知的財産権のスペシャリストである弁理士は、弁護士とは全く異なる専門家だ。特に知的財産権の取得を目指す企業にとっては、利用価値が高い専門家と言える。権利関係で悩みを抱える経営者は、これを機に弁理士の魅力や選び方、探し方などを確認しておこう。

目次

  1. 弁理士は知的財産の専門家
  2. 弁理士の業務内容や対応範囲
    1. 産業財産権の手続きや紛争のサポート
    2. 企業の代理人として産業財産権を保護
    3. ブランドなどのコンサルティング
    4. M&Aの事業性評価(デューデリジェンス)
  3. 弁理士はなぜ必要?利用する効果3つ
    1. 1.ベストな権利範囲を設定し、最適な権利を出願できる
    2. 2.必要な権利をスムーズに取得できる
    3. 3.最新の知識に基づいたアドバイスを受けられる
  4. 弁理士を活用するポイント
    1. 開発段階で相談をする
    2. 関係する書類・資料はすべて用意する
    3. 信用できる弁理士とは顧問契約を結ぶ
  5. 目的に合った弁理士を選ぶ方法
    1. 1.経験豊富な弁理士が多く在籍している事務所を選ぶ
    2. 2.アドバイスの具体性や妥当性を判断する
    3. 3.料金体系から費用対効果を判断する
  6. 弁理士のスムーズな探し方は? 現代ではネットの活用が便利
  7. 探し方に工夫をとり入れて最適な相談先を
弁理士はどんなシーンで頼れる? 依頼のメリットや選び方、探し方のポイントなども解説
(画像=mapo/stock.adobe.com)

弁理士は知的財産の専門家

弁理士(べんりし)は、特許権などの知的財産権を取り扱う専門家である。なかでも産業財産権に関する業務は、弁理士による独占が法的に認められている。

弁理士は、国家資格により認められた知的財産に関するスペシャリストです。特許権・実用新案権・意匠権・商標権(これらを産業財産権といいます)のほか、著作権や育成者権等を含む知的財産権について広く取り扱い、その適正な保護や利用を促し、経済や産業の発展に貢献することを使命としています。

引用:経済産業省 特許庁「弁理士について

グローバル化やIT化が進む現代において、知的財産権の重要性は多方面で高まっている。それに伴って弁理士が活躍する場面も増えており、例としては企業のブランディングやデザイン分野のサポート、海外(外国知財庁等)での手続き支援などがある。

弁理士の業務内容や対応範囲

国内の弁理士は、具体的にどのような業務をサポートしてくれるのだろうか。ここからは、実際の対応範囲について詳しく解説する。

産業財産権の手続きや紛争のサポート

前述の通り、産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)に関わる取得手続きは弁理士の専権業務である。また、産業財産権の訴訟や裁判外紛争についても、弁理士は解決に向けてサポートをしてくれる。

国際経験がある弁理士に依頼をする場合は、海外での手続きや紛争をサポートしてもらうことも可能だ。そのほか、産業財産権に関わる鑑定や判定、輸出の差止めなども弁理士の業務に含まれる。

企業の代理人として産業財産権を保護

ロゴやブランドなど、企業が築き上げた産業財産権の保護も弁理士の業務である。どのような方法で保護をしてくれるのか、実際の依頼シーンをいくつか紹介しよう。

・他社と業務提携を結ぶ場合に、産業財産権に関する契約文面を作る
・技術をライセンス化する場合の契約内容を調整
・第三者から権利を侵害された場合に、正しい対処法をアドバイスする

特に効力のある契約文面を作成したい場合は、専門知識のある弁理士が心強い存在となる。

ブランドなどのコンサルティング

弁理士によっては、産業財産権に関わるコンサルティングも行っている。

たとえば、豊富な経験を活かしてブランド戦略を考えたり、意匠権を侵害しないように製品デザインの提案をしたりする。一般的なコンサルタント会社とは異なる知見があるため、経営方針によっては心強い存在になるだろう。

