相続税,贈与税,申告漏れ,対処法
(写真=adirekjob/Shutterstock.com)

相続税は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内」に、贈与税は原則として「財産をもらった人が、もらった年の翌年の2月1日から3月15日まで」に申告・納税を行うことになっているが、故意・過失に関わらず「申告漏れ」を指摘されることがある。

今回はどのように申告漏れが発覚するのか、また指摘された場合はどのようなリスクがあるのかなどを、税務調査の実施状況とともにお伝えする。

相続税と贈与税の申告漏れはどのように発覚する?毎年行われる「税務調査」とは

相続税・贈与税に限らず、所得税・法人税・消費税など様々な税について、いわゆる「税務調査」と呼ばれる実地調査が毎年行われている。相続税については平成29事務年度に行われた実地調査が最新であり、主に2015年(平成27年)に発生した相続を中心に調査が行われている。

約2年前に発生した相続について毎年調査が行われていることになり、申告を済ませたからといって安心していると、忘れた頃に調査の連絡が入る可能性があるのだ。

国税庁では、通常私たちが使用する年(毎年1月から12月)や年度(毎年4月から3月)の他に「事務年度」を用いることがある。事務年度は1年を7月から6月までとするもので、国税庁の統計・資料等は、種類によって年・年度・事務年度を使い分けるため注意が必要だ。相続税の実地調査は、事務年度の上期(7月から12月)に行われることが多い。

相続税の申告漏れはどれくらい調査されるのか 調査の実施状況は?

ただし、すべての申告について調査が行われるわけではない。平成29事務年度に行われた相続税の調査件数は1万2,576件、2015年の「相続税の申告書の提出に係る被相続人数」は10万3,043人なので、約12%の割合で調査が行われていることになる。

国税庁・税務署が事前に申告書の内容に誤りや計上漏れなどがないか調べるほか、被相続人・相続人の預貯金・有価証券・不動産・生命保険・所得などを調査し、「申告額が過少であると想定される事案」について実地調査が行われる。つまり、ただやみくもに調査が行われているわけではなく、申告漏れなどの可能性が高い事案について調査が行われるのだ。

実地調査だけではなく、「簡易な接触」も併せて行われる。これは文書や電話で連絡を行うほか、来署を依頼して面接を行い、申告漏れや計算ミスなどがある申告について是正するために接触を行うものだ。平成29事務年度は、1万1,198件の簡易な接触が行われた。

具体的には、税務署などが保有する資料や情報などから、相続税の無申告が想定される納税者などに対して書面による照会を行い、自発的な期限後申告書の提出を促す取り組みのほか、調査すべき問題点が限られている事案に対し、実地調査を行わずに電話や来署依頼による調査を実施し、より効率的に納税者などに接触する取り組みが行われている。

2015年より相続税の基礎控除額が引き下げられたことによって申告件数が大幅に増加したことや、「本来は相続税の申告を行う必要があったが、相続税がかからないと思い申告をしなかった」という事案が増えることを考えると、簡易な接触は今後も積極的に行われることが想定される。

相続税・贈与税の無申告事案や海外事案にも調査が

さらに重大な「無申告事案」についても実地調査が行われている。無申告事案を「申告納税制度の下で自発的に適正な申告・納税を行っている納税者の税に対する公平感を著しく損なうもの」とし、いわゆる「逃げ得」は許さないというスタンスで、平成29事務年度は1,216件の調査が行われている。

前述のとおり、実地調査にあたっては事前に様々な情報収集が行われるため、無申告事案については相当な量の情報を収集した上で調査が行われると考えられる。

また「海外資産関連事案に係る調査」も行われている。こちらは、以下のいずれかに該当する事案についての調査で、相続人・被相続人の居住形態などから海外資産の相続が想定される事案について調査が行われている。

1.相続又は遺贈により取得した財産のうちに海外資産が存するもの
2.相続人、受遺者又は被相続人が日本国外の居住者であるもの
3.海外資産等に関する資料情報があるもの
4.外資系金融機関との取引のあるもの

平成29事務年度は1,129件の調査が行われ、日本国内だけではなく、海外の資産についても積極的な調査を行うとしている。

相続税だけでなく、贈与税についても調査が行われている。2015年の暦年課税・相続時精算課税を合わせた申告人数は約53万8,000人、平成29事務年度は3,809 件の調査が行われているので、調査割合としては約0.7%と高くはないが、相続税の補完税である贈与税についても無申告事案を中心に調査が行われている。

相続税については、実地調査や簡易な接触などを合わせると平成29事務年度は2万6,119件もの調査が行われている。2015年の「相続税の申告書の提出に係る被相続人数」に占める割合は約25%、つまり4人に1人には何らかの調査が行われていることになる。

申告漏れなどはどれくらいある?

