独占インタビュー|Guy Lachmann(Pearl Cohen社 日本担当シニアパートナー)


イスラエル最大の法律事務所の一つ、Pearl Cohen(パール・コーヘン)。日本における法律事務所の位置づけは、法律的な事に直面した時にアドバイスを求めるために利用する事が多い傾向にありますが、Pearl Cohenでは法律面だけでなく、ビジネス部分にも携わります。日本でも最近、弁護士出身の政治家やタレントが多くいるように、Pearl Cohenは弁護士×ビジネスをサービスとして提供。イスラエルにて支社設立、投資、ビジネス開発など、プラン作成からその実行までを弁護士でありながらビジネスマンでもあるメンバーが行っています。一言で言えば、弁護士軍団がイスラエル市場エントリーサービスを提供しているのです。今回、Pearl Cohenの日本ビジネスを統括するGuy Lachmann氏(以下、Lachmann氏)にお話を伺うことが出来ました。Guyさんは日本人とのビジネスの経験を多くもつ弁護士×ビジネスマンです。和やかな雰囲気で、色々と詳しく説明をしてくれました。

Pearl Cohen社 日本担当シニアパートナー Guy Lachaman氏
(画像=Pearl Cohen社 日本担当シニアパートナー Guy Lachaman氏)

――イスラエルについて、日本企業がまだまだ知らない事が多くあるように見えます。是非イスラエルのビジネス的な素晴らしさや魅力を教えて頂けますか?

Lachmann氏:特に日本企業にとって、イスラエルはとても魅力的だと思います。とりわけテクノロジーは世界でも1、2位を争うトップの国であり、スーパーパワーを持っています。なかなかこのような国が他にないのも素晴らしい点ですね。もしイスラエルをまだ知らない方がいれば、シリコンバレーと競合できるポジションとも言えば理解しやすいでしょう。分野によっては、シリコンバレーよりも多くのアドバンテージ(強み)があり、価格的にもシリコンバレーよりも安価な状況です。このイスラエルパワー、イスラエル企業の価値そのものは、シリコンバレーの企業に投資をする事よりも価値があると考えています。シリコンバレーでの投資は、日本の投資企業以外に中国、台湾、ドイツ、英国、スペインなど全世界の国々から多くの競合が存在しています。それに比べ、イスラエルでの投資は競合が少ないため、投資をする日本企業が様々な観点から十分優位に立てると考えます。イスラエルは今日、世界における”イノベーション・ハブ(Innovation HUB)”です。そのイノベーションハブであるイスラエルで投資先を見つける事は、他の国よりも見つけやすいでしょう。そして、その最新テクノロジーを利用する事でイノベーティブ・モダナイズ(稼働中の資産を活かしながら最新製品や設計で置き換えること) や既存商品の改善など、中国や韓国、ヨーロッパ諸国や米国などの他国競合相手に打ち勝てるメリットもあると考えます。

スタートアップ大国からスケールアップ大国になったイスラエル。その理由は?

――約10年前に「スタートアップ大国」と言われたイスラエルですが、今日は「スケールアップ大国」と呼ばれるようになり、多くのイスラエル企業が成功を収めています。特に2021年はビジネス的に多くの新記録が出ました。なぜイスラエル企業は、全世界から多くの資金が投資され、このように成功し続けると思われますか?

Lachmann氏:いい質問ですね。イスラエルが、今スタートアップ企業を創出するだけでなく、最近ではテクノロジー分野において、大企業を創出(スケールアップ)し始めています。2021年は全ての記録を塗り替える年でした。特にイスラエルのテクノロジー企業への投資額が過去最大となり、イスラエル経済の強さを見せました。2020年の1年間にイスラエルのテクノロジー企業へ投資された合計額を、わずか半年である2021年6月末に達成したのです。コロナ禍だからこそ時短や効率化、自動化、遠隔/リモートでのアクションなど、テクノロジーをより多く利用する事の意味を成します。まさに、イスラエルはそれらの課題に対して、イノベーティブなソリューションを提供しているからこそ、非常に多額のお金が投資され続けているのです。私の考えでは、多くのアーリーステージのスタートアップ企業をリプレイスするのでなく、引き続きスタートアップ企業が生まれると同時にスケールアップ企業も増加していくのでしょう。スタートアップ企業数は増加し続け、多くの投資機会に直面して行きます。ただ、この状況はイスラエル経済にとって、良い事なのかはわかりません。課題も浮かび上がってきています。テクノロジー企業の給与は高くなり始めている事や、ある市場においてはテクノロジーに置き換わり過ぎている事もあります。このような様々な事象に対して、大きな疑問を持ちます。また、いくつかのケースでは、正しい企業価値評価が行われていなかった事もあるようです。多くのイスラエル企業はNASDAQで上場し、大多数の株価が上昇しています。成功するプロセスにおいて、これらの事がカテゴライズされるべきではないのではとも私は考えています。

スタートアップ大国からスケールアップ大国になったイスラエル。その理由は?
(画像=スタートアップ大国からスケールアップ大国になったイスラエル。その理由は?)

