会社が資金調達を行う方法の一つとして、「劣後債」がある。劣後債は、他の債券にくらべて返済の優先順位が低い代わりに、利率を高めに設定したものである。今回は、劣後債と普通社債や株式との違いや入手方法、劣後債と類似した金融商品として、優先株式や劣後ローンについて解説する。
目次
劣後債とはなにか
劣後債は、会社等が発行する社債等の債券のうち、返済不能となったときの元本や利息の返済順位が普通社債よりも低いものである。
劣後債は、通常時は利率が高めである点を除いて普通社債と変わりないが、倒産などによって負債が返済不能となったときに、普通社債との違いが出てくる。
負債が返済不能となった場合、会社は劣後債に先立って普通社債や未払金といった、劣後債以外の負債の返済が行われる。劣後債の返済については、それらの返済が完了して初めて行われる。つまり、会社に何かあったとき、元本の返済が受けられる可能性が普通社債よりも小さくなっているのだ。
劣後債の利率が高いのは、普通社債よりも返済不能になったときに元本が戻らない可能性が大きいことの見返りである。
劣後債ではなく株式での資金調達はだめなのか
劣後債ではなく、一般的に返済の可能性が低い「株式」を発行することによって、資金調達する方法はどうなのだろうか。株式による資金調達の場合、デメリットが発生することもある。
まず、株式を発行すれば資本金や資本剰余金が増加するため、法人住民税の均等割や付加価値税の法人事業税の資本割の金額が増加し、結果として今後支払う税金額も増えてしまう。
また、資本金の増加によって法定監査を受ける義務が生じたり、法人税法上の中小企業に認められる特典が受けられなくなるといったデメリットがある。そして、株式が増えることによって一株あたりの価値が下がり、既存の株主が損失を被ることもある。
他にも、劣後債を始めとする社債の場合、支払利息が会社の費用とみなされて税金を減らすことができるが、株式の配当は会社の費用とみなすことはできない。劣後債と株式を天秤にかけた場合、劣後債を発行したほうが税制面で有利に働くこともあるのだ。
劣後債ではなく普通社債ではだめなのか
返済の優先度をつけずに、追加で普通社債を発行することも考えられるが、これはどうであろうか。
実は、金利が高くても劣後債を発行した方が望ましいこともある。
銀行の場合、自己資本比率を一定以上に保たなければならないとする規制があり、自己資本の中に劣後債を入れることはできるものの、普通社債は入れることができない。劣後債を活用することで、増資をすることなく自己資本を増やせるといったメリットがあるためか、劣後債を発行する会社には銀行が多い。
また、銀行以外の事業会社においても、資金調達を行いたいが負債の増加を警戒することも多い。しかし、格付け会社などが、劣後債については一部でも自己資本扱いすることがあるため、格付けに有利に働く可能性もある。
劣後債を保有する際のメリットとデメリット
劣後債を保有するメリットとデメリットはどのようなものがあるのだろうか。
劣後債のメリットとデメリット
劣後債を持つメリットは、利率が高いことが挙げられる。通常、その利率は株式ほど高くはないにしても、普通社債よりも高い利率となっている。
劣後債のデメリットは、まず、利率が高いことと引き換えに、倒産が発生した場合、元本などの返還が行われない可能性が高い点がある。
そのため、格付けも普通社債よりも低くなる傾向にある。例えば、イオンの格付け(R&I)は、会社自体は「A-」であるのに対し、劣後債(2020年12月2日発行の第7回利払繰延条項・期限前償還条項付無担保社債:劣後特約付)はBBBと劣っている。
劣後債は一般人でも買えるか
通常、劣後債のような返還されない可能性が高い債券は、一般向けに販売されるケースは少ないが、債券の扱いの多い証券会社(例えば楽天証券、マネックス証券などで見られた)で、一般向けに劣後債が販売されることもある。
ただし、その証券のほとんどは外貨建の債券であり、倒産のリスクのみならず為替による変動の影響を受ける。しかし、劣後債の利率は通常の債権よりも高く、発行している会社もシティグループやモルガン・スタンレー等、大手の金融会社が多い。
劣後債に類似した性質の金融商品その1:優先株式
劣後債に類似した金融商品もいくつかあるが、その中でも優先株式と劣後ローンについて取り上げる。まずは、優先株式から解説する。
優先株式は、配当や残余財産の分配について、普通株よりも優先的に支払いが受けられる株式である。また、資金の関係上で配当が受けられない場合は、受けられなかった分を翌年に持ち越すことができる場合もある。
