経営者の高齢化に伴う後継者不足は今や社会問題になっている。事業承継は中小企業にとって大きな悩みのひとつだ。実家が事業を行っている場合には、サラリーマンを辞めて経営者へ転身することもあるだろう。経営者にとって就職して働いている子どもが家業を継ぐかどうかは重要な問題となってくる。サラリーマンが経営者へ転身するきっかけや、家業を継ぐ場合のメリットとデメリットを考えていこう。
目次
「家業」とはどのようときに使う言葉?
家業とはどのようなときに使う言葉なのか、似た言葉である「稼業」と比較して解説する。
家業には2つの意味がある
一般的に家業は、以下の2つの意味で使われる。
・生計を立てるための職業
一家の生計を立てるための職業であり生業(なりわい)などと呼ばれる。自営業を指すことも多いが、法人化している場合でも家業といえる。例えば「実家の酒屋を継ぐ」といった場合は「家業を継ぐ」という意味となる。
・代々受け継がれてきた職業
「家」とは、一族や一門を意味する言葉。家業は、その家に伝わってきた職業という意味になる。「世襲的に承継されてきた技術や才能を活かした職業」の意味で使われ、「先祖代々受け継がれてきた職業」を継ぐ場合も「家業を継ぐ」ということになる。
似ている言葉に「稼業」があるが使い分けは?
同じ「仕事」を意味する言葉であるが「稼業」は「生計を維持するための職業」を指す。「稼」は「かせぐ」という言葉通り「生活を維持するために働く」という意味だ。「サラリーマン稼業」などというように「職業の一種」という意味で使われる。
サラリーマンが家業を継ぐきっかけ・タイミング
家業を継ぐべきか迷うサラリーマンも多い。自分自身または配偶者の実家が事業を行っている場合、「家業を手伝ってほしい」といわれてもなかなかふん切りがつかない人もいる。サラリーマンとして順調に出世していればなおさらだ。
サラリーマンが家業を継ぐタイミング
将来経営者となることを夢見て働く人も多い。家業を継ぐのは、経営者として成功する大きな人生の転機でもある。経営者となる第一歩であるサラリーマンが家業を継ぐタイミングは、どのようにして訪れるのかを見てみよう。
・親の引退(病気や介護)
経営者の親が引退するタイミングで家業を継ぐケースは多い。理由はさまざまであるが親の病気や高齢となった親の介護がきっかけとなることもある。この場合、高齢となった親と同居して家業を継ぐことが考えられるだろう。事業承継は、時間をかけて準備する必要がある。「引退前から子どもが経営に参加して経営を学ぶ」「引退後も会長職に残り親がアドバイスをする」などケースはさまざまだ。
そのためできるだけ早い段階で誰が後継者となるかをよく話し合っておかなければならない。
・相続による事業継承
親の死亡などによって会社の株式を相続し、家業を継ぐケースがある。事業承継を見据えて準備していた場合、混乱が生じることは少ないだろう。しかし親の突然死など予期せぬ事態から事業資産を相続すると遺産分割など親族間の相続によるトラブルが発生することがある。事業資産や株式を親が所有している場合は、相続税対策や後継者問題、遺言による遺産分割など、できるだけ早めに解決しておきたい。
時には、税理士など専門家に相談して選択肢を広げておくことも必要だ。
家業を継ぐメリットとデメリット
家業を継ぐ場合には、自分自身で事業を立ち上げる場合とは異なるメリットとデメリットがある。
家業を営むメリット
・家族経営がベースの組織力で自分の裁量で仕事ができる
家業を継ぐ場合、会社・個人事業主のどちらにしても家族経営がベースとなる。そのため組織としての規模は小さくても結束力は強い傾向だ。コミュニケーションもとりやすく家族全員で一丸となって事業に取り組める。事業展開を含め軌道修正もしやすく事業の方向性を自分の裁量で定めることが可能だ。
またサラリーマンのように時間的・場所的な拘束性もないため、家族の協力が得られれば自分の裁量で自由に仕事ができる。
・経営基盤ができているためリスクが少ない
先代から受け継いだ経営基盤がすでにあるため、リスクが少ないことが挙げられる。親の代からお世話になっている固定客がたくさんいることは、事業を行ううえで大きなメリットだ。親の突然死などで家業を引き継いだ場合は別だが、技術やノウハウを先代から学ぶこともでき相談もできる。固定客をうまく引き継げれば一定の経営基盤がすでに確保されていることは心強い。
・事業収益を独占できる
事業が順調であればサラリーマン時代よりも収入が増える可能性がある。通常の会社では、事業収入を自由に処分することはできない。しかし家族経営の会社は、も多くが家族労働であり事業で得た収益は一緒に働いている家族へ分配できる。
・不景気に耐えられる
家族経営の場合、事業が一時的に不調になっても柔軟に対応できる。収益が悪化したとしても自分たちの報酬を減らすことで事業の継続を優先できる柔軟さがある。
