内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

会計とは、企業の財政状態や経営成績を表す計算処理だ。中小企業経営者のなかには、財務担当者任せにして会計知識が薄かったり、関心がなかったりする人もいるかもしれない。会計を理解すると、会社の実態をある程度把握できる。これは、自社だけでなく他社の実態を把握するのにも役立つ。国が変わっても同様だ。

近年では、外国企業と取引をする日本の中小企業も増えてきているため、時代の流れに合わせて国際会計基準にも関心を持つようにしたい。ただ国や地域ごとに会計ルールが少し異なる。今回は、国際会計基準の概要をはじめ、日本の会計基準との違いなどを簡単に解説していく。

目次

  1. 国際会計基準とは?
  2. 中小企業経営者が知っておきたいポイント
  3. 国際会計基準の歴史
  4. 国際会計基準と日本における会計基準の違い3つ
    1. 違い1.原則主義と細則主義について
    2. 違い2.貸借対照表と損益計算書について
    3. 違い3.計上する金額とタイミングについて
  5. 国際会計基準の特徴
  6. 国際会計基準のメリット・デメリット
    1. 国際会計基準のメリット
    2. 国際会計基準のデメリット
  7. 国際会計基準に関するQ&A
    1. Q.IFRSと日本基準の違いは?
    2. Q.IASとIFRSの違いは?
    3. Q.海外の会計基準とは?
    4. Q.国際会計基準 何が変わるか?
国際会計基準とは?日本における会計基準との違いなどを簡単に解説
(画像=insta_photos/stock.adobe.com)

国際会計基準とは?

国際会計基準(IFRS)とは、International Financial Reporting Standardsの略で和訳すると「国際財務報告基準」と呼ばれ国際会計基準審議会(IASB)が策定する会計基準のことである。各国では、自国の会計基準を策定しており、企業はこの会計基準にもとづき決算書(財務諸表)を作成し、株主への報告、税務申告などを行う。

しかし国境をまたいで事業活動を行う企業も多くなっていることから、どこの国の企業であっても共通のモノサシで企業の実態を把握できることを目指して「世界共通の会計基準」として作成された。わが国でも国際会計基準の適用企業は毎年増え続けており、2023年2月時点で251社が適用済み、適用の決定をしている企業は9社ある。

個々の国際財務報告基準および国際会計基準は、国際会計基準審議会が定款の適切な手続にもとづいて順次改訂していった。すべての基準をまとめて呼ぶときはIFRSを用いる。

中小企業経営者が知っておきたいポイント

そもそも中小企業は上場企業に比べて経理人員が少なく、高度な会計処理に対応できる十分な能力や経理体制が整っていないところも少なくない。また会計情報の開示先が限定されていたり会計実務が会計基準に定められていなかったりするケースもある。

そのような事情もあり、中小企業の実態により沿うと考えで作られた「中小企業会計指針」および「中小企業会計要領」といった会計ルールが別途作成されている。ただなかには、少子高齢化が進む日本よりも海外の需要を掘り起こそうと考えている中小企業経営者も多いのではないだろうか。

実際、国外に取引先を持つ中小企業も増えてきている。そうであれば「世界共通の会計基準」である国際会計基準について概要だけでも理解しておくことがおすすめだ。なお「中小企業会計指針」「中小企業会計要領」といった中小企業独自の会計ルールは、中小企業の会計基準適用を妨げるものではない。

企業経営者は、日本の会計知識にも関心を持ち国際会計基準との違いを認識しておくのが望ましいといえる。

国際会計基準の歴史

国際会計基準は、1970年代にその歴史が始まった。各国が独自に異なる会計基準を整備していたこともあり、資本取引をはじめとする投資がグローバル化するなかで、国際間の企業比較が難しいとされていた。そこで1973年に国際会計基準委員会が設立され、国際会計基準の策定に着手。その後、国際会計基準委員会は国際会計基準審議会に改組され、IFRSの開発と改定が進んでいった。

2005年12月期以降、EU域内の上場企業には、IFRSにもとづく連結財務諸表の作成が義務づけられた。その後、米国会計基準を所掌する米国財務会計基準審議会(FASB)や、日本の会計基準を所掌する企業会計基準委員会(ASBJ)における会計基準の差異は収斂していった。2010年6月にはわが国で初めて、IFRSにもとづく連結財務諸表を含んだ有価証券報告書が提出された。

