国家公務員の退職人数、6年で4倍に「公務員か大企業」神話は崩壊か!?
(画像=shironagasukujira/stock.adobe.com)

公務員や大企業に就職しても、すぐに転職する若者が増えている。親からは「せっかく一生安泰の職に就けたのに…」とため息も聞こえてくるが、そこには若者たちが抱える特有事情があるようだ。今回はいくつかの調査結果からその事情を探っていきたい。

就職直後に転職サイトに登録する若者が急増!?

転職サイト「doda」を展開するパーソルキャリアが実施した調査「新卒入社直後のdoda登録動向」によると、2021年4月の新社会人の登録者は10年前と比べて26倍になったという。

この結果について同社は、「新社会人は入社直後から中長期的な視点でキャリアを考え、自身の市場価値を把握しながら、将来の転職も選択肢に入れた情報収集を行う傾向が強くなってきていることが分かる」としている。

学校を卒業して社会人になった直後に転職サイトに登録するなどということは、少し前なら考える人はほとんどいなかったはずだ。しかし、終身雇用が当たり前の社会ではなくなり、スキルを重視した「ジョブ型雇用」なども増えていることも考えると、いまの若者たちのこのような行動は至って妥当だと言えるかもしれない。

国家公務員総合職、20代での自己都合退職は6年で4倍に

そして、このような傾向は官公庁においても顕著になっており、実際に早期退職をした人は増えているようだ。内閣府の調査によると、20代で自己都合退職をした国家公務員総合職は、2013年度は21人だったが2019年は87人に上っている。6年で4倍以上になった計算だ。

<20代で自己都合退職をした国家公務員総合職>

国家公務員の退職人数、6年で4倍に「公務員か大企業」神話は崩壊か!?
※出典:危機に直面する霞ヶ関 - 衆議院議員 河野太郎公式サイト

ではなぜ、官公庁で働き始めた若者は、早期退職、つまり転職を早くから考え始めるのだろうか。この調査では、30歳未満の国家公務員に「辞職したい理由」を聞いている。その結果は以下の通りだ。

<30歳未満の国家公務員に聞いた辞職したい理由>

国家公務員の退職人数、6年で4倍に「公務員か大企業」神話は崩壊か!?
※出典:危機に直面する霞ヶ関 - 衆議院議員 河野太郎公式サイト

この調査結果では、若者はすでに公務員という安定性などよりも、自己成長につながることや仕事のやりがい、キャリアアップにつながるかどうかを重視していることが分かる。

国家公務員制度担当相の河野太郎氏はこの調査結果を受け、自身のブログで「国家公務員の働き方改革を進め、霞ヶ関をホワイト化して、優秀な人材が今後とも霞ヶ関に来てくれるような努力をしっかりと続けていきます」としている。

つまり、安定した職業である国家公務員であっても、河野大臣が言うようにホワイトな職場にすべく改善をしなければ、優秀な人材をつなぎとめておくことができない時代に突入しているわけだ。

このような風潮はベンチャー企業などにとっては追い風!?

ここまでに触れた若者の傾向は、大企業や官公庁にとっては逆風だが、一方で追い風となる企業もある。それが、創業間もないベンチャー企業やスタートアップだ。

創業間もないベンチャー企業やスタートアップでは、社員1人の裁量が大きいことが多く、仕事も新たな商品・サービスの開発や市場開拓など、自己成長につながりやすい業務内容であることが少なくない。このような環境に魅力を感じる若者が増え始めており、以前であれば人材不足であったベンチャー企業やスタートアップに、優秀な人材が中途採用で流入し始めている。

また、創業間もない企業は往々にして給与も少ないが、ベンチャー企業やスタートアップの中には従業員に「ストックオプション」(新株予約権)を割り当てているケースもあり、将来の資産形成への期待が膨らむこうした仕組みが、優秀な若者たちを引き寄せている背景もある。

現在の状況を企業は十分加味する必要がある

若者たちの仕事・就職に対する考え方は年々移り変わっており、企業は今後、これらの状況を十分に加味する必要がある。そうしなければ、せっかく採用した人材をつなぎとめておけないからだ。

例えば、年功序列の社内体制を刷新したり、テレワークや副業などを認める自由度の高い働き方を認めたり、若手社員にやりがいを感じる業務を与えたりと、取り組めることは多くあるだろう。

このような取り組みに成功した企業こそ「人材面」が厚くなり、結果として業績の向上にもつながっていくはずだ。企業文化や体制を刷新するのはもちろん簡単でない。それでも若者の変化から目を背けてはならない時代に突入している。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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