
3C分析とは、経営戦略を立案するためのフレームワーク(手法)の一つで、現在のビジネス環境を顧客(Customer)、競合会社(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から分析するものだ。「3C」はこれら3つの頭文字である。
3C分析は、マーケティングやコンサルティングでしばしば用いられるフレームワークである。3C分析によって市場を確認し、自社の強みや競合他社の強み、自社の弱みなどを明確にしておくことは、経営戦略の基本方針を決める際に役立つ。
経営戦略立案のフレームワークには様々なものがあるが、最初に行うべきなのが3C分析と言えるだろう。3C分析の基礎知識や具体的な手順、実践方法などについて、わかりやすく解説する。
目次
3C分析は計画立案のフレームワーク
3C分析を提唱したのは、著名経営コンサルタントで上場企業のビジネス・ブレークスルー代表取締役会長でもある大前研一氏だ。
世界的なコンサルティング会社であるマッキンゼーの日本支社に在籍していた1982年に出版した『The Mind Of The Strategist: The Art of Japanese Business』という英文の著作の中で、「いかなる経営戦略の立案においても、3つの主たるプレーヤーを考慮に入れなければならない」「3つのC、顧客(Customer)、競争者(Competitor)、会社(Corporation)を統合することによってのみ、競争で優位に立ち続けることができる」と説いたのが最初だと言われている。
3C分析とは?顧客、競合、自社、3つの「C」
あなたは、自分の会社の3Cを即答できるだろうか。経営者、経営陣であれば、すぐに答えられるようにしておきたい。それをサポートするのが3C分析だ。
3C分析は、経営戦略の立案やマーケティング、コンサルティングに欠かせない基本的なフレームワークであり、経営戦略の基本方針を決める際に使われることが多い。企業が置かれたビジネス環境、内外環境などをもとに3Cを明確にしておくことで、経営戦略を優位に進められる。
3C分析によって決定した経営戦略の基本方針をもとに、事業の主要成功要因(KSF=Key Success Factors)を導くなど次のフレームワークにつなげることができる。3C分析の目的や具体的な手順を紹介しよう。
3C分析の目的は「ビジネス環境の外部要因と内部要因を明確化すること」
3C分析を行うと、事業の進むべき方向、経営戦略の基本方針が見えてくる。様々なビジネスプランの中から最も有効なものを選び、経営資源(リソース)を適切に分配し、売上や利益などの目標を達成できる仕組みを構築することが、3C分析の目的だ。
3C分析は、ビジネス環境を3つのCの視点で明確化することで、経営戦略や経営スタンスがブレることを防ぐことができる。3C分析とは、「ビジネス環境の外部要因と内部要因を明確化すること」とも言えるだろう。
3C分析の手順 顧客分析、競合分析、自社分析
3C分析の具体的な手順を、それぞれのCについて見ていこう。3C分析はフレームワークとしてはポピュラーで、(図1)のようなテンプレートを埋めることで現状を分析していく。これによって、外部要因と内部要因の情報が整理されるはずだ。
(図1: 3C分析のテンプレート)

顧客分析……PEST分析を組み合わせよう
顧客分析では、最初に市場を分析し、その後に顧客を分析するといいだろう。最大の目的は、市場や顧客のニーズの変化を知ることだ。市場分析にはマクロ分析・ミクロ分析を使い、その情報をもとに顧客分析を行うのが基本だ。
市場の現状、市場規模とその推移、顧客のニーズ、顧客の購買行動・能力などを知り、ターゲットを明確化するのがポイントだ。市場を知らなければ、自社の強み・弱みを知ることもできない。
市場分析には、マクロ分析とミクロ分析を用いる。マクロ分析では、景気動向や人口動態と言ったファンダメンタルズとともに、規制緩和や業界をとりまく法改正など、社会の変化に起因するビジネス環境の変化を分析する。
マクロ分析のフレームワークとしては、PEST分析が代表的だ。「PEST」はPolitics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字で、これらの変化を明確にすることが市場分析に役立つ。
ミクロ分析では、業界の市場規模や今後の展望、構造、再編成、新製品のトレンドなどの状況と変化を分析していく。業界のビジネス環境を認識し、理解しておくことが経営戦略立案に不可欠だからだ。
業界分析の手法として有効なものに、ファイブフォース分析がある。これは、買い手の交渉力、売り手の交渉力、新規参入業者、代替品の脅威、競争関係という5つの要因(フォース)を分析するフレームワークだ。このように、業界全体にも目を向ける必要がある。
