フィンテックは日本の金融システムに大変革をもたらしている。その流れはさらに勢いを増し、最近ではファミペイによるローンサービスの開始が大きな話題となった。フィンテックが進む一方、際立つのが現代金融のオールド感だ。フィンテックの最新事情と現代金融の問題点を考察する。
フィンテック市場は拡大傾向
「フィンテック」(FinTech)という言葉は、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語だ。このフィンテックの市場規模は年々増加しており、矢野経済研究所の調べでは、国内のフィンテック市場は2018年度の2,145億円から2022年度には1兆2,102億円まで規模が拡大する見込みとなっている。
フィンテック市場の拡大を牽引する要素はさまざまだ。最近では、仮想通貨の基幹技術である「ブロックチェーン」の活用が進んでいることなどが注目トピックスであるほか、モバイル決済の普及や投資アプリの普及などもフィンテック市場の拡大に寄与している。
日本における最近のトピックス
最近注目を集めているフィンテック関連のトピックスを二つ、紹介する。
ファミペイで「ローン」と「後払い」のサービスが開始へ
日本において最近話題になったフィンテック関連のトピックスといえば、ファミリーマートが展開しているスマートフォン決済アプリ「ファミペイ」において、「ローン」と「後払い」のサービスが2021年夏以降に追加されることだろう。
後払いサービスは、ファミペイの残高がなくても買い物や公共料金などの支払いを可能にするもので、支払い分を翌月以降にまとめて支払う仕組みだ。ローンサービスは、アプリから借り入れの希望を申し込むことにより、銀行口座へ入金が行われる仕組みだ。
このように、後払いやローンを手軽に利用できるようになることは、金融機能をサービスとして展開する近年の「BaaS」(Banking as a Service)の流れに沿うものだ。
給与のデジタルマネー払いが解禁へ
フィンテックには「キャッシュレス化」も含まれており、近年は日本政府もキャッシュレス化を推進している。キャッシュレス化が進めば、現金を持ち歩かなくてもよくなり、消費者の決済に関する利便性は飛躍的に高まる。事業者側の現金を管理する手間も削減され、良いことずくめだ。
このキャッシュレス化に関する最近のトピックスとしては、給与のデジタルマネー払いの解禁が挙げられる。2021年春から解禁される見通しとなっており、これにより企業は銀行を介さず、従業員のスマホ決済アプリに給与を振り込めるようになる。
スマホ決済アプリを普段から使っている従業員にとっては、わざわざ銀行のATMで現金を引き出す手間がかからず、出金の際に時間外手数料がかかることもなくなる。
現代金融の問題点4つ
このように、今年に入ってからもフィンテックの話題には事欠かない。その一方で、現代金融の問題点は際立つばかりだ。
1.お金を引き出すごとにお金が減る
銀行にお金を預けている場合、ATMから預金を引き出す際に、引き出す時間によっては時間外手数料がかかることがある。低金利時代の日本では、銀行にお金を預けていてもほとんどお金は増えないにもかかわらず、出金の際に手数料がかかるというのは、銀行にお金を預ける意味を根本から考えさせられてしまう。
2.海外送金に必要な多額の手数料
現在、日本国内の銀行から海外の銀行などに送金しようとすると、多額の送金手数料がかかる上、着金までに一定程度の時間がかかる。このような問題は、ブロックチェーンによって解消されようとしている。デジタル通貨であれば数百円の手数料で、数秒で国際送金が可能になると言われている。
3.「現金管理コスト」という大きな無駄
銀行がさまざまな手数料の負担を顧客に求めるのは、現金を管理する手間やコストが大きいからだ。しかしキャッシュレス化が進めば、金融機関側の管理の手間やコストが削減され、顧客に手数料を求めるシーンが少なくなるはずだ。
4.「お金の流れを追えない」税徴収の壁
公平な税負担に向けても、フィンテックは貢献する。仮にデジタル通貨が基軸通貨となれば、お金の流れがデータベース上に残り、国税庁・税務署は国民の所得・支出を正しく把握することができ、脱税行為などを未然に防ぐことが可能になりやすい。現金が基軸通貨のままだと、お金の動きは追えない。
2021年以降も引き続きフィンテックに要注目
フィンテックがこの調子で金融システムに変革を起こし続ければ、現在の金融システムは100年後には人々から笑われる存在となっているはずだ。
しかし、それでいい。今から100年前の金融システムも、現在では考えられないほどのローテクだった。しかし、金融の進化によって人々の暮らしは随分と便利になった。過去のシステムを笑えるということは、それだけシステムが進化したということだ。2021年以降もどのようなフィンテックによる革新が起きるのか、要注目である。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)