ゆずしおさん
(画像=ゆずしおさん)

先のインタビュー前編では、コレクションを始めたきっかけや一度興味を持ったらまずは試してみる性格等々、アート熱ばかりでなく、ゆずしおさんご自身の嗜好や好奇心・探究心に迫るようなお話をたくさんお伺いすることができました。
そんなゆずしおさんが、最近アートに対する考え方に大きな変化が生まれたそう!直感的にいいと思ったものや好きなものを購入するという段階から、より吟味してアートを選び向き合うようになった、といいます。今回はゆずしおさんのご自宅にお邪魔し、その “変化” について、またその他お気に入りのアートについても語っていただきました。「コレクター・ゆずしお 」としての素顔に、さらに一歩迫っていきます!

【ゆずしおさん プロフィール】
1996年11月生まれ。株式会社Appify Technologies 代表。本名:福田涼介。2016年に株式会社メルカリの子会社Souzohにエンジニアとして参画、新規事業の立ち上げを行う。2017年6月からDMM子会社で仮想通貨事業の立ち上げに参画、その後2018年6月、株式会社Appify Technologiesを創業。「ソフトウェアで “出来ない” をなくす」というミッションのもと、ノーコードでモバイルアプリが作成できる『Appify(アッピファイ)』を中心に、ShopifyでのECを立ち上げに便利な拡張機能をサブスクリプション型で提供。今年春、アジアの23の国と地域を対象に各分野で活躍中の30歳未満の人材を選出する、Forbes誌の企画『Forbes 30 Under 30 Asia(アジアを代表する30歳未満の30人)』のリテール&Eコマース部門に選出された。

ゆずしおさん Instagram(ご本人の大切なコレクションの一部を、こちらで公開中)

https://www.instagram.com/yuzushioh/

「信頼できる方たちからの教えもあり、コレクションに対する考え方が大きく変わってきています。」

ーーコレクションを始めた当初からは心境も変わって、最近はコレクションの傾向も変わってきたそうですね。ぜひその辺りのお話を詳しくお聞きしたいです!

そうなんです。ここ数ヶ月の間に、業界の信頼できる方とご縁をいただいたことが大きくて。これまでは、直感的にピンときた作品を買っていたのですが、そういう方々との出会いにも恵まれて、数ヶ月で大きく方向転換しました。

ちなみに、コレクターには大きく分けて2種類のタイプがあると思っています。

まず1つ目は、自分が好きな作品を直感的に買うコレクター。それからもう1つは、コレクションを通じて自身の価値観を表現するために作品を買うコレクターの2つのタイプです。アートとの関わり方は個人の自由だし、もちろんどちらのタイプが良いという話ではなくて。ただ、「自分はどっちなのか」を考えた時に後者のタイプになりたいなと思うようになりました。将来自分のコレクションがそのまま美術館に収蔵されたり、機会があれば将来的に自分でもプライベート美術館をつくりたいなとも思っています。

それからもう一つ、重要な点がありました。高い評価を得ているアーティストの作品をプライマリーで買おうとした時に、自身のコレクションのクオリティーが大きく影響します。いくら作品を購入したいと思っても、たとえお金を出したとしても買うことができないこともあります。価値のある作品もコレクションできるようなるためにも、これから自身のコレクションをどんどん洗練させていきたいです。

ゆずしおさん
(画像=ゆずしおさん)

「最近は自分にとっていい作品とは?を説明できるように時間を使っています。」

ーーそれは前回おっしゃっていた、ゆずしおさんのアートに対する考え方に影響を与えた作品に出会ったことがきっかけですか?

そうですね!その作品というのがKOTARO NUKAGAに所属されている平子雄一さんの作品なんです。平子さんは、植物と人間の共存、関係性への疑問をテーマに作品を制作されているアーティストなのですが、見た時の視覚的なインパクトはもちろん、その表現の裏に隠されたコンセプトが深く、考えさせられるものがあって。

例えばこの「木人間」というペインティングなんですけど、一見すると、右の方は鮮やかな色彩で描かれていますよね。でも一方の左は白黒の暗いトーンで描かれていて、同じ木なのに左右で見え方がまるで違っています。だから最初見た時は、多くの方は、昼夜で明暗の違いを表現しているのかな?という印象を受けるのではないかと思います。

ゆずしおさんのアートに対する考え方を大きく変えたという、平子雄一さんの作品《Gift 14》
(画像=ゆずしおさんのアートに対する考え方を大きく変えたという、平子雄一さんの作品《Gift 14》)

ただ、そのさらに奥にはさらに深いテーマがあって。この作品では、平子さんの思う「自然の中に存在する人間にコントロールされているもの」を表現されていると僕は思っています。例えば、「赤いバラは美しい」、「茶色いバラは美しくない」といった植物に対して、人間が後から付け加えた価値観がそこにあることを再認識させてくれます。

ーー本当に深いテーマですね。作品の持つ力も魅力ですが、コンセプトを聞いてさらに惹かれるということはありますよね。

はい、まさに。この絵で右側を見た時に「綺麗、美しい」と感じるのは、人間だけが持つ価値観であって、自然界にもともと存在しているものではないんですよね。

人間以外の生き物、たとえば鳥や虫の目には同じ景色でも左のような、モノトーンのカラーに見えています。平子さんは作品を通じて、僕らが普段接している花や植物、公園など「自然」と捉えているものは、実はそうではないのかも知れないと。人間は昔から自然と付き合って生きていて、その中に存在しているものを人工的に作り直し、それで生活をしている。そういった一般的な物事の見方や常識に対して疑問を投げかけていると思うんです。

