銀行融資を受けやすい経営者が事前に準備している「審査のポイント」
(画像=kanchanachitkhamma/EyeEm/stock.adobe.com)

経営者の中には、銀行から融資を受けることをためらっている人もいるのではないだろうか。融資を受けずに資金繰りを回すことができるなら銀行融資を受けなくても問題ないが、会社経営をしているとなかなかそうはいかない。中小企業の多くが銀行などの金融機関からの融資で運転資金を賄っているのが実情だ。

本来融資は健全経営していれば受けられるものであり、必要以上に恐れる必要はない。事業資金の融資を受けるときの審査のポイントを押さえておけば、資金調達を円滑に進めることができ不安も解消されるだろう。本稿では、中小企業が融資を受けるときの心構えや融資の種類、審査のポイントなどについて解説していく。

目次

  1. 銀行から融資を受ける前の心構え
    1. 融資申し込みの前に準備しておきたいこと
    2. 定量分析と定性分析
  2. 銀行融資の種類
    1. 銀行融資の種類は3つ
    2. 金融機関の種類によっても方針が異なる
  3. 銀行の融資に審査基準はあるのか
    1. 金融機関マニュアルは廃止
    2. 返済能力が審査のポイント
  4. 企業の信用力が融資のカギ

銀行から融資を受ける前の心構え

各金融機関によって経営理念や方針は異なり、蓄積されたデータによる貸し倒れの確率も変わる。そのため融資の審査基準は、各金融機関の経営戦略や方針によって若干異なる可能性は高い。基本的に審査基準を公表する金融機関は少ないが、一定の審査基準はあるといえる。厳しい融資の審査に通過するためには、事前に審査のポイントを理解したうえで準備しておくことが大切だ。

融資申し込みの前に準備しておきたいこと

・1. 経営者のビジョンを明確にする
金融機関は財務内容だけでなく経営者の人柄や信頼性も重要視する。そのため経営者のビジョンがあいまいだとマイナスのイメージを与えかねない。安定した事業の継続性を判断するには、経営者のビジョンも大切になる。

・2.経営にかかわる数値は把握する
銀行などの金融機関は、決算書の財務内容を重要視する。なぜなら銀行の通常融資もビジネスローンも決算書や確定申告書などの事業にかかわる数値で審査の可否を判断するからだ。しかし融資の判断は、それだけではない。決算書の売上や経費の推移は、過去のデータにすぎず融資の審査をするうえでは、現状や今後の動向を把握することも大切となる。

そのため経営者としては、金融機関の担当者へ十分に伝えるためにも「売上の見込み」「現状の進捗状況」「利益率」などの数値は、普段から把握しておかなければならない。

・3.融資が必要な理由と使い道を明確にする
不正融資の報道を耳にすることがあるが、その中でも資金使途(使いみち)を偽って融資を受けるケースは少なくない。事業資金の融資を受けるには、資金の目的を明確にしておくことが必要だ。資金使途を偽って申し込みをすれば詐欺罪で訴えられることもある。また個人と法人は別の人格であり事業資金で借り入れした資金を個人的な資金へ流用することは認められない。

そのため事業資金と個人の生活資金は、厳密に区別して管理する必要がある。

・4.質問に対して答えられるように準備する
作成および提出する書類には、信ぴょう性が求められることにも留意しておこう。事業計画書が「絵に描いた餅」では、金融機関から信頼を得ることはできない。融資を申し込む際には、金融機関の担当者から提出した書類の数値について質問されることがある。正確な数値と根拠に裏付けられた書類だからこそ信頼されるのだ。

そのため経営者であれば担当者からの質問に対してスムーズに回答できるようにしておかなければならない。たとえ赤字の決算だったとしても今後の事業の見通しがきちんと説明できれば融資を受けられることも十分あり得る。

・5.保証人・担保の有無
現在は、無担保無保証人で融資を受けられることが多くなっている。しかし中小企業の場合は、まだまだ金融機関から代表者が連帯保証人になることを条件とされるケースは多い。融資金額が高額となる場合には、不動産などの担保を求められることもある。金融機関にとっては、最終的に融資した資金が回収できることが重要であり、連帯保証人や担保の有無も融資の判断材料の一つだ。

