数ある上場市場の中でも、圧倒的な知名度や規模、取引量を誇る「東証一部」。本記事では東証一部の概要に加えて、上場するメリットや2022年の再編についてまとめた。上場に興味をもっている経営者は、これを機に正しい知識を身につけてもらいたい。
目次
東証一部上場とは?
東証一部上場とは、東京証券取引所の「市場第一部」に株式を上場することである。東証一部への上場を果たすと、証券取引所を通して自社株が自由に売買されるため、一般投資家から多くの投資を受けられるようになる。
国内の上場市場はほかにもいくつかあるが、その中でも東証一部は上場要件が厳しい。簡単にいえば、一定の規模や収益力、内部管理体制などが求められるため、東証一部は日本でもトップクラスの企業が集まる市場として知られている。
東証一部の上場企業数は?
東証一部は多くの企業が上場を目指している市場なので、ほかの市場に比べると上場企業数が圧倒的に多い。実際にどれくらい数が異なるのか、以下では2021年10月時点のデータを紹介しよう。
ちなみに、多くの投資家から注目されている影響で、1日あたりの取引数や売買代金が多い点も東証一部の大きな特徴である。
東証一部とほかの市場の違い
東京証券取引所には、東証一部以外にも上場市場が存在する。また、東京以外にも証券取引所は存在しているため、関東から離れた企業であっても上場を目指すことは可能だ。
そこでここからは、東証一部とほかの市場の違いを解説していく。
東証二部やマザーズ、JASDAQとの違い
まずは、東京証券取引所内の「東証一部・東証二部・マザーズ・JASDAQ」の4つに関して、主な要件の違いを紹介する。
上記の通り、東証一部は全体的に要件が厳しく、ある程度の収益基盤や規模がないと上場できない仕組みになっている。では、それぞれの市場がどのような役割を担っているのか、以下で簡単に整理しておこう。
ちなみに、東京証券取引所が定める要件を満たせば、最初から東証一部への上場申請を出すことも可能だ。ただし、上場未経験の企業にとって東証一部はハードルが高いため、まずは東証二部やマザーズなどに上場する流れが一般的である。
そのほかの市場との違い
ここまで紹介した東京証券取引所以外にも、国内には以下の証券取引所が存在する。
上記のいずれの市場と比べても、東証一部は上場企業数・取引額・時価総額などの面で大きく上回っている。つまり、多くの投資家から注目されているので、企業にとっては資金調達や知名度アップにつなげやすい市場と言えるだろう。
東証一部に上場するメリットとは?
国内にはさまざまな上場市場があるが、その中でも東証一部上場にはどのようなメリットがあるのだろうか。ここからは、経営者が特に押さえておきたい3つのメリットを解説する。
1.知名度や信用性が飛躍的にアップする
東証一部上場の最も大きなメリットは、社会的な知名度や信用性がアップすることだ。ほかの市場と比べると東証一部の上場要件は厳しいため、審査を通過するだけで多方面から高い評価を受けられる。
また、知名度や信用性がアップすると、顧客や取引先から信用されやすくなったり、金融機関から融資を受けやすくなったりなど、さらにほかのメリットも生じてくる。
2.会社のブランド力が向上する
東証一部の上場企業には、誰もが知る有名な企業がずらりと並んでいる。そのため、東証一部に名を連ねるだけで会社のブランド力は向上し、商品やサービスのブランディングも容易になる。
また、ブランド力の向上によって採用活動のハードルが下がる点も、東証一部に上場する大きなメリットだろう。就活生や転職者にとって「東証一部」はステータスになるため、上場を果たせば自然と優秀な人材が集まりやすくなる。
3.社内組織が強化される
東証一部の上場要件のなかには、コーポレート・ガバナンスや内部管理体制に関するものが含まれている。そのため、東証一部上場に向けて準備を進めれば、必然的に社内組織が強化されていく。
このときに強化した社内組織は、規模拡大や新市場進出などあらゆるビジネスシーンで役に立つ。また、最近では企業のガバナンスに着目する投資家が増えてきたため、社内組織が強化されれば投資対象としての魅力も増すことになる。
2022年に「東証一部」はなくなる?市場再編について解説
実は東証一部をはじめとする東京証券取引所内の市場名称は、2022年の再編を機に使用されなくなることが決定している。
この市場再編が行われる主な要因は、世界の株式市場と比べて取引量が伸び悩んでいる点にある。例えば、アメリカの上場市場である「NYSE」や「NASDAQ」と比較すると、東京証券取引所の時価総額は3分の1程度に過ぎない(※2020年時点)。
そこで東京証券取引所は世界的な存在感を強めるために、市場区分を以下のように再編することを決定した。
上記の通り、これまでの東証一部の役割は「プライム市場」が担うことになる。ただし、上場基準の見直しもすでに決定しているため、プライム市場への上場を目指す場合は、改めて形式要件・実質要件を確認しなければならない。
東証一部上場に関するQ&A
最後に、ここまで解説しきれなかった東証一部上場に関する基礎知識をQ&A形式で紹介していこう。
Q1.上場にはどれくらいの時間がかかる?
東証一部への上場を目指す場合、一般的な準備期間は3~4年程度と言われている。再編されるプライム市場に関しても、東証一部と同じく細かい要件が定められているため、短くても数年単位の準備期間が必要になるだろう。
Q2.プライム市場(再編後)の上場要件は厳しい?
2022年の市場再編が実施されると、プライム市場(現東証一部)の要件は以下のように変更される。
株主数のように緩和される要件もあるが、特に経営成績や財政状況に関する要件はますます厳しくなる。また、実質要件(数値化されない基準)についてもコンセプトに則って変更されるため、東証一部より上場基準が下がる可能性は低い。
Q3.東証一部上場にデメリットはある?
前述ではメリットを紹介したが、東証一部上場には次のようなデメリットもある。
・社会的な責任が増大する
・会社情報の開示が義務づけられる
・上場の維持コストがかかる
・上場準備が長引くと従業員に負担がかかる など
また、上場をすると投資家の動向に経営が左右されるため、不況などの影響で投資規模が小さくなると、経営面に大きなダメージが及ぶ可能性も考えられる。
Q4.上場を目指す場合の相談先は?
上場を目指す場合はさまざまな準備や知識が必要になるため、以下のような専門家に相談することも検討したい。
・コンサルティング会社
・日本取引所グループが運営するIPOセンター
・上場を専門とする弁護士、会計士、税理士 など
ただし、専門家によってサポートしてくれる範囲や得意分野などは異なるため、相談先を選ぶ際にも入念な情報収集が必要になる。
上場を目指すかどうかは状況次第で判断を
東証一部は多くの企業にとってステータスであり、上場をするだけでさまざまなメリットが発生する。ただし、2022年の再編後には市場の名称・要件が変更されるため、これまでとは状況が変わる可能性も考えられる。
最近では、資金調達の多様化によって上場自体の意味合いも変わりつつあるので、「上場を目指すかどうか?」はその時の状況を見て慎重に判断したい。