法律事務所、そしてビジネスコンサルタントとして、包括的に日本企業のイスラエル市場参入を支援

――Pearl Cohenの具体的な業務内容について、教えていただけますか?

Lachmann氏:弊社はイスラエル最大の法律事務所の中の1社です。日本の法律事務所が提供しているサービスはもちろん提供していますが、弊社は積極的にビジネスにも携わっていきます。起業して間もないアーリーステージ企業のビジネスにも携わる事もあれば、日本大企業のイスラエル進出案件にも積極的に携わっていきます。ときには、ビジネスコンサルタントよりも市場を理解しています。もちろん、法律的なアドバイスをはじめに行いますが、法律的+知的財産のデューデリジェンス(M&Aの売り手企業に対して行う調査)、投資や買収時の契約書類を含む全ての契約書定式化、ビジネスサイドでもイスラエル現地にて、日本企業のイスラエル代表(Representative)、そして、イスラエル代表兼現地の弁護士として、責任をもって仕事を遂行していきます。日本企業との取り決めの中で、現地イスラエルで現地顧客、現地パートナー、投資家などとのコミュニケーションを積極的に取り、アクションを起こします。設立から、シード期やレイター期の資金調達、取引関係の強化やイスラエル進出、企業の合併・買収や有価証券の売買だけでなく、イスラエルの革新的なハイテクやバイオテクノロジー産業に興味のある日本の戦略的VC投資家や国営・民間のリーディング企業をサポートしています。

法律事務所、そしてビジネスコンサルタントとして、包括的に日本企業のイスラエル市場参入を支援
(画像=法律事務所、そしてビジネスコンサルタントとして、包括的に日本企業のイスラエル市場参入を支援)

――競合との違いを教えていただけますか?

Lachmann氏:1点目は、日本ビジネス文化の経験と十分な理解です。ほぼ100%に近いイスラエルの法律事務所は、基本的に中国市場をターゲットとしており、日本市場にフォーカスしていません。世界第3位の経済大国である日本ですが、ビジネス文化の違いのバリアが存在している中、弊社は日本のビジネス文化を理解している事が競合との違いです。事実、今までの成果や経験を日本の弁護士パートナーや日本のビジネスマンからも推薦されています。私はコロナ前、年間3~4回は日本へ行っていました。日本では時間をかけて友人関係を築き、信頼を築く必要があります。この2年は日本に行けずとても息苦しく、悲しいです。

2点目は、法律事務所にも関わらず、ビジネスに深く関与できる事です。実際私は今まで100社以上との経験があり、年間19社のVCのトランザクションに携っています。単なる弁護士ではなく、ビジネスコンサルタントでもある事が競合との違いです。

――どのような日本顧客がいるのか教えていただけますか?

Lachmann氏:お客様として多くの日本企業がありますが、例えば、NTT Inc、NTT Security、NTT Data、損保ホールディングス、丸紅、サムライインキュベート、安藤ハザマ、味の素、住友商事などです。特に、損保ホールディングスに関しては、会社設立から全ての契約書、全てのワークをサービスとして提供いたしました。弊社からの視点では、損保さんは非常に積極的にイスラエルビジネスを行っている日本企業の一社だと思います。

SOMPO Digital Lab Tel Aviv
(画像=SOMPO Digital Lab Tel Aviv)

イスラエルでのビジネス成功のカギは「本気度」と「ローカルチームの活用」

――どうしたら日本企業が成功できると思いますか?経験上、成功するためのTips(ヒント)はありますか?

Lachmann氏:2019年の終わりに、テクノロジーを含むビジネスアイディアを探す日本人ビジネスマンを対象に、イノベーション・ツーリズムを行いました。多くの方々に興味を持っていただき、毎月100人以上の日本人ビジネスマンがテルアビブを訪れました。しかし、興味とのトランザクション(ビジネス)がリンクしなかったのです。もちろん、このようなツアーは悪い事ではありません。観光でなく、実際のビジネスを行う為にイスラエルに来て頂く日本企業、すなわち、真剣に検討しているかどうかが大きなポイントです。例えば、損保ホールディングスやNTTは、イスラエルでのビジネス、イスラエルとのビジネスを真剣に考えていました。

また、アーリーステージに相談をしていただければ、より良い方向に向かうことができ、チャンスを逃す可能性が大変低くなるのです。そして、文化の違いも克服する事ができると考えます。

そして、私どもローカルスタッフに情報共有をして頂く事も重要です。

――どうしてNTTと損保ジャパンがイスラエルで成功したと思いますか?なぜ、多くの企業の中で、これらの会社が真剣にイスラエルにオフィスを構え、現地で従業員を雇い、ビジネスをスタートさせたのでしょうか?

