注意しながら対象となる商品を選定しよう。
3.消費者が慣れると効果がなくなる
商品を同じ価格で販売し続けると、消費者がその割安感に慣れてしまう恐れがある。
具体例としては、通販番組の配送料をイメージすると分かりやすい。今では「配送料無料」をアピールする商品が珍しくなくなった影響で、一部の消費者は「配送料は無料で当たり前」と感じているはずだ。このような状況で配送料を有料にすると、たとえそれが低額であったとしても消費者は割高感を覚えてしまう。
つまり、アンカリング効果は同じ商品に長期間働くものではないため、価格や商品内容などは定期的に見直す必要がある。
4.ほかの商品にも影響を及ぼす
アンカリング効果を活用する際には、ほかの商品への影響も考慮しなければならない。
例えば、アンカリング効果を働かせる商品Aと、通常価格で売り出す商品Bが存在したとする。2つの商品を同じ場所に陳列すると、多くの消費者は「商品Bは価格が高い」と感じるはずだ。
つまり、アンカリング効果を働かせない商品は売れにくくなるので、場合によっては事業全体での収益が下がってしまう。経営を安定させるには、扱っている商品・サービスをバランス良く売り出すことも重要になるため、戦略を立てる際には「ほかの商品との兼ね合い」も強く意識しておきたい。
事例から学ぶアンカリング効果のポイント
アンカリング効果をうまく活用するには、世の中の事例に目を通しておくことも重要だ。ここからは分かりやすい事例を2つまとめたので、どのようなポイントが成功につながるのかを確認していこう。
【事例1】安さを前面に押し出した戦略(100円均一ショップ)
ほとんどの商品を低価格で売り出す100円ショップは、アンカリング効果の非常に分かりやすい事例だ。100円均一ショップは、バリエーション豊富な商品を低価格で陳列することで、消費者に「どの商品も100円で購入できる」といったイメージを植えつけている。
このような認知バイアスがかかった消費者は、原価を気にすることなく商品を買い物カゴへと入れていく。その結果として、多くの消費者は原価率の低い商品も購入するようになり、ショップ側はトータルとして一定の利益を期待できるようになるのだ。
実は100円均一ショップの多くは、認知バイアスを強めるために赤字商品(※原価が販売価格を超える商品)も多く陳列している。ビジネスの形態によっては、このような対策が功を奏することもあるので、一見すると非合理に思えるような戦略も積極的に検討したい。
【事例2】アンカリング効果と原価率対策の両立(飲食店)
通常コースと高級コースの2つを提供する飲食店も、アンカリング効果を活用するビジネスの典型例だ。これらのコースが同じメニュー表に並んでいると、消費者は通常コースのほうに割安感を覚える。
また、「お得な定食セット」と「割引をしない通常メニュー」の組み合わせなども、アンカリング効果を狙った戦略と言えるだろう。なかには割安感のある商品の利益率を高めることで、同時に原価率対策も行っている飲食店も存在する。
このように、アンカリング効果はほかの戦略と組み合わせることも可能なので、その点を意識しながら戦略を組み立てたい。
アンカリング効果の活用には知識や検証が必要
アンカリング効果はさまざまな業界で活用されており、その効果性も多方面で実証されている。ただし、同じ効果を長続きさせることは難しく、そもそもアンカリング効果が発生しないケースもあるので、マーケティングに活用するのであれば十分な知識や検証が必要だ。
また、二重価格表示などのリスクも潜んでいるため、マーケティングに初めてとり入れる経営者は細心の注意を払うようにしよう。
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文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)