ハインリッヒの法則活用で重大事故を防ぐ!よくある3つの間違いを解説
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中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

事業活動を行う以上は、日々小さな不安全行動が発生している。どのような業態や事業規模の企業でも、ミスや事故は必ず起こるが、その発生は「ハインリッヒの法則」の活用で防げるとされている。この記事では、ハインリッヒの法則の仕組みやよくある3つの間違い、自社でのハインリッヒの法則の活用方法を解説する。

目次

  1. ハインリッヒの法則とは
    1. ハインリッヒの法則の特徴
  2. ハインリッヒの法則でよくある3つの間違い
    1. よくある間違い1:事故を起こしたのは「1人の人間」
    2. よくある間違い2:300回は「無事故」ではない
    3. よくある間違い3:330回の事故は「類似する事故」
  3. ハインリッヒの法則の間違い
    1. ハインリッヒの法則の教訓
    2. あわせて知っておきたい「バードの法則」
  4. ハインリッヒの法則の活用方法
    1. ヒヤリハットの段階で把握する
    2. 厚生労働省のヒヤリハット事例を活用する
    3. 危険度(小)
    4. 危険度(中)
    5. 危険度(大)
  5. ハインリッヒの法則を活用しよう

ハインリッヒの法則とは

「ハインリッヒの法則」とは、事業活動を行う上で発生するさまざまな事故に関して、以下のような特徴を持つとする法則である。

ハインリッヒの法則の特徴

  • 1件の重大な事故の下には、29件の軽微な事故と300件のもっと小さな事故がある
  • さらにその下には数千の安全ではない行動や状態が存在する

交通安全講習などで、「ヒヤリハット体験」として一度は聞いたことがあるのではないだろうか。ヒヤリハットとは、思わず「ヒヤリ」とした事故体験や「ハッとした」事故体験を表す造語である。

ハインリッヒの法則では、事故に至らない「ヒヤリハット体験」を防ぐことができれば、重大な事故も防ぐことができるとされている。さまざまな業種にあてはまる汎用性の高さと、内容のわかりやすさから、事故防止のバイブルとして親しまれている。

ハインリッヒの法則は、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒというアメリカの損害保険会社の安全技師が、損保事故のデータから発見したものである。なお、ハインリッヒの法則は、以下のように呼ばれることもある。

  • ハインリッヒのトライアングル定理
  • 1:29:300の法則

ハインリッヒの法則でよくある3つの間違い

ハインリッヒの法則は、本来のハインリッヒの研究とは少々異なる伝わり方をしており、ハインリッヒの法則の説明としてよく指摘される間違いが3つある。

交通事故防止を事例に、どうしたら正しい説明になるか一緒に考えていただきたい。

よくある間違い1:事故を起こしたのは「1人の人間」

例:「世の中の330回の交通事故のうち、1回は重大なケガの事故になる」

「世の中の」の箇所が誤りである。

ハインリッヒの法則から導き出された「1:29:300」は、1人の人間が起こした事故を対象にしている。

たとえば、「会社で330件の事故が起きたら、そのうち1件が重大なケガの事故になる」という説明をすると、ハインリッヒの法則の研究結果とは少し違うものになってしまうということだ。

よくある間違い2:300回は「無事故」ではない

例:「車を運転して300回のヒヤリハットがあると、29回は軽傷、1回は重傷事故につながる」

この事例の誤りは、300回が「ヒヤリハット」ではないことだ。

「ヒヤリハット」は「事故になっていたかも知れない、ヒヤッとした体験」(=事故には至っていない)の意味で使われているが、そうすると、ハインリッヒの研究結果とは少し異なる。

ハインリッヒの法則の「1:29:300」は、330回の事故を、ケガの程度で分けたものである。つまり「1:29:300」の「300」は、事故は発生しているが運良くケガをしなかった回数なのである。

ハインリッヒの法則に寄せて事例の表記を変えるなら、「車を運転して330回の交通事故を起こしたとき、300回は物損事故(ケガのない事故)、29回は軽傷者のいる人身事故、1回は重傷者のいる人身事故」となる。

ただし、ハインリッヒの法則では、すべての事故の背景には、ケガのある・なしに関わらず数千の不安全行動や不安全状態が存在するとされているため、ヒヤリハット体験が事故の前兆になるという考え方は正しい。

よくある間違い3:330回の事故は「類似する事故」

例:「330回の交通事故のうち、1回が大きな交通事故である」

厳密に考えると、「330回の事故のうち、1回は大事故であり、300回は何でもない事故である」というように、330回の事故が関連性のないランダムな事故を指すような説明は、ハインリッヒの法則と異なる。

ハインリッヒの法則によれば、330回の事故は「類似する事故」であることが前提となっているからだ。

「1:29:300」は重大な事故の発生比率ではなく、同じような事故をケガの程度という「結果」で分けた統計である。

そのため、説明するときは「同じような事故が330回起こったとき、運良く300回は無傷、29回は軽傷であったとしても、残りの1回はそうはいかない」とした方が、ハインリッヒの法則の説明により近くなるだろう。

