以前、ANDARTの共同保有作品26点のコンディションチェックを実施した様子をお届けしました。全ての作品について、作品が有する資産性に問題がない状態であることが確認されています。長期的な観点からメンテナンスが必要と思われる作品については、後日、より詳細な状態確認とメンテナンス作業を行いました。今回は、「ANDARTの作品ってどこにあるの?」という疑問にお答えするとともに、メンテナンス作業についてレポートします。

監修していただいたのは、コンディションチェックの時と同じく、2021年2月からANDARTの顧問アドバイザーを務める内呂博之氏。内呂氏は金沢21世紀美術館でのコンサベーターを経て、現在ポーラ美術館で学芸員として作品の保存修復などに従事。美術作品の保存修復や近現代絵画史を専門としています。

内呂 博之(うちろ ひろゆき)氏 プロフィール
2001年、東京藝術大学大学院文化財保存学博士後期課程中退後、公益財団法人ポーラ美術振興財団ポーラ美術館学芸員(-2013年)。2014年より公益財団法人金沢芸術創造財団金沢21世紀美術館コンサベーター兼キュレーター(-2018年)。現在、ポーラ美術館学芸員。専門は美術作品の保存修復、近現代絵画史、藤田嗣治研究。共著に『もっと知りたい藤田嗣治 : 生涯と作品』(東京美術、2013年)、『「かたち」再考:開かれた語りのために』(平凡社、2014年)などがある。

ANDARTの作品はどこにある?

❚ 最適な環境の専門倉庫で保管
「そもそもANDARTの共同保有作品ってどこにあるの?」と疑問に思っている方もいらっしゃるかもしれません。通常、作品は万全な環境が整った美術品倉庫で保管されています。長期間にわたって作品を良好な状態で保つには、温度や湿度をコントロールする必要があるため、プロが管理している施設が最も安心といえます。

ヤマト運輸「東京グローバルロジゲート」外観(東京都・大田区)
(画像=ヤマト運輸「東京グローバルロジゲート」外観(東京都・大田区))

❚ ANDARTのイベントやアートスペースで展示
作品はANDARTのイベント開催で展示したり、外部に貸し出したりすることも。その際には専門家が状態をチェックしたうえで、細心の注意を払って運送や設営を行っています。もちろん保険もかかっていますのでご安心ください。

2021年には、東京・天王洲の「WHAT CAFE」を貸し切った大規模なリアルイベント「WEANDART」の開催にあたり、冒頭でご紹介したコンディションチェックを実施したうえで、プロが1点1点丁寧に展示していきました。

「WEANDART」(2021.10.30-31)での展示風景
(画像=「WEANDART」(2021.10.30-31)での展示風景)

2021年12月にオープンした白金台のアートスペースでは、第1弾企画として共同保有のバンクシー作品全8点を展示し、会員限定で公開しました。「やはり実物を見てからオーナー権を買うか決めたい」という声も多く頂いており、少しでも多くの方に作品に触れるきっかけをご提供したいと考えています。今後も共同保有作品や、現代アートの通販・販売サイト「YOUANDART」の取り扱い作品などを展示していく予定です。

白金台のアートスペースでの展示風景
(画像=白金台のアートスペースでの展示風景)

❚ 公共施設や外部の企画展への貸し出し
2020年には、重要文化財である明治神宮 宝物殿に、共同保有している名和晃平の立体彫刻作品『Throne(g/p_pyramid)』を展示。明治神宮創建100年という記念すべき年に、歴史ある建物で作品を一般公開することで、現代アートの新たな魅力を発信することにつながりました。

2022年3月8日まで東京・原宿の「WITH HARAJUKU」で開催している「バンクシー展 天才か反逆者か(BANKSY GENIUS OR VANDAL?)」には、共同保有作品のひとつであるジャン=ミシェル・バスキア《Boy and dog in a Johnnypump》を貸し出しています。バンクシーに影響を与えたアーティストとしてバスキアを合わせて展示することで、多くの方々に作品の背景や素晴らしさを知っていただくきっかけになりました。

