トップカルチャー(新潟県新潟市)は新潟を拠点に1都9県で「蔦屋書店」64店舗及び 「TSUTAYA」6店舗を展開。2021年5月末時点で全70店舗と同ブランドのトップフランチャイジーだ。加盟以降、CD・DVDのレンタルに加え、書籍・CD・DVD・文具・生活雑貨等を販売する大型複合店舗の運営で事業を拡大してきた。2005年に東証第1部に上場し、今年3月に発表した2021年10月期第1四半期連結決算は、純利益が前年同期比15.6%増の1億2600万円となった。同社の清水大輔社長は、今年1月に創業者である父親から事業を引き継ぎ社長に就任。新たな施策を次々と打ち出している。

清水 大輔社長(37)
(画像=清水 大輔社長(37))
清水 大輔社長(37)
清水 大輔社長(37)
しみず・だいすけ
1984年6月7日生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、楽天入社。経営企画室、楽天市場事業部、営業開発部を経て、楽天ブックス事業部事業戦略グループ。2018年8月Hult International Business School(ボストン)を卒業し MBA取得。メディアドゥホールディングス(現メディアドゥ)を経て、2019年11月にトップカルチャー入社。経営企画室、取締役経営企画室長を歴任し、2021年1月代表取締役社長COO兼営業本部長に就任、現在に至る。

トップカルチャーは1986年に創業。翌年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が展開する「TSUTAYA」の初期FCとして加盟した。当時はレンタルビデオ1本1000円の時代。以降、同社はTSUTAYAの発展とともに成長してきた。CCCの増田宗昭社長は現在まで、トップカルチャーの社外取締役を務めている。

同社が展開する店舗は、書店がメインだ。ビデオ・CDレンタルとともに、書店の存在意義が叫ばれる中、蔦屋書店本部は2020年の国内書籍・雑誌販売総額1427億円で過去最高額を記録。トップカルチャーでもコロナ禍等で来店客数減少があったものの、書店事業全体の20年11月〜21年1月期売上高は前年同期比97・4%と減少幅は抑えられた。しかし、縮小傾向にある市場の中で、同社が抱える課題も多い。

今年1月に2代目社長に就任
課題はレンタル事業からの脱却

―今年1月、2代目社長に就任されました。御社を取り巻く事業環境は決して良好とは言えません。取り組むべき課題は多いのでは。

清水 大きな課題は配信に押されてレンタル事業が低調なことです。そこで、3月から店舗 でレンタル事業を廃止しました。その結果、新たなライフスタイル売場として安定してきています。また、売場効率が良くなり、収益力改善にもつながっています。レンタル希望のお客様は既存店舗に行っていただくことで、ドミナント戦略も成功しています。本部も事業転嫁を進めており、当社もレンタル事業から脱却していくつもりです。

▲「蔦屋書店高田西店」の店舗内
(画像=▲「蔦屋書店高田西店」の店舗内)

―御社は創業当初から書籍・文具は自社で手掛けており、決して本部だけに依存してきた訳ではない。

清水 在庫管理システムなど、当社の成功を本部へ逆輸入している部分もあります。

―今後の出店計画は

清水 出店はスクラップアンドビルドで行う予定です。一番好調な店舗が1000坪規模の大型店なので、100〜200坪の小型店舗は絞りたい。地域基盤店として運営する計画です。1000坪には書籍・文具・雑貨のほか、カフェやコワーキングスペース、美容室などが入居します。土地は基本的に賃貸ですが、1000坪だと居抜き物件が少ない規模でもあります。テナントは、こちらから働きかけるより、先方から出店依頼を受けることが多いですね。最近の傾向としては、「蔦屋書店」とスーパーなどを併設するケースも増えました。

―併設により他業態との相互シナジー効果が図れます。

清水 ただ、書店を核に本に関連するサービスを提供していきたい気持ちはブレていません。 そのためエリアでは東京都内・神奈川には基本的に出店しません。書籍は売価変更が出来ず、粗利が良い商売ではないので家賃や人件費などコストが高いと効率が上がらないからです。ある程度地方で、ある程度コストを抑えながら商品を回していく計画です。

―依然として出版不況の苦しい状況が続いています。昨今、町の書店は年間500〜600店が閉店している状況です。書店に注力するというと「逆張り」の投資では。

清水 当社はこの10年間、実は書店としての利益がほとんど変わっていません。昨年度実績の売り上げ構成比では、書籍55%、食品・雑貨16%、レンタル10%、ゲーム4%、販売用CD・DVD5%、テナント貸し2%でした。複合的に運営していることもあり、売上は安定しています。そのため、この数年間で書店としてのマーケットシェアが倍になりました。書籍の流通規模がシュリンクしても、当社は残っていける。

