中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

COOという役職がある企業は珍しくないが、社内でどのような地位の人物がCOOに就任しているかは会社によって異なる。この記事では、COOの役割や日本に導入された理由、COOと取締役や社長・副社長といった他の役職との違い、どのような人物がCOOに就任しているかなどについて解説する。

目次

  1. COOとは
    1. COOの役割
    2. COOを導入する3つのメリット
    3. COOが日本に導入された経緯
  2. COOと他の役職の違い
    1. COOと代表取締役・取締役の違い
    2. COOと社長・副社長の違い
    3. COOとCEO の違い
    4. COOと執行役員の違い
    5. COOと執行役・代表執行役の違い
    6. COOとCFOの違い
    7. COOとCTOの違い
  3. COOのキャリアパス
  4. COOは営業活動の統括として会社の成長に欠かせない存在
  5. COOに関するQ&A
    1. COOとは何をするの?
    2. COOとCEOはどちらが偉い?
    3. COOとCFOはどちらが上になる?
    4. COOとCTOはどっちが偉い?
COOとは? CEOや社長と何が違う?
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

COOとは

COO(Chief Operating Officer)とは、アメリカ型のコーポレート・ガバナンスとともに導入された、会社内部の役職名で、日本では「最高執行責任者」と訳される。日本の会社法上の役員ではなく、企業の判断で導入・運用されている。

COOの役割

COOの役割は、最高執行責任者としてCEOが決定した方針を実現するために、マーケティング、開発、製造など営業活動を統括することにある。各部門の役割や会社の経営資源を把握し、それらを最適化することが求められる。

COOは取締役を兼務していることも多いが、その場合は経営陣として会社の意思決定の段階から関わっていることとなる。

COOを導入する3つのメリット

・1.スピーディな経営を実現できる

COOは、CEOが決定した経営方針を実現するために、社内の事業活動を統括する役割を担う。

そのため、COO を導入することには、CEOのみを導入する場合よりも、経営方針の決定から実現までにスピード感が生まれやすくなるのがメリットだ。その結果、CEOが経営判断に集中できるようになり、経営環境の変化や突発的な事態への即時対応など、効率的な経営につながるといえる。

・2.透明性の高い経営を行うことができる

会社の業務執行は、取締役の役割であり、その業務執行に対する監督は、取締役会の役割だ。しかし、業務執行に対する監督については、取締役同士に力関係があることや、業務執行の負担が大きいことなどによって、正常に機能しづらい場合がある。経営陣の監督機能が低下すれば、不正や重大な問題点を見落とすかもしれない。

そこで、信頼できる人物をCOOに選任し、業務執行ラインのトップに据えることで、透明性の高い経営を行うことが期待できる。内部統制の適正化によって、企業価値を長期的に高めることが目的だ。

・3.将来の経営人材を育成できる

CEOやCOOを導入することは、将来の経営人材の育成にもつながる。

たとえば、COO候補のポストを設けることで、優秀な経営人材の登用の手段として活用できる。さらに選任基準を定めて公開すれば、将来、経営幹部を目指す若手の仕事へのモチベーションも高まるだろう。

COOが日本に導入された経緯

CEOやCOOを選任する「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」を日本企業が導入する契機になったのは、1990年代初めのバブル崩壊などによる日本企業の業績低迷からと考えられている。

また、日本の企業統治の方法では、取締役の業務執行に対する監督機能が正常に働いていないという懸念があった。日本の伝統的な企業統治には、終身雇用や年功序列、社内の人材が経営陣に昇格するといった特徴があるが、この方法では、たとえば若い取締役が自分より上位の取締役を監督できないといった問題があり、透明性を確保することが難しい状況だった。

そこで、企業統治のあり方から変え、再び国際競争力を高めるきっかけにしたり、海外の投資家等にアピールしたりする必要があった。

アメリカのコーポレート・ガバナンスでは、取締役会が選任したCEOやCOOが会社の業務執行を担い、社外取締役を多く含む取締役会によって業務執行を監督するという特徴がある。つまり、取締役の職務から業務執行を分離させ、社外取締役を含む取締役会が業務執行の監督に集中できるため、透明性の高い経営が可能となる。

このような企業統治を実現するために執行役員制度を初めて導入したのが、1997年のソニー株式会社だ。

その後、2003年に「商法の特例法(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律)」によって、「執行役」を設置する指名委員会等設置会社の設立も、一部の企業を対象に認められるようになった。

なお、「商法の特例法」は会社法に統合され、現在でも指名委員会等設置会社を新しく設立可能である。

・指名委員会等設置会社とは

指名委員会等設置会社とは、業務執行を担う「執行役」や、取締役から選定した委員による、指名委員会・監査委員会・報酬委員会の3つの委員会が設置されるのが会社の特徴だ。(制定当時は「委員会等設置会社」)

3つの委員会には、取締役の指名、執行役や取締役の監査や報酬の決定を行う権限がある上、委員の過半数を社外取締役から選定することが義務付けられており、執行役や取締役に対する監督機能が確保されている。