通常の会社のような離職や解雇などの労使トラブルによるリスクはないといってもよいだろう。生活ができるだけの収入が確保できれば不景気にも強いといえる。
・定年退職がない
近年は、経営者の高齢化に伴い70~80代の経営者も珍しくない。家族経営の事業には、定年退職はないため、引き際は自分で決めることになる。健康であれば何歳になっても仕事を続けられるため、定年退職がないことは家族経営のメリットの一つだ。
・将来家族に事業を譲ることができる
家業を引き継いで事業を安定成長させることができれば、将来子どもや孫に事業を任せられる。自分が引き継いだ家業をさらに子どもや孫へとつなげていけるのだ。
家業を営むデメリット
・事業承継が難しい
家業は、家族の誰かが引き継ぐことが一般的だ。しかし誰を後継者とすべきか決めるのは、非常に難しい。特に創業者が1代で事業拡大してきた場合は、自分の才覚で事業を拡大してきた経緯があり、カリスマ性もある。しかし親子間の事業承継の場合は、事業規模が大きくなるほど後継者の能力が試され、創業者と常に比較されるだろう。
後継者選びで子どもの経営能力を見誤ったために親が大きくした会社をダメにしてしまうケースも少なくない。
・事業拡大が難しい
家族でできる仕事の量・範囲は、おのずと限られるため、事業拡大が難しい一面がある。「家族が生活できる範囲で」と保守的な考えが生まれ事業拡大意欲が薄れることもあるだろう。事業拡大を考えるなら従業員を雇って器を大きくすることも必要だ。
・事業転換が難しい
歴史があるほど「先祖代々受け継がれた家業を守るため」という意識が働き事業転換が難しくなるケースがある。歴史や技術、文化を守ることは大切だ。しかし事業である以上、時代に合わせて転換していかなければかえって衰退させてしまう可能性がある。
・ワンマン経営で経営判断を誤りやすい
ワンマン経営では、客観性を失い経営判断を誤ることがある。家業は、事業主(社長・オーナー)の考えが経営判断に直結するため、経営判断を誤ると取り返しがつかない事態になりかねない。時には、第三者の意見を聞きアドバイスを受け入れる度量も必要だ。
・負債も背負うことになる
無借金経営が理想だが個人で多額の資金を用意することは、非常に困難である。そのため中小企業は、金融機関から運転資金や設備資金の融資を受けて事業を運営することが一般的だ。設備資金を長期で借りていると多額の負債を引き継ぐことになる。
・経営を学ぶ必要がある
事業経営は、会社員の抱えるリスクとはまったく異なる。家族経営といえども必要な知識とスキルは、サラリーマンとはまったく異なってくるため、経営状況や今後の見込みなどを検討し運営しなければならない。業界の専門知識や技術、マーケティング、税金、財務、会計などの知識も必要になるだろう。
従業員がいれば労働保険や社会保険、労務管理の知識も必要になる。
「事業」といえるまでにするには「家業」を拡大しなければならない
これまでサラリーマンから家業を継いで経営者に転身するメリットとデメリットを解説してきた。経営者となることに腹をくくることができたのなら事業拡大を図り成功したいと思うのは当然である。
会社を家業から事業にするには
家業を継いで事業の拡大を図るには、家業規模のレベルから事業規模のレベルへの拡大が必要だ。事業は、経営者の手腕次第であり、収益が増えることもあれば悪化することもある。そのため収入面では、サラリーマンと比べて不安定になりやすい。すべて経営者の裁量、つまり経営手腕次第といえるだろう。事業を拡大し安定した収益を得るには、従業員を雇い事業レベルの会社に成長させる必要がある。
業種によっても異なるがやはり家族だけでは仕事量に限界があり増収増益は難しい。事業規模へと拡大を目指すのであれば「経営について学ぶ」「従業員を雇う」「早い段階で経営者の思考に切り替える」といったことが重要になる。
従業員を雇う
人、物、金、情報など会社経営に必要なものは多岐にわたる。しかしその中でも重要なのは、従業員だ。働き方改革が叫ばれる時代において従業員を大切にする会社は成長し従業員のモチベーションが高いほど企業が成長する時代となっている。上述したように従業員を雇う場合は、労働保険や社会保険の適用、就業規則の作成のほか専門的な労務管理の知識が必要となってくる。
まとめ
サラリーマンが家業を継いで経営者に転身するきっかけはさまざまだ。しかし経営者になるなら誰もが成功したいと願うはずである。家業を継ぐ場合には、デメリットもあるがメリットを活かして成功を収めたいものだ。良い会社を作る条件は、利益目標や経営理念、粘り強さ、顧客満足度・従業員満足度の追求などが挙げられ、学ぶべき知識も多岐にわたる。
また従業員を雇う場合は家族の生活だけではなく従業員に対しても責任を持たなければならない。特に中小企業においては、良い経営者がいる会社が良い企業の条件となるため、経営者の手腕次第で良くもなれば悪くもなるのである。