今回の税務調査編のテーマは「税務調査で見られるポイント」についてです。
敵を知ることは兵法の基本。
まずは税務署の攻め方を知って下さい!
以前に一度ベンチャーサポート税理士法人で受けた税務調査のデータを集計してみて、どんなところに目を付けるのかを調べてみました。
<第1位> 売上の計上時期のずれがないか <第2位> 交際費の中に個人の経費が入っていないか <第3位> 在庫計上漏れがないか <第4位> 売上計上漏れがないか <第5位> 架空人件費がないか <第6位> 外注費について(架空がないか、給与にすべきものではないか、源泉所得税を取っているか) <第7位> 関連会社との取引が適正かどうか <第8位> 役員退職金について <第9位> 前年から大きく金額の変わった固定費について <第10位> 社屋や車両の購入などの大きな金額の買い物について |
と、こんな感じになりました。
かなりのサンプル数から抽出したデータですので、実際の調査の現状に非常に近くなっています。
1位「売上の計上時期のずれ」
まずは1位「売上の計上時期のずれ」です。
これはどういうことかと言いますと「本来は計上しておかなければいけなかった売上を、間違って翌期に計上した」ということです。
つまり期末の売上について計上のタイミングを間違ったということです。
このミスが実は非常に多いのです。
税務上は売上の計上時期は基本的には「商品を引き渡したとき」や「サービスを提供したとき」に計上しなければいけないことになっています。
つまり「入金があったとき」や「請求書を出したとき」ではないのです。
この点を知らなかったり処理を間違ったりすると、即「売上計上もれ」となって追徴税額を取られるのです。
売上の計上時期の調べ方は基本的には書類の照合です。
具体的には納品書や請求書はもちろん、メール等商売の中でやり取りする最も原始的なデータを見ます。
最近の税務調査では社長のメールまで見るようになってきています。
もし売上をわざと翌期に廻そうとして納品書や請求書の日付を書き換えたとしても、メールの中で日付が違っていればアウトです。
さらに、こういった「うっかりではなく故意に利益を減らす行為」は「仮装隠蔽行為」とみなされ、重加算税の対象にもなって大きな追徴の対象になります。
税歴も悪くなり、次の調査までの期間は短くなるでしょう。
2位「交際費の中の個人経費」
2位は交際費の中の個人経費です。
経営者としては税金を少しでも減らしたいと考えますので、経費性のないようなものでも思わず経費へ突っ込んでみたくなるものです。
特に交際費はグレーな経費が入っている可能性が高い場所です。
そこのところは調査官も当然注目してきます。
たとえば
親戚の結婚祝
贈答品ということにしている自分用の物
取引先と行ったことにした家族旅行
接待ということにしたプライベートの食事
こんな感じのものは思わず入れてしまう代表的なものです。
調査官もどこの会社でもよく目にする項目なので、すぐに疑ってきます。
上手く隠したと思っても、バレバレと思っておいたほうが良いでしょう。
3位「在庫計上漏れ」
3位は在庫計上漏れです。
在庫商売では100%見られる項目です。
期末の在庫を減らせばその分利益が減ります。
税金も少なくなります。
さらに在庫は会社が作った在庫表にしたがって作るだけなので非常に操作しやすい。
だから利益が出たときに手を染めてしまうわけですね。
税務署もそこのところはよくわかっていますので、かなり詳しく調べてきます。
どのように調べるかというと、たとえば期末1ヶ月以内くらいに仕入れた全商品が、翌期始まって1ヶ月くらいまでの間に売上に上がっているかどうかを一つずつ見ていきます。
もし売れていなければ「在庫表」に上がっているはずですよね。
そうやって調べていってモレがあれば「在庫計上もれ」ということで税金が追徴されるのです。
アイテム数が多い会社などでは「サンプリング」で調査されます。
ランダムに調査官が選んだ商品に絞って調査するのです。
そして漏れがあれば他の商品についても疑いが広がって徹底的に調べられることになるのです。
安易に在庫を調整するのは非常に危険です。
4位「売上の計上もれ」
4位は「売上の計上もれ」です。
これは1位の「計上時期のずれ」とは違います。
いわゆる「売上を抜いた」というやつです。
この調査方法は多彩です。
たとえば飲食店の税務調査などでは、調査官が事前に客のふりをして実際に飲食し、そのレシートなどを取っておくという方法があります。
そして調査のときに自分のレシートに対応する売上が本当に上がっているか確認するのです。
上がっていなかったら調査官は「してやったり」と鬼の首を取ったような顔で売上計上もれを指摘してきます。
ちなみに調査官が調査のために食べたお金はある程度は「調査費」という名目で税務署から支給されます。
最近は厳しくなっているようですけど・・。
