バブル期の日本は、株価と不動産の高騰、円高により海外投資を積極的に行ったことで知られる。

当時は、当時の東京都の山手線内側の土地価格でアメリカ全土が買える。と言われたほどだ。

1987年から始めったフォーブス誌の「ビリオネアランキング」には、西武鉄道グループの元オーナーの堤義明と森ビル創業者の森泰吉郎が8年間トップに君臨し続けたことからも、当時の日本の不動産業がどれだけ盛況だったかがわかる。当時は、日本企業が豊富なジャパンマネーで世界を買い叩いているかのような扱われ方を国内外でされていたが、バブルが崩壊し、令和になるとそのM&Aの真価が明らかになった会社もある。

バブル期にM&Aを行った会社の内、長期的に投資が成功したと思われる例を紹介する。

ブリヂストン(米国ファイアストンのM&A)

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ブリヂストンは1930年にゴム底の地下足袋会社から独立したタイヤメーカーだ。1960年代から車社会の台頭を見込み国内でもいち早く海外進出を進めていた。手始めとして、1967年にブリヂストン・アメリカを創業、1983年にはアメリカのファイアストン社のナッシュビル工場を買収、5年後の1988年にはファイアストン社を26億ドルで買収、子会社化している。

ファイアストン社はフォード車の純正タイヤサプライヤーであり、北欧、ヨーロッパに製造拠点と販路を持っていた。また、ファイアストン社というブランドイメージ時代も世界進出には欠かせない要素だったものと思われる。ブリヂストン社はファイアストン社ブランドをそのまま残し、北米で「ブリヂストン/ファイアストン・インク」を設立、欧州では「ブリヂストン/ファイアストン・ヨーロッパ エス エー」を設立した。

その後、ブリヂストン社はヨーロッパ、中東、インド、東南アジアなどに進出を果たし順調な成長を遂げている。2020年に米専門誌が発表した世界のタイヤ売上ランキングによると1位がブリヂストン(約2兆4416億円)で、2位のミシュラン(220億ドル)に6億ドルの差をつけている。

任天堂(米国シアトルマリナーズ)

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任天堂は元々京都市で花札やトランプ、カルタなどを製造している会社である。以外にも、家庭用、業務用テレビゲームメーカーとしては国内でも後発の類になる。

任天堂の名前が一般に知られるようになったのは、1980年に発売された携帯ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」(世界で4340万個を販売)、1983年に発売された家庭用テレビゲーム機「ファミリーコンピュータ」(2004年まで販売され全世界累計で6191万台を販売)のヒットを受けたところが大きい。そんな任天堂だが、海外進出を果たした時期は早く、1980年にはすでに米国ニューヨーク州に現地法人Nintendo of America Inc.(NOA)を設立、1年後にはワシントン州シアトルのレドモンドという場所に本社を移設している。

任天堂と当時の代表取締役社長 山内溥(やまうち ひろし)、NOAの代表取締役社長 荒川實(あらかわ みのる)へシアトルマリナーズ買収の打診があったのは1991年のことである。当時、経営不振によりフロリダ州タンパへの移転が検討されていたシアトルマリナーズは地元オーナーを探していたところであり、当時アメリカでも飛ぶ鳥を落とす勢いの任天堂社に打診が行ったのも当然の流れだった。

シアトル側からの打診にも関わらず、当時のジャパンバッシングなどの影響により大きな抵抗があったといわれている。1992年に山内氏が個人として出資し、50%を超えない形で筆頭オーナーとなり、日本人として初めて大リーグ球団のオーナーに就任した。(のちに、NOAへ山内氏の株が譲渡され、NOAの比率が55%となっている。)

山内氏は現地を訪問したことはなかったといわれ、NOAの会長ハワード・チャールズ・リンカーン氏がシアトルマリナーズの会長兼CEOを2016年まで務めていた。その後、リンカーン氏の勇退と同時にNOAが所有していた55%のうち、45%が他の株主たちに売却され、任天堂がオーナー時代は終わりをつげた。ちなみに当時、山内氏は約1億ドルで株を取得し、売却時には任天堂は6億3000万ドル(約670億円)の売却益を得たといわれている。

ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(コロンビア・ピクチャーズ)