調査の結果、申告漏れなどの件数はどれくらいあったのだろうか。ここでは、実地調査による「非違件数」についてお伝えする。「非違」とは、「非法」「違法」のことだ。以下に示す件数・金額などは、いずれも平成29事務年度における相続税の調査に基づくものである。

相続税の調査では8割以上が違法に

実地調査件数1万2,576件に対し、申告漏れなどが見つかった非違件数は1万521件で、83.7%が何らかの指摘を受けていることになる。

また、非違件数のうち1,504件(14.3%)が後述する「重加算税」の対象となっている。申告漏れ課税価格、つまり故意・過失に関わらず相続財産として申告をしなかった額は3,523億円、そのうち重加算税の対象となった額は576億円に上る。

1件当たりの申告漏れ課税価格は2,801万円、申告漏れの財産は現金が1,183億円と圧倒的に多く、全体の34.1%を占める。

簡易な接触による調査件数1万1,198件に対する非違件数は2,688件、無申告が想定される者への書面照会に対する回答件数や、書類の提出依頼に対する書類提出件数である「回答等の件数」は4,327件、合計6,995件、割合にして62.5%で申告漏れなどが見つかっている。

申告漏れ課税価格は517億円、1件当たり462万円。実地調査を行わずに電話や書面による接触を行うだけで、これだけの申告漏れなどが見つかっているのだ。

無申告事案の実地調査では、調査件数1,216件に対して非違件数は1,025件、実に84.3%が指摘を受けていることになる。申告漏れ課税価格は987億円だが1件当たり8,117万円と、他の調査と比較して額が大きい。そもそも申告をしていないので申告漏れの額が大きくなるのだが、指摘された場合には後述する様々なリスクを負うことになる。

海外資産関連事案の実地調査件数は1,129件、そのうち非違件数は134件、重加算税の対象となったのは6件だった。申告漏れ課税価格は70億円、そのうち重加算税の対象となったのは8億円だった。

これだけを見ると非違件数が少ないように思えるが、当然ながら国内に資産を持っているケースも多く、国内資産に係る非違を含めると件数は884件、そのうち重加算税の対象となったのが84件、申告漏れ課税価格は490億円だった。1件当たりの申告漏れ課税価格も、国内外の資産を合わせると5,537万円と、無申告事案に次いで額が大きい。

贈与税の実地調査件数は3,809件と贈与税の申告人数と比較すると少ないが、申告漏れなどを指摘された件数は3,565件と約94%で非違が見つかっている。申告漏れ課税価格は189億円、1件当たり497万円と相続税の調査と比べると額は少ないが、「贈与税については調査が入った時点でほぼ非違が見つかる」と言っても過言ではない調査結果である。

このように、調査が行われると高い確率で申告漏れなどを指摘されることになる。

申告漏れなどが判明した場合のリスクは?

申告漏れなどを指摘された場合は、申告をしなかった相続財産に対して相続税(本税)のほかに重加算税などの「加算税」が課せられる。

申告漏れが発覚した場合の「加算税」とは?種類と課税割合

加算税にはいくつか種類があるが、相続税・贈与税では以下の3つの加算税が課せられる。なお、加算税は納付すべき税額に対して課税される。

1.過少申告加算税
期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったとき。

課税割合は10%。ただし期限内申告税額と 50 万円のいずれか多い金額を超える部分は15%。
※財産債務調書・国外財産調書に記載がある部分については5%軽減(相続税)。

2.無申告加算税
イ.申告期限までに納税申告書を提出しないで、期限後申告書の提出または決定があったとき。
ロ.期限後申告書の提出又は決定があった後に、修正申告書の提出または更生があったとき。

課税割合は15%。ただし50万円超の部分は20%。
※過去5年以内に、無申告加算税(更正・決定予知によるものに限る)または重加算税を課されたことがあるときは、上記割合にそれぞれ10 %加算。
※財産債務調書・国外財産調書に記載がある部分については5%軽減(相続税)。

3.重加算税
上記1・2の加算税の要件に該当し、課税標準等または税額などの計算の基礎となるべき事実を隠蔽または仮装していた場合。なお重加算税は、上記過少申告加算税・無申告加算税に代えて課税される。

課税割合は、過少申告加算税に代えて35%、無申告加算税に代えて40%。
※過去5年以内に、無申告加算税(更正・決定予知によるものに限る)または重加算税を課されたことがあるときは、上記割合にそれぞれ10 %加算。

なお、過少申告加算税・無申告加算税については、正当な理由がある場合などの要件を満たせば、加算税の不適用または課税割合が5%軽減されることがある。

申告漏れが発覚した場合の「延滞税」とは?

