コロナ禍でペット市場規模が約1.6兆円に? 加速するペットブームの懸念点
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新型コロナウイルスの影響で、巣ごもり需要が拡大している。その波はペット需要にも及んでおり、ペット関連市場は大きな成長を遂げている。ペットブームで裾野を広げるペットビジネスの実態をまとめてみた。

コロナ禍でペットブーム!

一般社団法人ペットフード協会が毎年発表している「全国犬猫飼育実態調査」によると、犬・猫の飼育頭数は近年微減ないしは横ばいが続いている。2020年の犬の推計飼育頭数は848万9,000頭、猫は同964万4,000頭だ。

一方、「1年以内の新規飼育者」の飼育頭数は2018年を底に増加傾向にあり、2020年は犬が前年比14%増、猫が同16%増と前年に比べ増加率が高まっているという。同協会はその要因について、コロナにより外出を控える生活が続く中、近くのペットショップへ足を運ぶ機会が増え、その結果として購入が伸びたのではないかと推察している。

2020年度のペット市場は1兆6,000億円

マーケティング・リサーチを手掛ける矢野経済研究所が、2021年2月に発表した最新のペットビジネスに関する調査結果によると、2020年度のペット関連総市場規模は、前年度比3.4%増の1兆6,242億円の見込みという。

参入各社による高付加価値商品や猫向け商品の投入、またコロナの影響によりペットと過ごす時間が増加したことで、ケア用品やコミュニケーションツールが好調に推移したと分析している。外出自粛による新しい生活様式が広がり、ペット用品を中心とした飼育者需要は今後も継続するとみている。ペット関連総市場全体は、2020年度以降も拡大傾向が続くだろう。

ペットにまつわるビジネスはたくさん

ペットにまつわるビジネスと言えば、ペットフードをはじめとするペット用品の開発・販売や、ペットを育成するブリーダー業、仲介・販売業などがメインとなるが、近年はペット専用フィットネスクラブや猫カフェ、ペット葬儀、散歩代行、ペットシッターといったさまざまなサービスが誕生し、市場の裾野を広げているようだ。

ペット関連雑誌の発行部数も安定しており、日本雑誌協会が発表している印刷部数公表値によると、2019年1~3月のベネッセコーポレーションの月刊誌「いぬのきもち」は約6万4,000部、同「ねこのきもち」は8万部となっている。辰巳出版の「猫びより」は公称12万部を発行しているという。

また、スマートフォンを活用したペットシッターとのマッチングサービスなども続々と登場している状況だ。ペット用品もIoT化の波を受け、留守番中のペットの様子を観察できるネットワークカメラをはじめ、健康チェックができる猫用トイレや温度調節可能なペットハウス、IoT 給餌器、IoTおもちゃなどが続々と発売されている。

さらに注目が高まっているのが、SNSや動画サイトなどの活用だ。ペット業界によるインフルエンサーマーケティングのみならず、閲覧数による広告収入などを目的に一般の飼い主の参入も相次いでいる。ペットの愛らしい姿や振る舞いに癒しを求める閲覧者も多く、趣味が高じて副業に転ずるなど、ドル箱ビジネスと化しているようだ。

ペットブームには懸念も

ペットブームの裏側には、動物愛護の観点から多くの問題が内在している。最も大きいのは飼育放棄だ。ブームに乗って安直な気持ちで飼い始めたものの、「思ったよりお金がかかる」「なつかない」「世話が面倒」――といった理由で飼育を放棄してしまう人が増えた。

一方、繁殖を行うブリーダーや販売業者においても、無理な多産や不衛生な環境下での飼育・管理を行うケースが後を絶たないのが現状である。利益重視で命を顧みず、飼育に関する説明を十分に行わずに来店者に販売するケースは無くならないようだ。

このような状況を考慮し、国も対策を強化している。動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)ではこれまでの法改正で、動物の所有者の責務として終生飼養を徹底することが明記されたほか、第一種動物取扱業者の販売時における現物確認・対面説明の義務付けなどが行われた。

幼齢(出生後56日)の犬猫の販売制限やマイクロチップの装着・登録の義務化なども盛り込まれ、幼齢犬猫の販売制限は2021年6月から、マイクロチップ義務化は2022年6月から始まる見通しである。無届けブリーダーの根絶や届出業者の適正管理など、動物愛護の精神に則った健全な市場化が強く求められているようだ。

命を預かる責任をしっかりと意識しよう

多様化が進むペットビジネスは、今後も堅調な成長を遂げそうだ。ただし、動物には命があることを忘れてはならない。命を扱うビジネスとして、事業者は自らの責任を全うしなければならない。

飼い主側も、「かわいい」という理由だけで安易に飼育を決断せず、命の重みをしっかり考慮したうえで、寿命を迎えるまでしっかりと責任をもって飼い続ける覚悟が必要となる。「適切な世話ができないかもしれない」と少しでも感じる場合は、飼わない決断をすることも重要だ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)