北京冬季五輪、主要国首脳の集団ボイコット 米中冷戦の新たな火種となるか?
(画像=calvin86/stock.adobe.com)

対中国際批判が高まる中で開催された北京冬季五輪は、経済大国の半分以上の首脳が欠席するという不名誉な歴史を刻んだ。新疆ウイグル自治区や香港における人権侵害、台湾への弾圧行為など、中国の非人道的行為に対する抗議が外交ボイコットに発展した。

一方、中国側はこれを「米国主導の政治的挑発」と見なし猛反発した。「平和の式典」が米中冷戦の新たな火種となる可能性が懸念されている。

主要国首相が軒並み欠席

2022年2月20日に閉幕したコロナ禍2回目の五輪には、世界21ヵ国の指導者が出席した。開催期間中に第5波が直撃し、首脳級ゲスト数がわずか12人だった東京五輪・パラリンピックと比べると、はるかに外交的といえる。

しかし、集結した面子を見てみると、ロシアやポーランド、アルゼンチン、カザフスタンなど、中国と親密な関係にある国が目立つ。

BBCなどの欧米メディアによると、国際人権問題を理由に外交使節団を派遣しない外交ボイコットを宣言し、実施したのは、米国、英国、カナダ、オーストラリア、リトアニア、コソボ、ベルギー、デンマーク、エストニアの9ヵ国だ。

ドイツはボイコットという言葉は避けたものの、出席の意思がないことを表明した。インドは外交ボイコットを宣言したが、国境紛争を巡る背景をその理由として挙げた。オランダやニュージーランド、スウェーデン、北朝鮮などは新型コロナウィルスを理由に政府関係者を派遣しなかった。

米中板挟みの日本と韓国は、それぞれ橋本聖子東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長、朴炳錫議長と黄熙文化体育観光相が出席し、一定の配慮を示す形となった。

経済大国のうち外交ボイコットに反対したのは、「一帯一路」の参加国であり中国と結びつきの深いイタリアと、2024年の五輪開催国であるフランスだ。マクロン仏大統領は、「外交ボイコットの効果はほとんど期待できない」「オリンピックに政治が介入すべきではない」と述べ、「有効な効果をもたらす行動が望ましい」との見解を示した。

中国猛反発「オリンピック憲章の精神を著しく踏みにじる茶番劇」

39億ドル(約4,487億4,453万円)を投じて北京冬季五輪を開催した中国は、外交ボイコットそのものより、米国がそれを主導した事実が許せない。「オリンピックを政治に利用している」「間違った行動の代償を支払うことになる」などと、米国を猛批判した。

外務省のスポークスマンである趙麗健氏は「オリンピックは政治的なポーズや操作のための舞台ではない」とはねつけ、「米国の外交官はそもそも北京冬季五輪に招待されていなかった」と主張した。「米国はスポーツの政治化をやめるべきだ」とし、「重要な分野や国際的・地域的問題における二国間対話と協力」に与える悪影響について警告した。

一方、元駐英中国大使の劉曉明氏は「(米国の行動は)オリンピック憲章の精神を著しく踏みにじる茶番劇であり、露骨な政治的挑発であり、14億人の中国国民に対する侮辱である」「米国の政治家の反中国精神と偽善が露見するだけだ」と、Twitterで米国に対する憤慨をあらわにした。

過去にも複数のボイコットが

歴史総合エンタテイメントの専門チャンネル、ヒストリーによると、五輪では過去に6回のボイコットが起きている。首脳・政府関係者の欠席を含めるとそれ以上になる。

1980年のモスクワ大会では旧ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議し、65ヵ国がボイコットを表明した。米国や日本は選手団すら派遣しない、完全ボイコットに踏み切った。この報復として、旧ソ連や旧東ドイツ、ポーランドなど14ヵ国が、米国のグレナダ侵攻を理由に1984年のロサンゼルス大会をボイコットした。

2008年の北京オリンピックは欧米や日本の首相が集結し、中国と西側諸国の友好関係を象徴する大会と記憶されているが、水面下では直前に起きた中国のチベット騒乱を受けて不穏な空気が流れていた。当時の独メルケル首相や英ブラウン首相などは、開会式への出席を見送った。

直近では、米オバマ大統領や仏オランド大統領が、2014年のソチ冬季五輪に欠席した。背景にあったのは、ロシアが同性愛のプロパガンダ(宣伝)行為に罰金を科す法律を成立させたことに対する抗議だった。

しかし、今回の外交ボイコットは米中関係の悪化や人権問題、国家安全保障問題など極めて複雑化した背景によるもので、世界の二極化をさらに加速させる要因となりかねない。

対中批判、スポンサー企業にも飛び火

米中対立の火花はスポンサー企業にも飛び火している。

フィナンシャルタイムズ紙は、コカ・コーラやVISA、インテルなどのトップスポンサー企業13社が、「中国のウイグル人に対する扱いについての質問には一切コメントしなかった」と報じた。米下院外交委員会の共和党トップ、マイケル・マッコール氏は、「これほど多くの米国企業が中国共産党のご機嫌を取るために、米国の価値観に背を向けているのは不愉快だ」と批判した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国政策責任者であるソフィー・リチャードソン氏は、「世界で2番目に強力な政府=中国が人道に対する罪を犯しているのに関わらず、沈黙を守っているような企業は、ESGや人権政策に取り組んでいると主張しても信用できない」と述べた。

批判の矢面に立たされているこれらの企業にとっては、人道的経営理念と巨大な中国市場の板挟みになっている状態だ。

緊迫化する国際情勢

米中対立が世界を巻き込んで悪化の一途をたどっている現在、国際情勢はますます緊迫している。2024年のパリオリンピックが開催される頃、世界は一体どのように変化しているのだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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