また、相続税の申告は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内」に行うことになっているため、申告漏れなどを指摘された額については「延滞税」もかかることになる。

延滞税は、たとえば以下のような場合に課される。

1.申告などで確定した税額を法定納期限までに完納しないとき。
2.期限後申告書または修正申告書を提出した場合で、納付しなければならない税額があるとき。
3.更正または決定の処分を受けた場合で、納付しなければならない税額があるとき。

いずれの場合も、法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて延滞税を納付しなければならない。なお、延滞税は本税(相続税・贈与税)だけを対象として課されるものであり、加算税などに対しては課されない。

【延滞税の税率】
1.修正申告の納期限の翌日から2月を経過する日まで:2.6%(原則7.3%)
2.納期限の翌日から2月を経過した日以後:8.9%(原則14.6%)

上記の税率は2018年1月1日から2019年12月31日までの特例であり、それ以降は変更される可能性がある。

また期限内申告書が提出されていた場合で、「法定申告期限後1年を経過してから修正申告または更正があったとき」または「その申告書提出後1年を経過してから修正申告または更正があったとき」には、一定の期間を延滞税の計算期間に含めないという特例もある。ただし、偽りその他不正の行為により国税を免れた場合などにはこの特例は適用されない。

このように、本来納めるべき税金を納めない場合は、追加の本税(相続税・贈与税)のほか、加算税や延滞税を支払うことになる。

申告漏れが発覚した場合平均で600万円以上追徴されている

申告漏れなどの指摘を受けた結果、どれくらいの税額が追徴されているのだろうか。実地調査での追徴税額は本税676億円、加算税107億円、合計783億円で、1件当たり623万円だった。

簡易な接触による調査では本税37億円、加算税3億円、合計40億円で、1件当たり36万円。無申告事案の実地調査では、本税72億円、加算税16億円、合計88億円で1件当たり722万円だった。

ただし、1件当たりの追徴税額はあくまでも平均であり、個々の事案によって異なる延滞税が課されるため、指摘される申告漏れ課税価格によっては税負担がさらに大きくなることも考えられる。

申告漏れを回避する3つの方法

冒頭でもお伝えしたとおり、現預金・有価証券・不動産・生命保険・所得等、被相続人や相続人の財産について事前に調査した上で、申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告と想定される事案などについて実地調査が行われる。

申告漏れなどを指摘されると、実地調査などが行われることになる。つまり、調査の対象とならないような申告書を提出すればいいのだ。まずは被相続人となる人が、生前に自身の財産を整理し、正しく把握しておくことが大切だ。そのためには、財産目録などを作成した上で、以下の3つの対策を考える必要がある。

1.遺産分割

生前にどの相続人にどの財産を相続させるかを決めておくことによって、相続財産全体が把握できるほか、遺言書の作成を併せて行えば相続発生後の相続人間の争いを回避できる。遺産分割の方法が決まれば、各相続人の相続税額も試算できる。

2.納税資金

遺産分割の方法が決まれば、各相続人が自身の財産で相続税を支払うのか、相続する財産の中から支払うのかを事前に検討することができるため、相続発生後に余裕を持って納税資金の準備に取り掛かることができる。納税資金が確保できていれば、相続人が故意・過失に関わらず財産を申告しないリスクも軽減できる。

3.税負担軽減

遺産分割・納税資金対策を検討した上で、相続人の税負担が大きくなることが考えられる場合は、財産の評価額圧縮や生前贈与などによって税負担を軽減できるかどうかも検討すべきだ。適正な方法で税負担を軽減できれば、故意に申告しないということも起きにくくなる。

このように、相続財産全体を把握した上で様々な対策を生前に行うことで、相続人が相続発生後に適正な申告を行うことができ、その結果申告漏れを回避することできるのだ。

申告書を提出後に財産が見つかったら?

申告書を提出した後で新たに預貯金などが見つかった場合は、修正申告を行うべきである。前述のとおり、過少申告加算税については正当な理由があれば不適用となる可能性があるので、改めて申告書を提出したほうがいい。実地調査では、現金・預貯金などの非違件数が全体の72.7%を占めており、修正申告をせずに実地調査が行われた場合は、申告漏れなどを指摘される可能性が高い。

相続税の申告においては、通常とは異なる方法で評価をする財産がある。特に不動産は、時価や固定資産税評価額などとは違う方法で相続財産として評価されるため、相続税・相続財産評価に詳しい専門家に依頼をした上で申告したほうがいいだろう。

このように、生前に対策を行うほか、相続発生後も財産を適正に評価し申告することで、申告漏れなどを指摘されることを回避できる。無申告は論外であり、財産を相続した場合には法律に従って正しく申告し納税する必要がある。

文・THE ONWER編集部