「SDGs」の世界事情と取り組むメリットを徹底解説
(画像=SakosshuTaro/stock.adobe.com)

SDGsの概念は確実に広まっており、日本でも広告やメディアなどで頻繁に扱われるようになった。この波は今後もさらに広がっていくと考えられる。これまで意識してこなかった経営者は、本記事でSDGsの概要や現状、取り組むメリットなどを確認していこう。

目次

  1. そもそもSDGsとは?わかりやすく解説
    1. SDGsが採択された歴史
    2. SDGsのゴールはどこ?世界が目指すべきもの
  2. SDGsの17のゴール・169のターゲットの一例
  3. SDGsは着実に達成されている?世界と日本の最新状況
    1. 世界の最新状況と問題点
    2. 日本の最新状況と問題点
  4. 日本企業がSDGsに取り組む3つのメリット
    1. 1.新規市場の開拓につながる
    2. 2.投資家から注目される
    3. 3.国や自治体による支援策を受けられる
  5. 中小企業におけるSDGsの事例
    1. 【事例1】自社技術を活かした環境配慮製品の開発
    2. 【事例2】利益とSDGsを両立できる取り組み
    3. 【事例3】ステークホルダーの連携によるSDGsへの貢献
  6. SDGsへの関心は今後も高まっていく

そもそもSDGsとは?わかりやすく解説

SDGsとは、2015年9月の国連サミットにおいて採択された2016~2030年までの国際目標のことだ。「エス・ディー・ジーズ」や「グローバル・ゴールズ」と呼ばれており、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されている。

SDGsは、世界中の社会問題・環境問題を解決に導く手段として採択された。地球温暖化や大気汚染はもちろん、貧困や格差、性的差別など、あらゆる問題を解決するために「17のゴール」と「169のターゲット」が設定されている。

SDGsが採択された歴史

世界が抱える環境問題・社会問題は、SDGsが採択される以前にも深刻視されていた。つまり、SDGsの概念はいきなり誕生したわけではなく、採択までには以下のような段階が踏まれている。

「SDGs」の世界事情と取り組むメリットを徹底解説

2001年に採択されたMDGsでは、健康や貧困などに関する8つのゴールが掲げられた。しかし、MDGsは先進国を中心に定められた目標であったため、一部の発展途上国からは反発を受けることもあった。

そこで新たに採択された国際目標が、今回解説しているSDGsである。2015年に開催された世界サミットには150か国の首脳陣が参加しており、SDGsは世界が一丸となって目指す目標として全会一致で採択された。

SDGsのゴールはどこ?世界が目指すべきもの

SDGsの最終的なゴールは、世界中の人々が豊かに暮らしていける環境を整えることだ。先進国はもちろん、深刻な社会問題を抱える発展途上国の状況も改善されなければ、本来の意味でゴールを迎えたとは言えない。

従来のMDGsでも同じゴールを目指していたが、MDGsの進行は地域によって偏りが見られた。つまり、新たな格差や差別が生じる可能性があったため、先進国に対して反発をする国がいくつか存在したのだ。

このときの反省を活かして、SDGsでは目標達成に取り組む前提として「誰ひとり取り残さないこと」が掲げられている

SDGsの17のゴール・169のターゲットの一例

SDGsに対する理解を深めるには、17のゴール・169のターゲットについても確認しておく必要がある。具体的にどのような目標があるのか、いくつか例を紹介していこう。

「SDGs」の世界事情と取り組むメリットを徹底解説

特に169のターゲットは内容が細かく定められており、ターゲットによっては具体的な数値目標まで落とし込まれている。いずれも現代社会に深く関わる目標なので、時間のある方は169の全てのターゲットに一度目を通しておこう。

SDGsは着実に達成されている?世界と日本の最新状況

SDGsは国際社会に大きな影響を与えており、2015年に採択されてからは世界各国で関連施策や支援策が進められている。すでに一定の効果が表れた地域も存在するが、世界全体で見たときに達成度は高いと言えるのだろうか。

ここからは世界と日本に分けて、SDGsの最新状況や問題点などを解説していく。

世界の最新状況と問題点

各国のSDGsの達成状況については、2021年6月に発表された国際レポート「Sustainable Development Report 2021」の中でまとめられている。

上記の通り、スコア(達成度)の上位は北欧が占めており、次いでドイツやベルギー、オーストリアなどの欧州が続く。これらの国々は積極的に環境教育を行っており、サステナブルな企業や暮らしの仕組みをうまく構築している。

一方で、東南アジアやアフリカの貧困国に関しては、全体的にSDGsのスコアが低い。資金や資源が限られており、かつ教育環境も整っていない国では、やはりSDGsに関する取り組みはなかなか進まないようだ。

つまり、SDGs自体にも国による格差が存在しており、現状が続くとその格差はさらに広がる可能性がある。誰ひとり取り残さずに目標を達成するためには、北欧や欧州などの先進国が成功例を示し、資金やノウハウなどを支援することが必要になるだろう。

日本の最新状況と問題点

ほかのアジア諸国と比較すると、日本のSDGsスコアはやや高い傾向にある。しかし、世界全体で見ると日本のスコアは17位(79.85)であり、特に北欧や欧州からは差をつけられている。

SDGsの中で日本が最も課題を抱えているのは、「ジェンダー」に関する目標だ。例えば、ほかの先進国に比べて日本は女性の管理職が少なく、賃金や就職活動においても男女格差が残っている。これらの問題が解決しない限り、北欧や欧州のような評価を受けることは難しいだろう。