そのため代表者として「連帯保証人になることができるのか」「提供する担保があるのか」について事前に検討しておきたい。

・6.事業計画書の作成や試算表の準備
通常融資を申し込む際には、直近の決算書を3期分提出することになる。しかし決算書を提出したとしても決算期から3~6ヵ月経過している場合は、試算表の提出を求められる可能性が高い。審査の状況次第では、事業計画書や資金繰り表の作成を求められることもあるだろう。融資の審査をするうえでは、企業の財務内容を実態で判断する必要がある。

今後の見込みや足元の状況は事業計画書や試算表を見なければ分からない。また開業・創業時には創業計画書、業況が悪化している場合には改善計画書など融資の目的によって使い分けることも必要だ。

定量分析と定性分析

・定量分析とは
定量データを分析することであり数値で表されるものがベースとなる。例えば財務諸表に基づく自己資本比率や売上高営業利益率、純資産、債務償還年数などが該当するだろう。企業の財務指標を安全性、収益性、成長性、返済能力など指標から分析・評価する方法が定量分析である。

・定性分析とは
数字では表れないものがベースとなる。経営者の資質や代表者の信用、企業の経営方針や将来性などが該当。主に数字では表すことができない業績に貢献する分野を分析・評価する方法が定性分析である。

銀行融資の種類

銀行融資の種類は、大きく分けると「プロパー融資」「ビジネスローン」「信用保証協会の保証付融資」の3つ。融資の金利を決める要素には、金融機関の「資金調達コスト」「デフォルト(貸し倒れ)リスク」「経費率」「利益率」があげられる。一般的には、審査が通りやすいほど金利が高くなりリスクが高いほど金利は高くなる傾向だ。

銀行融資の種類は3つ

・1.プロパー融資
プロパー融資は、すべて各銀行独自の審査次第だ。財務内容が良好で厳しい審査を通過すれば低金利で融資を受けることも期待できるだろう。継続的な融資取引を続けることで顧客紹介してくれるなどさまざまな相談に乗ってもらえるメリットがある。

・2.ビジネスローン
主に中小企業向けの事業性無担保ローン。審査がスピーディなことが特徴だ。ノンバンク系では、即日融資が可能な金融機関もあるが金利は高めに設定されていることが多い。

・3.信用保証協会の保証付融資
中小企業が銀行で融資を受ける際に利用することが多い。返済ができなくなったときには、保証協会が借り主に代わって金融機関へ立て替えて返済(代位弁済)するため、金融機関としてはリスクが低く貸し出しやすい一面がある。しかし利息以外にも保証協会へ支払う保証料が発生するため、実質的な金利負担は、プロパー融資よりも高い。

金融機関の種類によっても方針が異なる

金融機関の世界は、競争が激しく金利などに大きな差はなくなってきている。しかし金融機関の種類によって基本的な方針は異なることは知っておきたい。

・1.メガバンク
メガバンクとは、預金残高や貸出残高がけた外れに大きい都市銀行を指す。代表的な銀行は三大メガバンクと呼ばれる以下の銀行だ。

  • 三菱UFJフィナンシャルグループ
  • 三井住友フィナンシャルグループ
  • みずほフィナンシャルグループ

グループ企業の強みを活かした総合的な取引が可能で事業承継や相続対策、M&Aなど相談できる分野は広い。メガバンクは金融機関の中で最も融資基準が厳しく、金利が低いといわれている。そのため難易度が高く感じてしまう経営者もいるかもしれない。しかしきちんと相談すれば問題なく対応してくれる。

・2.地方銀行
地方銀行には、全国地方銀行協会に加盟する銀行(第一地銀)と第二地方銀行協会に加盟する銀行(第二地銀)がある。設立された歴史に違いがあるが、それぞれに地域経済の発展に貢献することを目的としていることは同じだ。地元企業に親身に対応してくれる傾向のため、銀行として事業承継や相続対策、M&Aなど幅広く相談できるだろう。

