なぜ官僚はデータを改ざんしてしまうのか?国の不正体質の原因に迫る
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国が発表するデータであっても、疑いの目で情報に接するべきだ。改めてそう考えさせられるニュースが2021年末に報じられた。国土交通省の統計データで情報の書き替えが行われていたことが発覚した。政策決定でも重要な役割を果たすデータだっただけに、国民の失望感は大きい。

建設工事受注動態統計で書き替えが発覚

書き換えが行われたデータは、国の基幹統計として毎月発表されている「建設工事受注動態統計」だ。このような不適切な対応が行われる状態が、少なくとも2013年以降続いていたとみられる。

建設工事受注動態統計の調査は約1万2,000業者を対象に実施されているが、この統計はそもそもどのような目的で作成されているのか。国交省の公式ウェブサイトでは以下のように説明されている。

「我が国の建設業者の建設工事受注動向及び公共機関・民間等からの毎月の受注額を発注者別、業種別、工事種類別、地域別に詳細を把握することにより、建設行政等のための基礎資料を得ることを目的としている」

上記にもあるように、建設工事受注動態統計は建設行政などのための資料として使われていることから、実態とは異なるデータを前提に施策が作られるという異常な状況となってしまっている。

なぜ書き替えは起きた?首相はどう対応?

建設工事受注動態統計では都道府県が建設業者から調査データを集め、その集めたデータがのちに集計される。報道などによれば、国交省の担当者が都道府県の担当者に書き替えを適宜行うよう指示していた。

結論を言えば、建設工事の受注額が多くなるよう書き替えが行われたのだが、何のためにそのような書き替えを行ったのか。その理由については、いまのところはっきりしていない。現在、第三者による検証委員会が調査を行っており、2020年1月中旬にも報告書をまとめる予定だ。

岸田文雄首相は今回の書き替え問題について「二度とこうしたことが起こらないよう再発防止に努めなければならない」、斉藤鉄夫国交相は「おわびを申し上げます」と陳謝している。

ちなみに、共同通信が2021年12月18~19日にかけて実施した世論調査では、政府の統計データに対する信頼が今回の問題で揺らいだと思うと回答した人は、全体の77.6%に上っている。

過去にも書き替えや不正が頻発

これまでも国・政府のデータの書き替え問題や不正問題が頻発している。例えば2018年12月には、厚生労働省の「毎月勤労統計」にて、全数調査をせずサンプル調査で済ませる問題が発覚した。

2019年1月には、厚生労働省の「賃金構造統計」にて、ルールに違反して郵送で調査を実施するという不適切な調査が行われていたことが明らかになった。本来は、調査員の直接訪問による調査が原則だった。

これらの不正が相次いで発覚したことを受け、政府は56ある基幹統計の一斉点検に乗り出した。その結果、数値ミスなどや集計の遅れなどが23の基幹統計で公になった。また、統計データに関してではないが、学校法人「森友問題」に関する問題でも、財務省が決済文書を改ざんする事件が起きたことも記憶に新しい。

しかし、ここまで取り上げた不適切な対応や不正な書き換え、統計のミスなどは、どのような理由で起きるのだろうか。過去の事例では理由が判然としていないケースもあるため、「可能性」も含め、少し整理して考えてみよう。

なぜ不正や書き替えが起きるのか?

最も大きな理由として疑われるのが、政府・与党などへの忖度だ。政府・与党が掲げる政策と矛盾が生じる統計データが発表されれば、政府・与党にとっては都合が悪い。そのため、官僚側が政府・与党に忖度して、政策の方向性に合うようデータの書き替えを行う…という流れだ。

ただし、内々でこのような忖度があったとしても、事件の全容解明は難しいのが現状だ。建設工事受注動態統計では同様の忖度が働いていたのか、まずは第三者委員会の調査報告書の公表が待たれる。

もちろん、悪意を持って不正を行おうとしたのではなく、統計の過程における単純なミスにより統計全体の信頼が揺らぐこともある。それらのケースは少ない方が良いに越したことはないが、単純なミスであれば問題の根は決して深くないと言えるだろう。

こうした不正・改ざんが理由かはわからないが、キャリア官僚を志望する就活生は年々減少している。採用試験の申込者数は、各省庁の努力もむなしく減少に歯止めがかからず、5年連続で過去最少を更新。2021年は1万7,411人と、10年前の7割程度となっている。

「データが常に正しい」とは限らない

民間企業においても、データの大規模な改ざんが問題として発覚することがある。三菱自動車やSUBARUによる燃費データの改ざんや、神戸製鋼所によるアルミ・銅製品の品質データの改ざんなど、枚挙にいとまがない。

影響が及ぶ範囲が社内のみであれば、消費者への影響は少ないが、燃費データの改ざんや品質データの改ざんは消費者の生活にも多大な悪影響を及ぼし、国のルールに違反していることによるコンプライアンス(法令遵守)上の問題も甚大だ。

いずれにしても、国のデータでも民間企業のデータでも、国民もしくは消費者としてデータに接する場合は、そのデータが常に正しいとは限らない、という視点を持つようにしたい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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