日本企業がSDGsに取り組む3つのメリット

SDGsの取り組みは政府だけが進めるものではなく、日本のスコアを高めるには国内企業からの協力も必要になる。では、SDGsに関する取り組みを行うと、企業側にはどのようなメリットが生じるのだろうか。

1.新規市場の開拓につながる

SDGsへの注目度は確実に高まっており、最近では広告やニュース記事などにも「SDGs」というワードが多く登場するようになった。つまり、SDGsの関連市場は拡大しつつあるため、環境や社会に貢献できる製品・サービスを開発すれば、新規市場の開拓につなげられる。

特に欧米などの海外向け製品は、SDGsと絡めることでより多くのニーズを獲得しやすくなる。今後もSDGsへの関心は世界的に高まると予想されているため、大きなビジネスチャンスをつかむためにも、積極的にSDGsに関する取り組みを始めていきたい。

2.投資家から注目される

環境問題や社会問題が深刻視されるにつれて、最近では「環境・社会・ガバナンス」の観点から投資を行う投資家が増えてきた。このような手法は「ESG投資」と呼ばれており、世界のESG投資額は2020年の時点で3,900兆円にも上る。

そのため、SDGsに関する取り組みを行えば、世界中の投資家から評価されるかもしれない。日本においてもESG投資の市場は伸びてきているため、SDGsへの取り組みは新たな経営戦略や資金調達手段になる可能性を秘めている。

3.国や自治体による支援策を受けられる

SDGsに関しては、国や自治体による支援策が用意されている点も知っておきたいポイントだ。

例えば、内閣府は女性活躍に関する取り組みを行う企業に対して、「地域女性活躍推進交付金」の支給を検討している。ほかにも地方創生や未来技術、環境保全に関する交付金など、最近ではさまざまなタイプの支援策が実施されている。

また、都心から離れた自治体にも、地方創生に関する支援策を実施しているところが多い。これらの補助金などを利用すれば、低資金で新たなビジネスを始められる可能性があるので、国や各自治体の支援策はこまめに確認しておこう。

中小企業におけるSDGsの事例

SDGsへの取り組みと聞くと、多くの方は大企業をイメージするだろう。しかし、資金が限られた中小企業のなかにも、SDGsに関する取り組みを始めている企業は多く存在する。

ここからは中小企業のおけるSDGsの事例をまとめたので、興味のある経営者は参考にしながら計画を立てていこう。

【事例1】自社技術を活かした環境配慮製品の開発

モーターなどの回転電機を取り扱う『茨城製作所』は、「未来へ残そう豊かな地球」をスローガンとして、さまざまな環境配慮製品を開発している。

なかでも同社が開発した風力発電機用スリップリングは、いまや業界内で世界トップクラスのシェアを誇る環境配慮製品だ。また、発展途上国であるネパールに対しては、クラウドファンディングを通じた支援や、電力不足を補うノウハウの提供なども行っている。

技術やノウハウが漏えいするリスクはあるが、自社技術を活かした取り組みは海外市場へのアピールにつながる。将来のビジネスチャンスをつかむためにも、優れた技術やノウハウを有している企業は、積極的に海外市場への参入・提供を検討したい。

【事例2】利益とSDGsを両立できる取り組み

茨城県で農業生産を行う『ワールドファーム』は、「儲かる農業」を実現するために若い世代を積極的に採用している。

農業と言えば後継者不足が嘆かれている業界だが、同社は採用時の労働条件を向上させることで、若者が安定して入社する環境を作り上げた。その結果、東京都心から離れた地域でありながらも、40歳未満の社員率を77.5%まで引き上げている(全員正社員雇用)。

また、所有している農地を全国に分散させている点も、同社の工夫が見られる施策だ。この施策により局地的な災害リスクを抑えることができ、さらに耕作放棄の防止にも貢献している。

このように「自社の利益」と「SDGsへの貢献」を両立できる取り組みは、経営者としてぜひ見習いたいポイントだろう。

【事例3】ステークホルダーの連携によるSDGsへの貢献

環境との関連性が薄い企業でも、内部組織や経営方針を見直せばSDGsに貢献できる。例えば、神奈川県の印刷会社である『大川印刷』は、以下のような形でSDGsを経営にとり入れている。

・SDGsに関係するプロジェクトを従業員から募集
・全社員向けの人財育成にSDGsを活用
・市民団体と連携し、外国人ニーズに応える「4ヵ国版お薬手帳」を開発

なかでもお薬手帳は大きな成果に結びついており、各国の大使館から注目されている。将来的にはBtoC販売も実施し、さらに販路を拡大していく方針だ。

SDGsは簡単に実現できるものではないため、経営にとり入れる際には周りからの協力も重要になる。特に従業員などのステークホルダーは心強い存在となるため、計画を進める前にしっかりと連携できる体制を整えておきたい。

SDGsへの関心は今後も高まっていく

経営にSDGsをとり入れることで発生するメリットは、今後ますます大きくなる可能性が高い。
逆を言えば、環境問題・社会問題を増幅させるような事業は、いくら利益が大きくても社会的評価が下がってしまう恐れがある。

日本においてもSDGsの概念は広がっているため、これまで特に意識してこなかった経営者は、これを機にSDGsに関する取り組みを考えてみよう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
無料会員登録はこちら