Lachmann氏:これはあらゆるビジネスにおいて通じることだと思いますが、彼らのチャレンジ精神が成功をもたらしたと言えるでしょう。私がイスラエル企業と日本企業の中立的な立場として仕事をする中で、イスラエルと日本のビジネス文化は対極にあると感じています。イスラエルで仕事をする時に、アメリカもしくはヨーロッパでのビジネスのやり方では通用しない。だからこそ、イスラエル現地でのサポートが必要になるのです。そして、そうすることで成功する確率が上がると考えます。現地における法的なトランザクション、投資、共同研究や開発、 企業提携や買収nなどを、日本でのビジネスメソッドをそのままイスラエルで実行していたら、おそらく約90%の確率で失敗すると思います。 だからこそ、現地のエキスパートからの支援をしてもらう必要があるのです。

イスラエルでのビジネス成功のカギは「本気度」と「ローカルチームの活用」
(画像=イスラエルでのビジネス成功のカギは「本気度」と「ローカルチームの活用」)

他国と比べてイスラエルではより用心深くアクションを起こす必要があると思います。実際に私は、イスラエル企業と日本企業の両者間において、物事に対する理解の違いで企業が失敗してしまうケースを多く見てきました。例えば、日本の大企業の代表業務を行った時のことです。この日本企業は、あるイスラエルのテクノロジー企業に投資をしていました。投資額は大きくなかったのですが、非常にスマートでイスラエルの現地の弁護士である弊社を利用していました。しかしながら、この日本企業は直接投資先のイスラエル企業とコミュニケーションも行っていました。私が、「御社に代わり、弁護士としてイスラエル企業とのコミュニケーションを行っていきます。」と提案したのですが、日本企業側からは「弊社は全体の中でも小額しか投資していないので、素早く動く必要もないですし、なぜ弁護士が今から直接コミュニケーションをすべきなのか?情報が入り次第、そちらに情報共有します。」と言われてしまいました。この事が後々不利益になってしまうのです。

イスラエルは非常に小さな国です。私のオフィスから外の景色を眺めると、イスラエルの50%の経済が見える。そのくらい小規模の国です。ローカルスタッフを利用する戦略は、お金はもちろん、時間も節約できるのです。損保ホールディングスやドコモが成功した理由に関しても同様に、「イスラエル市場でビジネスをスタートさせるにはイスラエル流のやり方で行うこと」が必要不可欠です。具体的には、現地のビジネス文化を経験・理解したローカルスタッフを利用する事が大きな条件になるでしょう。 日本企業がイスラエルとビジネスする際にロンドンや欧州からアクションを起こし、日本人をイスラエルに送る傾向がありますが、多くの場合、派遣された日本人スタッフにはイスラエルでのビジネス経験がありません。分かりやすく例えるなら、日本語がしゃべれない私を、もしくは日本に行った事がない外国人を、いきなり渋谷のスクランブル交差点に一人で置き去りにして「何か日本でのビジネスを見つけなさい」と言われるのと同じです。実際に損保ホールディングスのビジネスは、弊社を現地パートナーとして、ローカルチームを立ち上げ、彼らがビジネスを作り上げることで、イスラエルでのビジネスを成功に導いています。

――Pearl Cohenとして日本ビジネスの展開はどのようなプランをされていますか。

Lachmann氏:既に大手の弁護士事務所とパートナーシップがあり、個人的にも良好な関係です。長い年月をかけてパートーナーとの関係を築き上げてきました。そして、パートナーとの関係を誇りに思っています。また、本社チームには日本人の弁護士も参加する予定で、より良いサービスを日本企業にご提供したいと考えています。

――イスラエル進出を検討している日本企業はどのように御社とコンタクトをすれば良いのですか?

Lachmann氏:是非、電話やメールやSNSなどでGuy Lachmann宛に直接コンタクトをしてください。

ビジネスを成功させるためには、イスラエルの弁護士はオプションではなく、バイタル(必要不可欠)なのです。そして、弁護士は日本のビジネス文化を理解し、直接顧客と向き合う事が重要だと考えます。

――最後にISRAERU読者へのコメントをお願い致します。

Lachmann氏:イスラエルのハイテク企業への投資、エコシステム、輸入、サイバー、テレコム、アグリカルチャー、フードテック、ヘルスケアなどのほか、イスラエルにおけるエネルギーやインフラ事業でのファイナンスなど、イスラエルに関して興味がある日本の大企業様や中小企業様は、是非ご相談していただければ思います。Pearl Cohenでは大手企業からベンチャーまで幅広くコネクションがありますので、ご希望をお伝えして頂ければサポートさせて頂きます。

インタビューを終えて

私も日本市場進出ビジネスをスタートさせてから25年目になりました。他国へのエントリーは、ローカル人材、チーム、パートナーが不可欠だと考えます。Lachmann氏もインタビュー時に話していましたが、外国人が渋谷のスクランブル交差点にいきなり一人にされ、仕事をとって来いと言われても難しいように、日本企業が世界一魅力的な国のひとつであるイスラエルへ進出するには、信頼できる現地パートナーが必要です。Pearl Cohenを現地パートナーとしてイスラエルビジネスを成功させているNTT、損保ホールディングスなどが証明している通り、日本企業にとって、弁護士でありビジネスパートナーにもなるPearl Cohen社との戦略的提携は、大変心強いと感じました。イスラエル市場への進出、イスラエル企業への投資、提携模索などを検討する日本企業にとっても、これから目が離せないイスラエル企業の1社と言えるでしょう。

https://www.pearlcohen.com/