GAFAの税金逃れを阻止 「最低法人税率15%」への引き上げは中小企業に影響大?
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2021年6月5日にロンドンで開催されたG7財務相会合で、各国が法人税の最低税率15%を目指す「租税協定」に合意した。タックスヘイブン(租税回避地)を利用して過度の税負担軽減を享受する、多国籍企業への課税強化が目的だ。

実現すれば、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などのIT企業を中心とする、多国籍企業に深刻な影響を与える可能性が高い。一方で、中小企業への影響については、二極化するとの見方がある。

フォーチュン500企業の約2割が米法人所得税ゼロ

多くの多国籍企業は、ルクセンブルクやアイルランドといった法人税率の低い国に拠点を置くことで、法人税を合法的かつ大幅に削減している。さらにタックスヘイブンへの対抗策として主要国が税率を下げると、それに対抗して別の国が税率を下げるといった「法人税引き下げ競争」が誘発され、大企業はますます潤っていく。

非営利団体、税務経済政策研究所の2018年の調査によると、フォーチュン500企業(世界で最も収益性の高い企業)中、AmazonやIBMを含む91社が米国連邦法人所得税をまったく支払わず、56社の税率は法定法人税率の21%よりはるかに低い0~5%(平均2.2%)だったという。

特に問題視されているのは、大手IT企業による過度の税金逃れだ。「世界中どこからでもサービスを提供できるという利点を最大限に活用し、不当な租税回避を行っている」として、近年、これらの企業に対する非難が高まっている。

過去にEU(欧州連合)がAmazonとAppleに、それぞれ2億5,000万ユーロ (約330億5,660万円)と13億ユーロ(約1,718億9,436万円)の追加徴税を求めたが、いずれのケースも敗訴に終わった。また、英国やフランスなど一部の国は、「GAFA税」と呼ばれる「デジタルサービス税」を導入しているが、税金のコストが消費者や顧客などに転嫁され、期待されたほどの効果を上げていない。それどころか、「多国籍企業の税務を複雑化させている」との指摘もあり、より包括的で効果的な手段が模索されていた。

G7、各国共通の最低法人税率 「法人税引き下げ競争」に終止符?

今回、G7が打ち出した各国共通の最低法人税率が実現すれば、このような租税回避の封じ込めに一役買うと期待されている。事実上の拠点である国が合法的、かつ効果的に税金を徴収できるシステムが構築されるため、「デジタルサービス税」のような単独の課税法も不要になる。

「第一の支柱」と呼ばれるルールは、「少なくとも利益率が10%以上の多国籍企業に、拠点を置いている国ではなく、実際に事業を展開している国で課税する」というものだ。利益率が10%を上回る場合、事業を展開している国で超過分に対して20%課税できる。

この合意について、リシ・スーナク英財務相は、この「歴史的」な協定について、「(世界の税制が)国際的なデジタル時代に適したものになる」と述べた。また、オラフ・ショルツ独副首相財務相は「税の正義と連帯にとっては非常に良い知らせであり、タックスヘイブンにとっては悪い知らせである」「企業は最低税率国で利益を計上することになるため、納税義務を回避できなくなる」と、歓迎の意を示した。

一方、「悪い知らせ」を受け取る側であるアイルランドのパシャル・ドノホー財務相は、「(いかなる合意も)小国・大国、先進国・発展途上国の需要を満たすものでなければならない」と、包括的な内容になるよう促した。Amazonの広報担当者は、「OECD(経済協力開発機構)が主導する、多国間の解決策を生み出すプロセスが、国際的な税制に安定をもたらすと信じている」とコメントした。

数千億円規模の税収を見込む

統一された国際ルールの導入でもう一つ期待されているのは、新型コロナ経済復興策としての効果だ。大規模な財政出動で資金が枯渇した各国の財政を、企業から得た税金で潤わせることが狙いである。数十億ドル(約数千億円)規模の税収が見込まれている。

今後の進展については、7月にヴェネツィアで開催されるG20財務相会議に議論が引き継がれ、ロシアや中国、ブラジル、南アフリカなどが追随を迫られることとなりそうだ。

中小企業への影響は?

中小企業に与える影響については、2つの意見に分かれている低税率国を利用している一部の中小企業にとっては大きな痛手となりかねないが、「競争力を強化する機会をもたらす」というポジティブな意見もある。

大企業の資本力や知名度に太刀打ちできない中小企業は、市場競争で圧倒的に不利な立場に置かれている。国際舞台となるとなおさら、競争力の格差が顕著に現れる。それにもかかわらず、不平等な税制優遇により、このような格差はますます拡大傾向にある。

中小企業に公平なビジネス環境を提供する上で、法人税制の透明性向上は欠かせない重要課題だ。そうすることにより、中小企業の競争力が強化され、より良い商品やサービスが生まれ、消費者の生活を豊かにする。その結果、企業はさらに成長し、各国の経済活性化に大いに貢献するという、正のサイクルが構築される。

このような観点からも、法人税共通最低税率の実現に向けた取り組みは、ウィズコロナ、あるいはアフターコロナ時代における世界のビジネスや経済に、重大な影響を与えるものと推測される。

「歴史的成果」への道のりは遠い?

今回のG7財務相会合で議論された内容は、協定実施に向けた第一歩であり、本格的に始動するまでは長い道のりとなるだろう。ドノホー財務相が指摘した通り、協定が効力を発揮するためには、すべての国が納得できるルールが必要だ。交渉次第では、承認・実施を拒絶する国も出てくるだろう。

特に、寛大な税制優遇で企業を誘致している国が、二つ返事で合意するとは思えない。想定される「障害」にG7がどのように対応していくのか、そして期待されているような「歴史的成果」が得られるのかどうか、今後の展開を注視したい。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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