国際会計基準と日本における会計基準の違い3つ

国際会計基準と日本における会計基準の違いを3つ解説していく。

違い1.原則主義と細則主義について

国際会計基準は原則主義、日本の会計基準は細則主義といわれている。

【原則主義】
原則主義とは、基本的な枠組みだけを規定し、細かい部分は各々の会社にて基準の趣旨を勘案して処理する考え方だ。原則主義の長所は、本質を理解できれば各企業に応じた会計処理を採用できる点だ。短所は、同じ取引でも企業によって処理が異なる可能性があり、比較の点で問題が生じること。また会計処理の担当者が会計基準を理解し、その処理を採用した理由を説明できなければならない。

【細則主義】
細則主義とは、できるだけ細かいケースまで処理の方法を決め、会計処理における恣意性を可能な限り排除する考え方だ。細則主義の長所は、細部まで定めていることからブレが生じず、企業間での比較可能性が担保されることだ。短所は、あまりにも細かいところまで決められているので、形式的に要件を満たすよう思い通りに処理してしまうことである。

粉飾決算の温床となり、監査人の立場からも形式的には要件を満たしているため、指摘を行いにくい。

違い2.貸借対照表と損益計算書について

国際会計基準は貸借対象表、日本の会計基準は損益計算書を重視しているといえる。貸借対照表重視の会計的思考を資産負債アプローチといい、損益計算書重視の会計的思考を収益費用アプローチという。資産負債アプローチでは、会社の財政状態や企業価値についての情報価値が高いと考え、損益計算書は貸借対照表の変動にともなって作成される。

収益費用アプローチでは、毎年の損益計算書による経営成績の評価が重要であり、貸借対照表には過去や将来の収益費用となるべき収入支出が計上されているとも考えられていた。

違い3.計上する金額とタイミングについて

国際会計基準は貸借対照表を重視するため、資産や負債をどの金額で計上するかが問題となる。逆に日本の会計基準では、収益や費用をどの金額でいつ計上するかが問題となる。わが国では伝統的に発生主義と実現主義という基準で会計処理を行ってきた。発生主義とは、現金の収入や支出とは無関係に、経済的事象の発生あるいは変動にもとづきその時点で収益または費用を計上する考え方だ。

実現主義とは、収益の獲得が確実となった時点で収益について計上する考え方である。

国際会計基準の特徴

さまざまな基準のなかでも、国際会計基準の特徴としてよく挙げられるのが、公正価値である。公正価値とは時価の一種であり、IFRS第13号によると、「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」である。

引用:審議事項5-2(企業会計基準委員会)

ここで問題となるのは、「市場参加者間の秩序のある取引」が示す意味だ。「市場参加者間の秩序のある取引」からは、公正価値が市場に立脚していることが分かる。企業の意図や能力といった固有の視点は関係なく、当該測定対象となっている資産や負債について、市場が存在すればその価格が公正価値となる。

「秩序のある取引」とあるように、異常な品不足や投げ売り状態など、通常ではない状態の市場において形成された価格は、秩序のある取引により形成されたことにはならない。ただ、個別性の高い資産や負債においては、必ずしも市場が存在するとは限らない。市場が存在しない、もしくは複数の市場が存在する場合、資産の特性を企業が考慮しつつ合理的な方法で公正価値を算定する。

国際会計基準のメリット・デメリット

ほとんどの企業は日本の会計基準を適用しているが、一部の企業はそのほかの会計基準を適用しており、そのなかでも国際会計基準を採用しているケースが多い。国際会計基準を導入するメリット・デメリットを確認してみよう。

国際会計基準のメリット

国際会計基準を導入するメリットは、海外の投資家や子会社、M&Aなどに関連する。いずれも、国家間における会計基準の差異がなくなることによる効果だ。まず、国際会計基準による決算書は、海外の投資家が読み慣れた書類である。日本の会計基準で作成された書類よりも、海外投資家からの投資が期待できる

連結財務諸表を作成する過程や管理会計において、会計基準の差異による事務コストの低減、経営指標に関するコミュニケーションの円滑化が見込まれる。M&A時には、のれんに関する会計処理の違いにより、利益が大きく計上できる利点がある。日本の会計基準では償却が必要であるが、国際会計基準では償却が不要である。

国際会計基準のデメリット

まずは、会計制度が難解である。そのため、会計の専門家を雇用する必要があり、追加でコストがかかる場合が多い。さらに、会計基準に英語で触れる必要性が生じ、規定自体も頻繁に改訂されるので、事務処理コストが大きく増大する。また、原則主義である国際会計基準への移行は、説明責任を果たすために大量の注記が要求される。