マクロ分析やミクロ分析で得た情報をベースに、ビジネス環境の変化が顧客にどのような変化をもたらすかを分析し、顧客の消費行動やニーズがどのように変化するかを予測することが、顧客分析の目的である。
競合会社の分析……情報収集が欠かせない
競合会社の分析では、競合会社を特定し、競合会社が市場や顧客のニーズの変化にどのように対応しているかを分析する。
競合会社の業界でのポジションと足元の業績などの現状を知り、その状態になった要因を分析していく。取得できるなら競合会社の財務諸表も分析して、売上や利益率、広告宣伝費などを自社と比較できればベストだ。
競合会社がどのようにして結果を出しているのか、どのようにしてリソースの効率を高めているのか。自社と競合会社を比較して違う部分を明確にし、どのように市場の変化に対応しているかを分析しよう。リソースの効率を比較するには、ROEや社員1人当たりの売上高を見るといい。
さらに、製品・開発体制・販売ルート・営業・販促・サポートなど、あらゆる側面から自社との違いを分析できれば、競合会社との差別化を図れるポイントを見つけやすくなる。
自社の分析……SWOT分析を組み合わせよう
自社分析は、顧客分析と競合会社分析のまとめとも言える。市場や顧客のニーズの変化や競合会社の動向を把握した上で、経営理念なども考慮しつつ自社が成功できるビジネスモデルを見出すための分析だ。自社の良いところと悪いところを明確にし、競合の良いところを取り入れ、競合がカバーできていない分野に進出し、競合がリーチできていない顧客にアプローチすることを検討するなど、自社の事業の主要成功要因(KSF=Key Success Factors)を探ることが目的だ。
現在の市場規模を確認した上で、その成長性を想定し、自社製品を購買している層や潜在的な顧客層を把握し、今後の収益増に寄与するビジネスモデルを考案する。市場の競争状況や競合企業について分析することは、競合からシェアを奪い、収益を増やすことに直結する。
自社の分析では、SWOT分析が使われることが多い。SWOT分析は、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)を明確化するものだ。自社のどういった点が強みで、どういった点が弱みで、どんなところにビジネス機会があり、どんなところに脅威があるかという項目をマトリクス状に並べて分析するフレームワークである。
(図2: SWOT分析のテンプレート)

3C分析のメリットは? 現状について定性的・定量的に把握できる
自社の現状やリソースについて、定性的・定量的に把握できるのが3C分析のメリットだ。収益力や市場シェア、人的リソース、組織力、グループ力、技術力、ブランドイメージなどを常に明確にしておくことができる、とも言えるだろう。
3C分析はビジネスのさまざまなシーンで活用できるので、経営戦略の策定や経営計画の立案だけでなく、事業部単位の戦略、製品単位の戦略など、さまざまなレベルで利用できる。3C分析は、新分野への参入や市場からの撤退などの検討にも使えるのだ。
しかし、3C分析はあくまでビジネス環境を分析するためのプロセスにすぎない。3C分析の目的は、分析結果に基づいてKSFを導き出すことなのだ。この目的を明確にしておくことで、3C分析の分析項目を絞り込み、本当に必要な情報を得ることができる。
3C分析はフレームワークとして広く知られ、利用されている。これを発展させ、費用(cost)や流通・卸売・フランチャイズなどの販売チャンネル(channel)、背景・状況(context)、協業(collaboration/cooperation)などを加えた4C分析や5C分析なども行われている。
3C分析の問題点 BtoBで競合会社が多い場合はうまくいかないことも
3C分析の問題点は、目的を明確にしないまま分析を行うと、3C分析そのものが目的になってしまうことだ。目的が明確でない分析をすることはリソースの無駄使いになるだけでなく、焦点の定まらない分析結果を得ることにつながる。
また、3C分析では3つのCという切り口でそれぞれを分析していくが、業界や競合会社の情報収集がままならいと、分析ができない。特にBtoBで競合会社が多い場合は、BtoCに比べて情報を収集しにくいことがある。
情報収集に時間がかかりすぎ、3C分析が進まないこともある。変化の激しい現在社会においては、3C分析に時間をかけすぎると、その間に顧客や競合の動向が変わってしまう可能性もある。