・3.信用金庫
信用金庫は信用金庫法に基づいて設立されている非営利目的の金融機関。従業員数や資本金などの加入要件の基準があるものの地域の発展に貢献する目的から地元企業に密着した営業を行っているのが特徴だ。金利はメガバンクや地方銀行よりも高い傾向といわれるが、その差は埋まってきておりそれほど遜色のないものになってきている。

銀行の融資に審査基準はあるのか

融資を断られる場合は、なにかしらの理由がある。一般的に金融機関は、融資の審査基準を公開していることは少ないが、事前に断られるポイントを知っておくことで審査に通る可能性が高くなるだろう。例えば以下のような理由で断られることがある。

  • 財務状況が健全でない
  • 融資額の返済源や目的が明確でない
  • 税金や社会保険料に滞納がある
  • 他行からの高金利の借り入れがある
  • 担保や保証人が用意できない
    など

もし該当する場合は、解消してから融資申し込みを行うことも一つの方法だ。

金融機関マニュアルは廃止

金融庁の「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」には、銀行融資の審査基準の中で重要視されていた債務者区分というものがある。債務者区分とは、以下の5つを指す。

  • 正常先
  • 要注意先
  • 破綻懸念先
  • 実質破綻先
  • 破綻先

「破綻懸念先」以下に区分されると現実的に金融機関から融資を受けることは難しくなるだろう。金融検査マニュアルとは、金融庁の検査官が金融機関を検査する際に用いる手引書のこと。金融機関はこれを参考に、融資の方針や内部規程などを作成していたが、2019年12月に金融検査マニュアルは廃止された。

金融庁は「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」を策定し、従来のような過去の実績だけでなく将来を見据えた信用リスクを勘案するという方針を示している。引当・償却などの現状の実務を否定するものではなく、現在も債務者区分の考え方は残っているだろう。しかし積極的に顧客を支援・育成する金融機関が増えているのも事実だ。

金融機関の経営理念や経営戦略・方針は、金融機関ごとに個性があり審査に対する考え方もそれぞれに異なる。

返済能力が審査のポイント

中小企業が銀行から融資を受けるときの審査のポイントを知ることは重要だ。以下の3つのポイントを理解し日ごろから注意を払う必要がある。

・1.事業としての安定性と返済能力
金融機関にとって融資は、回収するまでが仕事である。そのため融資を受けるには、返済能力が重視されることは当然だ。それらを踏まえれば、企業の財務内容から事業としての安定性や健全性がチェックされることは間違いないといえる。経営者としては日ごろから自社の経営指標を分析しつつ、健全な財務内容となるように経営していくことを心がける必要がある。

・2.借入希望額と資金使途
金融機関は、融資の資金使途や借入希望額、返済の見通しをチェックする。そのため「資金使途を明確にする」「回収原資を明確にする」といったことが理路整然と説明できれば金融機関の信頼を得ることにつながるだろう。

・3.返済の滞納や税金の滞納の有無
返済状況は、どんな借入方法においてもチェックされる。申し込む銀行以外の金融機関でも返済が遅延していることが発覚すれば、融資を見送られることになりかねない。また納税証明書や決算書から税金の滞納の有無もチェックされる。滞納があった場合は、信用力がないと判断され融資は受けられないだろう。そのため返済や税金の滞納がないように普段から細心の注意を払う必要がある。

企業の信用力が融資のカギ

融資の審査基準は金融機関ごとに異なるが、融資を断られてしまう場合は、なにかしらの理由がある。経営者として融資を断られる一般的な理由を知っておけば、一定の審査基準が見えてくるだろう。事前に審査のポイントを押さえておけば、審査に通る可能性を高めることも可能だ。融資の審査のポイントは債務者の返済能力の有無であり、経営者としての心構えが返済能力に現れる。

また何よりも重要なのは、普段から企業の信用を高めることである。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
無料会員登録はこちら