代表取締役や社長などが「兼CEO」を称する企業は珍しくない。日本でも定着してきたCEOという役職は、もとはアメリカ型の経営スタイルから導入されたものである。この記事では、日本にCEOが導入された経緯やその役割、CEOとの兼務が多い他の役職との違いなどを解説する。
目次
CEOとは
CEO(Chief Executive Officer)とは、会社全体の業務執行を統括する役職で、日本では「最高経営責任者」と訳される。
CEOは、日本の法律で定められた会社の機関や役職ではなく、アメリカの経営スタイルにならって1990年代に日本の経営に導入されたとされている。したがって、現在の日本企業のCEOとは、各企業の判断で導入・運用されている会社内部の職制上の地位である。
CEOの3つの役割
それでは、CEOは会社で具体的にどのような役割を果たすのだろうか。
1.業務執行の統括
CEOは、業務執行ラインのトップとして会社全体の業務を統括する。
専門分野の統括に他のCxOを配置して任せることはあっても、最終的にすべての責任を負うのはCEOであり、業務全体を管理しなければならない立場にある。
2.経営方針・事業戦略の策定
会社の経営方針や事業戦略を策定することもCEOの役割である。
会社の業務執行の決定を行うのは取締役会であるが、CEOは、決定した会社の成長方針を実現するために具体的な経営方針や事業戦略を策定し、それを実現するための図を描いていく。
3.ステークホルダーへの説明・適切な情報開示
会社の業務を円滑に執行して会社を成長させ続けるには、ステークホルダーとの良好な関係構築が不可欠である。ステークホルダーへの説明や投資家等への適切な情報開示の責任を果たすこともCEOの重要な役割である。
特に、株主や投資家に対する適切な情報開示は、法律上の要請のみならず市場に対する信頼の確保に欠かせない。
コーポレートガバナンス・コードの補充原則においても、取締役会や監査役会は、外部会計監査人からCEOやCFOなど経営陣幹部へのアクセスを確保すべきと示されているように、CEOには、財務情報・非財務情報にかかる会社の情報開示への貢献が求められている(補充原則3-2②)。
【コーポレートガバナンス・コードとは】
日本企業の内部統制の考え方の指針として、2015年に金融庁と東京証券取引所が共同で策定したもの。5つの基本原則、それらに附随する原則と補充原則から構成される。コーポレート・ガバナンスや内部管理体制が整備されて機能していることは、上場審査の項目にも含まれている。
日本の企業にCEOが求められる理由
日本企業にはCEOを選任する法律上の義務がないにもかかわらず、代表取締役や社長などが「兼CEO」を称する企業が珍しくないことを、不思議に思う方もいるのではないだろうか。
一体なぜ、日本の企業にCEOが求められるようになったのだろうか。
日本にCEOが導入された経緯
日本企業においてCEOが導入されるようになった背景には、アメリカによる透明性の高い企業経営体制をモデルにしたという経緯がある。
国際経営開発研究所(IMD)による世界競争力ランキングにおいて、1990年の1位は日本であった。
戦後の高度経済成長期の日本の経営は、世界的にも高い評価を受けており、アメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルによる1979年の著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』のタイトルを耳にしたことがある方も多いだろう。
日本が、アメリカの企業に見られるCEOやCOOを選任するコーポレート・ガバナンス(企業統治)を導入する契機になったのは、1990年代に発生した日本企業の業績低迷にあったと考えられている。
アメリカのコーポレート・ガバナンスの特徴は、取締役会が選任したCEOやCOOが会社の業務執行を担い、社外取締役を多く含む取締役会によって業務執行を監督するという透明性の高さにある。
日本企業がアメリカのコーポレート・ガバナンスにならった目的は、一般的に、自浄機能の備わった透明性の高い企業に変化を遂げることで再び国際競争力を高めること、企業をグローバルに展開すること、海外投資家へのアピールなどであったと考えられている。
CEOを初めて導入した企業
日本で初めてCEOを導入したのは、1997年のソニー株式会社であったとされている。同社は、現在も多くの企業で見られる「執行役員制度」を日本で初めて導入し、その際、CEOを選任している。
日本のCEOに今求められるもの
それでは、CEOの導入が日本企業の国際的な競争力に大きな変化をもたらしたかと問われると、残念ながらそう言える状況にはない。
経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下、「CGSガイドライン」)によると、日本企業の資本市場からの評価は厳しく、株価指数に表される日本企業の「企業価値」は欧米や新興国と比較して『一人負け』している状況としている。