―今後書店として発展させていくための計画は。

清水 ECとデジタルの融合が必要です。私は前職で楽天ブックス、メディアドゥという電子書籍を取り扱う会社にいました。その経験を生かしてECと実店舗の絡め方を検討中です。例えば、今話題のデジタル付録を「蔦屋書店」とどう絡めて、オリジナルとして作っていくのかといったことです。これはメガフランチャイジーだからこそ取り組めることだと思っています。デジタル・EC・リアルがうまく融合できる書店を創れば、新しい出版業界を創っていけるはずです。直近3年から5年の道筋は見えています。当社の事業は、5年後には書籍、食品・雑貨、不動産賃貸テナントしか残らないと予想しています。

―ビジネスモデルが変わっていく。

清水 基本的に新店舗でレンタル事業は取り扱いません。書店の前に、あくまでも小売店としての独り立ちを目標にしています。消費者目線に立ったとき、小売りという業態に垣根はありません。ドラッグストアやスーパー、ホームセンターで取り扱っている商品は、基本的にほとんど同じです。その中で、それぞれの特色がある。ホームセンターなら園芸、スーパーなら生鮮、ドラッグストアなら薬品です。自分たちの強みとして商売を成り立たせていて、さらにオリジナルブランドを展開している企業もあります。これまで書店は再販制度などの慣習もあり、この枠組みから外れていました。今後は、本を強みにしながら小売りの競合他社と同じものも取り扱います。

売上構成比は書籍55 %・レンタルは10%
複合店舗によるポートフォーリオを重視

▲ブルボンとのコラボ売り場も
(画像=▲ブルボンとのコラボ売り場も)

同社が主軸としている書店事業は、市場全体が構造改革に迫られている。特に問題となっているのがいわゆる「再販制度」だ。これにより基本的に書店側が販売価格を設定することは出来ない。一方で、書店から出版社に返品できる委託販売制度に守られていることもあり、これまでにも書店の在庫管理は甘いと指摘されてきた。

流通革命で黄金期ふたたび
在庫システムが本部に採用

―新たに在庫管理システムを導入しました。

清水 独自の在庫管理システムで、当社の書籍在庫65億円相当を50億円まで圧縮に成功しました。私自身楽天入社5、6年目に楽天ブックスへ配属され、リアル書店とEC書店を連動させる事業に取り組んできました。その時、書店業界が抱えるこれらの問題点に気付いたのです。そして父の書店でも同様の悩みを抱えているなら解決したい、と考えました。

―書店業界の在庫管理は甘いといわれています。実際川下の書店で危機感を持って取り組んでいるところは少ないのではないでしょうか。

清水 委託制度で売れないものを返せる、最後返せば良いという考えがどんどん在庫を増や し、売れない売り場を作ってしまっています。それではお客様にとっても良い売り場とは言えません。いらないものは返して、生まれたキャッシュで売れるものを仕入れて販売して回していくことが重要だと思います。当社は入荷1か月目、2か月目とデータを収集しており、ジャンルごとに何か月で売上が立たなくなるか判断します。また、入荷してから1か月目はどこに置いていても売れるものです。3か月目以降のものを手の取りやすい場所に配置することで、商品の回転率を上げています。

―今後、御社と本部の関係に変化はありますか。

清水 むしろもっと強固になるでしょう。CCCの増田社長は当社の社外取締役に就いていただいており、改革の旗振り役でもあります。毎月打合せをして、今の事業を成功させようという気概でいます。レンタル事業を終了し、新しいFCパッケージを作っていくために、特にこの3年は同じベクトルに向かいます。

▲コワーキングスペース事業も展開
(画像=▲コワーキングスペース事業も展開)

―CCCからの資本が多く入っている訳ではないのに、これほど本部と強い結びつきのある加盟店は珍しい。

清水 当社の今後の目標としては、2点。1点目はTSUTAYAのFCトップランナーであり続けることです。TSUTAYAグループの未来を背負っている覚悟でいます。2点目は書店の枠組みから小売業にチャレンジするタイミングだと思っています。今は脱皮の段階です。この2点に取り組み、次のステップとして空間価値を提供できる小売になることを目指しています。モノを売らない小売りですね。当社が運営するコワーキングスペースはもちろん、お店に来るととても良い雰囲気が味わえる、といった空間サービスを考えています。