贈与税の制度,相続税,節税
(写真=PixieMe/Shutterstock.com)
中川崇
中川崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

いきなり高い税金がやってくる印象が強い相続税。相続税を安く済ませるためには、あらかじめ生前贈与を行って、相続税の対象となる金額を減らす方法がよく知られている。しかし、贈与のやり方を誤ると相続税よりも高い贈与税が発生し、かえって何もしないときよりも多くの税金を支払うことになり兼ねない。ここでは、そのようなことを避けるために贈与をうまく使って、相続税を節税する方法について説明する。

1. 毎年贈与する

これは毎年いくらかのお金を渡し、贈与税を無税または低額に抑えることによって、相続税を含め、総合的に見て税金の負担を減少する方法である。では、実際にどのような贈与をすれば有利となるのか、また、注意すべき点はあるのだろうか。

いくら贈与すればいい?

この手の贈与でよくいわれるのが、毎年贈与税の基礎控除額と同額の110万円を贈与して、税金を納めることなく資産を子どもなどに移転すればいいというやり方である。しかし、資産が多い場合は、贈与税を払ってでも多めに贈与した場合が有利な場合もあるのだ。

例えば、1億円の資産を持っている配偶者のない人が、1人だけいる子どもに10年間かけて資産を贈与し、残りを相続することで相続税を抑える場合について考える。10年間、毎年110万円を贈与した場合、相続時には8,900万円が残ることになり、相続税の額は890万円となる。しかし、毎年贈与する金額を110万円から510万円に増やした場合、毎年50万円の贈与税を支払う必要があるものの、相続時には4,900万円が残る。相続税は145万円、トータルで支払う税金は645万円となり、毎年110万円を贈与した場合よりも245万円の節税が可能だ。

もっとも、贈与する期間は突然亡くなるケースがあるため、思ったとおりにならないこともあるだろう。それでも、むやみに110万円贈与するよりも少しだけ贈与税を支払って多めに贈与するほうが、総合的に見て有利になることがある。

毎年贈与する際の注意点は?

毎年贈与を行うことで相続対象となる税金を減少させる方法は、使い勝手がよいが、贈与が無効になるなどの理由で、いくつか注意しなければならない点がある。

まず、贈与を行う場合には相手方が贈与されることが分かるようにしなければならない。例えば、こっそりと相手に知らせることなく、その人の名義であっても本人がその存在を知らない預金口座に振り込んだ場合、実際には贈与されたものではなく、相続の際に遺産としてみなされることがある。こういったケースにおいては、相手方が本人の自由になる預金口座に直接振り込むことが、回避する方法のひとつだ。

次に気をつけなければならないのは、贈与の約束の内容である。例えば、あらかじめ何年かにわたって一定額を贈与する契約、例えば「毎年110万円を10年間贈与する」という契約を結んだ場合、贈与税の計算上、10年間110万円贈与したということではなく、1年間に1,100万円贈与したものとして贈与税を計算しなければならない。その場合、贈与税は0円ではなく、207万円(直系尊属から20歳以上の子または孫の場合)または271万円(それ以外の場合)となる。

毎年一定額を贈与した場合、あらかじめ何年かにわたり一定額を贈与する契約を結んだものと、税務署に思われないようにすることが必要だ。そのためにも、毎年贈与のたびに契約を書面で締結すれば、税務署にはそのような税務上不利な契約を結んだものとは考えられなくなる。他にも、贈与したとしても、相続が発生したときから3年以内に贈与したものは遺産に含まれ、贈与で減らしたつもりが結果的に思うようにならなかったこともある。そして、この方法はこれから先に述べる相続時精算課税を適用した場合には使えない。

2. 相続時精算課税