「形骸化」という日本語がある。「中身のない、形だけのものになること」を指す。緊急事態宣言も形骸化しつつある。飲食店などに対する営業自粛要請が無視され、堂々と営業をしている店舗が目立ち始めている。もはや、緊急事態宣言は感染対策には無意味なのか?
緊急事態宣言が延長、飲食店から「もう限界」の声
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2021年5月16日に3回目の緊急事態宣言が出された。それぞれの都道府県で、飲食店に対する休業や時短営業に関する要請が再度行われた。
さらには、2021年5月28日には緊急事態宣言が6月20日まで延長されることになり、大流行に歯止めがかからない沖縄においては、7月11日まで延期された。
このような中、飲食店からは「もう限界」「廃業するしかない」といった悲痛な声が上がる。これまで緊急事態宣言のたびに協力してきた店舗も、自治体からの支援金はわずかという状況に、いよいよ運転資金に窮するケースが目立ってきた。
営業を再開する日本各地の居酒屋やバー
そして、自治体からの休業や時短営業の要請が出ている中、堂々と営業する店舗がいま目立ち始めている。「従業員の雇用を守るためには仕方がない」「営業しなければ店が潰れてしまう」。そんな思いからだ。
すすきの:堂々と営業する店、「コロナバブル」到来も
北海道札幌市の繁華街すすきのの例を見てみる。札幌市では、酒を提供する店に対して休業要請を行っているほか、酒を提供していない飲食店に対しても午後8時までの時短営業を要請しているが、この要請に従わずに堂々と営業をしている店舗が増えている。
すすきの界隈を歩くと、「通常営業」という貼り紙を表に貼った路面店などが目につくと言われている。市の担当者にすぐ知れわたるような貼り方だという。「発覚してもいいから営業して売上を得る」。店主のこのような思いの表れだろう。
営業している店舗の中には、いつも通り看板のネオンを光らせているケースもあるという。そして、このような店舗には行き場を失い気味だった客が多く訪れており、ちょっとした「コロナバブル」が起きているようだ。
福岡:客引きたちが「お酒出せますよ」「夜8時を過ぎても大丈夫」
大きな繁華街を抱える福岡でも、酒を提供する店に対する休業要請とそのほかの店に対する午後8時までの時短要請が出ているが、すすきのと同じような動きがみられる。歓楽街がある中州や大名地区では、営業を再開する店舗が目立ち始めているのだ。
そして、もしあなたがいま福岡の繁華街を歩けば、「これからどこいきます? お酒を出せますよ」「夜8時を過ぎても大丈夫な店、ありますよ」といった客引きに声を掛けられるだろう。どこの店も、必死に客を呼び込もうとしているからだ。
また、すすきのも福岡も客側に気の緩みが出ていることも事実である。営業を再開した店があっても、客が入らなければクラスター発生の引き金にはならない。しかし、これらの営業再開店を狙って、多くの人が中州などに詰めかけているのが実態だ。
東京:独自の感染防止策を実施しながら営業する店も
東京でも、同じような現象が起きている。中には、営業再開に至った思いを居酒屋の店主が長々と紙に書き、それを貼りだしている店もある。
また、座席数を半分に減らしつつ深夜まで営業する店、アルコールの代わりにノンアルコールドリンクを出して営業するなど、独自のスタイルで営業している店もある状況だ。
外飲みする人が急増、休業要請はしない方が良かった?
酒を出す飲食店に対する休業要請は、ある現象も引き起こしている。それが「外飲み」の急増だ。居酒屋やバーなどで酒を飲めなくなった分、外で友人や知人と開放的な気分でお酒を飲む人が各地で出現している。
外飲みをする場所はさまざまだ。公園や駅前のベンチ、コンビニの駐車場、歓楽街の一角というように、いろいろな人が利用する場所で大声を出しながら外飲みをしている人もいる。これでは、お酒を飲んでいる人同士はもちろん、周囲の人の感染リスクも高めてしまう。
休業要請の副作用とも言えるこうした現象が起きる中、「外飲みをさせるくらいなら、居酒屋を開店させた方がいい」といった声もあり、休業要請自体に疑問を投げかける人も増えている印象だ。
このままでは東京五輪の時期は…
もうすぐ東京五輪が開催される。開催時期に緊急事態宣言が発令されているかは分からないが、この調子だと休業要請が出ているか出ていないかに関わらず、多くの居酒屋やバーが隠れてパブリックビューイングなどを行い、そこに詰めかける人も多いはずだ。
このように、緊急事態宣言は形骸化しつつある。国はこの状況を踏まえ、追加の取り組みを行う必要があるのではないか。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)