M&Aの事業性評価(デューデリジェンス)

M&Aの事業性評価とは、売り手側(譲渡企業)の企業価値を算定するプロセスだ。一般的なM&Aでは適正な価値を把握するために、売上を生みだすリソース(不動産や設備、人材など)が細かく調べられる。

そのなかでも産業財産権の調査は、弁理士の得意分野にあたる。特に多くの特許や商標があり、各権利が複雑に絡み合っているようなケースでは、弁理士の高度な知識や経験が必要になるだろう。

弁理士はなぜ必要?利用する効果3つ

特許などの出願は、発明した企業が独自に行うこともできる。それにも関わらず、なぜ世の中の企業は弁理士を利用するのだろうか。

ここからは、弁理士が必要になる理由や依頼する利点を紹介しよう。

1.ベストな権利範囲を設定し、最適な権利を出願できる

知的財産権は、商品などを開発する度に出願すれば良いものではない。将来を見越した権利範囲を設定し、ビジネスプランに適した権利に出願することが重要になる。

一般的な企業にとってこれらの判断は難しいが、専門知識や豊富な経験をもつ弁理士であれば、ベストな権利範囲と出願する権利を選ぶことが可能だ。特に最先端技術や工業技術に精通した弁理士であれば、発明品の本質や将来性を見抜いてくれるだろう。

2.必要な権利をスムーズに取得できる

弁理士を利用する最大のメリットとも言えるポイントが、必要な権利をスムーズに取得できる点だ。知的財産権を取得する際には審査が実施され、申請にあたってはさまざまな書類・資料を用意する必要がある。

また、すでに類似の発明品・デザインがある場合は権利の取得を拒絶されるため、類似品の調査の段階でつまずく企業は多い。その点、弁理士は書類の作成代行や拒絶理由通知に対する抗議などを行ってくれるので、弁理士に依頼するだけで権利取得に関する経営者の負担は大きく抑えられる。

3.最新の知識に基づいたアドバイスを受けられる

実は知的財産権に関する法律は、毎年のように頻繁に改正されている。改正内容によっては企業の営業活動に支障が生じるため、特に多くの知的財産権を抱える企業は常に最新の情報をチェックし、いち早く対応をしなければならない。

経営者にとって法改正への対応は大きな負担だが、弁理士にお願いすれば最新の知識に基づいたアドバイスを適宜受けられる。こまめに情報共有をして良好な関係を築けば、相談先の弁理士は心強いビジネスパートナーとして機能するはずだ。

弁理士を活用するポイント

企業が弁理士をうまく活用するには、どのような流れで相談をすればよいだろうか。ここからは、弁理士を活用する3つのポイントを解説する。

開発段階で相談をする

ほとんどの国において、特許などの産業財産権は申請が早いものに付与される。先に商品化をしたり取引先に相談をしたりすると、申請をしても許可されない可能性があるため、弁理士には開発段階で相談をすることが重要だ。

また、産業財産権の取得に一度失敗すると、申請書類の修正範囲が限定されてしまう。前述の通り、弁理士によっては権利関係のコンサルティングも行ってくれるため、できるだけ早い段階での相談を考えよう。

関係する書類・資料はすべて用意する

弁理士への相談時には、関係する書類や資料を過不足なく用意しておきたい。例としては、製品の説明書や仕様書、図面、写真、3Dデータなどが挙げられる。

いくら専門家とはいえ、対象物の概要を理解していない状態では、適切なアドバイスやコンサルティングをすることは難しい。取得すべき権利の範囲を明確にするためにも、必要な書類・資料はきちんとそろえておこう。

信用できる弁理士とは顧問契約を結ぶ

産業財産権に関わるビジネスは、10年や20年など長期に及ぶことが多い。その間に弁理士が変わると、概要や状況を説明しなおす必要があるため、顧問契約を検討することも重要だ。