企業の規模が大きく、多くの商品や事業部がある場合は、3C分析の焦点が定まりにくい。分析担当者が、自社の強みや弱みを把握できないケースもあるだろう。その場合は、事業部単位や商品単位にドリルダウンしてから3C分析を行うといい。
3C分析を使った事例3選
1.米コーヒーチェーン店が日本進出の頃
【顧客(Customer)】
- 日本のコーヒー市場は大きい
- 喫茶店の数は減少中、セルフサービス型のカフェ店が急増中
- オフィスや自宅以外でコーヒーをくつろいで飲みたい層が増加
- カフェでWIFIなどを使って仕事をしたい層が増加
- コーヒーの味にこだわる層が増加
【競争者(Competitor)】
- 急増中のカフェ店の中心は低価格帯店が多い
- フルサービスのコーヒーはホテルなどで高価格帯が中心
- 低価格帯のカフェは狭くくつろげる空間とは言えない
- 低価格帯のカフェはブレンドが中心で味にこだわりが少ない
- フルサービスのコーヒー店は出店数がすくない
【会社(Corporation)】
- 米国でスペシャリティコーヒーショップ、シアトル系カフェとしての地位確立
- 低価格帯と高価格帯の中間
- 空間、WIFIなどで仕事に使えることなどにこだわりくつろげるおしゃれな場所を提供
- コーヒー豆と味にこだわり
- マニュアル化と会社へのロイヤリティを強化することで質の高いサービス提供
2.アパレルに特化したEC通販が市場シェアを伸ばし始めた頃
【顧客(Customer)】
- BtoC市場が急拡大するなかで、アパレルのEC比率は低い
- アパレルのEC市場は高成長が期待出来る
- アパレルECのプラットフォーマーは存在していない
- アパレル市場の中心は30歳以下の女性
- アパレルECには、試着問題、サイズや実際の素材や色の問題、返品の問題などがあるため市場が伸びていない
【競争者(Competitor)】
- コンペティターは、化粧品、サプリなどの間接コンペティターが中心
- プラットフォーマーの大手ECサイトでは、試着問題、サイズや実際の素材や色の問題、返品の問題などを解決していないため、普及が進んでいない
- メーカーの直販のオンラインショップは増え始めているが、各社のウェブサイトを訪問することはユーザーにとっての使い勝手がよくなく、メーカーにとっても負担が大きい
【会社(Corporation)】
- 幅広いラインナップのブランドを提供する
- 多くの会員とメーカーの登録でアパレルECのプラットフォーマーを目指す
- 試着問題、サイズや実際の素材や色の問題、返品の問題などを解決できるように改革する
3.米検索会社がシェアを拡大し始めた頃
【顧客(Customer)】
- インターネット市場は成長市場であり、検索は窓口として重要だ
- ディレクトリー型の検索はインターネット創設期においては威力を発揮するが将来的にはその手間や信頼性で行き詰まる
- ディレクトリー型はポータルサイトに依存している
- 将来的にはロボットが自動検索する検索エンジンの普及は必至
【競争者(Competitor)】
- ディレクトリー型の1社がほぼ市場を独占
- それ以外のコンペティターもディレクトリー型がメイン
- 検索エンジンによる検索は群雄割拠の状態
- ディレクトリー型ではサイトの訪問者数を競い、サイトへの広告でマネタイズしている
【会社(Corporation)】
- キーワードで世界中のウェブサイトを探して高速で検索するシステムを開発
- 信頼性を高めるために、多く引用されているものの信頼度が高いと判断し上位に表示するアルゴリズムを開発
- サイトの訪問者数だけでなく、キーワードに連動した広告や広告をクリックした数でマネタイズする方法を導入した
フレームワークを利用することの意味
3C分析のようなフレームワークを利用することで、プレゼンテーションにも適した見栄えの良い経営戦略を立案できる可能性が高い。
経営戦略の立案でフレームワークを利用することの意味は、分析のスピードが速くなること、分析の効率が良くなること、様々な観点で分析することで全体を俯瞰できること、プレゼンテーションに適した資料を作成できることなどがある。
今回は3C分析を中心に紹介したが、優れた経営戦略の立案には適切なフレームワークが不可欠だ。コンサルタントが優れているのは、多くのフレームワークを使って考える経験を多く積んでいるからだ。
しかし、いくら見栄えが良くても実行できない経営戦略では意味がない。経営戦略は、あくまでも実行に移すことが大切なのは言うまでもないだろう。
なお、大前研一氏は2000年に出版した『The Invisible Continent』で、「新しい経済領域(サイバー経済、マルチプル経済、ボーダレス経済)が出現したことで、3C分析は通用しなくなった」と述べていることを留意しておきたい。
文・平田和生(ストラテジスト)