「利益率」といって何を思い浮かべるだろうか。利益率と一口にいっても、時と場合によってその意味するところは大きくことなる。本稿では、さまざまな種類がある利益率について、概観をしていきたい。
目次
利益率の種類について
利益率については、大きく、売上高などの損益計算書を基準とする利益率と、資本など、貸借対照表を基準とする利益率に大別される。それぞれ、使用するシーンが異なるが、どちらも、その企業の経営成績を評価することを目的としている。
特に、前者の売上高などの損益計算書を基準とする利益率においては、ビジネスそのものの収益性を評価するために用いられることが多い。後者の資本など、貸借対照表を基準とする利益率については、投下資本が有効に収益獲得のために活用されているかを評価するという観点から主に使用される。
売上高など、損益計算書を基準とする利3つの利益率
売上高など、損益計算書を基準とする利益率として、3つの利益率を紹介する。
1.売上高総利益率
これは、一般に「粗利」といわれることが多く、こちらのほうがなじみにある人も多いかもしれない。売上高総利益率は、以下の算定式によって計算される。
売上高総利益率(%) = 売上総利益(粗利) ÷ 売上高 × 100
この売上高総利益率は業界ごとに大きく異なるが、薄利多売戦略を積極的にとっている企業でない限り、大きければ大きいほどいいといえる。中小企業の場合であれば、少々古い資料ではあるが、経済産業省の統計(商工業実態基本調査)によると、製造業で24.9%、卸売業で15.8%、小売業で29.1%、飲食業で56.8%となっている。
2.売上高営業利益率
売上高営業利益率は、企業の収益性や経営管理の効率を示す指標である。営業利益は、売上総利益から販売費や一般管理費を控除したうえでの数値であり、会社の本業の収益性を示しているといえる。また、支払利息を控除する前の数値であるため、会社の財務構成による影響を受けず、事業そのものの収益性を評価できる点もメリットである。売上高総利益率は、以下の算定式によって計算される。
売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
売上高営業利益率は、中小企業の場合であれば、売上高総利益率と同じデータで、製造業で4.0%、卸売業で1.5%、小売業で3.5%、飲食業で11.4%となっている。売上高営業利益率については、数パーセントあれば上出来ともいわれることもあり、不況下では、多くの企業がマイナスになることもある。
3.経常利益率
これは売上高総利益率に対し、事業部分だけではなく、企業全体の企業の基礎体力を示す指標である。経常利益率は、資金調達の方法によって影響を受けるものであり、負債の金額が大きく、利率が高い場合においては、売上高営業利益率が良好であったとしても、経常利益率は悪いということもありえる。
さらに、営業利益が低くても本業以外の収入が多いと、経常利益が高くなることもあり、逆に、貿易格差などの影響によって営業利益が黒字でも経常利益が赤字になってしまうこともある。経常利益率は、下記の計算式によって算定される。
経常利益率(%) = 経常利益 ÷ 売上高 × 100
一般的な企業の経常利益はおよそ4%が平均値であると言われており、優秀な企業の場合は10%前後になると言われている。
資本など、貸借対照表を基準とする利益率
資本など、貸借対照表を基準とする利益率として、2つの指標を紹介する。
自己資本比率
自己資本利益率は、ROE(return on equity)ともいわれる。自己資本利益率は、自己資本に対してどれだけ多く当期純利益を上げることができたかを示す指標であり、どちらかというと、経営者よりも投資家がその投資効率を判断するために用いることが多い。自己資本利益率の計算式は、以下のとおりである。
自己資本利益率(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ちなみに、この場合の自己資本は、株主目線で算定されるため、株主資本のみで算出される(純資産から新株予約権や少数株主持分は控除される)。
自己資本利益率に関しては、企業の財務構成の影響を大きく受ける。自己資本比率が20%の借入金の多い会社と100%の無借金経営の会社とでは、同じ総資本で同じ利益を出したとしても、自己資本利益率が5倍になる。このような効果を財務レバレッジということもある。
日本の上場企業における自己資本利益率平均値は、2018年度は9.4%で、ここ5年ほどは8%から10%の間で推移しており、近年は欧米と比較するとやや低い水準となっている。特に、米国の自己資本利益率平均値は日本の2倍近い水準となっている。
なぜ、日本企業の自己資本利益率が低迷しているのだろうか。それは、内部留保の潤沢さに比べて、そもそもの利益の水準が低迷していることが要因である。また、日本を代表する企業は、製造業などの巨大な設備や土地等を必要とする事業や金融業の比率が高い。自己資本が少なければ、自己資本利益率は高く出るため、業種ごとに平均値の隔たりがあることにも留意する必要があるだろう。