また、同ガイドラインに使用されている財務省や経済産業省の調査によれば、日本の売上高営業利益率(ROS)はアメリカの半分程度で推移している。また、設備投資や研究開発投資といった中長期的な成長のための投資もアメリカのそれとは乖離している状況がわかる。
こうした状況下で日本企業が国際的競争を勝ち抜くには、イノベーションを行い、成長に向けた投資を進めることが重要である。
日本企業のCEOには、めまぐるしく変化する経営環境や課題の中で、企業の中長期的な成長の舵取りをすることが求められている。
CEOにふさわしい人物像とは
それでは、企業はどのような人物をCEOに選任すべきだろうか。
CEOに求められる資質
「CGS ガイドライン」(令和4年再改訂)には、CEOに求められる経営力について言及した部分がある。「各社が置かれた経営環境に応じて検討されるべきものであり、普遍的なものは存在しない」という前置きがありながらも、ある程度共通性のある必要な資質・能力はあるとしている。その共通性のある必要な資質・能力として、下記の7つが挙げられている。
- 困難な課題であっても果敢に取り組む強い姿勢(問題を先送りにしない姿勢)と決断力
- 変化への対応力
- 高潔性(インテグリティー)
- 胆力:経営者としての「覚悟」。企業価値向上の実現に向け、個人的なリスクに直面しても限界を認めず、利害関係者からの批判を乗り越え果断に決断する力
- 構想力:経営環境の変化と自社の進むべき方向を見極め、中長期目線に立ち、全社的な成長戦略をグローバルレベルで大きく構想する力
- 実行力:構想した成長戦略を実行する力
- 変革力:業界や組織の常識・過去の慣行に縛られない視座を持ち、組織全体を鼓舞しつつ、「あるべき像」の実現に向けて組織を変えていく力
コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(令和4年再改訂)
この7つは「信頼できるリーダーであること」と「変化に柔軟に対応できること」の2つに集約することができるだろう。
信頼できるリーダーであること
CEOに求められる要素としては、リーダーシップが欠かせない。
CEOは会社の経営陣を統括して企業の価値を高めることが求められるため、社内外から信頼される人物であることが非常に重要である。
いかに自社のビジネスに対する知識や経営に関する知識が備わっていても、周囲の意見を無視する人物や、逆に周りからの影響を受けやすく次々と方針を変えるような人物では、安心して社員はついていけないだろう。
変化に柔軟に対応できるリーダーであること
経営環境や経営課題は、日々変化する。CEOは自社の企業が置かれた環境の変化に対応しながら、同時に日本全体が置かれた変化も見据え、足元の対応と未来を見据えた対応の両方の舵取りが求められる。
例えば、国内ではコロナ禍や原材料費の高騰を経て、現在は再び人材不足が問題となっている。
労働人口の減少問題は、言うまでもなく少子高齢化に伴って発生している。働き方を見直すことによる労働参加率の上昇といった取り組みだけでは補えなくなるだろう。
高付加価値型の産業構造にシフトする流れが避けられず、それに伴うデジタル投資が不可欠となる。
CEOになるためのキャリアパス
CEOになるためのルート
CEOになるための主なルートには、下記の3つがある。
・社内で昇進する
まずは、勤務している会社内でCEOに昇進する方法である。会社のCEOに昇進するには、社内の選任規程を確認するほか、現CEOの経歴などを参考にするとよいだろう。当然、現CEOや経営陣からの推薦・後押しが欠かせないため、業務で実績を上げることも必要だ。
・転職してCEOに就任する
経営経験がないならば困難な道であるが、CEO人材の求人も存在するため、そうした求人に応募して転職することでCEOに就任する方法もある。
・起業してCEOに就任する
自身で会社を設立してCEOを名乗る方法もある。自社のCEOを名乗ることに何ら制限はなく、CEOは法律上の機関でもないことから、登記等の手続きをしなくても名乗って構わない。
CEOになるための業務経験
CEOになるには、CEOの選任においてプラスに働く業務経験も必要である。
例えば、子会社のトップとして経営責任を負った経験や、海外での業務経験などがあれば、CEOへのキャリアに大きく近づくだろう。また、経営関連の学歴・資格取得などもCEOの選任においてプラスに働くと考えられる。
CEOと他の職との違い
会社組織では、CEO以外にもさまざまな役職がある。ここでは、CEOとそれ以外の代表的な役職との違いを解説する。
CEOと代表取締役の違い
CEOと代表取締役は、いずれも会社の業務執行のトップである。代表取締役は、会社の代表権を有する者として会社法に定められていることに対し、CEOは、会社法に定められた役職ではないという違いがある。
そのため、CEOと名乗るだけでは、会社を代表して業務を行う権限がある人物なのか、取締役の一人として会社の意思決定に携わることのできる人物なのかがわからない。
