企業買収について徹底解説! 手順やリスク、最新事例まで紹介
(画像=sodawhiskey/stock.adobe.com)

さまざまな経営課題を抱える企業にとって、企業買収は手っ取り早い解決策になり得る。しかし、企業買収によってリスクが発生し、多額の損失を被る例も少なくない。今回は企業買収のメリット・デメリットに加えて、実施前に知っておきたいポイントを解説する。

目次

  1. 企業買収とは?
    1. 敵対的買収と友好的買収の違い
    2. 買収と合併の違い
  2. 企業買収をするメリットとデメリット
    1. 買い手側のメリット・デメリット
    2. 売り手側のメリット・デメリット
  3. 企業買収の3つの方法と手順
    1. 企業買収の方法
    2. 企業買収の手順
  4. 企業買収にリスクはある?実施前に知っておきたいポイント
    1. 1.買収後に従業員が流出する可能性も
    2. 2.海外企業の買収にはさまざまなリスクがつきまとう
    3. 3.必ずしも相場通りの価格になるとは限らない
  5. 企業買収・M&Aの成功事例
    1. 【成功事例1】既存事業の強化や新規事業開拓につながる買収
    2. 【成功事例2】莫大なシナジーや節税メリットを期待した大型買収
  6. 企業買収・M&Aの失敗事例
    1. 【失敗事例1】買収後の制限強化により損失が発生
    2. 【失敗事例2】デューデリジェンス不足によるトラブル
  7. 企業買収にデューデリジェンスは必須

企業買収とは?

企業買収とは、ある企業から会社そのものや事業の一部を取得する行為のことだ。少子高齢化が全国的に進む日本では、後継者不足や人材不足などの問題を解決する手段として多くの企業から注目されている。

企業買収には複数の種類があり(詳細は後述)、どの方法を選ぶのかによって実際のスキームは変わってくる。また、当事者に及ぶ影響も方法ごとに異なるので、企業買収の実施前には綿密な計画が必要になる。

敵対的買収と友好的買収の違い

企業買収のうち、売り手側の同意なしで実施されるものは「敵対的買収」と呼ばれている。中小企業にとっては深刻な脅威と言えるが、敵対的買収にはさまざまな防衛策(ポイズンピルやゴールデンシェアなど)があるため、国内で実施されたケースは非常に少ない。

一方で、売り手側の同意がある状態で実施される企業買収は、「友好的買収」と呼ばれる。友好的買収では、トップ面談などを重ねながら条件交渉を行っていくため、基本的には双方が納得できる形で企業買収を実施できる。

ただし、期待していた効果が表れなかったり、条件交渉が破断したりするケースも多いので、友好的買収であっても当事者は万全の準備を整えておかなくてはならない。

買収と合併の違い

買収と合併は混同しやすい用語だが、実は以下のような違いがある。

・買収…ある会社が別の企業の株式、もしくは事業を取得すること。
・合併…複数の会社が、新設合併や吸収合併によってひとつになること。

買収と合併を混同しやすい理由は、この2つを合わせた「M&A」という用語が存在するためだ。
買収と合併ではスキームに大きな違いがあるものの、いずれも企業の経営課題を解決する手段であるため、近年では「M&A(和訳:合併と買収)」と一括りにされることが多い。

企業買収をするメリットとデメリット

ここからは話を企業買収に絞って、買い手側・売り手側に及ぶ影響を見ていこう。細かく見ると方法ごとに影響は異なるが、以下で企業買収全般のメリット・デメリットを解説していく。

買い手側のメリット・デメリット

企業買収の買い手側に及ぶ影響としては、主に以下の点が挙げられる。

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買い手側の最大のメリットは、新たな経営資源や販路の獲得によって自社の弱みをスピーディーに補完できる点だ。また、既存事業との関連性が強い企業を買収すれば、コア事業をさらに強化することも可能になる。

また、対象企業との相性によっては、シナジー効果(相乗効果)が発生することもある。事業の組み合わせ次第では何倍ものシナジー効果を生み出すケースもあるため、基本的に買い手側はシナジー効果を狙って企業買収に乗り出すことが多い。