ハインリッヒの法則活用で重大事故を防ぐ!よくある3つの間違いを解説

しかし、業種や場面によってさまざまな事故があるため、ハインリッヒの法則を事故防止に活用する際に、事故をどのような点から「類似」であると判断するかは、現実的には難しいだろう。

ハインリッヒの法則の間違い

ハインリッヒの法則の間違いはすべて、ハインリッヒの研究の前提条件に関するものである。

ハインリッヒの法則の教訓

しかし、この認識に多少の誤りがあったとしても、ハインリッヒの法則から得られる教訓は、「300回をラッキーで終わらせず、29回や1回の発生を回避するために気をつけよう」であることに変わりない。

厚生労働省によるハイリッヒの法則の解説でも、「これらの研究成果で重要なことは、比率の数字ではなく、災害という事象の背景には、危険有害要因が数多くあるということ」と強調されている。

特に、交通安全講習や社員を対象とした研修などで用いられるハインリッヒの法則は、受講生や研修生に、事故防止に関心をもたせるための「つかみ」に過ぎない。

ハインリッヒの法則を教えることが目的ではなく、あくまで、講習生や研修生に事故を起こさないよう行動させるためのものだ。

(参考)厚生労働省HP:ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)

あわせて知っておきたい「バードの法則」

ハインリッヒの法則の他にも、事故防止に関するものとして「バードの法則」がある。なお、バードの法則の数値設定は、「1:10:30:600」である。

  • 「1」…重症または廃疾を伴う災害
  • 「10」…軽い傷害を伴う災害
  • 「30」…物損のみの事故
  • 「600」…傷害も損害もない事故(ヒヤリハット)

ハインリッヒの法則の活用方法

ハインリッヒの法則によれば、「1:29:300」のさらに下にある数千の不安全行動と不安全状態をなくせば事故はなくなる。

ヒヤリハットの段階で把握する

前掲の厚生労働省のホームページでも、ヒヤリハットの段階で情報を把握し、対策することが必要であるとされている。つまり、ヒヤリハットが起きた段階で再発防止対策を行えば事故を防げるということだ。

しかし、ヒヤリハット体験があったところで、報告制度を設けていなければ情報は上がってこない。まずは、ヒヤリハット体験を把握できる体制を整えよう。

厚生労働省のヒヤリハット事例を活用する

ヒヤリハット体験の報告体制を構築するには、「具体的にどのような行為を報告するか」の例示が求められるだろう。

自社に参考となるものがない時は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」のヒヤリ・ハット事例を参考にして、自社で起こりそうなものをピックアップするとよい。

日常的にあるちょっと危険なものから、読んでいるこちらがゾッとするようなものまで、400を超える豊富な事例が揃っている。

厚労省のヒヤリ・ハット事例の中から、どの業種でも起こりそうで、かつちょっとした工夫で防ぐことができそうな事例を選んでみた。なお、以下で紹介する事例の危険度「小・中・大」の評価は、筆者の判断である。

危険度(小)

・自分で開けた引き出しにつまずき転倒しそうになった

事務職員なら、一度は見たことのある光景ではないだろうか。特に一番下の引き出しは物がたくさん入るため重く、開けっ放しにしてしまいやすい。隣の人がつまずく可能性もあるため、開けたら閉めるように注意しよう。

・立て掛けた台車が倒れて足にあたりそうになった

壁側にタイヤを向けて立てかけてしまい、タイヤが壁を転がって起こる現象だ。台車は通路に放置せず、用事が済んだらなるべく早く倉庫にしまおう。

危険度(中)

・キャスター付きの椅子に乗って資料を取ろうとしたら転落しそうになった

脚立を倉庫から取ってくるのが面倒なときに、ついやってしまう事例だ。高い本棚がある場所には、脚立や踏み台を置いておくとよいだろう。

・コピー用紙入りの箱を持ち上げるときに腰を痛めそうになった

上半身に頼って重い物を持ち上げようとすると、腰を痛めやすい。重い物を持ち上げるときは、腰を下ろして膝を使ってゆっくり持ち上げる癖をつけよう。

・作業中、壁掛けフックに目が接触しそうになった

壁掛けフックがある場所は、周りの物の配置を工夫しよう。

危険度(大)

・居眠り運転をしてしまい、鉄柱にぶつかりそうになった

運転中に眠気を感じたときは、駐車場に入るか路肩に寄せるなどして運転を停止し、少し休憩を取ろう。

以上は事例はほんの一部であるため、活用する際は、職場に合った事例をぜひ見つけていただきたい。

厚生労働省HP:「職場のあんぜんサイト ヒヤリ・ハット事例」

ハインリッヒの法則を活用しよう

ハインリッヒの法則について、よくある間違いや活用方法を解説した。

厚生労働省のヒヤリハット事例は、労働災害に関するものであるが、業務上の事故といえば他にも、資料の紛失や顧客情報の流出など、会社の不祥事に直結するものもある。どのような種類の事故でも、小さな事故の報告から大きな事故のきっかけを見逃さず、再発防止を図ることが大切である。

そのためには、社内でヒヤリハットの情報を抽出して共有することが重要である。ヒヤリハットを起こした社員に対して、罰則を与えたり氏名を公表したりといった行為を控えて、まずは情報を出しやすい社内環境を構築しよう。

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)

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