CEOを名乗る際には、社内の職制であることに留意し、誤解のない表示をすることに配慮する必要がある。なお、CEOの任に就く者は、その会社の代表取締役であることが一般的である(例:代表取締役兼CEO)。
CEOと代表取締役には、どちらも一つの会社に複数人いて構わないという共通点もある。ただ、複数名を代表取締役としている会社でも、CEOは一人というケースが多い。複数のCEOがいる会社とは、たとえば事業部門ごとにCEOを配置しているケースがあげられる。
なお、代表取締役を選定する義務のない会社もあるため、CEOと代表取締役のどちらも存在しない会社もある。
CEOと業務執行取締役の違い
業務執行取締役とは、取締役会設置会社において、会社の業務執行の権限を与えられた取締役のことである。具体的には、「1.代表取締役」か、「2.代表取締役以外の取締役のうち、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定された人物」が該当する。いずれにしても、取締役に選任されることが前提である。
これに対してCEOは、最高経営責任者として会社全体の業務執行を統括する役職であり、その選任の根拠は法律にはなく、運用は会社に委ねられる。もちろん、代表取締役や業務執行権を与えられた取締役の中からCEOを選任することも多いため、「CEO=業務執行取締役」というケースもあり得る。
CEOと取締役の違い
取締役も、会社の業務執行を担う会社法上の機関の一つであり、代表取締役と同じく法律にその根拠がある点において、CEOと異なる。CEOが必ずしも取締役である必要はない。
執行役員制度を導入している会社では、取締役でない執行役員をCEOに選任しているケースも見られる。
たとえば、多角的な事業展開をする三菱商事を例に見ると、取締役と兼務していない数名の執行役員が、「〇〇グループ」の名を冠し、事業部門ごとのCEOに選任されている。
(参考)三菱商事株式会社
CEOと会長・社長の違い
会長・社長とは、いずれも法律上の会社の機関ではなく、各社の判断で運用されている職制であり、この点はCEOと共通する。
社長とは、文字どおり会社経営のトップであり、会長は取締役会の会長を指す。会長は、前経営者として現経営者をサポートする役割を担ったり、名誉職として運用されたりする場合がある。会長のもつ人脈や経験が会社にとって重要なことは少なくなく、会長の担う役割は会社によってさまざまである。
どちらも代表取締役である会社が多いが、社長は代表取締役、会長は取締役である会社もある。
会長や社長の職がある中で誰がCEOに就任するかは、会社によって異なる。会長がCEOの会社もあれば、社長がCEOの会社もある。
会長がCEOである場合、社長がCOO(Chief Operating Officerの略:最高執行責任者)である場合が多い。これは、アメリカ型のコーポレート・ガバナンスにならった組み合わせである。
なお、会長・社長は、1名ずつであることが通常である。たとえば、代表取締役が3人いても、代表取締役会長や代表取締役社長を称するのは1名ずつということだ。複数名のCEOを擁する企業もあるため、この点にも、CEOと社長・会長の違いがあるといえる。
CEOと執行役員の違い
執行役員は会社の業務執行を担い、取締役から業務執行の役割を分離し、取締役会の意思決定や監督機能を強化するための役職である。
アメリカのコーポレート・ガバナンスにならって日本に導入された職制で、CEOに同じく会社法上の役員ではない。CEOは業務執行を統括する役職であるため、執行役員制度を導入している会社のCEOは、執行役員の行う業務を統括する立場にあるといえる。
なお、CEOが執行役員を兼任している会社もある。
CEOとCOOの違い
COO(Chief Operating Officer)とは、最高執行責任者のことで、CEOの統括下において営業活動に関する業務執行を統括する立場である。CEOが会社全体の業務を統括するのに対して、職責の範囲が限定されているという点が異なる。
アメリカの会社では会長がCEOを、社長がCOOを兼任することが多く、日本でもこれと同じ形態を選択している企業が見られる。
CEOとCFOの違い
CFO(Chief Financial Officer)とは、最高財務責任者のことである。
CEOの統括下において財務に関する業務執行を統括する立場であり、他のCxOと同様、CEOとは職責の範囲に違いがある。
その他CEOに似ている職種との違い
CEOに似ている責任者は、COOやCFO以外にも無数に存在する。
必要な部門に適切な統括責任者を選任することによって、その業務体制を強化することができるだろう。下記はその責任者の、ほんの一例である。
CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)
CMOは、マーケティングに関する業務を統括するトップである。CEOの統括下において、マーケティング戦略の策定や実行を担う。CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)