しかし、売り手側との間で全くシナジー効果が発生しない場合は、高額な買収資金が無駄になってしまう。

ほかにも簿外債務や従業員の流出など、買収後に想定外の支出が生じる場合もあるので、買収先の選定には細心の注意を払う必要がある。

売り手側のメリット・デメリット

一方で、売り手側のメリット・デメリットとしては以下の点が挙げられる。

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会社・事業を売却すると多額の売却益を獲得できる可能性があるため、企業買収は早期EXITの手段としても注目されている。また、経営者が会社の連帯保証人になっている場合は、債務の個人保証から解放されるメリットも大きい。

そのほか、企業・事業の売却は「後継者不足の解消」や「従業員の雇用安定」にもつながるが、従業員に及ぶ影響については売却先によって異なる。

例えば、親会社と子会社の待遇に違いがある場合は、買収後に従業員の労働条件が悪化してしまう恐れがある。国内の企業買収ではこのような事態を防ぐために、契約段階で従業員の労働条件を決めておくことが多い。

企業買収の3つの方法と手順

企業買収によって目的を果たすには、計画を立てる前にスキームを理解しておく必要がある。特に買収の方法と手順は必須の知識となるので、以下でしっかりと確認しておこう。

企業買収の方法

企業買収の方法は、大別すると次の3つに分けられる。

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企業の状況は時間が経過すると変わってしまうため、基本的には株式譲渡などのスピーディーな手法が好まれやすい。ただし、特定の事業や経営資源のみを別会社に移したい場合は、多少の手間がかかっても事業譲渡や会社分割を選ぶことになる。

企業買収の手順

企業買収にはデメリットやリスクも潜んでいるため、双方が納得できるように多くのプロセスを踏むことが多い。
具体的にどのようなプロセスがあるのか、以下で簡単に紹介しておこう。

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上記の【8】までで企業買収は完了となるが、買い手側の企業はクロージングの後に「統合作業(PMI)」を進める必要がある。引き受けた従業員の配属はもちろん、業務内容やノウハウの共有、企業文化の統合などさまざまな工程が必要になるため、この統合作業までを買収プロセスに含める場合も多い。

企業買収にリスクはある?実施前に知っておきたいポイント

前述で紹介したデメリットのほかにも、企業買収にはさまざまなリスクが潜んでいる。特に以下で挙げる3つのリスクは、その後の経営環境に大きな影響を及ぼすので注意しておきたい。

1.買収後に従業員が流出する可能性も

企業買収が実施されると経営環境が変化するため、特に売り手側の従業員は大きな不安を抱えやすい。もし新たな労働条件や企業文化に馴染めなかった場合は、多くの従業員が一気に流出するような事態も考えられる。

そのため、売り手側は買収後の待遇面、買い手側は統合作業の内容に細心の注意を払うことが必要だ。双方が各従業員の特性をしっかりと理解し、従業員全体に負担がかからないような形で買収を進めなければ、人材流出を防ぐことは難しくなる。

2.海外企業の買収にはさまざまなリスクがつきまとう

企業買収は海外進出のきっかけにもなるが、海外企業の買収には次のようなリスクが潜んでいる。

・文化や言語の違いによる統合作業の失敗
・現地の法制度や規制に引っかかり、事業を進められなくなる
・M&A詐欺の被害に遭いやすくなる

国内企業に比べると、海外企業は正確な情報を集めることが難しい。そのため、統合作業がスムーズに進まなかったり、事業を始めてから規制に引っかかったりするケースが多く見受けられる。

また、情報不足によって詐欺被害に遭うリスクが高まる点も、買い手側が注意しておきたいポイントだ。仲介会社が詐欺を働く可能性もあるので、企業買収は専門家に任せるだけではなく、当事者となる企業も最低限の知識・情報を身につけておく必要がある。

3.必ずしも相場通りの価格になるとは限らない

企業買収は慎重に進められるが、中でも株式価値の正確な算定は難しいため、必ずしも相場通りの価格で買収・売却できるとは限らない。特に為替変動の影響も受ける海外企業の買収では、高値づかみによって失敗するケースが多く存在する。

また、デューデリジェンスの実施後に企業価値が変わったり、そもそも調査結果が間違っていたりする可能性もあるだろう。企業価値を正確に算定できなければ、買い手・売り手のいずれかが損をするので、買収プロセスの中でもバリュエーションには細心の注意を払わなくてはならない。

