新型コロナウイルスはさまざまな業種の企業にダメージを与えたが、中にはコロナ禍が追い風になった業種もある。「EC」(電子商取引)だ。中でも注目したいのが、越境ECである。日本に来ることができない「日本ロス」の外国人が、海外から日本のものを盛んに購入している。
訪日観光客が99.98%減、この状況が越境ECには追い風に
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、観光で日本を訪れる外国人は激減した。日本政府観光局(JNTO)の推計値によれば、2021年1~3月の訪日観光客数は1,187人で、ビフォーコロナの2019年と比べると実に99.98%減となっている。
<訪日観光客数の2019年と2021年の比較>
ここまで訪日観光客数が減ったことで、インバウンド客を頼りにしていたホテルや旅館などの宿泊施設、観光業を営む企業は、大きく売上を落とさざるを得なかった。日本国内ではこのような観光業界の苦境がクローズアップされ、大きく報じられた。
しかし、このような訪日観光客数の激減はある別の現象を引き起こしていた。それが、越境ECの盛り上がりだ。
訪日観光客数が激減したということは、言い換えれば、日本に来たかった人々が日本に来られなかったということである。多くの日本ファンの一部が、「日本に行けないなら、せめてネット通販で日本のものを…」と、越境ECサイトを盛んに利用したわけだ。
ある企業ではビフォーコロナに比べて出荷額が2倍に
越境ECとは、国を越えてモノを販売するECのことを指し、もともと市場規模が年々拡大傾向にあった。そしてその傾向が2020年、そして2021年とより顕著になっているようだ。
ある報道によれば、越境ECサイトを運営しているある日本企業の出荷額は、ビフォーコロナの2019年1~3月と比べると、2021年1~3月は約2倍になっているという。まさにコロナ禍で「越境ECバブル」が起きているわけだ。
ちなみに、日本製品の中で特に販売が好調なのは、CDやDVDなどの音楽関連商品のほか、ホビー関連商品やゲーム関連商品、アクセサリーなどだという。
これらの行動を日本好きの外国人がとるのは、大いにうなずける。コロナ禍で海外旅行に行けない中、海外好きの日本人の中にも、旅行気分を味わうために海外の食材や調味料を買って楽しんでいる人もいる。日本人も外国人もそういう意味では同じなのだ。
越境ECにおける日本のモノのポテンシャルは非常に高い
このように、越境ECはコロナ禍でにわかに注目度が高まった。実はその市場の有望性から、近年はこの領域に参入する企業が増えてきており、コロナ禍はその流れにさらに拍車をかけることになったようだ。
ちなみに越境ECの国際市場において、日本のモノのポテンシャルは非常に高い。経済産業省の調べによれば、日本と中国の二国間の場合、日本の消費者が中国から買った金額は261億円だが、中国の消費者が日本から買った金額は1兆5,345億円にも上る。実に約58倍だ。
同じことが日本と米国においても言える。日本の消費者がアメリカから買った金額は2,504億円だが、アメリカの消費者が日本から買った金額は8,238億円で、その差は3倍以上となっている。つまり、日本は越境ECに関しては「黒字国」なのだ。
もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大がほぼ収束すれば、越境ECの市場規模の伸びはやや鈍化するかもしれない。しかしそのことを差し引いても、日本のモノのポテンシャルの高さを考えれば、この領域に挑戦する価値は十分にあると言えそうだ。
越境ECへの参入にはハードルも少なくない
最後に、これから越境ECに参入しようという企業に向けて、越境ECのハードルについても触れておこう。結論から言えば、市場は確かに将来有望だが、越境ECで成功するのは簡単ではない。
まず、販売先が外国となるため、言語の違いに対する対応が必要になる。また国によっては、輸出入や販売が規制されている品目があるほか、関税や輸送コストも考慮した価格戦略を立てなければならない。
そのほか、為替の変動によって円ベースでの儲けが大きくなることもあれば、小さくなることもある。このような点はリスクであろう。そのうえ、販売した商品に何らかの問題が発生しても、販売先が海外ではサポート対応が難しいこともデメリットだ。
米Amazonなどの国際的で巨大なECプラットフォームと戦う必要があることも念頭においておきたい。このようなハードルをクリアしなければ、越境ECでの成功はあり得ない。参入を検討する場合、まずは他社のこれまでの成功事例をよく学ぶなど、慎重を期す必要がある。しかし新型コロナで不透明な状況が続く中、新たな道を越境ECに見出すのも一手なのかもしれない。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)