

会計とは、企業の財政状態や経営成績を表す計算処理だ。会計を理解すると、国の言語がわからなくても、会社の実態をある程度把握できる。ただ、国や地域ごとに会計ルールが少し違う。今回は、国際会計基準の概要をはじめ、日本の会計基準との違いなどを簡単に解説していく。
目次
国際会計基準とは?
国際会計基準の適用企業は、わが国でも毎年増え続けており、現在でも適用を新たに表明する企業が複数ある。
まず、国際財務報告基準(IFRS)とは、国際会計基準審議会(IASB)が策定する会計基準である。
前身の国際会計基準委員会(IASC)時代に作られた会計基準が、国際会計基準(IAS)として知られていた。国際会計基準は、国際会計基準審議会に継承され、現在も一部が機能している。
個々の国際財務報告基準および国際会計基準は、国際会計基準審議会が定款の適切な手続にもとづいて順次改訂していった。すべての基準をまとめて呼ぶときはIFRSを用いる。
国際会計基準の歴史
国際会計基準は、1970年代にその歴史が始まった。各国が独自に異なる会計基準を整備していたこともあり、資本取引をはじめとする投資がグローバル化するなかで、国際間の企業比較が難しいとされていた。
そこで、1973年に国際会計基準委員会が設立され、国際会計基準の策定に着手した。
その後、国際会計基準委員会は国際会計基準審議会に改組され、IFRSの開発と改定が進んでいった。
2005年12月期以降、EU域内の上場企業には、IFRSにもとづく連結財務諸表の作成が義務づけられた。
その後、米国会計基準を所掌する米国財務会計基準審議会(FASB)や、日本の会計基準を所掌する企業会計基準委員会(ASBJ)における会計基準の差異は収斂していった。
2010年6月には我が国で初めて、IFRSにもとづく連結財務諸表を含んだ有価証券報告書が提出された。
国際会計基準と日本における会計基準の違い3つ
国際会計基準と日本における会計基準の違いを3つ解説していく。
違い1.原則主義と細則主義について
国際会計基準は原則主義、日本の会計基準は細則主義といわれている。
【原則主義】
原則主義とは、基本的な枠組みだけを規定し、細かい部分は各々の会社にて基準の趣旨を勘案して処理する考え方だ。
原則主義の長所は、本質を理解できれば各企業に応じた会計処理を採用できる点だ。
短所は、同じ取引でも企業によって処理が異なる可能性があり、比較の点で問題が生じることだ。また、会計処理の担当者が会計基準を理解し、その処理を採用した理由を説明できなければならない。
【細則主義】
細則主義とは、できるだけ細かいケースまで処理の方法を決め、会計処理における恣意性を可能な限り排除する考え方だ。
細則主義の長所は、細部まで定めていることからブレが生じず、企業間での比較可能性が担保されることだ。
短所は、あまりにも細かいところまで決められているので、形式的に要件を満たすよう思い通りに処理してしまうことである。
粉飾決算の温床となり、監査人の立場からも形式的には要件を満たしているため、指摘を行いにくい。
違い2.貸借対照表と損益計算書について
国際会計基準は貸借対象表、日本の会計基準は損益計算書を重視しているといえる。
貸借対照表重視の会計的思考を資産負債アプローチといい、損益計算書重視の会計的思考を収益費用アプローチという。
資産負債アプローチでは、会社の財政状態や企業価値についての情報価値が高いと考え、損益計算書は貸借対照表の変動にともなって作成される。
収益費用アプローチでは、毎年の損益計算書による経営成績の評価が重要であり、貸借対照表には過去や将来の収益費用となるべき収入支出が計上されているとも考えられていた。
違い3.計上する金額とタイミングについて
国際会計基準は貸借対照表を重視するため、資産や負債をどの金額で計上するかが問題となる。
逆に日本の会計基準では、収益や費用をどの金額でいつ計上するかが問題となる。わが国では伝統的に発生主義と実現主義という基準で会計処理を行ってきた。
発生主義とは、現金の収入や支出とは無関係に、経済的事象の発生あるいは変動にもとづきその時点で収益または費用を計上する考え方だ。
実現主義とは、収益の獲得が確実となった時点で収益について計上する考え方である。
国際会計基準の特徴
さまざまな基準のなかでも、国際会計基準の特徴としてよく挙げられるのが、公正価値である。
公正価値とは時価の一種であり、IFRS第13号によると、「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」である。
ここで問題となるのは、「市場参加者間の秩序のある取引」が示す意味だ。
「市場参加者間の秩序のある取引」からは、公正価値が市場に立脚していることがわかる。企業の意図や能力といった固有の視点は関係なく、当該測定対象となっている資産や負債について、市場が存在すればその価格が公正価値となる。
「秩序のある取引」とあるように、異常な品不足や投げ売り状態など、通常ではない状態の市場において形成された価格は、秩序のある取引により形成されたことにはならない。
ただ、個別性の高い資産や負債においては、必ずしも市場が存在するとは限らない。市場が存在しない、もしくは複数の市場が存在する場合、資産の特性を企業が考慮しつつ合理的な方法で公正価値を算定する。
国際会計基準のメリット・デメリット
ほとんどの企業は日本の会計基準を適用しているが、一部の企業はそのほかの会計基準を適用しており、その中でも国際会計基準を採用しているケースが多い。
国際会計基準を導入するメリット・デメリットを確認してみよう。
国際会計基準のメリット
国際会計基準を導入するメリットは、海外の投資家や子会社、M&Aなどに関連する。いずれも、国家間における会計基準の差異がなくなることによる効果だ。
まず、国際会計基準による決算書は、海外の投資家が読み慣れた書類である。日本の会計基準で作成された書類よりも、海外投資家からの投資が期待できる。
連結財務諸表を作成する過程や管理会計において、会計基準の差異による事務コストの低減、経営指標に関するコミュニケーションの円滑化が見込まれる。
M&A時には、のれんに関する会計処理の違いにより、利益が大きく計上できる利点がある。日本の会計基準では償却が必要であるが、国際会計基準では償却が不要である。
国際会計基準のデメリット
まずは、会計制度が難解である。そのため、会計の専門家を雇用する必要があり、追加でコストがかかる場合が多い。
さらに、会計基準に英語で触れる必要性が生じ、規定自体も頻繁に改訂されるので、事務処理コストが大きく増大する。
また、原則主義である国際会計基準への移行は、説明責任を果たすために大量の注記が要求される。これまで日本基準を利用していた時にはなかった作業も行わなければならない。
日本の市場に上場している場合、日本基準にて会計処理を行っている会社との比較が困難になる。
また、中小企業の会計に適用するときも調整が必要になるだろう。
現状、中小企業は日本の会計基準を一部簡便化した基準を採用している。中小企業の事務負担に考慮しながら、国際会計基準の適用可能性を検討していく必要がある。
以上、国際会計基準の概要にはじまり、日本における会計基準との違いなどを解説した。国際会計基準の適用を検討している企業は、メリットやデメリットを把握しておくとよいだろう。
文・公認会計士 内山瑛