CTOは、製造技術、化学技術、IT技術といった、企業の技術部門の活動を統括するトップである。CEOの統括下において技術面からの経営戦略の策定や実行を担う。CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)
CIOは、企業の情報戦略を統括するトップである。CEOの統括下において、ITインフラの構築やシステムの導入などに関する、IT戦略の立案から実行を担う。CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)
CHROは企業の人事を統括するトップである。CEOの統括下において、採用や育成、人材の活用といった人事戦略の策定と実行を担う。
CEOの選任・解任手続き
CEOになるために必須の資格や経歴は特にない。
また、CEOは法律上の機関でないことから、選任や解任の手続きについても法律上の決まりはなく、その会社の内部規定にしたがって手続きを行うことになる。
一般的に、CEOの選任・解任は取締役会で行う。選任や解任の基準は各社に委ねられており、CEOの選解任の基準を自社ホームページ上で公開する企業もある。
コーポレートガバナンス・コードにおいても、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に備え、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続きを確立すべきとしている(「補充原則4-3③)。
取締役の場合
CEOは取締役の中から選任されることも多い。
取締役の選任・解任の手続きについては、会社法で定められている。具体的には、株主総会の決議が必要となり、任期は選任後2年以内(非公開会社は10年以内にすることも可)となる。
CEOは業務執行のトップとしての責任範囲を明確化しよう
CEOの導入経緯やCEOの役割とはどのようなものか、CEOと他の役職との違い等について解説した。CEOは会社法で定められた役職ではないが、代表取締役と同様に会社の業務執行のトップである。他の役職との兼務を行う際には、その責任の範囲を明確にした上で、内外に示す必要がある。
なお、CEOの実際の運用をわかりやすくするために、文中で実在する会社の経営体制を紹介しているが、すべて執筆当時(2021年10月)、ホームページで公開されている内容に基づいて執筆していることをご了承いただきたい。
CEOに関するQ&A
社長とCEOの違いは何?
社長とCEOはいずれも会社経営のトップが就任する役職である。いずれも法律に定められた会社の機関ではないため、導入するかどうか、導入した場合の役割や地位などについては会社の運用に委ねられる。
したがって、社長やCEOといった肩書きをもつ者がいない会社もあれば、会社のトップである代表取締役が社長やCEOを兼ねていることもある。
また、グループ会社であれば、グループ内の他社のCEOや社長の肩書をもつ人物が取締役として就任しているケースもある。
CEOと会長どっちが偉いのか?
「CEO(Chief Executive Officer)」は会社の最高経営責任者と訳されるが、日本の法律に定められた役職ではなく、運用は会社に委ねられている。これに対して「会長」とは一般的に取締役会の会長を指し、CEOと同様に法律で定められた機関ではなく、運用は会社に委ねられる。
会社によっては、会長職を前社長の名誉職として運用している企業もあるため、実際の業務権限についても会社によって異なっている。したがって、CEOと会長には権限の有無やどちらが偉いかといった点についての決まりはない。一般的には個々の会社において、法律上の代表権があるかどうか、株式の保有割合はどちらが大きいかといった、会社に対する影響力で判断することになるだろう。
CEOは日本語で何か?
CEOとは「Chief Executive Officer」の略であり、日本語で「最高経営責任者」と訳される。最高経営責任者とは、会社全体の業務執行を統括する役職のことだが、日本の会社における法律上の機関ではないため、設置するかどうかは企業に委ねられている。
CEOと似ている役職にCOO、CFOなどがあるが、こちらは日本語で最高執行責任者(COO:Chief Operating Officer)や最高財務責任者(CFO:Chief Financial Officer)と訳されるものであり、CEOとは異なる。
CEOと代表取締役の違いは?
CEOと代表取締役はいずれも会社の業務執行のトップであるが、代表取締役は会社の代表権を有する者として会社法で明確に定められていることに対し、CEOは会社法に定められた機関ではないという違いがある。
「代表取締役兼CEO」として、CEOの任に就く者がその会社の代表取締役であるケースもよく見られるが、必ずしもCEOが代表取締役であるとは限らないため、CEOを名乗る場合は、内外に混乱を与えないよう注意が必要である。
文・中村太郎(税理士)