税抜経理方式,税込経理方式,メリット,デメリット
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

消費税の納付が必要となる会社の場合、法人税などを計算する際に、消費税の扱いについて「税抜経理方式」か「税込経理方式」を選択することになります。

消費税の額を本体価格と別に扱うか、それとも含めて扱うかが異なります。

それぞれのメリットやデメリットはなにか、結局どちらがいいのか、解説します。

会社が納める消費税

法人税、消費税、法人住民税など、会社であれば、さまざまな税金を納めなければなりません。

期限内に、法律に従った適切な納税が行えない場合は、延滞税や加算税が課されてしまう恐れもあります。

消費税を納める会社と金額

設立時の資本金が1,000万円以上の場合は、消費税課税事業者となります。

また、会社の課税対象となる売上高が1,000万円を超えると、2年後には課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。

納付する消費税は、「売上で客から預かった消費税額」から「仕入れにかかった消費税額」を差し引いた額を、法人なら事業年度終了後2カ月以内に、税務署に納付することになります。

なお、会社を設立する際の資本金が1,000万円未満の場合、一般的に、初年度は免税事業者となります。

免税事業者であれば、消費税を納付する必要がないため、本体価格と消費税を分けて計算をする必要がありません。

売上と一緒に預かった消費税は、税務署へ納めず、事業主が受け取ってよいことになっています。

ただし、免税事業者は、初年度から多額の設備投資を行った場合、売り上げで預かる消費税よりも、設備投資の際に支払った消費税の方が多くても、還付を受けることができません。

このため、あえて課税事業者を選択することもできます。

消費税が課税される取引

取引には、消費税が課税されるものと、課税されないものがあります。

消費税が課税される対象は、国内において、事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供とされています。

一方、課税されない取引が3種類あります。

輸出、国際輸送、免税店での取引など国外との取引は、免税です。

また、対価を得て行う取引ではあるものの、課税対象としてなじまない土地や郵便切手の売買などの取引は、非課税とされます。

さらに、国外での取引や従業員への給与、対価のない寄付、贈与などは、不課税として課税されません。

消費税の会計処理法

消費税の課税事業者は、所得計算をする際に、消費税の会計処理方法について「税抜経理方式」と「税込経理方式」の2種類から選択することができます。

税抜経理方式

この方式は、仕入れ時に業者へ支払った金額、あるいは商品やサービスを売った時に買い主から受け取った金額を、消費税分と本体価格に分けて処理する方法です。

消費税は、仕入れに含まれる額を「仮払消費税等」、売上げに含まれる額を「仮受消費税等」として仕分けます。

たとえば、2019年8月30日に、A社が後払いで仕入れた3,240円の商品を、現金10,800円で売り上げたときのA社の仕分けは、次のようになります。

仕入れ時の額は、仕入れの本体価格3,000円と消費税240円に分けて借方に仕分けます。

(借方) (貸方)
仕入 3,000円 買掛金 3,240円
仮払消費税等 240円

売り上げ時の額は、売り上げの本体価格10,000円と消費税に分け、貸方に仕分けます。

(借方) (貸方)
現金 10,800円 売上 10,000円
仮払消費税等 800円

決算時は、仮払消費税の額と仮受消費税の額を相殺し、残額を「未払消費税」として仕分けます。

納付は、決算後2カ月以内です。

なお、支払った消費税の方が多く還付となる場合、借方に「未収消費税等」として処理します。

(借方) (貸方)
仮払消費税等 800円 仮払消費税等 240円
未払消費税等 560円

税込経理方式

この方式では、仕入れ時に業者へ支払った金額、あるいは商品やサービスを売った時に買い主から受け取った金額は、消費税分を本体価格に含めた額としてまとめて処理します。

つまり、消費税分は、それぞれ収益、経費に含めて計上します。

決算時に計算した消費税の納付額は、実務上、借方「租税公課」、貸方「未払消費税等」として処理する方法が一般的となっています。

税抜経理方式と同様、A社の仕分を確認しましょう。

仕入れ時も売上げ時も、金額は税込みで仕分けます。

決算時は、計算した消費税の納付額を記入します。

(借方) (貸方)
(仕入れ時) 仕入 3,240円 買掛金 3,240円
(売り上げ時) 現金 10,800円 売上 10,800円
(決算時) 租税公課 560円 未払消費税等 560円