総資本利益率
これは、ROA(return on asset)といわれる。総資本利益率は、企業の資産をいかに効率的に運用できているかを示すものであり、分母が資産になるため、財務構成の影響を受けない。そのため、財務構成や規模の異なる同業他社間でのヨコの比較に適しているといえるだろう。総資本利益率の計算式は、以下のとおりである。
総資本利益率(%) = 当期純利益 ÷ 総資本 × 100
利益が多くても、現金預金が潤沢でうまく運用ができていない会社は、総資本利益率が低迷してしまうことも多い。
利益率以外の財政状態・経営成績を表現する指標
利益は、会社の経営成績を分析するうえで基礎となる指標であるが、経営分析に用いられるのは、利益率だけではない。ここでは、利益率以外の収益を表現する指標について解説していきたい。
回転率
回転率とは、会社の資産が有効に活用されているかを分析するための指標だ。例を挙げると、総資産回転率では、売上高を総資産で割ることによって、会社規模にかかわらず、どれだけ効率的に売上を稼得しているかを示している。有形固定資産回転率では、売上高を有形固定資産で割ることによって、運転資金の量に左右されず、本業の資産効率を把握できる。総資産回転率では会社全体の資産が、有形固定資産回転率では特に工場や店舗などの有形固定資産が、有効に活用されているかどうかを示している。
回転期間指標
また、受取手形・売掛金といった売上債権や、棚卸資産、支払手形・買掛金といった仕入債務の効率性を見る場合、回転率指標でも分析できるが、より一般的に使われるのは回転期間指標である。これは、売上高の何ヵ月分の売上債権や棚卸資産、仕入債務を抱えているのかを見るための指標だ。
売上債権回転期間は売上債権の回収までにかかる期間を、棚卸資産回転期間は在庫が売れるまでの期間を、仕入債務回転期間は在庫を仕入れてから仕入代金の支払いを行うまでの期間を示している。それぞれの算定式は下記の通りである。
売上債権回転期間(月)=売上債権(売掛金・受取手形など)/(売上高÷12)
棚卸資産回転期間(月)=棚卸資産/(売上高÷12)
仕入債務回転期間(月)=仕入債務(買掛金・支払手形など)/(売上高÷12)
売上債権回転期間や棚卸資産回転期間は、短いほど効率性が高いということになるが、棚卸資産に関しては少なすぎると欠品が発生するおそれが高まることから、棚卸資産回転期間は欠品が生じない程度に短いほうがよいということになる。
逆に、仕入債務回転期間は、長いほど自社にとってはキャッシュ・フロー上有利にはなるが、仕入債務の支払いまでの期間を短縮すると、取引先にとっては逆に売上債権回転期間の短縮につながる。そのため、仕入債務の支払いまでの期間短縮を仕入価格の値下げ交渉の材料とすることができる場合もある。
回転期間分析は、キャッシュ・フロー上のリスクやコストの定量化にもなる。売上債権回転期間と棚卸資産回転期間が長く、仕入債務回転期間が短い場合は、キャッシュ・フロー上のリスクやコストが高いことになる。
例えば、売上債権回転期間が6月、棚卸資産回転期間が6月、仕入債務回転期間が0(即時払)の場合を考えてみると、仕入債務を支払ってから売上債権が現金化されるまで、実に6月もの期間が必要ということになる。
会社経営においては、仮に黒字であったとしても、資金が枯渇してしまえば倒産してしまう。実際に、現金預金(キャッシュフロー)の収支を継続して黒字化することが求められるので、回転期間分析も倒産しない会社をつくるうえでは非常に重要である。
インタレスト・カバレッジ・レシオ
インタレスト・カバレッジ・レシオは、会社が通常の活動から生み出すことのできる利益、つまり営業利益と金融収益(受取利息と受取配当金を含めることが多い)が、支払利息をどの程度上回っているかを示す指標であり、下記の計算式に基づいて算定される。
インタレスト・カバレッジ・レシオ =(営業利益 + 金融収益)÷ 支払利息
支払利息は、名目上の支払利息以外にも、実質的に支払利息とみなせるような、金融費用を含める場合が多い。インタレスト・カバレッジ・レシオは、企業の安全性、つまり財務体質の健全性を評価する要素の1つであり、この比率が高いほど、財務的に余裕があることを意味している。
そのため、社債格付の際の指標や、企業の金利負担能力を測る指標として用いられるが、大きく成長している会社では、借金を増やしてでも事業を拡大することが望ましい場合もあるため、会社の成長ステージなども考慮しなくてはならない。
利益率から経営状態を正確に把握し、企業経営に生かす
それぞれの指標が示す内容や特長を踏まえて、多面的に分析を行い、経営状態を正しく理解することが必要だ。何を重視するかは、企業の業種や成長ステージにより異なるが、各利益率を健全な企業経営に生かしていただきたい。
文・内山瑛(公認会計士)