総務省から2021年6月2日にある文書が発表された。ソフトバンクに「イエローカード」を出す文書だ。具体的には、ソフトバンクが総務省に申請していた次世代通信規格「5G」の特定基地局の整備に遅れが出ているとして、ソフトバンクに「指導」を行った形である。このままの状況が続けば、5Gの普及に遅れが生じかねない。
5Gの特定基地局、2020年度の開設率はどのくらい?
ソフトバンクは総務省から認定を受け、「700MHz帯」と「3.4GHz帯」の周波数を使用した5Gの特定基地局の開設に乗り出していた。そして、2020年度内に700MHz帯で3,181局、3.4GHz帯で2,425局を開設する予定だった。
しかし、ソフトバンクが2021年度末に総務省に対して行った報告によると、700MHz帯で開設を終えたのは2,728局、3.4GHz帯では1,125局にとどまっているという。開設率などを表にまとめると以下の通りなる。
<5Gの特定基地局の開設率>
700MHz帯の5Gの特定基地局の開設率は85.7%、3.4GHz帯は46.3%となっている。そもそも、両方の周波数で計画を達成できていないことが問題だが、3.4GHz帯は特に開設率が低くなっている。
なぜ5Gの特定基地局の開設に遅れが出たのか?
では、なぜソフトバンクは計画通りに5Gの特定基地局を開設することができていないのだろうか。
総務省が2021年6月2日に公表した「700MHz帯に係る特定基地局の開設計画及び3.4GHz帯に係る特定基地局の開設計画に関する令和2年度5G特定基地局開設の遅延に対する改善について(指導)」にその点について明記されているので、説明する。
文書によれば、5Gネットワークの設計の見直しが必要になる中、当初想定していた基地局の設置場所の見直しなどが必要になったからだという。このほか、単純な開設工事のスケジュールの遅延も開設の遅延に結びつくこととなった。
なお、2020年度の計画の遅延もあり、ソフトバンクは今後、毎月月末までの取り組み状況を翌月7日までに総務省に報告することを義務付けられた。つまり、総務省は当面、ソフトバンクの動向を厳しくチェックしていくということだ。
その上で総務省はソフトバンクに対し、開設できていない分の特定基地局を2021年度中に開設することや、工事スケジュールや人員の配置、進捗管理の体制などを見直すことなども求めている。
指導に対するソフトバンクの反応は?
今回の総務省からの指導に対し、ソフトバンクはどのような反応を示したのか。報道によれば、体制の見直し・強化に乗り出すとコメントしつつ、2030年度末までの「35万局開設」という目標は変更しない旨を明らかにしているようだ。
5Gの特定基地局整備の遅れによる影響
ソフトバンク側は前述の通り、2030年度末までの開設計画は変更しないことから、もし遅れを取り戻すことができるのであれば、長い目で見れば現在の開発の遅延は、それほど深刻ではないと感じているのかもしれない。
しかし、ここ数年で5Gの活用を前提とした新技術や新サービスが続々と開発されており、それらの普及時期には影響を与える可能性がある。では具体的に、5Gの活用を前提とした新技術や新サービスにはどのようなものがあるだろうか。
自動運転:遠隔運転で高精細映像のリアルタイム性が重要に
例えば、「自動運転」が挙げられる。自動運転では、常にクラウドと通信しながらさまざまなデータを取得することが求められる。また、遠隔監視や緊急時の遠隔運転のために、車両カメラの高精細映像を遠隔地でリアルタイムに確認できることも必須となる。
このような自動運転を実現するためには、5Gの「超高速」「大容量」といった通信が必要となり、5Gの特定基地局の遅れは自動運転車の社会実装の遅れに結びつきかねない。ただでさえ、自動運転分野ではアメリカや中国に先を越されているため、これ以上の遅れは致命傷になる。
遠隔手術:高精度映像やロボット操作への指令のタイムラグが壁に
「遠隔手術」や「遠隔診療」などでも5Gは必須だ。手術ロボットを遠隔地から操作して遠隔手術を行う場合、患者の高精度映像やロボット操作の指令のタイムラグは大きな課題となる。5Gがそれらの課題を解決してくれるわけだ。
特に、日本は過疎化が進んでいる地域も多いことから、この遠隔手術や遠隔診療に対する期待感は大きい。
ソフトバンクにとってはネガティブな話題
つい先日、ソフトバンクグループが日本最高益を出したというポジティブなニュースが話題になったが、ソフトバンクグループはソフトバンクとは別会社だ。今回は通信会社であるソフトバンクに指導が入ったというニュースで、同社にとってはネガティブな話題だ。
総務省がソフトバンクに毎月の報告を求めることもあり、今後は進捗が頻繁に明らかにされることになるかもしれない。しばらく、その動向に注目していきたいところだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)