そもそも「美しい」と思うこと自体、構造主義的な社会の中で形成された価値観であり、僕らは単にそう思わされているだけなのかも知れない。この絵を通してそんな風にハッとさせられるんですよ。平子さんのコンセプトはそういうものの見方に対する認識に揺さぶりをかけるような、新たな感覚を僕に与えてくれました。

ちなみに「自分にとっての良い作品とは?」に対する正解は、僕の中でも全然まとまっていません(笑)。なので、 まずは自分のテイストを自分の中でしっかり認識して説明できるように、今は世界中のアーティストの作品を見るところから始めています。

「目下の課題は、美術史をちゃんと学び、知ることです。歴史的な文脈を知ることで、新しく見えてくることがたくさんあると、諸先輩方からアドバイスをもらいました。」

ーー目からウロコです。そうやってあるアートと出会うことによって「物事の見方が変わる」というのも、まさにアートによって得られる体験であり、醍醐味ですよね。

そうですね。先ほどお話の中で出た “構造主義” という単語なのですが、これについては現代アートとの関係も深く、そこからの歴史的な背景や文脈をちゃんと理解したほうが良いと、複数の信頼できる方からアドバイスをもらいました。たとえば昨今の女性アーティストの活躍とフェミニズムの関連性や、BLMと黒人アーティストによる活動といったことも、これまでの歴史を学ぶことで一見脈絡がないように見える点としての知識や情報が、線となって繋がって見えてくるかもしれません。

ーーそうですね。やはり興味関心をもったら一直線、深掘りしくなってしまうんですね。ただ、物事を深く知ろう、本質的な情報を得ようと思ったら信頼できるソースを選ぶことも重要だと思うのですが、その辺りについてはいかがでしょうか?

僕は何かを学ぶ時は、まずざっくりとした全体像をつかみ、そこの中心からどんどん外に広げていく形で知識をつけていってます。一つの国から世界を広げ、領土を拡大していくイメージですね(笑)。

精度の高い情報、いわゆる一次情報、を得るという意味ではやはり「つながり」が特に重要だと思います。これはどの領域でも同じことかもしれませんね!これはおっしゃるように、とても重要なことだと思います。今はありがたいことに、信頼できるギャラリーの方々をはじめ、アートにすごく詳しいコレクターの先輩方に助けられ、その方たちからアートの歴史だったりコンセプトと表現方法の見方、あとは最新の情報だったりを教えてもらっています。やはりそういう方からの情報は貴重でとても参考になるので本当に頼もしく、感謝の気持ちでいっぱいです!

玄関先には、松山智一さんの作品が。鮮やかな色彩で、空間がパッと明るくなりインテリアとも調和していました。
(画像=玄関先には、松山智一さんの作品が。鮮やかな色彩で、空間がパッと明るくなりインテリアとも調和していました。)

「自分の“好き”を見つけたり、センスを磨くためには、まずはたくさん見ることが大事だと思います。」

ーー大事なお話を、ありがとうございます。では、アートに興味を持っているけれど、購入に一歩踏み留まっている方に向けて、ゆずしおさんから何かメッセージをお願いできますか?

まずはたくさんいいものを見たり触れたりすることから始めてみることをおすすめしたいです。たとえば世の中には、いわゆる「センスがいい」と呼ばれる人たちがいると思うのですが、そういう方って必ずしも元々備わっているものだけでそうなっているわけではないと思うんですよ。もちろんそういう面もあるのかも知れませんが、それ以上に、良いものに見たり触れたりっていうことを、実は人一倍経験している方のほうが多いんじゃないかなと思うんです。そう考えると見る目やセンスって、その人のそれまで見たものの数や価値観などに依存する部分もあると感じるので、まずはたくさんいいものに触れるというのは、はじめの一歩、アートに関わる上でも結構重要なことかなと思います。

あとは、もし始めるなら絶対に早い方がいいと思います(笑)。これはアートに限らずですが、何事も始めてみないと、一歩踏み出してみないと世界があるので、あれこれ悩むんだったら、まずは「行動してみたらいいんじゃない?」と思いますね。

クレアタブレの作品。今世界で注目されている作家の一人です。
(画像=クレアタブレの作品。今世界で注目されている作家の一人です。)

ーー貴重なメッセージをありがとうございます。それでは最後の質問になります。ゆずしおさんがアートの世界と関わるようになって良かったと思うことを教えてください。

アートをコレクションする」という行為から作家やギャラリーの方、他のコレクターの方とも繋がることができ、そこからまた自分の知らない新しい世界に繋っていく。アートに関わることで、作家から新しい価値観が得れたり、ギャラリーの方からアート業界の構造を学べたり、コレクターの繋がりからビジネスに発展したりと、人生がより豊かになっているという実感があります。ある作品と出会ったことで物事の見方が変わる。これはアートの大きな魅力の一つだと思います。

ーーありがとうございました!

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取材・文:小池タカエ 写真:ぷらいまり