第4回 社員一人ひとりの内発的動機づけで会社は変わる
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他責思考と自責思考

長年、企業経営者、現場管理者、中堅社員、新入・若手社員まで幅広い層から話を聴くなかで実感するのは、「やる気」のあるなしは、その人が他責思考か自責思考かに左右されるということです。
他責思考とは、自分が困難にぶつかるなど課題を感じた時に、その原因は自分以外にあるとする考え方です。これに対して自責思考は、自分自身に原因はないかと考え、自分の責任と努力で解決しようとする考え方です。

他責思考の人が新入社員の時は、自分がなかなか仕事を覚えられず成長できないのは、先輩や上司がきちんと教えてくれないからだと考えます。そのまま中堅社員になると、自分の成果が上がらないのは上司や顧客や仕事そのものが悪いせいだと訴えます。
そして管理職になれば、チームの成績が悪いのは有能な部下がいないからだと愚痴をこぼします。経営者になると、経営不振は従業員が十分に働かないから、または社会・経済状況などが厳しいからだと嘆くのです。

こうした他責思考の人は、その瞬間は自分が傷つくことがないため気持ちも楽です。リスクを取らず、他人の指示通りに仕事をしていれば叱られることも失敗もなく、たとえ上手くいかなくても指示や仕事のせいにできるわけですから。
ただし、こうした人は他人の意思や責任に頼るばかりになっていくので、中長期的には他人に振り回される人生を生きることになってしまうのです。

自責思考の人は成長する

これに対し、自責思考の人は、最初は苦労しがちです。新入社員であれば、まだ右も左も分からないなかで、自分が至らないのは何故か、自分に足りないものは何かと悩みます。それでも自分に任された仕事の範囲で、自分が努力して改善や工夫できることはないかと考えます。
これは自分と向き合い、自分に非があることを認め試行錯誤をすることですから、辛い状態と言えます。

しかし、こうした常に自分の役割の中でできることを見つけようとする姿勢を身につけた人が中堅社員、管理職になっていくと、次第に自己裁量の範囲が広がり、成長も加速していきます。中長期的には仕事をしっかりコントロールでき、自分のキャリアのハンドルを自身で握ることができるようになっていくのです。

ただし、現代は自責思考が強すぎて、心を病んでしまう人もいます。自責思考はあくまで仕事における成長のキーレバーととらえ、自分の存在そのものを否定してしまうことがないよう注意も必要です。

自分で「やる気」を高める力~内発的動機づけ

冒頭に述べたように、自責思考の人は自ら「やる気」を高められる人でもあります。この点については、アメリカの心理学者エドワード・L・デシが提唱した内発的動機づけに着目しましょう。【図】はその理論を私なりに意訳し加筆したものです。

第4回 社員一人ひとりの内発的動機づけで会社は変わる

デシによると、人の動機づけには2つの種類があり、その1つが外からのアメとムチで「やる気」を高めようとする外発的動機づけです。仕事に当てはめるなら、組織が設定した目標を部下に申し渡し一方的に説得して、実行させる場合です。
部下は納得のいかない目標を前に無能感をもち、他者(組織)による統制と上司の管理によって「やらされ感」が蔓延します。他責思考の人が他人に振り回されて「やる気」を失う状況が広がることになります。

これに対し、大切にしたいのが自分の内側から「やる気」が高まる「内発的動機づけ」です。まず上司は部下と目標の上位概念となる仕事の目的をしっかり共有し、納得感を持たせます。そのうえで目的実現に向けた目標と行動計画を部下自らが立てることを促し、有能感(自分にできるという自信)をもたせます。

特にデシは、この有能感と自己統制が内発的動機づけに重要であると主張します。そして、部下の自律的な仕事ぶりを見守りながら、要所要所で必要な支援を行います。こうして部下は内発的に動機づけられ、「やる気」が醸成されるのです。自責思考の人にとっては最適な仕事環境、支援だと感じるでしょう。

いまは変化の激しい時代です。自分の思い通りにならない事柄、想定外の問題も数多く生じます。その度に他人のせいにしていては、仕事を続けていくことはできません。
直面する課題に対し、原因は何か、そのために自分には何ができるのかと主体的に考える姿勢が求められるのです。

※本稿は前川孝雄著『人を活かす経営の新常識』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

職場のハラスメントを予防する「本物の上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。最新刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月発行)

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