そこで熱心な調査官は自腹を切ってプライベートでも調査対象の飲食店に通って証拠を集めようとします。
こういった調査官が調査に来たときはなかなか大変です。
他にもいろいろな方法で売上の計上漏れがないか調査されます。
レジのレジロールを見ていき、売上が正しく上がっているかを確認する方法はスタンダードな調査方法です。
宴会があれば「宴会予約帳」の名前が売上に上がっているかも見られます。
あと社長個人の通帳も見ます。
売上を抜いた場合、そのお金のやり場に困ると社長は個人口座へ入金するからです。
ちなみに銀行は税務署に対して情報を開示します。
税務署が照会を行えば、社長の了解を得ずに通帳を開示してしまいます。
意外かもしれませんが、税務調査では当たり前のことです。
危険を冒して売上を抜いたのに、銀行にも預けられず、会社の金庫にも入れられず。
竹藪などから大金が見つかるニュースがありますが、案外こういったお金がやり場に困って竹やぶに隠したのかもしれませんね。
5位「架空人件費」
5位は架空人件費です。
多くの人を使う事業では、架空人件費で利益を減らすことを考える社長がいます。
つまり、給料として支払ったことにして自分のお金にしたり、会計上だけを水増しして実際には支払わなかったりする方法です。
飲食業や訪問介護、テレアポ営業の会社、その他アルバイトを多く使う会社などが狙われやすい業種です。
特に給料を現金で渡していたり、履歴書を保存していなかったりすると疑いは濃くなります。
どのように調べられるかと言いますと、
他の人はタイムカードがあるのに一人だけタイムカードがないような人
他の人は履歴書があるのに一人だけ履歴書がないような人
他の人は振込みで支給しているのに一人だけ現金手渡しのような人
社会保険に加入していない人
有給休暇の管理表に名前がない人
社長と同姓の人
などが疑われます。
余計な疑いを受けないために採用のときには履歴書をしっかりもらって保存するようにして、できれば振り込みで給料を支払うようにしましょう。
6位「外注費」
6位は外注費についてです。
外注費も調査では必ず見られるポイントです。
見られるポイントは3つです。
架空の外注費がないか、外注費を水増ししていないか 本来は給料にしなければいけないものがないか 源泉所得税を取りもれている外注費がないか |
架空の外注費がないか、外注費を水増ししていないか
1つめのポイントは「架空の外注費がないか、外注費を水増ししていないか」です。
外注費は目に見えないサービスの対価で、金額の設定基準も曖昧になることがあります。
たとえばコンサルタント料や紹介料という名目のものは金額の基準が不明瞭なケースが見受けられます。
そこで外注費を水増しすることで税金を少なくしようという方法が昔からよくある脱税方法です。
こういった架空外注費を暴くために、「反面調査」という方法がよく取られます。
「反面調査」とは取引先に行って金額が本当に正しいかを確認する調査方法です。
先方からすると「売上」になりますので、本来の金額より大きくして、税金を多く支払うようなことはしません。
なので、外注費の水増しや架空外注費はかなりの確率で露見してしまうのです。
本来は給料にしなければいけないものがないか
2つ目のポイントは「本来は給料にしなければいけないものがないか」です。
このポイントは消費税という税金も関わってきます。
消費税の計算方法を簡単に説明すると、
売上の5%・・・「預かっている消費税」
経費の5%・・・「支払った消費税」
と考え、その差額を会社は納めることになります。
ですが、経費の中には消費税が含まれていないと考えるものが結構あります。
その代表格が給料です。
給料をもらうときに「消費税込み」とか考えないですよね。
ところが外注費になると消費税込みで支払っていると考え、その分納める消費税が減るのです。
ということは、会社としては同じ人に支払う労働の対価だとしても、「給料」ではなく「外注費」として支払いたくなりますよね。
もちろん税務署はそれを許しません。
「外注費」には条件があるのです。
基本的には「業務単位でマル投げ」が外注費のイメージです。
ケースバイケースですが一般的に外注費となる条件とは次のようなものです。
指揮命令系統が会社にはない。つまり品質や納期さえ守れば、どのような方法で仕事を進めてもよいのが外注。(細かな指示が必要な場合などは進め方について指示することも可能)
外注さんからの請求書がある。外注さんは社外の人なので当然請求書のやり取りがあるはず。
会社で仕事のための備品等を支給しない。つまり会社にデスクがあったり、パソコンが与えられたりするのは社員であって、外注ではない。
タイムカードがない。時間で縛るには社員であって、外注はあくまで業務そのものを依頼する。請求書にも「時給」等の記載があってはいけない。
通勤手当がない。職場で仕事をするのは社員であって、外注は通勤をする必要が無いため。
こういった要件を満たすことが外注の条件になっています。