企業買収・M&Aの成功事例

企業買収の計画を立てる前には、実際の事例からポイントを学んでおくことも重要だ。ここからは企業買収・M&Aの事例をまとめたので、自社の状況や目的と比較しながら読み進めていこう。

【成功事例1】既存事業の強化や新規事業開拓につながる買収

大手ECサイトを運営する『楽天』は、これまで以下のような企業買収を実施している。

・宿泊予約サイト『マイトリップ・ネット』の買収(2003年)
・カードローン会社『あおぞらカード』の買収(2004年)
・電子図書館のプラットフォーム『OverDrive』の買収(2015年)
・教育サービスを運用する『ReDucate』の買収(2016年)

同社が買収先として選んでいるのは、その多くが自社事業の強化や新規事業開拓につながる企業だ。例えば、マイトリップ・ネットは楽天トラベルの強化に、あおぞらカードは楽天カードの提供にそれぞれつながっている。

企業買収によって成長を目指すのであれば、楽天のように「将来のビジョン」を明確にすることがポイントになる。買収した会社・事業をどのように活かすか、既存事業とどう組み合わせるかが成功を左右するので、買収後のシミュレーションは何度も行っておく必要があるだろう。

【成功事例2】莫大なシナジーや節税メリットを期待した大型買収

大手コンビニチェーンである『セブン&アイ・ホールディングス』は、2020年8月にアメリカのコンビニ運営会社である『スピードウェイ』の買収を発表した。これはアメリカでの市場拡大を目指したものであり、買収金額は当時のレートで約2.2兆円と言われている。

高額な案件ではあるものの、この買収においては以下のような効果が期待されている。

・グループ事業の営業利益が2倍になる(2019年比)
・約5億ドル規模の財務シナジーが発生する
・数30億ドル規模の節税メリットが発生する

現時点ではあくまで予想ではあるものの、実際にこれらのメリットが発生すれば、セブン&アイ・ホールディングスは買収資金を十分に回収できるだろう。この事例のように、買い手側の企業は生じる効果を細かく予測した上で、買収金額としっかり比較することが重要になる。

企業買収・M&Aの失敗事例

次は、企業買収・M&Aの失敗事例を2つ紹介しよう。

【失敗事例1】買収後の制限強化により損失が発生

国内大手商社である『丸紅』は、2012年にアメリカの穀物大手である『ガビロン』を約2,880億円(当時のレート)で買収した。この買収により、丸紅の穀物貿易量は世界シェアの1割強になると予想されていた。

同社は急成長するアジア市場への輸出を狙っていたが、自国での寡占化を警戒していた中国政府が制限を強化。この動きにより丸紅はシナジー効果を得られなくなり、最終的には約500億円の損失を出してしまった。

このように、買収の実施後に状況が一変する可能性は十分に考えられる。特に市場環境を変化させるほどの大型買収を行う場合は、多方面から動きを警戒される恐れがあるので注意しておきたい。

【失敗事例2】デューデリジェンス不足によるトラブル

建築材料や住宅設備大手の『LIXIL』は、海外の同業大手に対抗する目的で、2011年から大型買収を次々と実施してきた。しかし、買収後の海外子会社で業績悪化などが続き、複数の買収案件で数百億円規模の損失を出してしまった。

中でも大きなトラブルが生じたのは、2014年に実施した『グローエ(ドイツ)』の買収だ。
同社の買収後に中国子会社による不正会計が発覚し、LIXILはこの買収において約600億円の損失を被った。

LIXILの買収が失敗に終わった要因は、主にデューデリジェンス(価値やリスクの調査)の不足と言われている。企業買収において、デューデリジェンスは必須のプロセスだが、買収を焦ると必要な調査・分析がどうしても不足してしまう。

特に潜んでいるリスクが分かりづらい海外M&Aでは、同様の失敗を招かないようにデューデリジェンスの徹底が必要になるだろう。

企業買収にデューデリジェンスは必須

企業買収には大きなメリットがある一方で、深刻なデメリットも潜んでいる。中でも海外企業の買収はリスクが高いため、慎重にデューデリジェンスやバリュエーションを進めなくてはならない。

最近では中小企業による企業買収・M&Aも珍しくないが、国内企業同士であってもリスクは確実に潜んでいるため、特にデューデリジェンスは徹底するように心がけたい。

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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