その反面、株主総会における議決権がまったくないか、制限される場合が多い。また、株式である以上、会社を清算する際の残余財産の分配について、普通社債や劣後債よりも後回しにされ、投資回収できない危険性も高い。
優先株式の特徴
優先株式は、株式ではあるものの議決権がない、配当や残余財産の分配が優先的に受けられる点において、社債や借入金に近い性質を持っている。
その一方で、法律上では株式であるため、自己資本比率等の計算の上では株式として扱われる。資金調達したいものの、株式発行の際の既存株主への影響を抑え、資本増強を行いたい場合に、優先株式の発行によって資金調達を行う場合が多い。
優先株式の購入について
通常、優先株式は議決権の保有に関する制約がある銀行に対して発行されるケースが多く、一般には手に入れることはできない。
しかし、現在では、唯一の例外として伊藤園の優先株式(第1種優先株式)は上場しており、銀行や投資家でない一般人でも購入できる。
優先株式は、配当を普通株式の1.25倍受け取ることができ、株主優待も普通株式と同じものを受け取ることができる。しかし、議決権がないため、株主総会に出席しても議決権を行使することはできない。
2020年12月10日の終値における伊藤園の株価は、普通株式が7,100円に対して、優先株式は2,158円となっていた。この日の株価からすると、株式を議決権獲得のためではなく配当や株主優待のために取得したいのであれば、優先株式を購入したほうが取得価額は有利になる。
劣後債に類似した性質の金融商品その2:劣後ローン
劣後債や優先株式と同等の性質を持つものとして、劣後ローンがある。
劣後ローンも、返済の優先順位について通常の債務よりも低く、通常の株式よりも高い点については劣後債と同様である。
ただ、経営者にとっては、劣後債や優先株式が投資の対象となっているのに対して、劣後ローンはむしろ投資の対象ではなく、自身の会社の資金調達のために行うものである。
劣後ローンとは
劣後ローンは、借入金と債券であることを除いて劣後債と同じであり、他の債務と比べて返済の優先順位が低い借入金である。
すなわち、借り入れを行っている会社に返済不能の事態が発生した場合、他の優先順位が高い債務の返済を行った上で、劣後ローンの返済を行うことになる。
劣後ローンのメリットとデメリット
劣後ローンのメリットは、銀行の審査上、借入金を負債ではなく自己資本と同様なものとみなされる点がある。
そのため、貸借対照表上では債務超過に陥っている場合であっても、劣後ローンであれば債務超過ではないものとみなされ、融資の審査上有利に動くこともある。
ただし、貸倒れのリスクが高いことは劣後債と同じであるため、通常の借入金同様に利息は大きくなる傾向にある。そのため、借り入れをする際は利息の支払いに注意しなければならない。
劣後ローンの商品例
劣後ローンについては、日本政策金融公庫がいくつか取り扱っている。ここでは、昨今のコロナ禍における状況に鑑みて行われている「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付」について説明する。
この劣後ローンの対象となるのは、新型コロナウイルスの影響を受けた会社などで、中小企業再生支援協議会の関与のもとで事業の再生を行っているなど、一定の要件がある。
利率の下限は0.50%だが、上限(借り入れから4年目以降で、かつ税引後当期純利益が0円以上で借入期間が20年)については2.60%となっている。これは、政策金融公庫の通常の利率の上限が1.30%であることを考えると、高めの利率となっている。
また、劣後ローンという性質上、他の債務から劣後していること、名目上は借入金であるものの自己資本と見ることができる場合もあることが明記されている。
資金調達の際はよくよく検討したうえで
劣後債は、普通社債よりも返済時の優先度が低く、会社が返済不能に陥ったときなどについて元本などが戻らない可能性が高い。そのため、劣後債の利息を高めに設定されている。
利息を高くしてまで劣後債を発行するには、普通社債や株式にはない特徴があるためであり、劣後債は、投資家の観点から証券会社を経由して購入できる場合もある。
劣後債に類似している金融商品として「優先株式」や「劣後ローン」があるが、それらの商品の内容やメリット・デメリットを理解した上で活用を検討して欲しい。
文・中川崇(公認会計士・税理士)