逆にこれらの条件を満たせていないと、社員扱いとなり給料と言われかねません。
最近は人材派遣などもあり、全ての要件を必ず満たさなければいけないとは言えなくなっていますが、「給料」と調査官に言われないためには注意をしたほうが良いでしょう。
源泉所得税を取りもれている外注費がないか
3つめのポイントは「源泉所得税を取りもれている外注費がないか」です。
どういうことかと言いますと、
「個人事業」の外注先に支払う「原稿代」「デザイン代」などは、支払う側であらかじめ外注費の10.21%を天引きしておかなければいけないのです。
他にもいろいろな業種が該当します。
税理士や弁護士などの士業もそうですし、外部の講師に支払う講演料なども対象です。
ちなみに余談ですが、おもしろいところでは、プロ野球選手やプロサッカー選手、ホステスさん、俳優さん、コメディアンなども対象になっています。
ただし「個人事業」の外注先が対象なので「法人」の外注先は源泉所得税を天引きする必要はありません。
このポイントはご存知ない方も多い点で、税務署も取り漏れが多発していることを知っています。
7位「関連会社との取引が適正かどうか」
7位は「関連会社との取引が適正かどうか」です。
会社を複数持っておられる社長さんは結構多いです。
それが業務上の必要性に応じて会社を複数もっているのであれば問題ありません。
ですが消費税を逃れるためや、利益を別の会社に逃すために作ったのであれば非常に危険です。
消費税の視点から考えてみましょう。
消費税は会社を作って2期の間は免税ですが、3期目から課税されます。
正直、消費税の納付は中小企業にとってはかなりの負担です。
そこで、2期が終わったら新しい会社を作ってもう一度免税を受けようとする人がいます。
これは非常に危険です。
たくさんの否認事例があるからです。
仮に役員や株主など形式的に別の人を用意できたとしても、実質的には同じ会社とみなされれば税務署は法律的にOKだったとしても、覆して課税してきます。(行為計算の否認と言います)
でも、少し冷静に考えれば、こんな単純な方法が通用しないのはわかるはずです。
もし通用していれば、日本中の社長が消費税逃れのために2年ごとに会社を作って、日本では誰も消費税を納めなくなっているはずですよね。
また関連会社に外注費などの名目で利益を流すのも古典的で危険な方法です。
会社が複数あれば、会社間で利益を流し合うことで税金を減らすことができてしまいます。
税務署は、もちろんそういった行為を許しません。
「外注費に実体があるか」「金額が世間相場として高くないか」「資本関係のない外注先があればそこと比較して金額が高すぎないか」などの視点で調査されます。
関係会社間の取引は、否認されると巨額の追徴になるため慎重に行わなければいけません。
8位「役員退職金」
8位は役員退職金についてです。
役員退職金はめったに発生するものではありませんが、金額が大きくなることから税務調査でも重点的に調べられます。
基本的には「金額が大きすぎないか」が焦点となってきます。
退職金の金額は税務署が上限を下記のように規定しています。
退職金の上限=最終報酬月額×在任期間×功績倍率
ここで問題となるのは「功績倍率」です。
功績倍率の相場は。
社長・・・・・・3.0倍
専務・・・・・・2.5倍
平取締役・・2.0倍
となっています。
ですが、ケースバイケースで変わる可能性があります。
9位「前年から大きく金額の変わった固定費」
9位は「前年から大きく金額の変わった固定費」についてです。
固定費は事業の形態が大きく変化しなければ、基本的には例年変動が少ないはずです。
その固定費が大きく変動すれば調査官も、「なぜかな?何かあるな。」と思うのです。
まっとうな理由があって固定費が変動しているのであれば、問題ありません。
ですが、無理な経費を突っ込んでいるとすぐバレます。
たとえば家族旅行を旅費交通費に紛れ込ましたり、家の修繕費を経費に入れたりすると、すぐ「異常値」として目を付けられるのです。
税務署は調査前に3年間の決算書を横並びにして比較してから来ます。
注意してください。
10位「社屋や車両の購入などの大きな金額の買い物」
最後の10位は「社屋や車両の購入などの大きな金額の買い物について」です。
これも9位と同じ理由で、決算書3年分を並べると金額が大きいため目立つのです。
調査官が見るポイントとしては、
経費に入れられないものが入っていないか、
耐用年数が間違っていないか、
事業供用日がまちがっていないか
などを見ます。
車が趣味の社長は注意しなければいけない点です。
金額よりも車種が問題になりますので、ベンツやクラウンなどであれば問題ありませんが、スポーツカーやRV仕様の車は危険と思ってください。
2台目の車は「なぜ2台目が必要か」が論理的に証明できないと否認の可能性大です。(提供:ベンチャーサポート税理士法人)