自社の経営状況を確認する際に用いられるものとして、決算書や試算表などがあります。決算書や試算表は貸借対照表と損益計算書から構成されており、どちらもそれぞれのアプローチから当期利益を算出しています。
利益の増減は、経営判断を行ううえで極めて重要な要素です。しかし、利益とは別にもう一つ大切な要素である 資金繰り を忘れてはいけません。
当期利益がマイナスになってしまったとしても、必ずしも会社が倒産するわけではありませんが、資金繰りに行き詰まってしまうと、 黒字であっても倒産してしまう ことがあります。(黒字倒産)
本記事では資金繰りに焦点を当て、資金繰りの目的や改善方法について解説していきます。
「資金繰り」とは
資金繰りとは、 将来の一定期間における現預金の収入と支出を管理・予測し、マイナスが生じないように調整する ことです。仮にマイナスになってしまうと、資金が底を突いてしまうため、その時点で会社の経営が立ち行かなくなってしまいます。なお、資金繰りは、日々の入金や支払いなどの短期的な資金を管理する「短期資金繰り」と、設備投資のように長期間にわたり管理する「長期資金繰り」に分けられることもあります。
そもそも資金とは
資金とは、現金や預金のように流動性が極めて高く、事業を行う上でさまざまな費用や人件費などを支払う決済手段として用いられる金銭のことです。流動性が高いという点では、売掛金や受取手形も現金預金と同じですが、通常はそれらを支払い手段として用いられません。(ただし、ファクタリングや手形の割引などを行い、現金化することは可能です。)
企業は、現金預金以外にもさまざまな資産をもっています。機械などの設備や工場などの建物・土地、特許権などの無形資産も資産に含まれます。しかし、これらの資産のなかで直接決済手段として世界中の取引先に用いることが可能なのは、現金預金しかありません。
利益との違いは?「資金繰り」と「キャッシュフロー」は別のもの!
収益を認識する基準には、 現金主義 と 発生主義 の2種類があります。現金主義とは、取引によって発生した売り上げが入金された時点を、収益の発生とする考え方です。一方で発生主義とは、現金の入出金に関係なく、経済的事象が生じた時点で収益が発生したとする考え方です。利益とは、この発生主義によって計上された収益のことを指します。
したがって 「利益」は上げたけれど、「資金」がないという状態 が発生する場合があります。たとえば、顧客に製品を納品して、請求書を発行した時点などがそうです。この時点で利益は発生していますが、代金はまだ回収されていませんから資金がありません。
また、資金繰りが 将来に向けた資金の予測と管理 を目的とするのに対し、キャッシュフローは 過去のある一定期間の資金の流れをチェックすること を目的としています。上場企業などの大企業が作成するキャッシュフロー計算書などが良い例でしょう。1年間(正確には1会計期間)で資金をどのように調達し、その資金がどのように使われたのかが記されています。
資金繰りを管理する理由は黒字倒産を防ぐため
上述のように、収益を認識する基準には 現金主義と 発生主義の2つがあります。しかし、最終的に法人税や所得税を計算するためには、発生主義で作成された決算書が必要です。そのため、企業が作成する決算書や試算表などのあらゆる会計資料は、通常この 発生主義をベースに作成 されています。
決算書や試算表を確認すれば(発生主義で)利益がどれくらい上がったかは把握することができます。ただし、近い将来支払いに回す現金預金が会社にあるかどうかは、まったくわかりません。この状態を放置したままで支払い日を迎えると、利益は上がっているにもかかわらず、支払いができない状態が発生してしまうことがあります。これが黒字倒産です。
つまり、事業がうまくいっているにもかかわらず、短期的な資金需要に対応できなかったために起こる倒産が、黒字倒産の正体といえます。黒字倒産は、企業がゆるやかに成長している場面では起こりにくいものです。しかし、急成長しているベンチャー企業のように、資金調達能力をはるかに超えるスピードで事業を拡大している場面では、発生する確率が極めて高くなります。資金繰りを管理して将来の資金の流れを把握しておくのは、このような黒字倒産を防ぐためです。
資金繰りを改善する5つの方法
資金繰りを改善するためには、やはり業績を改善させることが一番でしょう。業績を改善し、収益を上げ納税をして、残った資金の一部を内部に留保しておくことを何年も繰り返していけば、資金は自然と増えていきます。
しかし、そのような方法では時間がかかるうえに、決して容易ではありません。そこで、業務改善以外で資金繰りを改善する方法のうち、効果が高く即効性のあるものに絞って、以下に5つ紹介します。
- 資金の流れを把握する
- 現金が少ないときは経費を削減する
- 売り上げの回収をできるだけ早くするよう交渉する
- 経費の支払いはできるだけ余裕をもてるよう交渉する
- 計画を立てて資金調達を行う
資金の流れを把握する
はじめに、現在の資金と毎月の固定経費がどれくらいあるのかをチェックし、売掛金の回収サイクルや買掛金の支払いサイクルがどうなっているのかを理解しましょう。そのうえで、金融機関からの借入と返済のバランスがどうなっているのかを、正確に把握します。仕事の受注や納品だけでなく、実際にキャッシュインするまでを細かく管理し、それらを日々の資金繰りにリンクさせていきます。
現金が少ないときは経費を削減する
現金が少ないときは、一時的に思い切って経費を削減してみるのも効果的です。ただし、どうしても必要な経費もあります。そのような場合は、クレジットカード払いに切り替えるなど支払い時期を後ろにずらせるよう工夫してみましょう。
売り上げの回収をできるだけ早くするよう交渉する
取引先と交渉し、売り上げの入金サイトを早める交渉をしてみることも、資金繰りを改善するための手段としては有効です。少しでも早く入金できれば、その分だけ資金繰りが早くなります。
