どうすれば社員のモチベーションを向上させられるのか。社内の競争環境はどのように作ればよいのか。
マネジメントに関する悩みは尽きないものです。
私もかつては、「マネジメント環境をいかに整えるか」という課題を前に、出口の見えないトンネルをさまよっている一人でした。
生命保険会社の営業管理職と介護系の仕事におけるプレイヤーポジションという大きく業態の異なる2社でのマネジメントを経験する中で、失敗も数多く重ねてきました。
組織コンサルタントになった今、私自身の失敗を振り返りながら、マネジメント環境の改善に役立つ3つのポイントについて解説したいと思います。
モチベーション重視の管理職時代
生命保険会社時代のマネジメント環境は「モチベーション重視」に尽きました。
そもそも、営業管理職と営業職員の関係性がシンプルな上司と部下の関係ではありませんでした。
営業職員は正社員ではなく個人事業主として在籍していたため、営業管理職のことを自身の成績を上げるための道具と捉えている方が大半です。
会社サイドも「気持ち良く在籍してもらい、モチベーションを高めた結果として、良い成績につながっていく」という考えがベースにあり、営業管理職に求められる役割は、「成績管理よりもモチベーション管理」という考え方が主流でした。
私も御多分に漏れず、「モチベーション管理」を最優先に掲げる営業管理職でした。具体的には、以下のようなことをしていました。
・営業職員との1対1の面談を毎月必ず1度実施し、そこでプライベートも含む悩みを聞き出す
・営業職員の誕生日当日には事前に用意しているプリザーブドフラワーと手紙を机の上に置く
・飲み会や壮行イベントでは女装でも何でもしてどうしたら笑ってもらえるかばかり考えていた
要するに、営業職員へゴマをする日々だったのです。
競い合う上司を傍観していた介護系プレイヤー時代
介護系の職場では、自身がプレイヤーポジションとなったため景色が180度変わりました。管理者が2名いて、その下に5名の営業メンバーがいるという構成でした。
マネジメント環境は、2名の管理職の下にそれぞれ特定の営業メンバーが配属されるというわけではなく、管理職2名が5名の営業メンバーを自身のマネジメントスタイルで管理していくというW管理職スタイルでした。
2名の営業管理職は営業の仕方が真逆でした。一方はレンタル器具営業をコツコツと積み上げ毎月の売り上げを徐々に安定させていくスタイル。
もう一人は、高額な住宅改修営業を中心にショット系の商品で毎月大きな売り上げを狙っていくスタイルでした。
真逆の2名の管理者に特定の部下を持たせずに競争環境を与えることで、会社としての利益最大化を狙うという経営戦略だったと言えます。
私のマネジメントの問題点
結論から言うと、上述の「モチベーション重視の管理スタイル」と「W管理職スタイル」はともに大きな問題点を抱えたマネジメント戦略でした。
実際、無駄な残業時間や言い訳が多い環境となっていたと言わざるを得ません。
まずは、モチベーション重視の管理スタイルにおける問題点です。
生命保険会社での主なアクションである「1on1ミーティング」「誕生日プレゼント」「ときに笑われ役も買って出る」には、それぞれ以下のような欠点がありました。
「1on1ミーティング」は、相手の性格やその時の感情をつぶさに把握し、適切な判断でミーティングを主導していくスキルが必要です。
25名も部下がいると、どうしても性格の合わない人もいるため、その時点でこのミーティングは双方にとって苦痛な時間でしかありません。
また、このスキルは再現性が非常に低く、属人的なものであるとも言えますし、1名に30分ほど費やしていたので、25名となると12時間強の時間を毎月充てる計算となります。
「誕生日プレゼント」には思わぬ落とし穴がありました。
それは、失念リスクです。うっかりある職員への誕生日プレゼントを置き忘れると、その職員と仲の良いメンバーから非難を浴び、平謝りするしかありません。
しかし、ふと我に返り、何故私はこんなにも咎められているのだろうと疑問を抱きました。
そもそも、プレゼントを購入し、手紙を書く時間やお金(プレゼントはすべて自腹でした)を費やしている私が、ここまで非難されるのはなぜなのだろうかという疑問です。
結果として、双方の感情にわだかまりを残す施策となってしまったのです。
「ときに笑われ役も買って出る」ことは、営業職員との日々の関係性に大きなひずみを生むこととなりました。
営業管理職の立場上、もちろん営業職員へ指示を出すこともあるのですが、いかんせん言うことを聞いてもらえなくなるのです。
入社したばかりの新人層にすら舐められる始末でした。
介護系の職場における「W管理職スタイル」は、言い訳し放題になることが問題でした。
数字が不調だった際に、レンタル器具営業が原因であれば「高額なショット営業を中心に動いていたので」と言い、その逆もしかりです。
また、W管理職とは、裏を返せば1名の営業メンバーに対して特定の上司がいない環境でもあるため、教育や管理の責任が明確にならず、部下が育たない際には管理職側も言い訳できてしまうという負の相乗効果となっていました。
改善すべき3つのポイント
組織のあり方を経営者の皆さまへコンサルティングする立場となって5年が経った今の私からすれば、改善すべき点は明白です。
ポイントは「役割」と「位置」と「言い訳させない環境」の3つです。
改めて管理職の存在意義とは何かを考えると、ずばり「管理を通じて部下を成長させること」に尽きます。
これは、営業管理職の「役割」とは何かの答えでもあります。この役割を軸に考えていけば、自ずと答えが見つかります。
上記で言えば、モチベーションアップのための「1on1ミーティング」や「誕生日プレゼント」は、営業管理職の役割ではないので、実施不要であると言えます。
また、部下を成長させる際には「位置=距離感」も非常に大切となります。そもそも、成長とは「できないことができるようになる」ことを意味します。
よって、役割をまっとうするには淡々と部下へ「出来ていない」点を指摘する必要があります。
その際に、笑われ役を買って出ていることや友達のような関係性を構築していると、いくらこちらは切り替えて指摘をしたとしても、相手の意識上では舐められたままであり、マネジメントごっこの域を超えていきません。
そして「言い訳させない環境作り」は非常に大切です。
「役割」を理解し、正しい「位置」を意識しても、「W管理職スタイル」のような双方の言い訳環境では機能しません。
上司と部下の双方が自身の上司、部下が誰であるかを特定出来るような組織図とし、さらにそれを誰もが常に見ることができる環境にすることがおすすめです。
例えば、ポータルサイトにアップする、大きくどこかに貼り出すなどが考えられるでしょう。
マネジメントで失敗経験のある方は、是非とも「役割」と「位置」と「言い訳させない環境」の3つのポイントを意識してみてください。