同じ弁理士との付き合いが長くなると、自社の意図を汲みとって有益な提案をしてくれたり、トラブルに先回りしてくれたりする可能性も高まる。信用できる弁理士を見つけたら、長期の顧問契約を検討してみよう。

目的に合った弁理士を選ぶ方法

一般的に弁理士の国家試験は難易度が高いと言われるが、就業した弁理士の実力は個々人によって大きく異なる。また、得意分野やこれまでの経験も弁理士ごとに異なるので、自社に適した相談先は慎重に選ばなくてはならない。

では、具体的にどのようなポイントを意識すべきなのか、ここからは最適な相談先を選ぶコツを紹介していこう。

1.経験豊富な弁理士が多く在籍している事務所を選ぶ

弁理士の相談先を選ぶうえで、「経験の量」と「弁理士の在籍数」は確実にチェックしておきたいポイントだ。訴訟を含めたさまざまな案件を経験しており、かつ弁理士の在籍数が多い事務所であれば、あらゆる知的財産権をカバーできる。

なお、近場に小規模な事務所しかない場合は、自社のニーズとマッチするかをしっかりと見極めたい。仮に経験や在籍数が少なくても、業務範囲が自社のニーズとマッチするのであれば相談する価値は十分にある。

特に海外進出を検討している企業は、事務所の規模よりも現地に関する知識や出願経験を重視しよう。

2.アドバイスの具体性や妥当性を判断する

優秀な弁理士は、相談者の不安や悩みをしっかりと理解した上で、具体的かつ的確なアドバイスをしてくれる。一方で、アドバイスの具体性や妥当性が乏しい弁理士に依頼すると、こちらの相談内容や希望を理解してもらえない恐れがある。

そのため、無料相談などを活用する際には、担当者にできるだけ多くの質問を投げかけることが重要だ。質問に対する回答の内容から、アドバイスの「具体性」と「妥当性」の2つを冷静に見極めていこう。

3.料金体系から費用対効果を判断する

仮に優秀な弁理士を選んでも、報酬が相場より高ければ企業にとっては痛い出費となる。そのため、自社に最適な弁理士を選ぶ際には費用対効果にも着目しなければならない。

日本弁理士会によると、標準的な特許出願の料金は25万円~35万円が相場とされている(※)。ただし、弁理士業界には標準価格や低下といった概念は存在しないため、実際の料金体系は事務所によって異なる。

(※参考:日本弁理士会「出願に必要な費用はどのくらいでしょうか?」)

特に注意したい費用としては、審査結果によって発生する中間費用や、権利取得時に支払う成功謝金がある。標準の依頼料金とあわせて、これらの費用がかかるかどうかも確認しておこう。

弁理士のスムーズな探し方は? 現代ではネットの活用が便利

弁理士にはさまざまな探し方があり、方法によってかかる時間や見つかる事務所は異なる。最適な弁理士をスムーズに見つけたいのであれば、各方法の特徴をしっかりとつかんでおくことが重要だ。

では、具体的にどのような探し方があるのか、メリットと合わせて簡単に紹介していこう。

○弁理士の主な探し方

弁理士の主な探し方

上記のうちネットを活用した【4】と【5】は、弁理士探しの手間を大きく省ける方法だ。インターネット上には膨大な情報があり、かつ端末があればいつでも情報収集できるため、ネットを活用する方法はぜひおすすめしたい。

ちなみに、「弁理士ナビ」は日本弁理士会が運営するデータベースであり、ネット環境さえあれば無料で利用できる。相談内容や専門分野をはじめ、地域に関する条件も指定できるので、スムーズに弁理士を探したい経営者は積極的に利用していこう。

探し方に工夫をとり入れて最適な相談先を

知的財産権に関する悩みや不安を抱える経営者にとって、弁理士は非常に心強い存在だ。特に権利の取得を目指す場合は、弁理士に依頼することでさまざまな業務負担を軽減できる。

ただし、弁理士によって得意分野や業務範囲が若干変わってくるので、探し方にも工夫をとり入れながら最適な相談先をじっくりと探していこう。

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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