COOと他の役職の違い

会社には、COO以外にもさまざまな役職がある。ここでは、COOと他の役職の違いを解説する。

COOと代表取締役・取締役の違い

COOと代表取締役・取締役の違いは、職務の範囲と会社法上の根拠の有無にある。

まず、取締役や代表取締役は、いずれも会社法において会社の業務執行を担う者であり、経営の意思決定を行う取締役会の一員だ。

取締役会では、取締役の職務執行の監督や会社全体の業務執行の決定を行う。これに対して、COOは営業活動の統括を行う役職であるため、代表取締役や取締役とは職務の範囲が異なる。

日本の法律でCOOについての規定はなく、COOがその会社においてどこまでの法的権限を有する人物かは判断できない。また、代表取締役兼COOや取締役兼COOを置く会社が多いが、取締役でないCOOも存在する。

たとえば、グローバルに活躍する豊田通商株式会社では、経営と執行の分離のために、取締役を兼務する執行役員を「社長」「副社長」「CSO」「CFO」の4名に絞っていると説明している。COOについては、同社の役員等の一覧によると、取締役でない執行幹部のメンバーから選任されている。

(参考)豊田通商株式会社

COOと社長・副社長の違い

社長と副社長は、会社のトップとそれに次ぐポジションであり、いずれも会社法に定めのない会社内部の職制上の地位である。

会社のトップやナンバー2であることとCOOの職務は直接関係しないが、会社の運用として、社長あるいは副社長にあたる人物がCOOを兼任しているケースもある。

COOとCEO の違い

COOと他の職との違いで最もわかりにくいのが、CEOとの違いではないだろうか。

COO(Chief Operating Officer)が最高執行責任者であることに対し、CEO(chief executive officer)は最高経営責任者である。ともに業務執行を統括するが、COOは営業活動の業務執行を統括し、CEOは会社全体の業務執行を統括する。

COOや他のCxOによる業務執行ラインが複数ある中で、そのトップがCEOであるとイメージするとよいだろう。あえて日本の伝統的な職制にあてはめれば、営業部長がCOOに近いといえる。

しかし、さまざまな企業がCEO やCOOを導入する中、両者の在り方は一様ではない。実際によく見られるCEO・COOのパターンを紹介する。統計等に基づくものではなく、筆者の知見に基づき選別したパターンである。

・会長CEO・社長COOのパターン

アメリカ型のコーポレート・ガバナンスに由来していると見られるパターンだ。

会長は取締役会の会長を指すが、社長と同様、法律上、定められた役職ではない。参考まで代表権に着目すると、会長CEO・社長COOともに代表取締役であるケースもあれば、会長CEOは代表権のない取締役で、社長COOのみが代表取締役であるケースもある。

・社長CEO・副社長COOのパターン

このパターンでは、代表取締役社長がCEO、取締役副社長がCOOという体制が多いように感じる。

・CEOとCOOを社長が兼任しているパターン

多くはないが、CEOとCOOを代表取締役社長が一人で兼任している会社も見受けられる。

COOと執行役員の違い

COOは、営業活動の業務執行を統括する役職であり、執行役員は、会社の業務執行を担う者として各社が運用する会社内部の役職である。前述のとおり、COOは、社長である場合もあれば取締役でない者がCOOに就任することもある。

執行役員の場合、代表取締役や専務・常務取締役など、取締役と執行役員を兼務している者と取締役でない従業員を含む執行役員のチームを作って運用している会社も見られる。個々の執行役員は、特定の業務執行を担当分けされている場合が多い。

なお、COOの訳は「最高執行責任者」だが、執行役員制度を導入しているからといって、必ずしもそのトップにCOOを配置する必要はない。COOと執行役員の両方を置いている会社もあれば、どちらか一方のみを置いている会社もある。

COOも執行役員も、どちらも会社法で選任することを定められている役職ではなく、各社の判断によって運用されている。

・執行役員制度とは

取締役に代わって会社の業務を執行する「執行役員」を選任する制度だ。

会社の業務執行権を取締役から分離し、執行役員に担わせることを目的とする。執行役員制度は、会社法で設計された内部統制の方法ではないが、指名委員会等設置会社でなくても、同社に近いメリットを得られる制度といえる。

COOと執行役・代表執行役の違い

COOは「最高執行責任者」の意味であり、海外の制度を模倣して日本に導入されたものだ。したがって、COOは広く知られる名称ではあるが、日本の法制度に根拠のない役職である。

これに対し、「執行役」とは、前述の「指名委員会等設置会社」において設置しなければならない、会社法上の機関名だ。(「COOが日本に導入された経緯」を参照)「執行役」とは、この指名委員会等設置会社の業務執行を担う者のことであり、「代表執行役」とは執行役が複数名のケースにおいて、対外的な代表権を付与された人物を指す。(執行役が1名のみであれば、その者が代表執行役となる。)