これまで日本基準を利用していたときにはなかった作業も行わなければならない。日本の市場に上場している場合、日本基準にて会計処理を行っている会社との比較が困難になる。また、中小企業の会計に適用するときも調整が必要になるだろう。現状、中小企業は日本の会計基準を一部簡便化した基準を採用している。中小企業の事務負担に考慮しながら、国際会計基準の適用可能性を検討していく必要がある。

以上、国際会計基準の概要に始まり、日本における会計基準との違いなどを解説した。国際会計基準の適用を検討している企業は、メリットやデメリットを把握しておくとよいだろう。

国際会計基準に関するQ&A

Q.IFRSと日本基準の違いは?

A. IFRSと日本基準の主な違いとしては、以下の3つの点が挙げられる。

  • 原則主義か細則主義か
  • 利益計算の仕方
  • 財務諸表の表示方法

まずIFRSは「原則主義」で日本の会計基準は「細則主義」をとっている。原則主義とは、基本的な枠組みだけを規定し細かな部分は各会社が基準の趣旨を勘案して処理する考え方だ。またIFRSは、利益計算を「資産負債アプローチ」、日本基準は「収益費用アプローチ」にて行う。

  • 資産負債アプローチ:貸借対照表(企業の財政状態や企業価値)をもとにする方法
  • 収益費用アプローチ:損益計算書(毎年の経営成績)をもとにする方法

原則主義と細則主義の違いからも分かるように、財務諸表の表示においても日本基準では、財務諸表に表示すべき内容について名称、数値基準などが細かく規定されている。一方IFRSでは、表示すべき最低限の項目が決められているにすぎない。ただしその分、きちんとした説明責任を果たすべく注記すべきことが細かく規定されている。

Q.IASとIFRSの違いは?

A. IASとIFRSは、どちらも国際会計基準だが会計基準を作成した母体機関が異なる。

  • IAS(国際会計基準):国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee:IASC)が作成した会計基準
  • IFRS(国際財務報告基準):国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:IASB)が作成した会計基準

IASCは、IASBの前身機関でありIASCの活動を受け継ぐ形でIASBが設立されるとともに国際会計基準を継承、現在も一部が機能している。なおIFRSは、第17号まで作成されているが、IASは第41号まであり現在も有効だ。基準自体に差異はないため、既存のIASの基準を改定しただけのものであれば、従来通りのIAS○号というようにIASの呼称で使用される。

IASとIFRSを総称してIFRSsと記すこともある。

Q.海外の会計基準とは?

A.会計基準は、各国それぞれの会計基準委員会(審議会等)が自国の経済環境や歴史に合った基準を作成しているのが特徴だ。例えば日本では「企業会計原則」をベースに企業会計基準委員会が設定した会計基準を合わせた会計基準(日本基準)が採用されている。

一方米国では、米国財務会計基準審議会(FASB)が作成した米国会計基準があり、米国株式市場に上場している企業は米国会計基準にもとづき財務諸表を作成しなければならない。そもそも会計基準は、基準に沿った財務諸表を作成し企業を比較するために設定されたものである。

しかし国際市場では、基準の異なる財務諸表同士を比較するのは難しいため、世界共通の会計基準を目指し、IFRS(国際会計基準)が作成された。EU域内の上場企業は、2005年からIFRS(国際会計基準)の導入が義務づけられている。

Q.国際会計基準 何が変わるか?

A. 国際会計基準(IFRS)と日本の会計基準では、原則やルールに違いがあり、日本においては2023年2月時点で国際会計基準の適用は任意とされている。しかし2021年4月以後に始まる事業年度から、日本基準にも「収益認識に関する新しい会計基準(新収益認識基準)」として新たな売上計上基準の適用がスタートした。

中小企業は従来通りの会計基準で問題がないが、新収益認識基準の適用を受ける企業と取引がある場合、契約の結び方が変わるなどの影響を受ける可能性がある。なぜならIFRSでは、提供実態を重視するため「経済価値が買手に移転している」場合に売上計上するからだ。そのため場合によっては、契約書上の金額と異なる売上計上をするケースも発生する。

それにともない、例えば従来、物品販売とそれを使ったサービス提供を一括で契約しているといった場合、それぞれの提供に分けて契約を求められることが考えられる。

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