税抜経理方式と税込経理方式のメリット・デメリット

両者は、仕分けの手間暇や仕分けた結果に違いがあることが、直感的に分かります。

それぞれの違いを、具体的に紹介します。

処理の煩雑さ

税抜処理方式は、商品やサービスについて、それぞれ本体価格と消費税に分けて仕分ける必要があるため、処理が煩雑になるというデメリットがあります。

手書きで記帳するとなると、かなりの労力が必要です。

一方、税込処理方式では、税込価格だけを記帳すれば良いため、仕分けの労力は少なくて済むことがメリットとなります。

ただし、税抜処理方式の場合でも、会計ソフトなどを導入することによって、煩雑さを解消することができます。

仕分け後のわかりやすさ

処理の煩雑さはあるものの、税抜処理方式で仕分けた帳簿は、消費税について明快に仕分けられることになるため、非常に分かりやすいことがメリットとなります。

決算時にならないと消費税の納税額が分からないとのデメリットを持つ税込経理方式と異なり、消費税を商品やサービスとは切り離して処理することから、納税予定額をその都度確認することができます。

また、損益計算をする上でも、消費税の額に左右されない分かりやすい決算書が作成されメリットがあります。

税率変動への対応は税抜処理方式にメリット

消費税率は、2019年10月から10%に引き上げられます。

同時に、軽減税率の適用も始まり、税率10%と8%が混在することになります。


消費税率が2種類となるため、免税事業者であっても、課税事業者から求めがある場合には、軽減の対象となる商品ごとに区分した「区分記載請求書」などを発行する必要性が生じることになります。

このような税率の変動や複数の税率が混在する場合、税込処理方式では、適切に処理されているかどうかが、帳簿上、分からないことがデメリットになってしまいます。

これに対し、最初から消費税を分離して扱う税抜処理方式では、税率が変動しても処理の方法を変える必要がなく、異なる税率も区別して仕分けることができるメリットがあります。

2種類の方式はどちらが有利?

税抜経理方式,税込経理方式,メリット,デメリット
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

税込みと税抜きの方式について、処理の煩雑さと仕分け後の分かりやすさの違いを紹介しました。

両者の違いはこれだけではなく、経費としての扱いにも違いがあることについて、紹介します。

経費で落とせる「10万円未満の少額資産」の価格は、消費税込み?

応接用テーブルやパソコンなどの固定資産も、原則として10万円未満であれば少額資産として扱われ、一括して経費で落とすことができます。

資本金1億円以下、従業員数1000人以下の中小企業の場合では、30万円未満までが少額資産となります。

少額の減価償却資産が10万円未満であるかどうかについては、会社が適用する消費税の経理処理方式に応じて判定することになります。

つまり、10万円未満であるかどうかは、税抜処理方式の場合は消費税抜きの金額、税込経理方式は消費税込みの金額で決まることになります。

税抜処理方式にメリットがあります。

経費にすることができる交際費

原則として、「交際費」は全額が経費として認められません。

しかしながら、交際費の扱いは、税法上一定の措置が設けられているため、経費として計上することも可能となっています。

期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下である会社の場合は、800万円以下の金額については経費として計上することができます。

経費として認められるのなら、課税額を減らすことができるため、節税につながります。

この交際費の額についても、税込処理方式と税抜処理方式では、扱いが異なります。

少額資産と同様、会社が適用する消費税の経理処理方式に応じて判定することになります。

やはり、税抜処理方式にメリットがあります。

税込み800万円なら消費税額は約60万円となるため、税込みでは、経費として全額を落とすことができる実質的な交際費は約740万円です。

このため、2種類の方式では、落とせる経費の額に約60万円の差がつくことになります。

まとめ

2種類の方式のメリット・デメリットを比べると、今後はますます税抜処理方式が有利になると考えられます。

この処理方式は、仕分けや記帳が煩雑となります。

しかしながら、消費税率の変動へのスムーズな対応が期待できるほか、少額資産や交際費の扱いでも経費に計上できる額を多くすることができ、節税につながることが分かります。

また、消費税分を別に計上することによって、商品やサービスだけについての損益を反映した決算書を作成することができるため、経営状況をより的確に把握することができます。

税込処理方式に代えて税抜方式を採用する場合でも、会計ソフトを導入するなど比較的小さなコストで、節税や事業の効率化を図ることも可能です。(提供:ベンチャーサポート税理士法人