電力会社の露呈した”闇” 東京電力や関西電力に立入検査
(画像=naka/stock.adobe.com)

電力会社への立ち入り検査が相次いでいる。テロ対策不備の不祥事、事業者向けの電力供給をめぐるカルテルなど、最近また新たに電力会社の闇が続々と露呈されている。電気料金を支払っている一般消費者の知らないところで、いま何が起きているのか。

電力会社をめぐる2つのトピックス

最近行われた電力会社の立ち入り検査について2つのトピックを見てみよう。1つ目が原子力規制委員会による東京電力の立ち入り検査、2つ目が公正取引委員会による九州電力や関西電力など電力4社への立ち入り検査だ。

1つ目の原子力規制委員会による東京電力への立ち入り検査は、東京電力の原子力発電所である新潟県の柏崎刈羽原発において、テロ対策の不備があったことを受けたものだ。詳細は後述するが、放射性物質を防護する体制に不備があったことなどが問題視されている。

2つ目の公正取引委員会による電力4社への立ち入り検査は、電力会社同士が水面下で顧客の奪い合いをしないことを取り決めた疑いがあることに端を発する。競争の原理が働かなければ電力価格は下がりにくい。このようなカルテルは結果的に、一般消費者の負担増につながる。

東京電力の立入検査から見えてくる闇

東京電力の今回の不祥事は、2020年に発覚したものだ。放射性物質を扱っている原子力発電所では、放射性物質がテロなどに使用されるのを防ぐため、人の出入りの監視や不正入室の防止などが必須となっている。

しかし、東京電力の柏崎刈羽原発では、人の入退出の監視装置が故障したままの状況が続き、故障後に適切な対策も行われていないことが明らかになった。さらには、東京電力の社員が他人のIDを使い、柏崎刈羽原発の中央制御室に不正に入室していたことも判明している。

今回の不祥事で再稼働は遠のくことに

ちなみに柏崎刈羽原発は、2011年の東日本大震災で東京電力福島第1原発事故が起きたあと、現在に至るまで停止している。しかし東京電力は経営再建のために柏崎刈羽原発の再稼働を目指してきたという経緯がある。

だが、今回の放射能物質の防護体制に関する不祥事によって、再稼働はさらに遠のくことになった。原子力規制委員会が今回の不祥事を受け、2021年4月に再稼働に必要な核燃料の装塡などを禁止する行政処分の是正措置命令を決定したからだ。

これにより、状況が改善されたと原子力規制委員会が判断するまでは、柏崎刈羽原発の再稼働は認められない。そして2021年7月、原子力規制委員会は東京電力の本社を立ち入り検査し、小早川智明社長への聴取も行った。

東京電力は今後、9月までに原子力規制委員会に報告書を提出する運びとなっている。その報告書には不祥事の原因や再発防止策が盛り込まれることになっており、その中身に注目が集まることになりそうだ。

電力4社への立ち入り検査から見えてくる闇

続いて、2つ目の電力4社への立ち入り検査についても見ていこう。公正取引委員会は2021年7月、九州電力と子会社の九電みらいエナジー、関西電力、中国電力に対し、立ち入り検査を始めた。この電力4社には、独占禁止法違反の疑いがかかっている。

電力の小売りは現在自由化されつつあり、電力業界で顧客獲得競争が起きることにより、料金の引き下げなどが期待されている。しかし、立ち入り検査を受けた電力4社は、事業者向けの電力供給において、互いの顧客を奪い合わないよう取り決めていた疑いがあるという。

これはいわゆる「カルテル」と呼ばれるものだ。事業者向けの電力料金が高止まりすると、事業者の電力コストの負担が下がらず、事業者が提供・販売する製品やサービスの価格が下がらない。つまり、一般消費者も今回のカルテルの被害者となる。

電力業界、過去にもさまざまな不正・不祥事

ちなみに、今年に入って立ち入り検査を受けた中には関西電力も含まれているが、関西電力は過去に金品受領問題の不祥事を起こしている。関西電力の高浜原発がある福井県高浜町の元助役から、経営陣が総額で3億以上に相当する金品を受け取っていた問題だ。

関西電力とともに立ち入り検査を受けた九州電力も、「やらせメール」問題を起こしている。佐賀県の玄海原発の再稼働に向けた県民説明番組において、住民を装って賛成意見を投稿するよう、本社社員などに指示を出していた問題だ。2011年7月に発覚した。

これらの電力会社の闇とも言える不祥事を挙げていくと枚挙にいとまがなく、まだまだ発覚していないことも多数あると予想せざるを得ない。2021年、そして2022年も、また新たな電力会社の不祥事や不正が明らかになるかもしれない。

電力はさまざまな産業、そして国民の生活にも無くてはならないものだ。電力会社のコンプライアンス(法令遵守)はもちろん、原子力規制委員会や公正取引委員会にはより厳しいチェック機能が求められていると言えるだろう。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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