また、売り上げを振り込みでなく受取手形にして、早くしてもらうように交渉することも有効です。支払う側から見れば、手形に切り替えることにより支払い時期をうしろへずらせるため、メリットが大きくなります。
一方、受け取る側も、受け取った手形を金融機関で割り引けば、割引手数料は引かれますがすぐに現金化ができます。
経費の支払いはできるだけ余裕をもてるよう交渉する
仕入先や外注先への支払いサイトを遅らせる交渉をすると、その分だけ資金繰りを改善することが可能です。仕入先や外注先が支払いサイトのうしろ倒しに難色を示した場合でも、自社振り出しの支払手形、もしくはクレジットカード払いでの支払いを受け入れてもらえれば、資金繰りを改善できます。
計画を立てて資金調達を行う
自社内での資金の管理と並行し、金融機関などからの資金調達を行うことも、資金繰りの改善には有効です。決算書や試算表などで現状を分析し、後述の資金繰り表を作成します。経営を安定させるためには、今後どれくらいの資金が必要となるのかを算出し、金融機関から融資を受けるための準備を行います。
なお、金融機関からの資金調達には一定のコスト(保証料や支払利息など)がかかるので、借りる金額は多少余裕ができる程度でとどめておくほうがいいでしょう。
資金繰り表を活用して資金の流れを把握する
決算書や試算表が、過去の一定期間における収益や資産の状況の変化などを表すのに対し、資金繰り表は 将来の一定期間における資金の増減をシミュレーションする ためのツールです。資金がいつ、どれだけ必要になるのかを正確に把握できれば、黒字倒産を防いで経営を安定させられます。
なお、1~2ヵ月程度先までの資金繰り表であれば、現時点での現金預金の手許残高や売掛金・買掛金などの資料を用意することで、ある程度作成できます。しかし、半年から1年以上先の資金繰り表を作る場合は、資金繰り表を作る前に、収支の予測を立てるための事業計画書を作成しておかなければなりません。このとき作成する事業計画書の精度が高ければ高いほど、精度の高い資金繰り表を作成できます。
また、資金繰り表にはとくに決まったフォーマットがあるわけではありません。したがって、各企業の状況に合わせてできるだけ使いやすいものを作成し、簡単に更新できるようにしておくといいでしょう。ただし、使い勝手のいい資金繰り表を作成するためには、最低限以下の4つの項目は必ず加えておく必要があります。
前月繰越金額
前月繰越金額とは、現金や普通預金、当座預金のように決済手段に充てられる資金の、前月末の合計金額のことです。
経常収支
経常収支とは、経常収入から経常支出を差し引きした金額のことをいいます。経常収支を算出するためには、先に経常収入と経常支出を算出しなければなりません。
簡単に、経常収入と経常支出について解説しましょう。
経常収入
経常収入とは、事業の通常の活動で得た収入のことをいいます。具体的には以下のものが経常収入です。
- 現金売り上げ
- 売掛金の入金
- 受取手形の入金
- 受取利息
- 雑収入など
経常支出
経常支出とは、事業の通常の活動で支払う支出のことです。具体的には以下のものが経常支出となります。
- 現金で支払った仕入れや外注費
- 買掛金の支払い
- 支払手形の支払い
- 給料や家賃などの支払い
- 支払利息など
財務収支
財務収支とは、金融機関からの資金調達やその返済のことです。
なお、財務収支がプラスになる取引には、以下のようなものがあります。
- 金融機関からの証書借入(長期借入金)
- 金融機関からの手形借入(短期借入金)
逆に、財務収支がマイナスになる取引は、以下のとおりです。
- 金融機関からの証書借入(長期借入金)の返済
- 金融機関からの手形借入(短期借入金)の返済
ちなみに、証書借入で資金調達を行った場合は、元金の返済は分割払いで毎月少しずつ、何年間もかけて行われます。したがって、借入金返済のための資金繰り悪化は起こりにくくなります。
一方で、手形借入による資金調達を行った場合は、手形の期日に借入金を全額一括返済しなければなりません。返済日に資金繰りが一気に悪化してしまう恐れがあります。
翌月繰越金額
最終的に、月末に残る現金や預貯金などの合計金額を翌月繰越金額といいます。
M&Aの活用も検討しよう
上述のように、資金繰りを本質的に改善させるためには業績を改善させる以外に方法はありません。
しかし、本記事で紹介した方法で資金繰りが改善されない場合は、M&Aの活用も検討してみてはいかがでしょうか。
M&Aには、会社ごとすべて売却する方法(株式譲渡)もありますが、営業部門の一部だけを切り取って売却する、事業譲渡というスキームもあります。このスキームを使えば、例えば複数部門のうち不採算の部門だけを売却することが可能です。
また、売却によって営業部門を整理できるため、経営資源の集中化を図ることも可能です。M&Aは単なる資産の売却ではありません。商品のブランド力や販売網・立地条件などの、無形の資産が「のれん」として評価され、それが売却時の対価に反映される場合もあります。
資金繰りが悪化してどうにもならなくなってしまう前に、選択肢の一つとしてM&Aについても考えておきましょう。
終わりに
企業の収益を測定するためには、貸借対照表や損益計算書が必要です。しかし、それだけではけっして十分ではありません。黒字倒産を避け、安定した企業経営を行うためには、資金繰りの管理も大切です。
企業にとって資金は人間の血液と同じです。その流れが止まってしまえば、あっという間に倒産してしまいます。倒産という事態を避けるためには、常に資金繰りに気を配るとともに、悪化した場合に備えて金融機関からの融資や、M&Aによる資金調達なども視野に入れておいたほうがいいでしょう。
M&Aについて詳しくは専任のコンサルタントまでお尋ねください。
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