つまり、COOと執行役、代表執行役は、いずれも会社の業務執行を担う人物を指すが、法律で定められた役割であるかどうかと、COOが業務執行を統括するトップを指すかどうかに違いがある。

COOとCFOの違い

COOは最高執行責任者であるが、CFO(Chief Financial Officer)は最高財務責任者であり、その職務内容に違いがある。COOは営業活動を、CFOは会社の財務に関する活動を統括する職だ。

COOとCFOの両方を置いている会社もあれば、どちらか一方の会社もある。組織編成において、COOとCFOの間に優劣は特になく、CEOが社長で副社長がCOOである会社もあれば、副社長がCFOである会社もある。もちろん、両方とも副社長というケースもある。

たとえば、株式会社EduLabでは、それぞれに担当業務をもつ5名を副社長とし、その中に、副社長兼COO、副社長兼CFOが存在する。

(参考)株式会社EduLab

COOとCTOの違い

COOは「最高執行責任者」と訳される職であるが、CTO(Chief Technology Officer)は「最高技術責任者」と訳される職であり、COOとCTOにはその責任範囲に違いがある。

COOは会社の業務執行のトップであるため、マーケティング、開発、営業など会社の事業活動に関わる部門全体を統括する。これに対してCTOは、技術開発のトップであり、開発部門全体を統括することを責務とする。

COOのキャリアパス

会社の運用方法はさまざまであるため、その会社がどのような役職の人物にCOOを任せているかによってキャリアパスも異なる。

たとえば、会長がCEOで社長がCOOの伝統ある会社ならば、COOになるには社長を目指さなければならない。このような会社を除けば、一般的によくあるのは、執行役員制度を導入している会社に入社し、その会社の執行役員から取締役執行役員を経てCOOとなるルートである。

他にも、大手企業で集客、企画、事業開発など営業活動全般に関わる業務を経験した人が、転職先のベンチャー企業でCOOに就任するというケースもある。

また、COOには当然ながら会社の商品やサービス知識が欠かせない。そのため、たとえば、IT技術関連の企業であれば、技術部門出身者がCOOの職に就くというような運用も考えられる。

COOは営業活動の統括として会社の成長に欠かせない存在

COOの役割や、日本に導入された理由、COOと取締役や社長・副社長といった他の役職との違い、COOへのキャリアパスなどについて解説した。COOは、営業活動の業務執行を統括する役職であり、会社の成長はもちろん事業拡大など、会社経営の今後を左右する役職である。

CEOなど他の役職との兼務を行う場合もあるが、会社の売上など収益に直結する責任を有するため、経営資源を正確に把握した上で、自社にとって最適な決断を下すことが求められる。

なお、説明のために、文中で実在する会社の経営体制について紹介しているが、すべて執筆当時(2021年10月)、ホームページで公開されている内容に基づいて執筆していることをご了承いただきたい。

COOに関するQ&A

COOとは何をするの?

COOとは、会社の「最高執行責任者」のことであり、会社の業務執行ラインのトップにあたる役職である。具体的には、会社のマーケティング、開発、製造など、会社の事業に関する活動を統括する。

COOは単独で導入されるのではなく、CEO(最高経営責任者)とともに導入されることが一般的であり、CEOが決定した経営方針を実現するための、CEOの右腕となる経営幹部の1人と位置付けられる。

COOとCEOはどちらが偉い?

COO(Chief Operating Officer)は、「最高執行責任者」として、会社が決定した経営方針の下、その会社の業務執行、つまり事業活動全体を統括する役職である。これに対し、CEO(Chief Executive Officer)は、「最高経営責任者」にあたり、事業活動を含む経営全体の責任を負う。

よってCOOよりもCEOのほうが責任範囲は広く、CEOが上の立場となる。「社長兼CEO、副社長兼COO」のように、会社のナンバー1がCEOを、ナンバー2がCOOを兼任するケースが一般的だ。

COOとCFOはどちらが上になる?

COO(Chief Operating Officer)は「最高執行責任者」として、会社の業務執行を統括する。これに対し、CFO(chief financial officer)は「最高財務責任者」として、会社の財務戦略を統括する。どちらも企業の成長に不可欠であり、CEOの片腕となる存在である。

したがって、COOとCFOの役割や責任範囲に優劣はないが、慣習的に、COOをナンバー2に据える会社が多いようだ。

COOとCTOはどっちが偉い?

COO(Chief Operating Officer)は、「最高執行責任者」として、会社の事業活動全体を統括する役職である。これに対し、CTO(Chief Technology Officer)は「最高技術責任者」として、技術開発全体を統括する役職である。慣習的には、CEOをナンバー1、COOをナンバー2とするケースが多いため、組織図の上で、CTOはCOOより下位の職となることが多い。

しかし、たとえばIT技術関連のスタートアップ企業などでは、経営幹部が技術部門出身者であることが多いため、CEO兼CTO、COO兼CTOといった役割分担も見受けられる。

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文・中村太郎(税理士)

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