バンクシー展での展示風景。向かって左がANDART提供のバスキア作品《Jawbone of an Ass》
(画像=バンクシー展での展示風景。向かって左がANDART提供のバスキア作品《Jawbone of an Ass》)

作品メンテナンスの様子をご紹介

❚ ジュリアン・オピー《New York Couples》
今回メンテナンスを行ったうちのひとつがこちらの作品。2021年に開催されたオーナー限定イベント「WEANDART」でフォトスポットとしても大人気だった、ジュリアン・オピーの作品。ニューヨークを行き交う人々を描いた8点組のプリントです。

ジュリアン・オピー《New York Couples》 「WEANDART」(2021.10.30-31)での展示風景
(画像=ジュリアン・オピー《New York Couples》 「WEANDART」(2021.10.30-31)での展示風景)

2021年夏に発足した「NEW AUCTION」の第1回オークションには、このうちの1枚と同じ作品が出品され、シンプルに8倍で計算してもANDARTの取扱価格より高額となりました。マーケットでも人気が高く、資産価値という観点からもおすすめです。

実物をご覧いただくと分かるのですが、オピーの作品の黒い輪郭部分は、少し厚みがあって立体的なんです。写真で見るよりも存在感が増すので、イベント時にも実物を見て感動される方が多くいらっしゃいました。

ANDART
(画像=ANDART)

8点すべて入念なコンディションチェックを行い、1点のみメンテナンスを実施。真横から入念に観察しないと分かりませんが、立体的になっている部分に、1-2mmわずかに浮いているところが見つかりました。

ANDART
(画像=ANDART)

定規を使って隙間をつくって専用の接着剤を流し込み、上から抑えて固定しました。こうした早期の処置が、後々のトラブルを防ぐことにつながります。作品を傷つけないよう慎重に作業が行われ、見ているだけでも緊張してしまいました。でも、さすが保存修復の専門家である内呂氏。スムーズな手さばきに安心感があります。

❚ 山口歴《REVISUALIZE NO.7》
続いて、次世代を担う気鋭のアーティスト・山口歴の《REVISUALIZE NO.7》。多色の絵具の筆跡(ブラッシュ・ストローク)を貼り合わせる独自の手法「カット&ペースト」を用いた人気シリーズの一作です。

山口歴《REVISUALIZE NO.7》 「WEANDART」(2021.10.30-31)での展示風景
(画像=山口歴《REVISUALIZE NO.7》 「WEANDART」(2021.10.30-31)での展示風景)

作品としては何の問題もないのですが、展示することを考えると、裏面に気になるところが。この作品は、裏面にある小さな4つの穴に合わせてビスを打ち、金具を留めて壁面に設置します。そのため、設置を繰り返すことで穴が広がり、ビスの効きが悪くなるかもしれないという懸念が生じました。それにしても、裏面までカッコいいですね。

ANDART
(画像=ANDART)

そこで、詰め物をして穴の広がりを食い止めることに。接着剤に木くずを混ぜ、細い器具を使って注意深く穴に押し込んでいきます。こうして補強することで、次の機会にも安心して展示することができるようになりました。

ANDART
(画像=ANDART)

国立西洋美術館の記事では、美術品の保存修復について次のように説明されています。

オリジナルを保存修復するということは、それ以上に壊れてしまわないようにすることが“修復”、未来へ大事な作品を受け継ぐために「物は壊れる」という自然の法則に逆らいながら守っていくのが“保存”といえるでしょう。

引用元:「もっと知りたい!国立西洋美術館」第6号

過度な修復が議論の的になることもありますが、ANDARTで行っているメンテナンス作業は、「作品を可能な限りオリジナルに近い状態に保つ」という大原則にのっとっています。オーナーの皆様が所有している大切な共同保有作品の管理を担っている以上、作品本来の価値を落とさないよう責任をもって取り扱っていますのでご安心ください。

作品の実物がお手元にない寂しさを感じている方もいらっしゃるかもしれませんが、個人では用意が難しい最適な環境で保管され、専門スタッフが定期的に状態をチェックしているということのメリットを感じていただければ嬉しく思います。

これからもオーナー限定の鑑賞機会などをご用意していますので、展示の際にはぜひ実物の素晴らしさを体感してください!

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文:ANDART編集部