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バブル期のM&Aでも特に話題になったのがソニーのコロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメント買収である。1989年、ソニーはコロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメントとその保有するすべてのエンタテインメント関連資産(映画、テレビドラマ、音源など)をコカコーラ社から買収した。

当時、コロンビア・ピクチャーズは「ゴーストバスターズ」「スタンドバイミー」などの大ヒットを記録しており、「アメリカのエンタメを日本が買った」状態といえた。

買収理由としては、オーディオ、PCなどの有形商品からエンタメ、ソフトウェアなどの無形商品への多角化、シフトチェンジを狙ったものとの見方が強い。

買収後、スティーブン・スピルバーグ監督の「フック」(1991年)、クリント・イーストウッド主演「ザ・シークレット・サービス」(1993年)、トム・クルーズ主演の「ザ・エージェント」(1996年)など大規模な映画が制作されたが、いずれもその年の興行成績TOP3にも入らず、大ヒットとまではいかなかった。もっとも、1991年には「ターミネーター2」が、1993年には「ジュラシックパーク」が、1996年には「インディペンデンス・デイ」などの大ヒット作がそれぞれ首位に君臨していたことも大きい。

しかし、1997年には「メン・イン・ブラック」「エアフォース・ワン」など大ヒット作の影響もあり、歴代興行収入記録を塗り替えている。その後も、2012年には「007 スカイフォール」(興行成績11億0856万ドル)、2019年には「スパイダーマン・ファー・フロム・ホーム」(興行成績11億3192万ドル)などヒット作を発表。特に、「007 スカイフォール」は007シリーズの中でも一番の興行収入を記録し、アカデミー賞も受賞している。

ニッカウヰスキー株式会社(ベン・ネヴィス蒸溜所)

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1825年創業のベン・ネヴィス蒸溜所はスコットランドにあるウイスキーメーカー。蒸溜所の名前の由来になった標高1343mのベン・ネビス山の雪解け水と清涼な空気から生まれる香り高いスコッチウイスキーには定評がある。

しかし、ニッカウヰスキーが工場を買収した1989年には、工場は経営難から閉鎖されており、日本企業が再起動することに対し地元では好意的な反応があったといわれている。ベン・ネヴィス蒸溜所の代表的な銘柄フォートウィリアムは日本では1000円程度で購入できる人気銘柄として幅広い層に選ばれている。

サントリーホールディングス(ボウモア蒸留所)

1779年創業のボウモア蒸溜所は「スモーキーフレーバー」で知られる日本でも人気のスコッチウイスキーメーカーである。自社でピート採掘やフロアモルティング(大麦に熱を加えて発芽させる工程)を行う数少ない蒸溜所だったが、サントリーが買収した当時は新しく蒸留が行われておらず、樽も古いものを使いまわすなどその凋落ぶりが目立っていたといわれている。

1989年に30%の資本参入を経て、1994年には完全子会社化された。子会社化された後も、ボウモアの手間と時間のかかる製法は維持され、現在もスコッチウイスキーを代表する銘柄の1つであることは間違いない。

また、近年のウイルスブームを受け、1850年製造のシングルモルトが2万9400ポンド(約690万円)で落札されるなど、その世界的な地位を確固たるものにしている。また、サントリーはウイスキーのマッカラン、バーボンのジム・ビームなど現在に至るまで様々な酒造メーカーに出資、買収(子会社化)を行っている。

まとめ

バブル期のM&Aはジャパン・バッシングなども相まって、日本企業が豊富な資金力で海外の伝統、文化を買い占めたかのような扱われ方をされている。

実際に、ロックフェラーセンターの買収のように後々成功したとは言い難い投資もあったことは事実である。ただし、上記のように日本が行ったM&Aは基本的には赤字の現地企業を買収したものであり、日本企業の助力がなければ再建の見通しが立たなかったであろう会社も少なくない。

令和の今振り返ってみると、上記のような日本企業がM&Aを行ったことでM&Aの本来のメリットである「社名・ブランドを存続させること」「地元の雇用を維持すること」は達成できたといってよく、日本企業にとっても海外進出の足掛かりになるなどWIN-WINの関係ができていたといえる。

売却益を目的とした短期的なM&Aではなく、会社の成長を見据えてのM&Aこそ、本来あるべき姿なのではないだろうか。

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