会社の経営成績を表す指標は数多くある。総資産回転率もその一つであり、経営資源の活用に関する効率性を示す指標だ。今回は総資産回転率の概要をはじめ、計算式や目安などについて解説する。総資産回転率の類似指標も紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
総資産回転率とは
総資産回転率とは、1年間で企業の総資産を使ってどれだけ売上を出したかを示す指標である。総資本回転率ともいう。
特に断りがない限り、単位は回転で示される。数値が大きいほうが、企業の総資産を有効活用している状態とされている。
総資産回転率の計算式は以下の通りだ。
総資産回転率(回転)=売上高÷総資産
資産変動の影響を受けない正確な値にするため、総資産の金額は対象となる期間の平均を用いることもある。
たとえば、売上高が1,000のA社とB社があるとしよう。A社の総資産が500、B社の総資産が200とした場合、各社の総資産回転率は以下のようになる。
A社:1,000÷500=2(回転)
B社:1,000÷200=5(回転)
この場合、回転数の多いB社のほうが、少ない資産を有効活用していると考えられる。
総資産回転期間とは
総資産回転率と計算式が似ている総資産回転期間も説明しておく。
総資産回転期間は、総資産と同額の売上を上げるまでに要する期間を表す指標だ。期間が短いほど資産を効率的に利用できているとわかる。
総資産回転期間の計算式は以下の通りだ。
総資産回転期間(月)=総資産÷売上高×12
同様に、売上高が1,000のA社とB社があるとしよう。A社の総資産が500、B社の総資産が200とした場合、各社の総資産回転期間は以下の通りだ。
A社:500÷1,000×12=6(月)
B社:200÷1,000×12=2.4(月)
期間の短いB社のほうが、能率は高いとの結論になる。
総資産回転率の目安はどれくらい?
総資産回転率の目安が気になる方もいるだろう。業種や黒字企業、規模などの観点から総資産回転率の目安を考えていこう。
観点1.業種
総資産回転率は、業種間で値が大きく異なることがある。少しの資産を動かして多くの収益を得る性質や、資産を何回も利用して小さな利益を得る性質などの違いによって差が出てくる。
日本政策金融公庫は、小企業を対象に収益性や生産性などに関する指標を調査している。主要な業種別に、総資産回転率(調査の中では総資本回転率)の値を確認していく。
ほとんどの業種では2〜3回程度の数値となっている。中央値(すべての数値を大きい順に並べたとき真ん中に位置する数値)については、2回台前半に位置するものが多い。
製造業や運輸業では固定資産が多いからか、回転数はほかの業種よりも少ない。
観点2.黒字企業
黒字かつ自己資本プラス企業における平均値と、全体の平均値を比較してみる。
資産を回しているほうが有効利用できているので、黒字企業の数値は高いように思えるかもしれない。
しかし、ほとんどの業種において黒字企業の数値が低い。すなわち、資産を効率よく回せば黒字かつ自己資本プラスに転じるわけではないとわかる。
あくまでも筆者の推測であるが、回転率の高い企業は薄利多売に走ってしまい、利益が出しづらいのではないだろうか。
観点3.規模
規模が異なると回転率に影響が出るのであろうか。
まずは小売業を例にとって、回転率の比較を行う。
従業員数が多くなるほど資産の回転が速くなる。
次に運輸業のケースを見てみよう。
従業員数が多くなるほど資産の回転が遅くなる。
規模の拡大にともない、資産の回転が良くなったり悪くなったりする。したがって、規模と資産の回転は業種によって変動が異なるといえるだろう。
総資産回転率の応用方法2つ
総資産回転率は単独で存在していることもあるが、ほかの指標を分析する際に使われることも多い。総資産回転率の応用方法を説明する。
応用方法1.総資産利益率の分析
総資産利益率の計算式は以下の通りだ。
総資産利益率=利益額÷総資産額
この式は売上高を用いて以下の通り変形できる。
総資産利益率
=(利益額÷売上高)×(売上高÷総資産額)
=売上利益率×総資産回転率
総資産利益率は、収益性を示す売上利益率の影響や、効率性を示す総資産回転率の影響を受けるとわかる。
利益率の分析ではこのような関係を把握した上で分析することも必要だ。
応用方法2.自己資本利益率の分析
自己資本利益率は、計算式を変形すると3つの要素に分解できる。
自己資本利益率
=利益額÷自己資本額
=(利益額÷売上高)×(売上高÷自己資本額)
=(利益額÷売上高)×((売上高÷総資産額)×(総資産額÷自己資本額))
=売上利益率×総資産回転率×自己資本比率
自己資本利益率は、収益性を計る売上利益率、効率性を計る総資産回転率、安全性を計る自己資本比率に分解して、細かく分析できる。
このような分析手法はデュポン公式といわれる。
総資産回転率の類似指標3つ
資産の効率性を計る指標はほかにもあり、各社や業種の事情に合わせて使う。
指標1.経営資本回転率
総資産の中には明らかに経営に使われていない資産が入っていることもある。経営に無関係の資産を除外した資産を経営資本とし、利用に関する効率性を示す指標が経営資本回転率だ。
本来の営業活動に投下されている資産のみを計算に入れるため、実態に合った経営資源の効率性を把握できる。
経営資本回転率の計算式は以下の通りだ。
経営資本回転率=売上高÷経営資本
経営資本の算出にあたって、総資産から除外される要素は以下の通りだ。
・繰延資産
・遊休資産
・建設仮勘定
・投資資産
・会社経営に直接関係しない資産
指標2.在庫回転率
卸売業や小売業において、計上されている資産のうち重要なのは、商品等の棚卸資産だろう。棚卸資産をどれだけ効率的にさばくかという視点があり、在庫回転率(棚卸資産回転率)などで測定することがある。
在庫回転率の計算式は以下の通りだ。
在庫回転率=売上高÷棚卸資産額
棚卸資産額は期間中の平均額で見ることが多い。通常は期首と期末の平均値をもって期中の平均とする。
この数値は会社全体ではなく、特定の商品や部門ごとで調べて経営管理に資することが多い。
指標3.有形固定資産回転率
製造業などの装置を多く使う産業の場合、資産の活用に関する効率性を示す指標として、有形固定資産回転率がある。
有形固定資産回転率の計算式は以下の通りだ。
有形固定資産回転率=売上高÷有形固定資産額
有形固定資産額は期間中の平均額で見ることが多い。通常は期首と期末の平均値を使う。完成していない固定資産の計上で用いる建設仮勘定を除外して計算することもある。
この数値は、大きいほど資産を有効に使っていると判断できる。ただし、減価償却が進んでいる資産が多ければ数値が大きくなるため、古い資産の使用による表面上の数値に注意しなければならない。
総資産回転率で資産の活用状況を把握
効率性をあらわす指標の総資産回転率について、計算方法をはじめ業種や規模における数値の性質などを解説した。
この指標を見ることによって、資産の活用状況を把握できる。ほかの指標と組み合わせれば、利益への貢献もわかってくる。
総資産回転率の指標も経営に活用するとよいだろう。
文・中川崇(公認会計士・税理士)